リーネが退室した部屋で、ペリーヌは一人思索にふけっていた。リーネには人を雇った際のリスクなどを理由にド・ゴールの要請を受けるつもりがないと言ったが、実のところそれだけが原因ではなかった。
「北部ガリアと南部ガリアにある確執の解消……」
北部ガリアと南部ガリアの確執は大きい。現在ではド・ゴールが絶大な権力を握っているが、それは主に北部ガリアをを基盤としたものであった。南部ガリアからは連合国との交渉事で、ド・ゴールは有効に使えると見られて政治首班となったが、逆を言えばそれ以外に関しては全く期待をされていない。
ネウロイに屈する事なく領土を守ったという矜持のある南部の人間から見れば、北部の人間などみすみすネウロイに領土を奪われた挙句、他国の手を借りてようやく領土を取り返した軟弱者でしかない。その北部の代表たるド・ゴールが戦後になっても政治首班にいる事は、南部ガリアの人間からすれば我慢のできない事だ。
「このままでは自分の権力が無くなると、考えているのかもしれませんわね」
例外的に南部ガリアからも人気がある北部の人間がペリーヌだった。ガリア奪還は勿論、ロマーニャ、ベルリン、オラーシャと言った国々でネウロイの巣破壊に貢献し、人類史上もっともネウロイとその巣をを倒したウィッチであるペリーヌは、ド・ゴールを上回る人気だった。
「私を取り込む事で、自分の権力基盤を南部にまで拡大したいのかもしれませんわね」
子供達に対して手厚い政策を提言し、それを実行するのであればペリーヌとて心が動かないわけではなかった。だがペリーヌには懸念があった。その懸念が拭えない限り、ペリーヌはド・ゴールに手を貸す事を躊躇わせていた。
「考えすぎなのかもしれません。ですが……」
それを口にしてしまうと、現実になってしまうのではないか。そんな言い知れぬ不安がペリーヌにはあった。誰かとこの不安を共有できれば、あるいはド・ゴールの提案を受ける事も、或いはキッパリと断る事もできたのかもしれない。リーネには断るつもりだと言ったものの、まだド・ゴールに対して明確な意思を示していないのは、理屈の上では提案を受けた方がいいと分かっていたからだった。
「クロステルマン、いつまで引きこもっているつもりだ。そろそろいい加減出てこい。子供達が待っているぞ」
思索にふけるペリーヌを現実に引き戻したのは、例の如くルーデルだった。
「……子供達には悪いのですが、今日はあまり相手をしてあげられそうにありませんわ」
いつになく真剣な表情のペリーヌに、ルーデルは少し驚いた様子だった。
「ド・ゴールの件か」
「意外ですわ。貴女は来客者の事など眼中にないと思っていました」
ペリーヌの屋敷を訪れる者はウィッチ関係者は勿論の事、政府関係者なども多い。ド・ゴールほどではないにしろパ・ド・カレーの行政責任者やこの地の警察責任者などが訪れる事もある。そのいずれに対してもルーデルは我関せずの態度を崩さず、来客者が誰でどんな役職についているのかにも興味がないようにペリーヌは感じていた。
「ニールマンとビショップが話していたからな」
「なるほど、そういう事でしたか」
「なかなかの大物だ。政治の世界にでも誘われたか?」
世界平和を実現する為にネウロイを全て滅ぼすなどと冗談めいた事を大真面目に言うルーデルだが、別段頭が悪いと言うわけではない。むしろ現役時代には指揮官として部隊を率いていた事からも分かるように、人並み以上の頭脳を持っている。ド・ゴールが訪れた理由は用意に察することができた。
「もし迷いがあるのなら受けない方がいい」
「リーネさんにはより多くの子供達を救う為に、受けた方が良いと言われましたわ」
「無駄に高い身分など自分を縛る枷にしかならない。今やりたい事が政府の中枢に食い込んでもできるとは限らないからな。迷っているくらいならやらない方がマシだろう」
カールスラントで一人しか与えられていない勲章を与えられようと、どれだけ高い役職を与えると言われようと、全てを拒否して全線に立ち続けたルーデルらしい言葉だった。
「ですが私がガリアの政治に関われば、より多くの身寄りのない子供達を救えますわ」
「どんなに優秀だろうと人一人ができる事は限られている。お前一人が政治家になったところでやれる事は限られている」
「ネウロイを全て滅ぼし世界平和を実現すると言った、貴女らしくない言葉ですわね」
「誰も一人でとは言っていない。少なくとも私の周りには志を共にする信頼できる仲間がいた。戦争序盤においては私の部隊の仲間達だけだったが、時が経つにつれ数も増えた。いや、志を共にする者達が集まったからネウロイに打ち勝つ事ができたと言うべきか」
そう言ってルーデルはどこか懐かしそうに笑った。
「私の言葉に驚くものは多かったが、それはただ言葉にできていないだけで多くのウィッチ達が共有していた事のはずだ。勿論クロステルマン、お前もだ」
「私は貴女に言われるまで考えた事もありませんでしたわ」
「ならお前は何を目指してガリア奪還後も戦い続けていたんだ」
「それはまだネウロイが残っていたからですわ」
「残っていたら何が悪い」
ペリーヌの答えにルーデルは間髪入れずに問いかけた。
「そんなの人々の生活が脅かされ、領土を失うかもしれないからですわ」
「つまりクロステルマンは全てのネウロイをこの世から無くし、平和を作りたかったと言う事だろう」
「それは……そうかもしれませんわね」
自覚していなかったが、ペリーヌが目指していたところはルーデルと同じだった。
「さて、それを踏まえてだがクロステルマンがしたい事に賛同しているのが誰かという話だが、それはここにいる私やビショップだ。誘いをかけてきたド・ゴールはクロステルマンの手を借りたいのであって子供達を救いたいわけではない。一見するとやれる事が増えたように見えても、過分な権力と責任を押し付けられただけで、自分のやりたい事ができなくなる事は目に見えている。迷っているくらいなら受けない方がいい」
「……そうかもしれませんわね」
気のないペリーヌの返事に、ルーデルは訝しげな表情を浮かべた。
「ルーデルさんの言う通りだと思います。ですが私はまた別の理由で、あの人の提案を受け入れるつもりが起きないのですわ」
少し息を吐くと、ペリーヌは意を決して告げた。
「ド・ゴールさんは南部ガリアとの対立を助長させようとしているような、ともすれば戦争を起こそうとしているのではないかと思ってしまうのですわ」
「……穏やかな話ではないな。そう言うからには何か根拠があるのだろう?」
「根拠と言うなら薄いかもしれませんが、一応あります」
ペリーヌも何の根拠もなく言っているわけではない。いくつかの事実が、ド・ゴールに対して疑いを抱かせていた。
「まず一つに、これまでのド・ゴールさんの制作があります。これまで北部ガリアの復興に力を入れていますが、その財源は各国からの支援金と安定している南部ガリアからの税収です」
「まさか南部ガリアを犠牲に、北部を立て直そうとしているから対立を煽っていると言うわけではないだろうな」
「そこまでは言いません。これは南部ガリアに不満を抱かせていますが、これだけならまだ大丈夫でしょう。問題は旧ネウロイ勢力圏と南部ガリアの境界地域や、南部ガリア自体の復興がほとんど行われていないと言う事ですわ」
北部ガリアの主要都市の復興は迅速に行われているが、北部と比べて比較的軽微な被害の南部ガリアの復興はほとんど手付かずと言って良い。南部ガリアからの税収を財源としていると言うのに、その殆どが北部ガリアに使われている現状は間違いなく南部からの反感を買う事になる。
「なるほど。自分達にだけ負担を押し付けるだけで手を貸さない北部ガリア、ひいてはド・ゴールは南部ガリアにとっては敵。武力による抵抗が起こり得ると」
「そこまではわかりませんわ。ですが今回、私は議員になれば教育関連のトップに据える事を検討していると言われましたわ。そして現在の教育関連のトップは、南部ガリア出身の人物ですわ」
南部の人間を排除し、北部のペリーヌを据える。いくらペリーヌが南部からも人気があると言っても、これは南部を軽視していると言わざるを得ない。
「南部の議員を排斥すると共に、有力な対抗馬のクロステルマンの南部人気を削ぐ。一石二鳥の作か」
「私の考えすぎかもしれませんが」
「考えすぎたとしても、目に見える不安要素があるのなら尚更避ける方が賢明だろう」
ルーデルの言葉にペリーヌは深く頷いた。
ウィッチ世界だとウィッチ限定のスポーツとかあったりしそうですよね。
飛行用だけでなく、陸戦ウィッチ用のユニットを改造して、機動力を上げてF1みたいに競争したりとかしたら面白そうな気もするけどどうなんでしょうか。