ハッセが執務室から出て行き、部屋がエイラとサーシャの二人だけになるとサーシャは徐に口を開いた。
「……今回の反乱軍の侵攻はブリタニアの差金だと考えているんですね」
「どうしてそう思うんだ?」
目を細め探るような視線を向けるとエイラは言った。
「ブリタニアが私達に渡す情報を選んでいて、かつ私たちの想像以上に反乱軍の内部に入り込んでいるのならそれくらいできるのでないか。私ですらその考えに行き着くのに、エイラさんが辿りつかない訳がありません」
「否定はしないけど、それを証明する証拠が存在しない。表面上は味方の国に、お前は裏切っているって言うわけにもいかないだろ」
今のスオムスは物資的なブリタニアへの依存度は低いが、情報という不定形物資への依存度は変わらない。寧ろ戦争の激化で情報源はブリタニアに限定されつつある。
「ブリタニアからの情報が直接的な勝利に結びついた事は有りません。ですがそれがなければスオムスがここまでの大勝利を得ることは難しかったでしょう。そして今後もその構図は変わらない方が望ましい」
「わたし達にとってはな」
スオムスとしては良き協力者出会って欲しいが、ブリタニアとしては利用価値がなくなれば簡単に捨てられる程度の思いしかないだろうとエイラは考えていた。
今までは欧州のパワーバランスを保つ為にスオムスに肩入れしてきたが、スオムスが力を持ち始めた以上今後はそれも変わってくるだろうという予感がエイラにはあった。
「これ以上スオムスに加担することは、欧州における新たな大国の台頭を許す事に繋がりかねない」
「スオムスはコントロール可能な程度の国力に抑えておきたいはずですよね」
「これまではブリタニアの情報もあって大胆な行動をとる事ができた。だけどそれが信用できないとなれば、スオムスがこれ以上力をつける事は難しい」
後になって知った事だが、リバウに攻め込んだのもオラーシャが反乱に手一杯でリバウの防衛戦力が減った事が政府に伝えられた事が原因の一つにあった。
「そもそも力をつける事は難しいのではないでしょうか。バルトランド、ムルマンスク、ペテルブルク、リバウ。広大な領土を手中に収めた事でその分防衛と治安維持に割く部隊が必要になりますから」
領土が広がった事はおかげで今のスオムスは軍事力に対して守るべき領土が広く、五十万人を超えるスオムス軍の内防衛や治安維持に半分以上の部隊を使っている。戦略予備として留め置く部隊や、負傷者などを考えると次の攻勢で使える部隊は精々十万人強と言ったところだろう。
「バルトランドが正式に合流すれば、この状態も多少改善されるでしょうが、完全な戦力が整うまでは数年かかるでしょう。ブリタニアとの縁を切れるのはそれまでお預けという事になりますね」
「それはブリタニア側も分かっている事だぞ。それまで待ってくれるような奴らだと思うのか?」
「先手を打ってくる可能性は高そうですね」
具体的な事は何もわからないか、スオムスが力をつけるのをただ傍観しているだけとは考えにくい。それはエイラだけでなく、スオムス政府も共通の考えを持っていた。
エイラを連邦の大統領にするにあたり、スオムス政府及びバルトランド政府は両国首脳陣以外の人間に連邦に関しての情報が漏れることを徹底的に防いだ。この連邦は欧州における新たな大国の出現であり、ブリタニア、カールスラント、オラーシャのパワーバランスを崩す事に繋がりかねない。
「ただでさえブリタニアはスオムスに対しては後手に回っているからな。ここら辺で主導権を握りたいはずだ」
「連邦を瓦解させるだけならエイラさんを暗殺するなり、襲撃してしばらくの間動けなくすればいいだけですが、どちらも成功の見込みは薄いですね」
「ウィッチを暗殺するなら余程上手くやらないとな。ましてやわたしは一度経験しているから、次またそれをされたとしても上手く対処できる自信がある」
普通の人間にウィッチのシールドを突破する手段は存在しない。魔道徹甲弾などの魔導兵器であれば貫通可能だが、拳銃やライフル程度の口径では込められた魔法力を長時間維持する事ができない。
仮にウィッチを暗殺するのであれば、同じウィッチをぶつける事がもっとも簡単な方法になるが、エイラを相手にそれができるウィッチは数えるほどしか存在しない。陸戦ウィッチであれば可能性はあるが、そもそもエイラが地上で護衛ないない事など殆どなく、その機会自体が存在しなかった。
「あまり油断しないでくださいね。投票期間は既に半分が過ぎました。今このタイミングでエイラさんに何かがあれば、私やサーニャさんだけでなくスオムス全体に影響がありますから」
「わたしを囮にしてカールスラントの侵攻を誘発した奴の発言とは思えないな。あの時だって一つ間違えばわたしは死んでいたかもしれないんだぞ」
揶揄うような口調で咎めると、サーシャは肩をすくめた。
「あの時はこれほどまでにスオムスの状況が悪くなっているとは思っていませんでしたから。何よりエイラさんであれば、私とエイラさんであれば余程の大軍勢が来ない限りは逃げ切る事ができます」
「否定はしないし、わたしもそう思ったから承認したんだけどな。今にして思えば態々カールスラントの侵攻を誘発すべきじゃなかったかもしれないな」
「そうかもしれませんね。ワルシャワの反乱軍がこちらにも目を向け、さらにカールスラントもリバウを虎視眈々と狙う状況はよく有りません。場合によっては反乱軍にリバウを奪わせた後、カールスラントが奪還し実効支配する可能性もあります」
リバウのカールスラント国境地帯はいまだにスオムス、カールスラントの両軍が睨み合っていた。直接的な戦闘は起きていないが、いつまた戦闘が起きてもおかしくない状況だった。
「ワルシャワの反乱軍は先の戦闘以降は動きがないし、大丈夫だと信じたかったんだけどな……」
「もしも本当にブリタニアの介入があるのなら、油断していれば足元を掬われかねませんね」
元よりスオムスを取り巻く状況はよくない。だが改めてその状況を整理してみると、それは想像以上に悪いもので二人は頭を抱えたくなった。
「オラーシャの諜報部の力を借りれたりは……」
「オラーシャにとってもスオムスの力が強大になるのは嬉しい事じゃない。寧ろ今の状態なら、カールスラントとワルシャワの反乱軍両方と戦争になるのなら万々歳と思っているんじゃないか?」
「ですよね。オラーシャが抱える戦線が一つ、負担が軽くなる上に仮想敵のカールスラントの相手までしてくれる。オラーシャにとってこれほど好都合な事はありませんね」
オラーシャとは比較的良好な関係だが、それはあくまでも利害の一致から来るものだった。ましてやオラーシャ領土を奪い取り、敵同然となっているスオムスと今までのような関係でいられるはずもなく、態々現状を悪くするようなリスクを負ってまでスオムスに好意的な行動をとるはずがなかった。
「何か良い手立てはないんでしょうか」
「幸いな事に、ブリタニアにとってもスオムスはまだ利用価値はあるはずだ。なんせオラーシャの国力を削ったんだからな。次はカールスラントの国力を削ぎたいはずだ」
「滅ぼされる心配はないという事ですね」
そう言った後、サーシャは小首をかしげると少しして口を開いた。
「カールスラントはオラーシャの怒りを買いたくは無い。ですからリバウを奪うとすればワルシャワの反乱軍が私達をリバウから追い出した後に、リバウを奪還する形で実効支配をしたい。そうですよね?」
「そうだろうな。カールスラントも内乱中だし、無駄に戦線は抱えたく無いだろうからな」
エイラの同意にサーシャは頷いた。
「ブリタニアとしてはカールスラントとオラーシャの戦略を均衡させるにはスオムスとの戦闘が必要だと考えるのでは無いでしょうか。ワルシャワの反乱軍は、スオムスにとっては面倒な相手だとしてもカールスラントにとってはたいした敵ではありません。スオムス軍と戦わない限り、カールスラントの戦力が大きく減じる事はないでしょう」
「ブリタニアの思惑と、カールスラントの思惑が一致しないって言いたいのか?」
「カールスラントとオラーシャが手を組んでいれば話は別ですが、リバウに関してエイラさんと取り決めができた今、新たにカールスラントと手を組むとも思えません。ブリタニアがいかに蠢動しようとも、利害が一致しない以上はどうにもならないのではないでしょうか」
「かもしれないな。だけど警戒するに越した事はない。各地に散らばる部隊から兵力を引き抜いてリバウに再配置して念のため備えておこう」
サーシャの意見には一理あるが、だからと言って油断できる状態ではない。その判断からエイラはリバウの守備兵力強化を命令するのだった。
海に関係したウィッチの固有魔法とがあるんでしょうか。
ネウロイが陸空の敵だからいまいち注目されていませんけど、海に関係したウィッチとかもいそうですよね。艦これみたいに海上を歩行したり……海上歩行用のストライカーユニットの方があり得そうですね。
それはそうと、海中に潜れる固有魔法があれば、宇宙空間でも呼吸ができるのか、少し気になったり……それも海中用、宇宙用のストライカーユニットが出てきたら意味のないものになりますね。
よくよく考えたら、空を飛ぶとしても箒があれば飛べるし、飛行する固有魔法があったとしても科学と魔法の融合であるストライカーユニットがあればその手の固有魔法は必要なくなるのでは?