ド・ゴールの再訪は意外と早かった。彼の提案を熟慮の末断ると、それから一週間もしない内にド・ゴールは再びペリーヌの屋敷を訪ねた。
「今回は随分と賑やかですのね」
前回の非公式な訪問と違い、今回のド・ゴールの訪問は正式な公務に基づいたものだった。
「君と最後に会ったのはパリで終戦式典をした時だったかな。あの時から半年近く経つ。まだまだ復興途中ではあるが、優秀な人材も増えた」
ド・ゴールの言葉にペリーヌは不愉快そうに眉を顰めた。
ド・ゴールが連れてきた人物の殆どは政府関係者だが、中にはガリア政府に友好的な記者が幾人か含まれていた。
「それで、今日は一体どんな御用件でいらしたのかしら」
ペリーヌにとってド・ゴールは最早関わりたくない人物の筆頭になっていた。公式に訪問したいと連絡が来た時、ペリーヌは即座に断りの連絡を入れた。だと言うのに、ド・ゴールは有無を言わせぬ態度で訪問を確約し押しかけてきた。ペリーヌの態度が硬化するのもむりから無理からぬ事だった。
「流石にこれほどまで人目があるところで話す事でもない。できれば応接室に案内してもらえると助かるのだが」
「……リーネさん、お客様を応接室にお通ししてくさいまし」
ペリーヌの言葉にリーネは不安そうな表情を浮かべながらド・ゴールを応接室へと案内した。
今回のド・ゴールの訪問がペリーヌにとって良い方向に向かうはずがない。だが具体的にド・ゴールが何を目的として再び訪問してきたのかリーネには分からなかった。そしてド・ゴールの目的が分からないと言う点では、ペリーヌも同じだった。
「それとルーデルさんが間違っても乱入しないように、ド・ゴールさんがいる間は、子供達の相手をするように伝えておいてください」
ルーデルのエピソードには破天荒なものが多く、大事な会談だろうと関係なくメチャクチャにしそうな感じがするが、実際のルーデルは意外と聡明だ。前回の非公式会談でルーデルが大人しくしていた事から、わざわざ今回に限って重要な会談に割って入るような愚を犯すとも考えにくかった。
「分かりました伝えておきます」
ペリーヌの要請を内心疑問に思いながらも、リーネは頷いた。
リーネはその意図を理解する事ができなかったが、ルーデルはペリーヌの意図を殆ど正確に察する事ができた。
「なるほど、クロステルマンの奴は存外ド・ゴールを警戒していると見える」
「警戒ですか?」
「なんだ、気付いてないのか。それとも気づいていないふりをしているのか?」
まるでリーネの内心を全て見透かしているかのような視線にリーネはたじろいだ。
「いずれにしろ、クロステルマンがそう言うのなら私は従おう」
そう言ってルーデルは子供達の所に向かった。しかしその後ろ姿は何処か緊張を孕んでいるような、まるでネウロイと戦う直前のような佇まいだった。
「さて、改めて今日訪ねてきた理由だが……」
「また私を議員にならないか誘いに来た、と言う事でよろしいですか?」
「少し違う。議員になる事は確定事項だ」
ド・ゴールの言葉にペリーヌは目を細めた。
「その上でせめて君が望む地位くらいは与えようと思ってな。何が欲しい」
「手紙でお伝えしたと思いますが、そのお誘いは断らせてもらいます。人の上に立つ事で必ずしも私がしたい事を実行できる訳ではありませんから」
ペリーヌの言葉をド・ゴールは鼻で笑った。
「若いなクロステルマン少佐。権力とは万能の力だ。手にすれば自分が望む事をなんでも出来るようになる」
「……或いは本当の意味で権力を手にした人物であれば、そうなのかもしれませんわね。ですが少なくとも私が得る事のできる権力とは、ド・ゴールさん。貴方の許す範囲でなものでしょう。その時点で私が得る権力は万能の物にはなり得ませんわ」
口には出していないが、ド・ゴールのまた権力でさえあくまでもガリア国内に限った話であり、他の国が絡めばその限りではないとペリーヌは考えている。実際その考えは正しく、ガリアの政治はブリタニア、カールスラントの影響を大きく受ける。経済規模は戦争前の半分程度まで落ち、国内は政治的な対立が深い。ド・ゴールが言うほど万能な権力はガリアには存在しない。
「だとしても、君には拒否権はない」
「……変わりましたわね。今の貴方はまるで独裁者ですわ」
「私は民衆により選ばれたガリアの国家元首だ。言われのない批判はしないでもらいたい」
心底不愉快だと睨みつけるド・ゴールにペリーヌは問いかけた。
「では、私に拒否権がないと言うのはどう言う意味ですか?」
「……或いはここで不幸な銃撃事件が起きるかもしれない。下手人は私の護衛達が捕まえるだろうが不幸な、そう不幸な犠牲者が出るだろうな」
その言葉をペリーヌは思わず嘲笑した。
「ご自身で独裁者ではないと言いながら、今貴方がしている事は独裁者そのものですわ。そこまでして権力が欲しいのですか?」
「独裁者だと!? 私にはガリアを護る義務がある。不穏分子は目の届く範囲で管理するか、排除するしかない。私こそがガリアの守護者なのだ!」
ペリーヌのガリア国内の人気はド・ゴールを凌ぐ。その気になればペリーヌがガリアの元首になる事は不可能な事ではない。ド・ゴールにとって自身の権力維持の障害となり得る人物は全て敵なのかもしれない。そんな考えがペリーヌにはよぎった。
今回ド・ゴールがペリーヌの屋敷を訪れるにはあまりにも多すぎる護衛を連れていた。ド・ゴールは非常に短絡的な手段で自身の脅威を排除しようとしているのではないか。そんな悪い予感がペリーヌにはあった。
「この屋敷にはウィッチが五人もいます。あの程度の人員でどうにかなるとお思いですか?」
ウィッチの力量にもよるが、素手でもフル装備の兵士に一対一で勝つ事が出来る。そしてここにいるウィッチは皆ネウロイとの戦争を生き抜いたベテラン達だ。ド・ゴールの護衛程度なら制圧可能だった。
「ここにはガリアの記者がいる。私の護衛に手を出せば明日の朝刊は君が国家に対して反逆を起こした犯罪者という事が報道されるだろうな」
「あら、記者でしたら私の屋敷にもいますわ」
「ガリア国内の事で、特に北部において私の目を掻い潜ってそんな事はできない」
ペリーヌの屋敷に記者がいる事が予想外だったのだろう。僅かに眉を顰めると言った。
「あら、私の記者はカールスラントで記事を出していますのよ。距離もありますし明日とは行かないかもしれませんが、一週間もしない間に貴方の悪行がカールスラントに広まるでしょうね」
「ならばガリアから出さなければいいだけだ。所詮はただの記者、排除する事は用意だろう」
普通の記者ならば排除する事は用意だろう。しかしペリーヌの屋敷にいる記者は普通の記者ではない。
「私の記者はカールスラントの英雄、ハンナ・ルーデルの僚機としてネウロイとの戦闘経験がある優秀なウィッチですわ。そう簡単に止められると思わない事ですわね」
ペリーヌの言葉にド・ゴールは一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに余裕そうな笑みを浮かべた。
「なるほど、確かに君のウィッチ達に勝つ事は難しいかもしれない。だが大事な子供達を守りながら私の兵士達に勝つ事が出来るのかな?」
ド・ゴールはガリアを私物化しようとしている。本人にその自覚はないのかもしれないが、こんな言動をしながら自分を独裁者ではないと信じる危険人物を放置する事は危険だ。だが多くのガリア人が、ド・ゴールが独裁者になろうとしているとは知り得ない。彼を排除する事は容易な事ではなかった。
「お忘れですか?」
「何がだ」
「貴方の護衛と相対するのは五人いるウィッチの内四人です。残りの一人は貴方の目の前にいますのよ」
ペリーヌのアキレス腱は子供達だ。それをウィッチ四人で守り切る事は現状では困難だろう。だがペリーヌの目の前にはド・ゴールの心臓が剥き出しの状態で鎮座している。どちらが有利なのかは比べるまでもないだろう。
「私の固有魔法はそれそのものがネウロイを倒せる程強力な物でわ。貴方を消し炭にする事くらい赤子の手を捻るくらい簡単ですのよ」
その言葉にド・ゴールは目の前にいる少女がただの少女ではなく、先の戦争でも屈指の実力を持つエースウィッチである事を思い出した。その逆鱗に触れる事が、一体どれほど危険なのか、今になってようやく気付いたのだ。
「……私を殺すのか?」
「ふふふ、どうしましょうか。私は貴方を固有魔法で消し炭にする事もできますし、魔法力で強化された力で殴り殺すこともできます」
当然ペリーヌにそんな事をするつもりはない。しかし子供達を人質に脅迫するような輩に優しくするつもりはなかった。
「……権力という物は私の創造以上に人を狂わす物のようですわね」
ド・ゴールにとって、誰もが望むはずの権力を欲しがらないペリーヌは自身の持つ権力全てを狙う敵なのではないか。であればここで公職に付かないで生活する事は、再びド・ゴールに強硬手段に出させ子供達を危険に晒す事に繋がるのではないか。そんな考えがペリーヌの脳裏に過った。
「私も権力と言う物を味わってみたくなりましたわ。次の選挙では私も議員を目指させてもらいます」
ド・ゴールを悪人にするつもりはなかったんですけど、どうしてこうなった。
アレルギーって珍しい物だと水アレルギーとかがありますけど、この世界だと魔法力アレルギーとかあったりするんですかね。ウィッチだと他者の魔法力を常人より感じやすいでしょうし、案外ウィッチによっては特定のウィッチと魔法力の関係で相性が悪いとかあったりして