ネウロイとの戦争が終わって世界は平和になった、と思う。
微力ながら私、アメリー・プランシャールもウィッチとしてネウロイの支配から領土を解放してきたから、本来なら胸を張って言ってそう言える事だ。だけどペリーヌさんの屋敷にいると、本当に今は平和になったのか疑問に思う事がある。
「すごいなぁ、ペリーヌさんは」
ウィッチを引退して、私はただの一ガリア国民になった。だけど同じように引退したペリーヌさんには、未だにガリアのお偉いさん達が訪ねてくる。今日なんかはガリアの最高権力者、ド・ゴールさんが訪ねてきた。
「ウィッチとして活動していた時でさえ、私なんかからすれば雲上人だったのに、引退した今も頼られるなんて」
ド・ゴールさんを応接室に案内して戻ってきたリーネさんにそう言うと、彼女は眉尻を下げ困ったような表情を浮かべた。
「ペリーヌさんが頼られるのは私も嬉しいです。それがペリーヌさん個人の力を真っ当な理由で借りたいのであれば、尚いいんですけど……」
「ド・ゴールさんがペリーヌさんを訪ねてきた理由が真っ当な物じゃないって事ですか?」
仮にも一国の主人が、後ろ暗い理由でペリーヌさんに会いにくるのだろうか。
「今のペリーヌさんはただのガリア国民ですよ。そのペリーヌさんにガリアで一番忙しいはずの人がわざわざ時間を作って会いにくるなんて、普通の理由なわけないじゃないですか」
「それはド・ゴールさんがやろうとしている事に、ペリーヌさんが必要不可欠だから、とかじゃないですか?」
ペリーヌさんの力量が政府に認められているようで、むしろ喜ばしい事なんじゃないだろうか。
「ペリーヌさんの能力が高い事は確かですけど、多分それは誰かが代替可能な能力だと思うんです」
「いくらでも代わりがいるって事ですか?」
「少なくともガリア政府ないを探せば、ペリーヌさんの代わりを務める事ができる人の一人や二人は見つかるはずです」
ペリーヌさんの代わりはいる。その言葉に私は怒りを覚えた。だけどそれを言葉にする事はなかった。次に続いたリーネさんの言葉が、いくらか私の溜飲を下げたからだ。
「今ペリーヌさんしかできない事は、身寄りのなくてこの屋敷に来た子供達に救いの手を差し伸べる事です。決して政府の都合のいいように使われる事じゃありません」
「確かにそうかもしれません。だけどド・ゴールさんは子供達を救う政策を作る為に、その助力を求める為にペリーヌさんを訪ねてきたのかもしれないじゃないですか」
私達はド・ゴールさんがペリーヌさんを訪ねてきた理由を知らない。ここまでの話は全部リーネさんの憶測に端を発する私達の想像でしかない。
「そうですね。多分ド・ゴールさんはペリーヌさんに教育とかの分野でも協力を要請すると思います」
「ド・ゴールさんは真っ当じゃない理由でペリーヌさんに会いに来たとか言ってませんでしたか?」
「そこまでは言ってませんよ。だけど隠居同然のペリーヌさんに会いにくる理由が真っ当な物だけのはずがないですから。多分、ペリーヌさんがやりたい事と引き換えに何か自分の利益になる事を、ペリーヌさんにさせるつもりなんだと思います」
つまりペリーヌさんがやりたい、身寄りのない子供達の救済に政府が積極的に手を貸すと言う事だろうか。
「いい事じゃないですか! これ以上は私達だけじゃ子供達全てを見る事は難しくなってきましたし、政府が協力してくれるのなら万々歳じゃないですか」
私の言葉に、リーネさんは曖昧に頷くだけだった。不思議に思ったけど、その時の私はまたその意味を理解できていなかった。
リーネさんの曖昧な返事の意味がわかったのは、その日の夜のことだった。
「ド・ゴールさんはどんな要件でペリーヌさんを訪ねてきたんですか?」
果たしてリーネさんの予想は当たっているのか。内心ドキドキしながら問いかけると、ペリーヌさんはなんて事ないようないつもの口調で答えた。
「私に秘書として彼の下につかないかと誘われましたわ。そして次の選挙では議員となり、教育関連のトップとして政権閣僚となる。そんな筋書きでしたわね」
「凄いじゃないですか!」
想像以上に破格の条件だった。どうやらペリーヌさんはド・ゴールさんから随分と高く評価されているらしい。
「そうですわね」
「おめでとうございます!」
それは私の尊敬するペリーヌさんの活動が、政府に認めたという事に他ならない。思わず祝いの言葉が飛び出すのは当然のことだった。
「ありがとうございます。でも断るつもりですわ」
「断るんですか!?」
「ええ。おそらく私がやりたい事をするにはこの地位は過分なものですわ」
「だけど政府の高官になれれば人手も資金も増えるしいいことしかないんじゃ…」
政府官僚に政府予算。これらがあれば今よりも多くの子供たちを救うことができる。
「一概にもそうとは言えませんわ。これはルーデルさんの言っていたことですけど、高い役職を得たからと言って、自分がやりたい事ができるとは限らないそうですわ」
「そうなんですか?」
ただの下士官にすぎなっかった私には、高い地位がにつくことにより、自分のしたい事ができなくなると言う事が理解できない。高い地位を得るという事は、できることが大きくなることじゃないんだろうか。そんな私の疑問を感じ取ってくれたペリーヌさんは、苦笑を浮かべると言った。
「例えば統合戦闘航空団の司令官であれば佐官が任命されますが、彼女達の仕事はネウロイを倒す事でしょうか?」
「……部隊に必要な弾薬、食料とか物資の補充ですか?」
「そうですわね。高い地位を得るとそれに伴い、やらなければならない事も増えます。それこそ本来したい事をしようにも、普段の通常業務に忙殺されてできない事だって起こり得ます。部隊の司令官が前線に出ず、ネウロイの襲来があっても基地で指揮に専念しているのもそれが一つの原因ですわ」
言われてみれば部隊の指揮官は階級が高くなればなるほど、前線で戦う事が少なくなっていた。どんなに交戦的で多くのネウロイを撃墜したエースウィッチでもそれは変わらない。
それは軍隊から政府に変わったとしても、変わらないとペリーヌさんは言っているだろう。だけど本当にそうなのだろうか。
「軍と政府ではまた違うんじゃないでしょうか。軍隊はネウロイと戦う事が仕事でしたけど、政府はある意味全員が指揮官みたいなものじゃないですか。それぞれが割り振られた書類仕事をするから、政府高官は軍の高官よりも負担が少なんんじゃないでしょうか」
「もしかしたらそうなのかもしれません。ですが軍よりマシと言うだけで、高官の仕事が大変な事に代わりはないと思いますわ」
そんな物なのだろうか。私は、当然ペリーヌさんもだろうけど政府高官の仕事と言うものがどんなものなのか実際には知らないし、想像でしかない。もしかしたら意外と仕事が少ないなんて事もあるかもしれない。
「それに断る理由はそれだけではありませんのよ」
「他にも理由があるんですか?」
私の問いかけにペリーヌさんは根拠はないのですけど、と前置きして言った。
「ド・ゴールさんが南部との対立を煽っているような気がするのですわ」
「対立を煽る?」
ペリーヌさんらしくない、なんとも物騒な言葉だった。
「ド・ゴールさんが何をしたいのかは分かりませんが、少なくとも私を政府に引き入れる理由は好意的なものだけでない事だけは確かですわ」
「好意的なものだけじゃないって……」
ペリーヌさんはガリアの子供達の為に身を粉にして頑張っているのに、好意以外の感情で近づくとなんて信じられない話だ。
「まぁ、これも全部私の考えすぎの可能性もあります。対立を煽ったところでド・ゴールさんにメリットがあるとも思えませんし」
そう言ってペリーヌさんは疲れた様子でため息を吐いた。
「ネウロイがいなくなった事で平和になったと思いましたのに、どうして世界は平和にならないんでしょうね」
ペリーヌさんの言葉に、私は曖昧に笑って答えた。ペリーヌさんはネウロイがいなくなっても世界は平和になっていないと思っているみたいだけど、私の考えは違う。
確かに一見平和に見える世界の裏側では、きな臭い動きが多々あるのかもしれない。だけどネウロイがいなくなった事で、少なくとも表向き世界は平和になった。平和でないと感じているのは極一部の人間だけ。多くの人々は、私を含む一般人はそれを認識していない。極一部の特殊な環境にある人間しか平和ではないと思わないのであれば、私はそれを平和と呼ぶ。
ウィッチが存在する事によって、創作物も色々内容が変わりそうですよね。例えば怪人二十面相とかみたいなミステリー。この辺は固有魔法の介在する余地があるせいで、推理要素に魔法が絡んでより複雑なものになりそう。ノックスの十戒も要件が変わりそうですね。