「まさかペリーヌがガリアの議員になるなんてね」
「以外でしたか?」
感慨深げに呟くハルトマンに、ペリーヌは小首を傾げて尋ねた。
「ペリーヌは私達の誰よりも祖国を大切に思っていたから、驚きはないかな」
「祖国を大切に思っていたのは私だけではありませんわ。ハルトマンさんだって祖国を大切に思っていたから、あんなにも必死に戦えたのでしょう?」
どこか恥ずかしそうな様子でペリーヌは言った。
「そうだね。だけど私達には、私にはカールスラントを奪還した後も祖国の為に尽くそうだなんて気概はなかったよ」
「医学の道を志した事は十分カールスラントのためになる事ですわ。気概がないだなんて仰らないでください」
ハルトマンはもっとも多くのネウロイを撃墜したウィッチだ。そんな彼女が医師を目指しその第一歩を踏み出した。これまでの功績も鑑みれば、祖国の為に働いていないなどと言う誹りを受ける事はないだろう。
「私は親が医者だったからね。それ以外に目指すべきモノを知らなかったから。それに医者っていうのは政治家と違って国民全てを救えるようなものじゃないしね」
「……私だって議員になりこそしましたが、それが祖国の為になるとは限りませんわ」
「ガリアで最も権力を持っている人の一人になったんだよ。ペリーヌが私利私欲の為に権力を振るうならともかく、そうじゃないでしょ?」
ペリーヌが権力を私利私欲の為に使うような人物でない事をハルトマンは理解していた。
「私はそうですわ。ですが議員と言うものは一人一人が絶大な権力を持っている訳ではありませんの」
「そうなの?」
「少なくとも私はそうですわ。そもそも私が議員になったのは……」
そこでペリーヌの口は止まり、何か迷うように目を泳がせると意を決した様子で口を開いた。
「元々私は議員になるつもりなんてありませんでしたわ」
「そうなの? ペリーヌが議員になったのは既定路線というか、なったと聞いても別に不思議には思わなかったけど」
「確かに、いずれはその道を志したかもしれません。ですがそれは今ではなかったはずですの」
ペリーヌが視線を外に向けると、その先には大勢の子供達が楽しそうな様子でルーデルに追いかけ回されていた。
「……あれは何をしてるの?」
「私に訊かれましても困りますわ。時折あの人は私達には理解のできない事をされますの」
ルーデルのする事は昔から理解できない事が多い。大抵の場合は彼女なりの合理的な考えに基づいたものである事が多い。だが子供達と遊んでいる時のルーデルは何も考えずに遊んでいるのではないかと感じる時が多々ある。それが悪いとは思わないが、あのルーデルが子供達に混ざって遊んでいるのを見ると、彼女の戦争での獅子奮迅の活躍振りを知る身からすればなんとも言えない気持ち悪さがあった。
「私は子供達が巣立つまでは議員になるつもりはありませんでしたの」
「そうなんだ。けど確かに議員なると忙しくなるだろうし、議員の仕事なんかする時間がないかもしれないね」
子供達の面倒を見終わってから、次の事を始める。方がペリーヌらしいかもしれないとハルトマンは思った。ペリーヌは同時にいくつもの事をこなせるほど器用な人物ではないとハルトマンは思っていた。それは何も悪い事ではなく、ペリーヌは一つの事に全力を注いでこそ真価を発揮する人物だ。
「だけどそれならどうして立候補したの?」
「……まぁ、ハルトマンさんならいいでしょう」
ペリーヌの言葉に不穏な気配を感じたハルトマンは身じろいだ。
「話したくないなら話さなくてもいいよ」
「いえ、私としてはこの屋敷以外の人にも話を聞いて欲しいので、ぜひ聞いてくださいまし」
きな臭い話は軍にいた時で全部終わったと思っていたのになぁと思いながらも、かつての戦友の苦悩を思い大人しく話を聞く事にした。
「簡単な話、ド・ゴール将軍が血迷った結果ですわ」
「血迷ったってどういう事? 将軍は国民からの人気も高くて有能な政治家として地位を確立してるよね」
「カールスラントではそういう扱いですのね」
ペリーヌは憂を帯びたような表情で頬に手を当て息を吐いた。
「ド・ゴールさんはガリア北部では絶大な人気を誇りますが、南部での評価は寧ろ逆のんです。不人気どころか下手をすれば嫌われていますわ」
「嫌われてる? ド・ゴール将軍はガリア本土の奪取で活躍したじゃん。嫌われる要素なんてある?」
「正しくはガリア北部の奪還ですわ。元々南部はヴィシー政権を中心とした政府により維持されていました」
「つまり南部の人にとって、ド・ゴール将軍はガリア解放の英雄じゃなくて、ガリア北部を解放した立役者って事?」
「そういう事ですわ」
ガリア南部でネウロイに対する犯行を続けたのはヴィシー将軍だった。となると、南部ではヴィシー将軍こそが英雄なのかもしれない。そうハルトマンは思った。
「ド・ゴール将軍は南部ガリアからの支持を手に入れる為に、ガリア全土で人気のある私を与党議員としました」
「嫌なんだったら断ればよかったじゃん」
ペリーヌの表情から、ペリーヌにとって不本意な事であったのは一目瞭然だった。
「それができればどれほど良かったでしょうか。ド・ゴールからすれば私も南部ガリアと同じ不穏分子でしかないのですわ」
不穏分子と言うペリーヌの言葉にハルトマンは眉を顰めた。ガリアのために尽くすペリーヌに不穏分子という言葉は最も似合わない言葉だったからだ。
「穏やかじゃないね。ペリーヌはガリアに何か酷い事をするつもりなの?」
「そんなわけないでしょう。不穏分子と言うのは、ド・ゴールにとったと言う話ですわ」
ペリーヌに似合わない、心底憎らしいとばかりの表情にハルトマンは驚いた。ペリーヌは元々表情豊かな人物だったが、こう言った表情を浮かべているのをハルトマンは見た事がなかったからだ。
「ド・ゴールは権力に溺れ、ガリアではなく自己の権力を守る事を考えるようになりました。もしも私が味方にならなければ、この地で血が流れた事でしょう」
ウィッチの多いこの屋敷で武力的な衝突が起きれば、ペリーヌ達が勝つししろ負けるにしろ流れる血の量は凄まじいものになるだろう。そんなリスクを背負ってまでペリーヌが排除されそうだったと言う事実にハルトマンは言葉が出なかった。
「ですがド・ゴールが正気でなかったおかげで交渉の余地がでました。少数の子飼いの軍人のみで脅しをかけてきたおかげで、私が議員となる事を条件に干渉を終わらせる事ができました」
「……ド・ゴール将軍はそんなに権力に固執しているの?」
「はい。私は彼にとって未だに敵の一人なので詳しい事は分かりませんが、どうにかして南部ガリアの勢力を排除したいと考えているようですわ」
それが政治的工作によるものなのか武力によるものなのかはペリーヌの言葉からは分からない。だが少なくともド・ゴールが南部ガリアの勢力を疎ましく思い、それをどうにかしようと何か企んでいる事だけは理解できた。
「武力衝突が起こる可能性はあるの?」
ガリアはカールスラントの隣国だ。もしもガリアで戦争が起きればカールスラントにも影響がある。引退したとは言え軍にいた立場としてはそれは一番気になる事だった。
「残念ながら」
「……そっか、それは本当に残念だね。良き隣人として、カールスラント国民としては私としてはガリア政府には懸命な判断をする事を望むよ」
ハルトマンにはそう言うのが精一杯だった。軍人ではないハルトマンはもう公の事に干渉できる立場ではない。友人としてガリアの要人となったペリーヌに声をかける事はできても、国を左右するような決定には直接介入できる立場にはなかった。
それはペリーヌもよく分かっていたが、だからこそ頼みたい事があった。
「ハルトマンさん、医師の道を志している貴女にこんな事を頼むのは心苦しいのですが、もしもの事があれば私の屋敷にいる子供達をお願いできませんか?」
それは予想外の頼みであり、同時に引き受ける事が極めて難しい頼みでもあった。ただの医大生でしかないハルトマンにはペリーヌのような大きな屋敷はないし、資金もない。端的に言えば自分の事だけで精一杯だった。
「ごめん、ペリーヌ。私も力にはなりたいけど、私はもうただの一般人なんだ。公人のペリーヌとはもう目指す先は違うよ」
それはペリーヌの期待するような答えではなかったが、想定外と言う訳でもなかった。肩を落としながらも納得した様子だった。しかしその後に続いたハルトマンの言葉は、ペリーヌにとって多少の救いを与えるものだった。
「だけど、子供達が戦火に巻き込まれるのをただ見るだけって言うのもウィッチとしては見過ごせないよ」
「引き受けてくださるのですか?」
「全員を一人では難しいよ。だけど他の501メンバーやウィッチ達、それに戦時中のツテを使えばこの屋敷の子供達くらいなら引き取り手が見つかるんじゃないかな」
ガリアで動乱が起きた時の最大の懸念は子供達だった。それが解消される事は、今のペリーヌには最大の救いになった。
「ありがとうございます!!」
「あまり期待されても困るけどね」
思わず立ち上がりハルトマンの両手を握るペリーヌに、ハルトマンは内心少し軽率な返答だったと後悔しながらも、もしもの事があれば全力で手助けしようと思うのだった。
宇宙開発におけるウィッチって活躍できそうな気がしてきました。物によって若干の設定違いはありますけど、魔法力で雨風弾く設定がありますし、おそらく酸素生成なんかもしてるでしょうから宇宙服なしでもできるのでは?
もしかしたらこの世界線でのガガーリンはウィッチかもしれませんね。