ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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今回から暫くスオムスから離れ、時系列が戻ります。


ガリア編
二人の同居人


「どうして貴女がここにいるんですの!?」

 

ガリア共和国パ・ド・カレーにあるクロステルマン家の屋敷にペリーヌの悲鳴がこだましたのは統合戦闘航空団が解散し、パリでの式典や諸々の会談などのウィッチとしての最後の仕事が終わり、パ・ド・カレーの自宅に帰ってきたその日のことだった。

 

「友人の家を訪ねる事に理由が必要なのか?」

 

まるで我が家のように我が物顔で食堂でくつろぎながらそう言ったのは、カールスラント空軍退役少将のハンナ・ウルーリケ・ルーデルだった。

 

「友人の家を友人(・・)が訪ねるのは理由が必要ないでしょう」

 

わなわなと肩を振るわせペリーヌは言った。現在ペリーヌの屋敷は身寄りのない子供や元同僚のリーネ、アメリー・プランシャールらが同居している。しかしそれらはペリーヌの同意を得た上であり、ルーデルのように勝手に住み着いているわけではない。

 

「そうだろう。ならば何も問題ないではないな」

 

ペリーヌの言葉に満足そうに頷くとルーデルは勝手知ったる家とばかりに自室に引き返そうとした。

 

「ですが! ですがいつ貴女と私が友人関係になったというのですか!?」

 

ペリーヌはルーデルと友人関係になったつもりは毛頭ない。それなのにいつの間にやら我が家に滞在してルーデル自身の部屋まで作られている。家主のペリーヌからしたらたまったものではない。

 

「寂しい事を言うなペリーヌ、私とお前は共に空を飛んだ仲じゃないか」

 

さも親しい間柄だったかのように語るが、ペリーヌの視点ではそんな事は全くなかった。

 

「それはいつだったか貴女の僚機だったニールマンさんが負傷して、宮藤さんに治療を受けているのをおいて、出撃した時の話を言ってらっしゃるの!?」

 

モスクワ奪還に際してはウィッチにも多くの負傷者が出た。しかしそれらは宮藤を筆頭とした腕の立つ医療ウィッチ達の力でいとも容易く回復し前線に復帰させられた。

その負傷したウィッチの一人にルーデルの相棒、ニールマンも一度負傷して宮藤の治療を受けることになったが、その治療にかかる僅かな時間をルーデルは待てなかった。近くにいたペリーヌの襟首を掴み「行くぞ」の一言で空中に連れ去るとそのまま対地爆撃に出撃してしまったのだ。

引き返せば良かったものを人がいいペリーヌはそのまま対地爆撃に従事し、見事ニールマンの代役を務めた。以来ペリーヌはルーデルから気に入られてニールマンが本業の記者としての仕事で出撃できない時などは一緒に出撃させられ、対地攻撃ウィッチとしての経験を積むことになった。

 

「それだけじゃないだろう。貴様の作ったあの……なんと言ったか」

 

「カモミールティーの事ですの?」

 

ペリーヌが当時のペリーヌが人に対して振る舞うものは一つしかなく、ルーデルに何を提供したかは容易に想像がついた。

 

「そうそれだ! あれはなかなか美味かった。あんな美味いものをお前は友人でもない奴に出すのか?」

 

「誰にでも出すと言うわけではありませんが……」

 

カモミールティーは501で評判が悪くあまり人に出したことはない。しかし使われているカモミールはペリーヌが育てたもので、それを褒められて嫌な気持ちにならないはずがない。

 

「そうだろうそうだろう。ならば私とお前は友人同士だ」

 

我が意を得たりとばかりに満面の笑みを浮かべてルーデルは断言した。

 

「カモミールティーを出したぐらいで友人だなんて……」

 

「それだけじゃないだろう。モスクワ奪還では何度も命を救われた」

 

シールドを使えないルーデルはペリーヌのシールドに命を救われたことが何度もある。もっとも、それに関してはペリーにも言いたいことがあった。

 

「代わりに私はあわなくてもいい危険な目にあいましたわ。まさかシールドを使えない人があんな戦果を上げているとは思いませんもの」

 

当時の記憶が蘇り、ペリーヌは段々と怒りが湧き上がってきた。

 

「そもそも出撃しなければ貴女が危険な目にあう事もなければ、私が命を救うなどという事もなかったのではありませんでしたわ! ご自分で危険に飛び込んで私に助けられていながらそれを理由に友人だなんて……」

 

危うく騙されるところだったとかぶりを振るペリーヌに、ルーデルは顔を背けて舌打ちをすると口を開いた。

 

「たとえ私から仕掛けた事だとしても、命を救った事に違いはない」

 

「それはそうかもしれませんけど……」

 

「そもそも、私だけが一方的に命を救われていたわけではないだろう。私もお前が死にそうになった時、救ってやった事がある」

 

対地攻撃というのは大きな危険を伴う行為だ。それがペリーヌのようなサポート要員だとしても、通常の任務よりも地面に近づき強力なネウロイの対空砲に晒される事になる。

 

「……確かに貴女に命を救われた事があるのは事実です」

 

「そうだろう。つまり我々は戦友、友人関係にあると言っても過言ではない」

 

満足が気に頷くルーデルをペリーヌは強く睨みつけた。

 

「ですが! ですがそれも貴女が原因で起きた出来事でしょう!!」

 

「私が原因だと? 私が出撃する時にお前を連れてきたからだというのなら、断らなかったお前にも問題があるだろう。確かに少し強引だったかもしれないが、結局最後は私が行くぞと言えば拒否しなかったじゃないか」

 

「私が浮上して貴女に命を救われた時は、貴女を狙ったネウロイのビームを防御しようとしてミスをしたからですわ。それも貴女が珍しく撃ち漏らした半壊したネウロイからのビームですわよ。つまり、私の負傷は貴女の不始末によるものという事ですわ!」

 

ペリーヌの指摘にルーデルは当時の事を思い出そうとするが、生憎ペリーヌが被弾して川に落ちた事は覚えているが、その原因が自分の撃ち漏らしであったかどうかまでは思い出せなかった。

 

「仮にそうだとしても、被弾して川に落ちたお前を助けたのは私だ。流石にいくら魔法力で防寒できたと言っても、冬のモスクワの水は冷たかったぞ」

 

「ええ、私もその冷たさはよく知っていますわ。ですがその原因は貴女を守った事ですわ」

 

「バディとして私を守るのは当然だろう」

 

ルーデルの言い分はもっともであり、ペリーヌもそれを理解しているからこそ言葉に詰まった。

 

「ですが、仮に私と貴女が戦友だとしても勝手に家に上がり込んでくつろいでいい理由にはなりませんわ」

 

「身寄りのない子供を何人も養っているんだ。今更私が一人増えたくらいで何も変わらんだろう」

 

「いえ、成人女性が一人増える事と子供が増える事では食費が大きく変わりますわ」

 

それまでとは違い、一転して冷静な様子でペリーヌは告げた。寄付や政府からの援助で財政面はマシになったが、それでも苦しいのが現状だ。人が一人増える事はペリーヌにとって大きな負担となる。

 

「ま、まぁ流石に居候の身でだらけて過ごすつもりはない。子供の世話や屋敷の整備には当然協力する。それと、心ばかりではあるが私の現役時代に貯めていた貯金も使ってくれ」

 

思いの外真剣な様子のペリーヌにルーデルは目を泳がせながら告げた。ペリーヌを困らせる事はルーデルとしてと本意ではない。

 

「あら、そうですの? でしたら歓迎いたしますわ!」

 

さっきとは打って変わって暖かな笑みを浮かべたペリーヌに、内心では早まったかもしれないと思いながらも、一度口に出した事を撤回するようなみっともない真似はできず、ルーデルは任せておけと胸を叩いた。

 

「あれ、ペリーヌさん帰ってたんですか?」

 

そう言って食堂に入ってきたのは、リーネだった。手には食材の入っている籠を持ち、これから食事の用意をしようとしている事が見てとれた。

 

「ええ。ようやく政府との交渉もひと段落しましたので、これからは暫くこちらにいる事ができますわ」

 

そう言ってリーネの手伝いをしようと近づくと、続いて同じように食材の入った籠を持ったアメリーが入ってきた。

 

「クロステルマン少佐、帰ってきたんですね!」

 

「ただいま戻りましたわアメリーさん。それと、私はもうウィッチを引退したのですから、少佐はありませんわよ」

 

「そう言えばそうでしたね。だけどそれならなんと呼べば……」

 

「ペリーヌで構いませんわ。ここにいる人は皆そう呼んでいるのに、貴女だけ堅苦しくクロステルマンなどと呼ぶ必要はありませんわ」

 

「わ、わかりました。ぺ、ペリーヌ……せ、先輩!」

 

尊敬するペリーヌを敬称をつけずに呼ぶ事は憚られ、アメリーはペリーヌの事を先輩をつけて呼ぶ事にした。その様子にペリーヌは小さく笑うと言った。

 

「さて、これから昼食の準備ですわよね。手伝いますわ」

 

「ペリーヌ先輩は戻ってきたばかりで疲れていますよね。食事の準備は私達でしますからゆっくり休んでくれていいですよ」

 

休むよう促すアメリーにペリーヌは首を降ると横目でルーデルを睨みつけながら言った。

 

「ルーデルさんが本当に協力するつもりなのか、見張らなければならないので手伝いますわ」

 

「ルーデルさん、お料理できるんですか!?」

 

驚くリーネ達に、ペリーヌはこれまでのルーデルのここでの生活がどのようなものだったのか悟った。

 

「ルーデルさん、今まではダラダラと過ごせていたのかもしれませんが、私が帰ってきたからにはそうはいきませんわ。ビシバシと働いてもらいますわよ」

 

その言葉にルーデルは一瞬、顔を顰めた後に観念したように頷いた。

 

「ペリーヌさん、お帰りなさい」

 

ルーデルの同意を見て、四人で料理を作ろうとした所に、再び食材の入った籠を持った人物がペリーヌに挨拶をした。

 

「あら、ニールマンさん。ただいま戻りましたわ」

 

その人物、ルーデルのバディを務めたニールマンだった。当然ペリーヌも面識があり、何事もないかのように帰還を告げたが直後その違和感に気がついた。

 

「ニールマンさん、どうして貴女もここに居ますの!?!?!?!?」

 

ペリーヌの預かり知らぬ間に増えていた二人の同居人は、元々賑やかだった屋敷をさらに賑やかなものにした。それが良い事だったのかどうか、今のペリーヌにはまだ分からなかった。だが一つ確かなのは

 

「しょ、食費が、経費が……」

 

金銭的な負担が成人女性二人分増えたと言う事である。




ずっと温めていたペリーヌとルーデルの日常編が暫く続きます。

それにしても後書きのネタ、流石になくなりました。気が付いたら二百四十話とかなってますし、そらそうだよなと。何かネタあれば教えてくれれば幸いです。個人的に考察して後書きで上げたりします。
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