ルーデルさんがこの屋敷に来たのは、ペリーヌさんがパリにいて不在の時のことだった。
「今日から世話になる」
そう告げてまるで自分の家のように上がり込んでくるルーデルさんと、ペコペコと頭を下げながらも何処か好奇心というものを隠しきれていない、良くも悪くも記者らしいニールマンさん。性格的には似ていないけど、なぜ似た雰囲気を感じさせる二人だった。
「クロステルマンの許可はとってある」
家主であるペリーヌさんの許可があるのなら居候の私がとやかくいう権利はない。屋敷の大きさの割に住んでいる人は少ないから空き部屋は多いけど、人の少なさから管理しきれず、埃だらけで使えない部屋も多くあった。その中から比較的まともな部屋を選び、急いで掃除をして二人の部屋を用意し終えた頃、丁度お昼ご飯の時間帯になっていた。ペリーヌさんも早ければお昼ご飯には間に合うと連絡があったし、一応ペリーヌさんの分も用意する。そして突然増えたルーデルさんとニールマンさんの分も。
作る料理はいつもより三人分多いけど、積極的に協力を申し出てくれたニールマンさんのおかげで負担は寧ろ軽くなった。
「ところでルーデルさんは何をしてるんですか?」
普通の感性をしていれば同じ居候の身分でまさか家事手伝いをしないなんて事はないだろう。だけどルーデルさんが普通でない事は、501とルーデルさんの部隊の共同任務があった時に嫌というほど理解している。嫌がるペリーヌさんを無理やり連れ出して出撃したりやりたい放題だった。
「ルーデルさんなら先に食堂の方に移動してますよ」
食堂には調理場が併設されている。まだ食事もできていないというのに食堂に移動するのはおかしい。私の予想と違い、調理の手伝いをするつもりなのだろうか?
だけどあの人が料理をするところなんて想像できない。ウィッチで軍人だった以上は最低限の料理くらいはできると思うけど、それでもあの人が料理するというのは想像がつかない。何なら水を入れて材料を煮たものをシチューと言ったり、味付けもなく焼いただけの物を料理したと言いそうだ。
そんな不安と戦いながらも食堂に向かっていると、食堂の方からペリーヌさんの甲高い叫び声が聞こえた。昔なら慌てた事だけど、ペリーヌさんが叫ぶのは意外と良くある事だ。普通の人よりも大袈裟な感情表現をするから昔は私も慌てたけど、今更慌てるような浅い関係でもない。
食堂に入るとそこにはルーデルさんとペリーヌさんが談笑していた。どうやらルーデルさんが許可をとって居候するというのは事実だったようだ。そう一安心したのも束の間、ニールマンさんを見て驚くペリーヌさんの様子から、二人とも許可を取らずに上がり込んだ事が明らかになった。
「追い出さなくていいんですか?」
私がそう問いかけるのも当然の事だと思う。ペリーヌさんはこれまでガリア復興の為に必死に頑張ってきたのに、ここにきてルーデルさんみたいな人が関わって台無しになるのはあんまりだ。
「構いませんわ。ルーデルさんは破天荒な人ですけど、約束は守る人ですからちゃんと力になってくれますもの」
「そうじゃなくて、ルーデルさんがいる事でペリーヌさんの負担が増えるのならいくら人手が増えても意味がないじゃないですか」
「まぁ、リーネさんったら。ルーデルさんはああ見えて意外と頼りになるところもありますのよ」
不満はある。だけど家主のペリーヌさんが認めているのならこれ以上何かいうのは筋違いだ。それ以降私がルーデルさんを追い出そうという事はなかった。
屋敷にいる時のペリーヌさんは、501にいる時よりも気を張っている事が多かった。幼い子供達の面倒を見なければならない事や、この屋敷でガリア政府の要人と会談する事もある。屋敷のトップとしてだけでなく、無役ながらガリアの要人としての立場もあるペリーヌさんにはこのガリアに心休まる場所はないのかもしれない。そんなふうに思っていた。
「ちょっとルーデルさん! 野菜はもっと小さく切ってくださいません事!?」
「小さい野菜など食べた気にならん。何より大きい方が食べ応えがあって美味い」
「小さな子供達が一口で食べられる大きさで、野菜嫌いな子達が無理なく食べられる大きさなんですの。私達の都合で野菜の大きさを変えてはいけませんわ!」
ルーデルさんと一緒の時のペリーヌさんは、501にいた時のペリーヌさんみたいに騒がしかった。それが悪いわけじゃなく、普段気を張っているペリーヌさんがリラックスできているのはすごく嬉しい。だけどそれをするのが501で何年も一緒だった私じゃなく、一年程度しか一緒じゃないルーデルさんなのはなんだかすごく悔しかった。
「ルーデルお姉ちゃん!」
ルーデルさんには不思議な魅力がある。身体だけでなく、顔にまで大きな傷のあるルーデルさんを最初子供達は怖がっていた。身寄りを失い他者に対して心を開かせる事の少ない子供達が、得体の知れない傷を持った元ウィッチに簡単に懐くはずがない。
だけど不思議な事にいつの間にか子供達はルーデルさんの事をお姉ちゃんと慕い、子供達の方から遊びに誘うようになった。もっとも、ルーデルさんは毎回面倒くさそうにしてい。だけどそんな彼女を無理やり遊びに連れ出すのも子供達には楽しい遊びの一つだったようで結局最後は子供達の言いなりになって一緒に遊んでいた。
「ルーデルお姉ちゃんのその傷っていつできたの?」
子供の好奇心とは怖い物で、私達では聞けないようなデリケートな事にも物怖じせずに問いかける。ルーデルさんもルーデルさんで傷の事を勲章だとでも思っているみたいで、その傷がどんなネウロイによるどんな攻撃でできた物なのか嬉々として語った。
ここにいるのはネウロイの被害にあって身寄りがない子供達だ。ネウロイが倒される話が喜ばれないわけがない。
一応エースと呼ばれるだけの戦果を上げた私だけど、実力も戦果もエースの中では中堅くらいの物だ。そしてガリアではもっともスコアの高いペリーヌさんでさえ、エース全体で見れば私よりも少し上くらいだ。世界的に見ても有数の、いや対地攻撃を主任務とするウィッチとしては間違いなく世界最高のウィッチだったルーデルさんが持つ以上のエピソードを私は持っていなかった。
「ルーデルさんは宮藤さんに似ているとは思いません?」
ある日ペリーヌさんがそう言った。
「芳佳ちゃんにですか? 似ても似つかないと思いますけど」
ルーデルさんと芳佳ちゃんでは似ても似つかない。いくらペリーヌさんでも言っていい事と悪い事があるし、あの芳佳ちゃんとルーデルさんが同一視される事には並々ならぬ嫌悪感が沸いた。流石にそれを顔に出す事はしなかったけど、私の嫌そうな空気が伝わったのだろう。ペリーヌさんは慌てた様子で話を続けた。
「何というか、二人とも純粋で人を惹きつける魅力があるんですわ。戦時中のルーデルさんはネウロイを全て滅ぼせば平和が訪れると一途に信じて出撃を繰り返し、宮藤さんはウィッチに不可能はないという言葉を愚直に信じ、平和を人類に取り戻すべく出撃を重ねた」
何となくペリーヌさんの言わんとする事は理解できた。だけどそれを認められるかどうかは別問題だ。
「その愚直さに私達は惹かれたのかもしれませんわね。不思議と宮藤さんが来た後の501は団結力が増し、強くなった。もちろん個々人の技量が上がった事も一因でしょうが、エイラさんや坂本少佐のように全盛期ほどの力が出せなくない人がいながらもガリア、ヴェネツィアの巣を破壊できたのは宮藤さんの力も大きかったですわ」
「芳佳ちゃんの魅力は芳佳ちゃんだけのものです。ルーデルさんは、私はルーデルさんに魅力があるとは思いませんけど、あったとしてもそれは芳佳ちゃんとは全く違うものですよ」
「まぁ、貴女がルーデルさんの事をよく思っていない事は分かっていますわ。ですけどあの人の人を惹きつける魅力と言うものは本物ですわ。考えてもごらんなさい。ネウロイにより身寄りのなくなった子供達は中々心を開いてくれませんわ。今の所それができたのは宮藤さんと、ルーデルさんくらいのもの。系統は違うかもしれませんがルーデルさんには宮藤さん同様不思議な魅力があるのですわ」
そう語るペリーヌさんは、まるで恋焦がれる乙女のような、或いはかつて坂本少佐に対して向けていたような顔をしていた。
なるほどルーデルさんには不思議な魅力があるのかも知れない。それは芳佳ちゃんのような人を惹きつけるものであり、坂本少佐のように人を夢中にさせるもののようだ。だけど芳佳ちゃんのそれとは決定的に何かが違う。それだけは確かだ。だって本当にそれが芳佳ちゃんと同じものなら
「……私がこんなにも嫌うわけないじゃないですか」
心の中で言ったつもりだったけど、思わず口に出ていたようでペリーヌさんの耳にも私の声が聞こえたみたいだった。だけど何を言ったのかまでは分からなかったみたいで私に何か言ったか尋ねてきた。何でもないよ。そう答えるよりも先に、扉を勢いよく開けてルーデルさんが入ってきた。
「クロステルマン、子供達が遊べと五月蝿いんだ。助けろ」
私など眼中にないようで、真っ直ぐにペリーヌさんの元に向かうと助けを求めた。ペリーヌさんもペリーヌさんで仕方ないですわねなんていいながら連れ出される。そして部屋を出る直前、ルーデルさんが思い出したように私にも声をかける。
「ビショップ、貴様も来い」
嗚呼、やっぱり私は彼女が嫌いだ。
今回投稿する話を何にしようかなぁ、と考えていたら振って沸いた話。
パソコンに魔法力を使ったり発電システムに魔法力を使えれば、なんて思ったりもしましたけどウィッチの数が少なくて生産コストが下げられずに大爆死しそう。モバイルバッテリーの充電に魔法力を使えたとしてもやっぱり生産数が少なく生産コストが下げられずに大爆死しそうだなぁ。