バルトランドがスオムスに侵攻したというしらせは瞬く間に世界を駆け巡った。当然、それはガリアにいるペリーヌの耳にも届いていた。
「なんて愚かなことを……」
人間同士の戦争など狂気の沙汰でしかない。しかしそれは、明日のガリアの姿かもしれないという予感を感じさせた。
「バルトランドがスオムスに攻め込んだことは愚かな事だが、世界にはこう言う事を止められる組織があるだろう」
ペリーヌと共にその知らせを聞いたルーデルは、鼻で笑うとそう言った。
「安保理事会ですか。スオムス自身が理事国ですから、それで一票。二票は友好国のオラーシャとブリタニアで確保できるでしょうから、残りの国から一票を用意すればいいわけですね」
「祖国、カールスラントはバルトランドとの関係を優先すれば反対するだろうな」
「ですが我がガリアが賛成すれば四票は確定です。バルトランドの愚行は止められ、スオムスに対しての賠償責任が発生する事でしょう」
スオムスが二カ国分を確保できるのであれば、後はペリーヌの尽力次第でガリアの一票を得ることができる。ペリーヌはガリアがスオムスの為に、ひいては世界から戦争をなくす為に政治工作をすることに躊躇いはない。自分に近しい議員達と連携しつつ、ガリアがバルトランドを非難するように誘導しようと決意した。
「信じられませんわ! あの老人連中は一体何を考えていますの!?」
その時のペリーヌを後にリーネはあれほど荒れているペリーヌを見たことが無いと言い、ルーデルが近づきたく無いとまで言い放った。
事実、ルーデルはいつの間にかその場から姿を消しており、逃げ遅れたリーネはペリーヌの怒りを受け止めることになった。
「一体どうしたんですか、ペリーヌさん」
「議会の老人連中、よりにもよってバルトランドに対する理事会の非難決議を棄権すると言ったのですわ!!」
非難決議となれば賛成するか反対するかの二択であり、棄権するなどと言う選択肢が存在するのかとリーネは不思議に思った。そんなリーネの疑問を感じ取ったのか、あるいはただ思いつくままに言葉を発ているのかは定かでは無いが、ペリーヌはリーネの疑問に答えを出した。
「バルトランドへの非難決議に対しても賛成する事は、ブリタニアとオラーシャに敵対的な立場を示すことになります。戦争前のガリアならいざ知らず、今のガリアには大国に歯向かうような力はないだなんて……!!」
つまるところガリアはこの決議でブリタニア、カールスラント、オラーシャ、扶桑、リベリオン、と言った大国と敵対しない為に、自らの去就を明らかにしないと言う方法をとることにしたわけだった。しかしそれはペリーヌに言わせれば下作と言わざるを得ない。
「去就を明らかにしないと言う事は、他の大国からすればできた同然ですわ! ともすればガリアは他の大国と組まずに独自路線を歩むつもりなのではないかと言う、いらぬ勘ぐりを受けて痛く無い腹を下がられる事になりますわ!!」
「だ、だけどどちらに着くか言ってしまったら、逆の立場の国に脅されたりするかもしれないし、一概に悪いとも言えないんじゃ無いかな?」
リーネの言葉にペリーヌは落ち着くように深呼吸した。
「純粋にどちらにもつかず、いざという時の仲介役として完全中立を目指す為だけならば、良いでしょう。ですが、国内の情勢が乱れているから他所に構っている暇はない。なら中立を表明して他所は他所で争っておけばいいなどと言う日和見的な考えからの中立など、許されませんわ!!」
ガリアの考えは乱れた、或いは乱した国内を立て直す為に大国からの干渉をできる限り取り除きたいと言うものだった。その為には今回のバルトランドのスオムス侵攻は絶好の機会だ。これを利用しない手はないと言うのがガリアの一部議員達の意見だった。
「だ、だけど棄権をしなかったらガリアが戦争に巻き込まれるんじゃ……」
「そうとも限りませんわ。大抵の国は複数の国から攻められるリスクを背負ってまで戦争をできるような国力はありません。非難された時点で、バルトランドは戦争をや辞めざるを得ないでしょう。もっとも、理事会の非難決議の事を忘れて戦争を仕掛けた訳でもないでしょうし、おそらくガリアが棄権せずとも……」
「どうしたんですか、ペリーヌさん?」
突然話を辞め何か考えるように黙り込んだペリーヌは、突如として魔法力を激らせ叫んだ。
「あのクソジジイ共、買収されてやがったのですわ!!」
今までになく口汚く罵るペリーヌに、リーネは心底驚いた。同時にそそくさと逃げ去ったルーデルを心の中で恨んだ。
「買収されたってどう言う事ですか?」
「簡単な話ですわ。バルトランドの計算ではおそらくカールスラントが確定で反対、残り三つを用意しなければなりませんが恐らく扶桑とリベリオンでしょう。では残り一つはどうするかと言われれば、ブリタニアとオラーシャが比較的スオムスと仲の良い事を考えればガリアになります」
オラーシャとブリタニアは共にスオムスに武器を含む様々な物資を輸出している。戦争でそれらから得られる利益がなくなるような事は避けたいだろうと言うのがペリーヌの考えだった。
「しかしガリアは大国と敵対してまでバルトランドに味方する義理はありません。ましてやバルトランドの味方三カ国の内、二カ国は欧州以外の遠い国ですわ」
カールスラントはともかく、リベリオンと扶桑は今回の戦争に直接的な利害関係はない。理事会の非難決議は最悪出兵にまで当たる可能性があり、そんな金は使いたくないであろう扶桑とリベリオンは反対に回るであろうとペリーヌは考えた。
「本来であればガリアはブリタニア、オラーシャ、スオムスと組んで欧州の安全を取り戻すべく活動するのが、ガリア南部で騒動が起きた時の為になるはずですの。だと言うのに老害連中は何の利益もない中立などと言う立場を推し進めましたわ」
「本来なら一番いいはずの手段じゃなくて中立なんて立場をとったのは他国からの介入があったからと言う事ですか?」
「……他国からの介入とは限りませんわ。いえ、そもそも私達側に他国の介入があるとも限りませんわ。ともすれば今回の中立方針は最悪の一手を放つ結果になってしまったのかもしれませんもの」
あまりの悔しさに唇を強く噛み、そこから流れる血にすら気付かずペリーヌは言った。リーネがポケットからハンカチを取り出し口元を拭く事で、ようやくペリーヌはその事実に気がついたが、小さく礼を述べただけでさらに言葉を続けた。
「もしもド・ゴールが近年のガリア南北での対立構造を、欧州の注目がバルトランドとスオムスに集まっている間に解消するつもりなら買収者は他国ではなくド・ゴールですわ。事実として老人連中はド・ゴールに近い人たちばかりでしたし、そもそも買収などしなくともド・ゴールの命令になるかもしれませんわ」
一部にはド・ゴールとはそれほど親しくない人物もいたが、概ねド・ゴール派とも言うべき人間が中立を主張したもの達には集まっていた。そして当のド・ゴール自身も中立には反対しなかった。
「問題は他国の介入がガリア南部にされた場合ですわ。武器弾薬を輸送できるような港は、ガリア南部にはいくつか存在しています。そこを通じて武器が流れれば、ガリアで内乱が起こるかもしれませんわ」
バルトランドとスオムスに注目が集まっている事は間違いないが、だからと言ってガリアを放置するとは限らない。リーネの前は口に出さないが、真上にある国などは特にそうだろうとペリーヌは考えていた。
「何処が介入するかは分かりませんが、もしも今回の騒乱を利用して南部ガリアの勢力を一掃しようとすればまず間違いなく他国の介入を受けますわ。或いは想定される介入者の味方を今回の理事会で表明すればそれも防げたかもしれませんが、中立などを表明してはそれも望めません。ガリアは破滅への一歩を踏み出したと見るべきですわね」
ガリアの未来に暗雲が立ち込める予感を感じて、ペリーヌは大きなため息を吐くのだった。
猫耳カチューシャとかってどんな扱いなんでしょうか。現実だと動物を模したものって扱いですけど、この世界だとウィッチを模したもの、或いはウィッチのコスプレとして扱われるのか……
とうとう後書きのネタが無くなってこんな変なものを書いてしまった。