「よし、サウナの掃除はこれくらいでいいかな」
ブリタニア赴任が翌日へと迫ったエイラはブリタニアに行く前に長い間住んでいたヴェルツィレ基地の掃除をしていた。そこにエイラがブリタニアへ行くことを聞きつけたニパがサウナの扉を乱暴に開いて尋ねた。
「ブリタニアに行くって本当!?」
「うわっびくりした。もう少し優しく開けろよ」
「あ、ごめん。じゃなくて!ブリタニア行くってどう言うことだよ!」
「どういうことって司令部からの指示だ」
「それは仕方ないかもしれないけど…スオムスの防衛はどうするんだよ!」
「それならニパ達がいるから大丈夫だよ。それに工廠もできたからこれからはどんどん補給が豊かになるはずだからわたしがいなくてもスオムスの防衛には心配してないさ」
「そうじゃなくて!イッルはスオムスを守りたくてウィッチになったんじゃないの?それなのにブリタニアに行ってもいいの!?」
「別にスオムスを守りたかったからウィッチになったわけじゃないぞ」
「え、そうなの?」
ニパは心底驚いたような表情を浮かべた。
「わたしはただ空を飛びたいからウィッチになったんだ」
「飛びたいから?ネウロイからスオムスを守るためじゃなくて?」
「わたしが士官学校に入った時はまだネウロイの脅威が今ほど高くなかったからそんな事は思ってなかったな」
「じゃあ今はどうなんだよ」
ニパの問いに少し考えてから答えた。
「今はスオムスを守りたいって気持ちはもちろんある。けどいくら立場や環境が変わってもわたしは守る為に飛ぶんじゃなくてわたしが飛びたいから飛んでるんだ。それにスオムスを守るなら必ずしも…」
ウィッチの力に頼る必要はないと言おうとしてエイラは口をつぐんだ。ウィッチの力ではなく科学の力によりネウロイを倒す。ネウロイからスオムスを守る為にウィッチになったニパに対してこれを態々言う必要はない。
「必ずしもなに?」
「いや、なんでもない。今のスオムスにはラドガ湖を越えない限りはほとんどネウロイは来なくなったからわたし1人が抜けてもスオムスの平和は守れるさ。それにもし突破されたらその時はすぐに戻ってきてスオムスを守るから安心しろよ」
「けど今までずっと一緒だったのに急に離れ離れなんて言われてもそんなの簡単に納得できないよ」
「今回の転属の内示は夏頃には出てたからわたしは急に言われたわけではないけどな」
「教えてくれたら少しは心の整理がついたのに」
拗ねたようにニパがいった。
「まさかそんなにもニパが寂しがるとは思わなかったからなー」
「べ、別に寂しくなんかない!」
「ニパは寂しがってくれないのか。わたしは寂しくて泣きたくなるのを我慢してるのに」
そう言ってエイラが顔を覆って泣き声をあげ始めた。もちろん嘘泣きである。しかしニパは嘘泣きに気づかず
「ご、ごめんよイッル。わたしも寂しいよ。だから泣かないでよ」
ニパがエイラに近づくとエイラは顔から手を離しその手をニパの胸に当てるとその胸を揉んだ。
「な、なにするんだよ!」
ニパがエイラの手を払うと手で胸を守りながら言った。
「いやー初めて会った時と比べて随分とおっぱいが大きくなってたからブリタニアに行く前に一回触っておきたかったんだよ。これはわたしの予想だけどお前後数年したらすごいおっぱいの持ち主になると思うぞ」
「イッルの変態!お前なんかさっさとブリタニアに行っちゃえばいいんだ!」
顔を真っ赤にしながらそういうと来た時と同様乱暴に扉を開けるとサウナから出て行った。それをエイラは笑いながら、しかしどこか寂しそうな表情をしながら見送った。
翌日ブリタニアへ向かうエイラの見送りに第24戦隊の面々が滑走路に集まっていた。
「気をつけてねイッル」
「元気でな」
「うん、お前達も元気でな。ところでニパはどこ行ったんだ」
「昨日からずっと怒って部屋にこもってるみたいだよ」
ハッセが非難するような視線を送りながら言った。
「まさかそんなに怒るなんて」
「少佐、そろそろお時間です」
パイロットがエイラに言った。
「了解。じゃあ行ってくる!」
エイラは飛行機に乗り込みブリタニアへのフライトを開始した。
高度が上がりまもなく水平飛行に入ろうかという時、突然機内のスピーカーがオンになりニパの声が流れ始めた。
『イッル!今まで賭けでお菓子巻き上げたりサウナで胸触ったり散々な目に合わせてくれたな!お前なんかいなくなって本当せいせいしたよ!』
「ニパ!?」
窓の外を飛んでいるニパを見つけてエイラは驚きの声を上げた。
『とっととブリタニアでもロマーニャでもどこでも行けってんだバーカ!イッルなんかいなくてもネウロイなんか余裕だし!?スオムス防衛もお茶の子さいさいだし!?だから…だから後の事はわたしたちに任して安心して行ってこい!』
そういうとニパは拳をエイラに向けて突き出した。
「任せた!」
それをみたエイラもまた拳を窓の外に向けて突き出した。
それをみたニパは飛行機に追走するのをやめ手を振ってエイラを見送った。
エイラが泣きそうになりながら下を向いているとスッとハンカチが差し出された。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら顔を上げるとそこにはマンネルヘイム元帥がいた。
「友との別れは幾つになっても辛いものだ。気にするな」
「げげげ、元帥!?なんでここに!?」
「ヘルシンキで大型機に乗り換えるまでの間に渡しておかなければならないものがあってな」
態々マンネルヘイム元帥が直々に渡しに来るなどハッキリ言って厄介なものとしか思えない。
「渡すもの?部下に任せないほど重要なものなんですか?」
「そうだ。この外交行嚢の中に入っている」
「開けてもいいですか?」
「勿論だ」
開けると中には厳重に封をされたガラス瓶に入れられたネウロイのコアが現れた。
「これはわたしが入手したコアですか?」
「そうだ。色々と理由をつけて今までずっとスオムスに置いていた。おかげでブリタニアからかなりの譲歩を引き出すことができた」
「譲歩ですか?」
「そうだ。元々ブリタニアからは研究成果を書類でのみ知らされる予定だったが向こうの反断次第ではあるが何度か実物を見せてもらえることになった」
「それはわたしが見に行くということですか?」
他に適任者がいるとは思えないが念のため尋ねた。
「勿論そうだ。そしてそれをカールスラントとオラーシャに伝えてもらいたい」
「伝えると言っても迂闊に行動してはブリタニアに悟られて打ち切られるのではないでしょうか?」
伝える手段は確保されているのかエイラは尋ねた。
「それは我々も危惧している。だから赴任先の501統合戦闘航空団内に連絡官を用意する。連絡官を通して君の見たものとブリタニアの研究内容の概要を伝えてくれ。それとブリタニアに悟られないよう研究が形になるまでは詳しい内容は共有しないことになったから君からのルート以外でカールスラントとオラーシャが研究を知る術がない。だからできる限り正確にわかりやすく伝えるようにしてくれ」
エイラの行動如何によってはブリタニアとの関係もカールスラントとオラーシャとの関係も悪化することとなる。
「責任重大ですね」
「同時に危険も大きい。もしブリタニアにバレたら報復されることになるだろう」
「いくらなんでも駐在武官を害するなどという事はしないのでは?」
「ないとは断言できない。だからバレないように最新の注意を払ってくれ。まだスオムスは君を失うわけにはいかないのだから」
「了解です。ところで連絡官はどうやって見つければいいですか」
「それについてはまだ検討中だ。一度目の情報共有までには大使を通じて連絡する」
最後の最後にマンネルヘイム元帥から重要な任務という最悪なプレゼントを渡されてエイラはブリタニアへと旅立って行った。
502部隊がなぜカールスラント奪還を目指して作られたか最近やっと納得できる理由が思いつきました。それと同時にカールスラントの軍事力が実はすこぶる低いのではないかという疑惑も湧いてしまいましたのでちょっとだけカールスラントの軍事力について書きます。
カールスラントはドイツをモデルにして作られた国でその為高い軍事力があると思われます。しかしもし本当に高い軍事力があるのならベルリン奪還は主力にならなければおかしいんですよね。もしできるだけの軍事力があるのにリベリオンに任せたのであれば国内世論的にも外交的にも間違ったメッセージを送りかねません。勿論そうすることによるメリットがあるのかもしれませんが内政的には皇帝の権威の失墜につながりかねませんし外交的にはカールスラントの弱体化と思われるでしょうしリベリオンに大きな借りを作ることにつながります。
もっともベルリン奪還はカールスラント人が巣のコアを破壊したこととラーテの使用により辛うじて面目は保たれましたが。
話を戻しましてカールスラントの軍事力ですが実際のところかなり落ちていると思います。本来502の位置ならオラーシャの奪還を主目的としてもいいのにあえてカールスラント奪還にしていることからおそらく外交で1942年あたりに西部と東部の受け持ちがどこかを決めていたと思います。そしてリベリオンとブリタニアが西部の担当になり東部がカールスラントとオラーシャとなります。しかし仮にドイツと同等の戦力があるのなら西部にもカールスラントがもっといていいはずです。それなのにいないという事は早い段階で末期のドイツ並みに戦力を減らしていてペテルブルク方面からの奪還をスオムスとともに目指す程度の戦力しか保持していなかったのではないかと疑惑が湧きました。
しかし一つだけ例外があり空軍はかなり高い戦力を保持していると思います。かなり広範囲に展開していますしノイエカールスラントにも貴重なウィッチを置いてるようですし。もっとも、次世代ウィッチについては数が少ない気もしますが。