ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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だんだんと暑くなってきた今日この頃。いつ頃に冷房をつけることになるのか……


平穏

「おかしいですわ」

 

スオムスとバルトランドの戦争が発生して早半年が経過したが、ガリアには全く動きがなかった。

 

「スオムスとバルトランドの戦争で混乱した欧州は、ガリアの南北間対立やオラーシャの反政府勢力などがこれに乗じて動き出すはずだったのですが……」

 

「動かなかったという事は、そう言った奴らの想定よりも混乱が大きくなかったのだろうな。平和なのは良い事だ」

 

ペリーヌの言葉にルーデルが牛乳瓶を片手に言った。

 

「当初世界中の軍事の専門家がバルトランド有利って見ていたのに、蓋を開けて見れば互角か、下手をすればスオムス有利。おかげで評論家の意見を聞いて記事を書いた私も赤っ恥をかいちゃいました」

 

そう言ったのはニールマンだった。バルトランドが有利に戦況を進め、オラーシャの側面に対して圧力をかける。カールスラントとバルトランドと言う敵国に二正面作戦を強いられるオラーシャは、これにより発生する防衛戦力の移動に乗じて国内の反政府戦力が活発化する。

そんな大胆な評論家の意見を取り入れて記事を書いたニールマンだったが、互角で推移する戦争と全く動きのないオラーシャな様子から社内の同僚に度々揶揄われていた。

 

「エイラさんがいなければニールマンさんの記事通りになったと思いますわ。スオムスには本来、首都の防衛にウィッチを確保できるほどの余裕はありませんから」

 

「ユーティライネンの存在が戦争そのものの行く末を左右するか。数年前であればそんな事はなかったのだろうがな」

 

「ネウロイとの戦争中でさえ、エイラさんはウィッチの中でも最上位の実力者でしたわ」

 

対抗できるのはエースと呼ばれるウィッチの中でもハルトマンやバルクホルンと言った最上位のエースのみ。それでさえ未来予知の固有魔法を持つエイラ相手に単独での勝利は難しい。エイラを倒すのならば、犠牲を覚悟で大量のウィッチを投入し、飽和攻撃するしかないとペリーヌは思っていた。

 

「その頃ならユーティライネンに匹敵するようなウィッチは多くいた。どんなに強かろうとユーティライネンは一人だ。であれば一人がユーティライネンを足止めしている間に目的を達成すれば良い」

 

「確かに、ユーティライネンさんは一人。それをかつてのトップエースが足止めすれぼ突破するのは難しいですね」

 

「だとしても、かつてのカールスラントのような国でなければならないでしょう。バルトランドどころか、ガリアですら不可能ですわ」

 

それをできるのは優秀なウィッチを数多く排出したカールスラントくらいだろう。そうペリーヌは思った。

 

「かつてのガリアなら可能だろう。クロステルマン、お前がいるのだからな」

 

「買い被りですわ。模擬戦闘で私は一度もエイラさんに勝った事はありません。そもそも501で私が確実に勝てると断言できたのは一番新人だった服部さんくらいのものでしたわ」

 

もっとも、他の相手に勝てないかと言われればそうではない。例えばリーネは狙撃銃を使う関係上遠距離であれば惨敗するが、ある程度距離が近付けば逆に圧勝する事ができる。

カールスラントの三人とエイラに関してはその限りではないが、他のメンバーはどんなに悪くとも互角程度の実力差でしかなかった。

 

「謙遜するな。お前なら勝つ事はできずとも、負けない事に徹すれば時間稼ぎはできるだろう」

 

当然ルーデルもペリーヌの実力がどの程度のものなのかは正確に理解している。ペリーヌの言葉にどれほどの謙遜があり、そしてそのどれだけが事実なのかよく理解していた。

確かにペリーヌはエースウィッチだった。だがその実力はハルトマンやエイラ、バルクホルンと言った最上位に位置するウィッチ達には及ばない。だがエースの中でも実力が低いのかと言われればそうでもない。間違いなく上位に位置するエースであるし、なんならガリアに限定すれば一番のウィッチだった。

 

「まぁ、それくらいなら否定はしません。ですがその議論は詮無い事ですわ。ガリアとスオムスが争う事などあり得ませんし、何より今の私は全盛期を過ぎています。トネールも魔法力が万全の状態でも二発程度が限界ですし」

 

「固有魔法のない私からすれば、あんなに強力な固有魔法が二発も使えれば十分だと思います」

 

固有魔法は誰も彼もが使えるわけではない。むしろ使えるのはごく少数だ。

 

「確かに固有魔法は強力ですが、使いこなせるかどうかは使い手次第。むしろ飛行技術などの必須能力を磨く時間を削って固有魔法を練習しなければならない分、固有魔法持ちの方が苦労は多いですわ。事実、私は501に入った当初は固有魔法の扱いが上手いとは言えませんでしたし」

 

「そもそも固有魔法を戦闘に組み込む事自体できない奴もいる。たとえそれがどれだけ戦闘向きだとしてもな」

 

「あら、それは初耳ですわ」

 

「クロステルマンのような固有魔法は扱いにくいはずだ。トネールは確かに協力だが、その威力は他の武器で代替できないモノではない。味方にフリーガーハマーや大口径ライフルの様な高火力武器があれば、使う場面が限られるからな」

 

そう言われて思い返してみると、例えば坂本少佐の魔眼やエイラの未来予知と比べて、ペリーヌの固有魔法は派手さこそあるが唯一無二のものではない事に思い至った。

自分が実戦では固有魔法を使う機会が少なかったのは、無意識のうちに味方の火力に期待し、自分の魔法力を温存していた事、それが遠因で中々思う様に固有魔法の練度が上がらなかった事に今更ながら気が付いた。

 

「まぁ、私の固有魔法の話は良いですわ。そんな事より、どうして平和なのかが問題ですわ」

 

「平和なのは良い事ですよ」

 

「そんな事は分かっていますわ。ですがオラーシャとカールスラントまで平和だと言うのはいささか妙な話ですわ」

 

カールスラントはバルトランドと、オラーシャはスオムスと友好関係にある。いずれの国もこの戦争に陰ながら支援を、カールスラントに至っては義勇軍を送ったとの情報もあり、この戦争に大きく関わっている事は間違いない。だと言うのに、この二カ国が開戦前と変化がないのは不気味な事だった。

 

「ニールマンさんはカールスラントに戻った時何か感じませんでしたか?」

 

ニールマンは記事を出す為に定期的にカールスラントに帰国している。前回と今回の帰国で何か違いがあれば、それは兆候の可能性がある。

 

「特に何もなかったですね。平和そのものです」

 

「そうですか……」

 

「あ、でも政治部の同僚が言ってたんですけど、ノイエ・カールスラントで民主化運動が起きてるらしいですよ」

 

仮にこれがカールスラント本国での事なら、それは何かが起こる兆候だったかもしれない。しかし遠いノイエ・カールスラントでの事ならなんの関係もないだろうとペリーヌは思い、その事について深く追求しなかった。

 

「ではカールスラントは平和なのですね」

 

「軍の一部は戦争に直接介入すべきだなんて言ってるらしいですけど、基本的には平和だと思いますよ。」

 

数ヶ月前にカールスラントのウィッチをエイラがポルカッラ半島沖で撃破した一件で、バルクホルンが激怒し自分が出撃すると発言したというニュースが流れたがそれもいつの間にか聞かなくなった。

念の為手紙を送って諌めるとともにその真意を尋ねたところ、出撃するつもりはないと返事が来てペリーヌは胸を撫で下ろしていた。

 

「ここまで動きがないと言う事は、ブリタニアの各国の反政府勢力に対する工作活動は上手くいかなかったと言う事なのだろう」

 

「……そうかもしれませんわね」

 

ルーデルの言う事も一理あるとペリーヌは思った。自分の考えは杞憂で、何も起こらないのではないか。だが同時に、戦争開始当初に接触した王党派がペリーヌと手を組まず、南部と共に歩むことを宣言した事が気に掛かっていた。

 

「何も起こらないのならばそれで良いのですわ。ですが、少なくともガリアにおいては何も起こらないはずがないのです。そしてガリアで何かが起こる以上、介入する可能性の高いカールスラントに関しても混乱しなければおかしいのですわ」

 

カールスラントが混乱しなければ、仮にガリア南部がガリアを掌握したとしてもカールスラントの介入により不利益を被る可能性が高い。それを避ける為にもカールスラントに少なくともガリアの王党派が手を打っているはずだとペリーヌは考えていた。

そんな時だった。ペリーヌの予想を覆す重大な報告がリーネによって齎された。

 

「停戦ですペリーヌさん! スオムスとバルトランドが和平交渉の為に停戦することになりました!!」




ウィッチのステルス性ってどんなものなんでしょうか。

大きさの観点から初期はレーダーに移りにくそうですけど、技術の発展で変わりそうですよね。あるいはシールドの形状を変化させる事ができればステルス性の高いシールドを張るみたいなこともできるのか……

まぁ、そもそもウィッチがストライカーで飛んで戦う時代がそんなに長く続くとも思えませんし、あまり意味のない考察かもしれませんね。
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