スオムスとバルトランドの戦端が開かれて一ヶ月、ガリアの様子はと言えば全く変化がなかった。
「拍子抜けですわ。てっきり戦争の影響がガリアにもあると思っていましたのに」
「平和なのはいい事だろう。それが世界平和であればなおいいが」
拍子抜けした様子のペリーヌをルーデルが諫めた。
普段はルーデルがペリーヌに諌められる事が多いだけにそれは幾分か珍しい光景だった。
「私だって平和が一番良いと思いますが、現実問題としてガリアで謀略合戦が起きているのは事実です。なのに表向きは国内に大きな乱れが見えないのは不気味だとは思えませんか?」
「乱れ自体はあるだろう。物価の上昇などはその最たるものだ」
結局物価の上昇は止まる事なくペリーヌが問題視した当時の倍近くに倍近く、つまりはそれ以前の四倍近くにまで物価は跳ね上がっている。
だが国民の多くは俯瞰的な視点で物事を見る事ができず、この物価上昇に対しては政府が物価上昇を止められていない事に対する批判のみが出ていた。
「ガリア国民は物価が上がれば政府を批判しますが、それは上昇を止められなかった政府に対するものです。何故物価が上がったのか、何故政府がそれを止めないのか。そんなものは多くの国民には関係がないのですわ」
議員となり、ペリーヌは国民の視野の狭さを知った。物価上昇をどうにかして欲しいと言われて南部ガリアとの確執の話をしても、多くの国民からはペリーヌの思った様な反応は返ってこない。
それでペリーヌは理解した。ガリア国民にとっては物価上昇を止められるかどうかこそが重要なのであり、その原因など知ったことではないのだ。
「だが私達は国内が乱れていると認識している。ならば認識している人間がそれに対処すれば良い」
「私が問題としているのはそう言うことではないのです。ガリア国民がこの物価上昇で国内が乱れていると捉えていない事が問題なのです」
ペリーヌの言葉の意図が分からず、ルーデルは無言で続きを促した。
「ガリア国民の多くは今の物価上昇が続いている状況を日常の一部として捉えていますわ。貴女も知っているカールスラントの元エース、ハルトマンさんの部屋はとても汚かったですわ。ですがそれについて文句を言うのは基本的には同室のバルクホルンさんだけでしたわ。私も初めてみた時は驚きましたが、何度も見ればそれがハルトマンさんの部屋の日常であり、通常の状態であると認識してしまいます」
一時期、同じ基地を使っていた事もありハルトマンの部屋の汚さはルーデルも知っていた。そしてバルクホルンを除く501メンバーがそれをいつもの事と言わんばかりに受け入れていた事もよく覚えていた。
「言わんとする事は分かるが、それの問題点が分からんな。国民が問題視していないからと言って、動かない理由にはならないだろう。寧ろ政府の立場としては国民に気が付かれる方が問題だろう」
「そうですわね。政府としては国民に平穏な生活を提供ずる為に、それを乱そうとするモノを事前に排除する事が重要だと私も思いますわ」
同意を示すペリーヌに、ルーデルは訳がわからなくなった。ルーデルに同意するのであれば、何も悩む事はないはずだった。
「ド・ゴールの事を今更問題視するようなお前ではないだろう。大きな勢力である事は確かだが、奴が対立を煽っているから今の現状になっている訳だ。それを追求してしまうだけでいい。それだけで奴は物価高の原因を作ったとして国民からの支持を大きく損なう事になる。政権を維持したい奴の事だ。そうなる前に南北間の対立を煽る事をやめ、物価高を是正しようとするだろう」
「そんなに上手くはいきませんわ。国民の支持というモノは現状においては不可欠ではありません。ましてや、今の物価高の原因になった事が、必ずしも国民の支持を失う事に繋がるとも限りませんわ」
事はそう単純ではないとペリーヌは言う。
「国民が望むのは、
「過去ではなく
軍隊とは訓練された兵士の集まりではあるが、たった一人の愚かな行動が、軍隊という集団を崩壊に至らせる事がある。例えば奇襲を仕掛けようとして、一人が緊張のあまり早くに引き金を引いてしまいバレて壊滅する。整備不良で武器が使えないなど上げ始めるとキリがないが、集団になればなるほど何故そんな事にと後になって不思議がられる理由から愚かな行動をする事も少なくない。
「そうではありませんわ。国民とは良くも悪くも
「なるほどな。だがそうだとしても、現状が南北間の対立を煽るド・ゴールが原因ならばそれを追求するだけだろう。確かに奴にはまだまだ時間があるが、これを指摘する事は間違いなく次の選挙に影響するぞ」
「それは悪手ですわ。現状ド・ゴールの派閥は議会の過半数を抑えています。下手に刺激しては強硬な手段に出かねませんわ」
「……独裁者としてガリアに君臨するという事か」
「可能性は十分ありますわ。今の彼からはかつての面影は感じられません。どんな手段に出ても驚きはしませんわ」
今のところは大統領としての権限に収まる事しかしていないが、法に反さない範囲で自らの権威を高めていた。ガリアの有力企業からの献金や、公共事業に対してはそれとなく自分の息のかかった企業を利用するなど、法には反していないが、一部からは批判の対象になるような事をしていた。
「つまるところクロステルマンの相手はガリアという国そのものだという事か。この国をよくしようとしているのに、その相手がそれを妨げようとするとは報われない話だな」
ルーデル慰めるように肩を叩いた。こういった露骨に人を気遣うような行動は彼女にしては珍しく、ペリーヌは驚いた。
「そうでもありませんわ。多くの人は自分のことで精一杯なのは、ネウロイとの戦いの時と同じですわ。私達は数少ない例外として人類をネウロイの脅威から守り続けました。戦場は変われどやっている事は変わりませんわ」
力強いペリーヌの言葉に、ルーデルは笑みを浮かべた。
「それでこそクロステルマンだ。それで、どうやって現状を変える」
「実のところド・ゴールさんはそれほど問題ではありません。一番の問題はガリア国内が乱れていると考えて秘密裏に介入してくる他国ですわ」
「祖国カールスラント、ブリタニアあたりか」
カールスラントはオラーシャとガリアに直接国境を接しており、ガリアが乱れる事はオラーシャ一国に集中できる事になる。ブリタニアは欧州で混乱が起きる事そのものが自国の安全に繋がる。とりわけお膝元と言えるガリアが乱れる事は、ガリアのブリタニアに対する不穏な動きを抑制できるという点で、ガリア国内が適度に乱れる事を望んでいた。
「そうですわね。ド・ゴールさんは交渉次第では南北間の対立解消に動く可能性がありますが、他国に関してはガリアが乱れる事そのものにメリットを見出しています。まずはその不届者達にガリアは侮れないと思わせる事が寛容ですわ。その為には大胆な手段に出なければなりません」
ネウロイ倒した後って世界が乱れると思うんですよね。共通の敵がいなくなった世界で人類が仲良くできるわけがないと思うんですよね。まぁ、冷戦状態になってるだけの可能性も十分ありますけど。五分五分かな。