スオムスがワルシャワ方面から軍を撤退させ始めたと言う報告は、カールスラント軍を困惑させた。カールスラント方面も撤退させるならともかく、ワルシャワ方面だけを撤退させてはカールスラント方面の主力が補給線を絶たれる危険性があったからだ。
しかしワルシャワ方面のスオムス軍が撤退したと言う報告が届いた翌日、正面のスオムス軍が物資を投げ出し慌てた様子で撤退を開始した事でその理由を察知した。
「正面のスオムス軍が慌てた様子で撤退したとなれば、何らかの理由でスオムス軍の命令系統が混乱したか、意図せぬ形でスオムス軍に打撃を与えていたと考えるだろうな」
「実際には何の被害もなく、ばら撒かれた物資の量もさほど多くはありません。聡い前線指揮官であればそれに気がつくはずです」
「かもしれないな。だけどそれが活かされることはないと思うぞ」
サーシャの懸念はエイラも当然想定していた物だ。だがそれでもこの作戦が看破されることはないと確信していた。
「ネウロイとの戦争を指揮した指揮官は、わたしを含めてある傾向があるんだ」
サーシャにはエイラに傾向と言えるような指揮の癖は見受けられなかった。
「説明のつかない事は、自分達に都合の良いように捉えて行動するんだよ」
エイラにそう言われても、サーシャは何の事かわからなかった。首を傾げるサーシャにエイラはさらに続けた。
「ネウロイってわたし達には理解できないような行動をする事があっただろ?」
「ありましたね。そのおかげで勝利を手にした事が何度もありましたね」
「それこそが当時の指揮官達が持っている傾向、悪い癖なんだよ」
ネウロイが人間には理解できない事をして、それに乗じてこちらが戦術的、戦略的に正しい行動をとる事は当たり前の事であった。それが悪い癖と言われても何が悪いのかサーシャは理解できなかった。
「今の指揮官の殆どは相手の行動の意図を読み取る事をしないんだよ。相手の行動は理解する物ではなく、主観的に見て都合のいいように捉えるものだと思ってるんだろうな。相手はネウロイじゃなく同じ人間なのにな」
「指揮官の多くはネウロイとの戦いで得た経験を元に指揮をする為、人間相手の戦い方を心得ていないと言う事ですか?」
「まぁ、簡単に言えばそうだな。バルトランドの指揮官や、ペテルブルク、オラーシャの指揮官と話した感じだと、誰も彼もが相手の意図がわからない行動に対しては自分の都合のいいように捉える傾向があったな」
それは特にネウロイとの戦いで中級指揮官として前線に立っていた人間に多く、それらは現在出世して将軍として部隊を指揮する事になっていた。
「当時将軍や元帥として大部隊を率いていた人達なら、そんな事はなかったんだろうけど、良くも悪くも今の上級指揮官はネウロイとの戦いで得た経験を元にして部隊を率いているからな。人間相手に最適化された作戦を立てられていないんだ」
「だから今回の唐突なスオムス軍の撤退にも無警戒に追撃を仕掛けてくると? いくら何でも楽観的すぎるような気がしますが……」
「確かに、それだけだと根拠が薄すぎるな。実はネウロイとの戦いで軍隊はもう一つの悪癖を手にしたんだ。厳密には、カールスラントがかもしれないけど、これは間違いなく致命的な弱点だ」
一見すると弱点などないように見えるカールスラントに明確な弱点があると断言されるとは思わず、サーシャは驚いた。そこまで断言すると言う事は、自分も考えればわかるかもしれないと思い少しの間考え込んだが、結局わからずにエイラに答えを求めた。
「部隊の指揮官が独自の裁量で行動する事、つまりは独断専行だな。ウィッチではよくある事だったけど、戦後になってカールスラントでは前線指揮官の裁量権を大きくしたから、隙を晒せば見逃さずに喰らい付く奴は多いだろうな」
中級指揮官もまた、ネウロイとの戦争を経験し出世してきた者達だ。先の欠点が同様に当てはまり、スオムス軍の奇妙な行動を勝手に正当化する可能性は高い。
「だとしても、理性的な人物はカールスラントにも数多くいるはずですし、そう簡単に罠にハマるでしょうか」
サーシャの問いかけにエイラは嘲笑うような、しかしどこか憐れむような口調で答えた。
「人って言うのは弱った敵を見たら追撃せずにはいられない生き物なんだよ。たとえ理性で抑える奴がいたとしても、それは極小数だ」
果たして事態はエイラの言葉通りとなった。散を乱して撤退するスオムス軍にいくつかのカールスラント軍部隊が食い付いた。
「何を勝手に追撃している! 追撃中の部隊に持ち場に戻るよう伝えろ!!」
エイラの予想に反してカールスラント軍の司令官は優秀だった。幾人かの前線指揮官が追撃を開始する中、直ちに追撃を中止するよう命令を下した。しかし決壊したダムの水を止める事ができないように、激発した兵士を止める事もまた困難だ。
「大隊長、隣の部隊が追撃を開始したようです!」
「追撃だと? 奴ら司令部からはまだ何の命令も出ていないだろう」
「どうやら独断専行したようです」
「抜け駆けをしたのか!」
その結論に至った現場指揮官達の判断は素早かった。このままだと他の部隊に手柄を持っていかれる、或いは近隣部隊が突出したことで敵中に孤立し各個撃破される危険性がある。いずれにせよ抜け駆けした部隊をそのままにはしておけず即座に前進を開始し、なし崩し的にスオムス軍に対する追撃戦が始まった。
「エイラさんの予想通り、カールスラントは追撃を開始しましたがここからどうしますか?」
「航空戦力を使って適度に敵の足を遅くして、スオムス軍にギリギリ追いつけないスピードを作り出す。それでワルシャワ方面とカールスラント方面から撤退する部隊が合流する直前のタイミングで一気に撤退する」
「合流するタイミングではなく、直前のタイミングなのには何か理由があるんですか?」
「合流するタイミングだと、向こうも反乱軍に気付くかもしれないからな。それに、目の前で急に撤退速度を上げれば、向こうも逃すまいと速度を上げるはずだ。慌てる分、目の前の部隊が別の部隊に変わっていても気が付きにくい……はずだ」
正直なところ、エイラにも自信があるわけではなかった。自分で地上部隊を率いた経験は数えるほどしかない。更に言えばそれはネウロイ相手であり、人同士での経験がなかった。
「珍しく自信がなさそうですね」
「即興で作った作戦だから、穴は多い。それこそ幾つもの奇跡を乗り越えないと成功しない作戦だ。自信がなくて当然だろ」
それもそうかと頷くとサーシャは問いかけた。
「もし失敗したらどうしますか?」
「どんな失敗の仕方をするかにもよるな。カールスラントと反乱軍が合流したのなら防衛戦に移るけど、スオムス軍が捕捉撃滅されたのなら諦めて降伏するしかないな」
消極的なエイラの意見にサーシャは心底ガッカリした様子を見せた。
「らしくないですね。捕捉撃滅に関しては捕捉された時点で決戦に切り替え、相手が合流したのなら即座に反転、指揮系統が整っていない間に敵を撃破すればいいでしょう」
「無茶言うなよ。カールスラントに対して今の所数では互角だけど、武器の質で劣っているんだぞ。簡単には勝てない」
「よく考えてください。敵は追撃していると言っても足並みは揃っていないんです。捕捉されたとしても整然と撤退できている我々は纏まった数で敵の先鋒と戦う事になります。端的に言うのなら、敵に捕捉されたそのタイミングだけは我々が数で勝っているはずなんです」
「各個撃破のチャンスって事か。モタモタしてたら直ぐにカールスラントの本隊が来るのに?」
エイラはリスクをとっているように見えて、その実スオムス軍の保全をできるよう作戦を立てている。捕捉撃滅されたら降伏すると言ったが、そうなる前に現在の整然とした撤退からなりふり構わない撤退に切り替えるつもりだった。
「仮にリバウに撤退できても、最終的な勝利を得る事は難しいです。ならここで敗北の危険を背負ってでも、勝利を手にするべきではありませんか?」
現在の作戦が成功する可能性は極めて低い。その次善の策としてサーシャの意見は有力な案だった。
「……サーシャの言う通りにしよう」
「ありがとうございます」
頭を下げるサーシャに、エイラは大きく息を吐くと告げた。
「詳しい作戦はサーシャ、お前が立ててくれ。その為に必要な人員と資料は好きに使っていい」
その言葉に驚きながらも、サーシャは了解しましたと返事をした。
電気の代わりに魔法力を使う機械とかってあだたりするんですかね。もちろん、ストライカーユニット意外で。
ウィッチの少なさから量産には向かないでしょうけど、出力が電力よりも大きそうですし何かには使えそう。電源がウィッチであればいい、もしくは魔法力をなにかに貯めて使うみたいな方法ですからワンチャン利便性では電池と変わらないかも?