ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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最近小蠅の侵入が多いから対策しないとなと思う今日この頃です。


二カ国反乱

ノイエ・カールスラントで民主独立派が蜂起したのを知ったのは、その日の朝刊での事だった。

 

「なぜ今更蜂起だなんて。やるならスオムスとバルトランドが戦争している時でしょうに」

 

ルーデルに誘われ、朝の日課となっているランニングをしながら呆れた様子で言った。

 

「民主独立派からすれば、カールスラント本国がどうなってもいいのだろう。いや、あるいはバルトランドとスオムスの終戦に向けての交渉が始まったこのタイミングこそが、他国からの介入を受けにくいと考えたのかもしれないな」

 

「もしくはカールスラントが他国に介入を受けたほうが自分達の理になるかですわね」

 

「他国、例えばオラーシャなどと話をつけているのであれば、カールスラントはオラーシャという脅威に備える為に大規模な部隊を動員する事が難しくなる、。そうなれば最初の戦闘にさえ勝てれば、カールスラントはノイエ・カールスラントの反乱に対処できない可能性はあるな」

 

カールスラントの戦力と、推定されるオラーシャの戦力は元カールスラント軍人のルーデルから見ても殆ど互角だった。もっとも、オラーシャは東で扶桑と相対する必要があるため、その分戦力的にはカールスラントが有利だとも思っていた。しかしだからと言っていつまでもノイエ・カールスラントでの反乱にかまけるほどの余裕はなく、一度反乱軍が勝利すれば主張を通すことも不可能ではないと考えた。

 

「となれば、まずはノイエ・カールスラントに駐留する部隊の動きに注目するべきですわね。カールスラント本土からの援軍が来る前に撃破されてしまったら反乱軍優位に推移するでしょうから」

 

「そうだな。だが一つ疑問がある。そんな分かりきったことを他の列強が許すだろうか」

 

「ブリタニアはともかく、オラーシャもまた内部に不穏分子を抱えています。オラーシャはこの機会にそれらを一掃することを考えるのではないでしょうか」

 

かつての戦争でウラル山脈以東に疎開したオラーシャでは、その地に足を根ざした物も多い。戦後、モスクワなど旧来の大都市の復興が優先され、これらの地は半ば忘れられた存在なりつつあるが、それを不満に思う者は少なくない。

 

「それに関しては否定できませんが、平和的な手段での解決ならば危険はありませんわ」

 

「そうだな。そして空いた戦力を使ってネウロイとの戦争で曖昧になっていた国境地帯を奪取し、実効支配するわけだ」

 

「お互いオラーシャとカールスラントの領土を実効支配していますしお互い様ですわね」

 

お互いに戦争のゴタゴタで互いの領土を実効支配し、その問題はいまだに解決していない。領土問題は昨今の両国関係悪化の原因の一つだった。

 

「つい最近まではガリアもカールスラントの領土を実行支配していたがな」

 

「全くもって情けない話ですわ。議会の老人連中ときたら、カールスラントには散々支援されてきたと言うのに、中々領土を返そうとしませんでしたから」

 

ガリアもまた、どさくさに紛れてカールスラントの領土を奪っていた。戦中においてはネウロイから領土を守るとの名目で兵を置き物資を要求していたが、戦後になってからも返すことなく実効支配を続けていた。ペリーヌを中心にその不誠実さを指摘し返すべきだと主張していた勢力により、今年になってようやく返還されることになった。

 

「人は本来、国が違うからと言って敵同士ではないはずだからな。一部の強欲な連中が国のトップにならない限りは話し合いでの解決が可能なはずだ」

 

「国のトップも元から強欲だった訳ではないはずですわ。今でこそあんなですが、ド・ゴールさんがかつてはガリアの為を思っていた事は明らかです。身の回りの誰か一人が自分の利益の為に動き、それを羨んだ周りもまた自身の欲望を制御できずに追従する。そんな悪循環が人を悪の道へと走らせるのだと私は思いますわ」

 

ド・ゴールが最初からガリアで好き放題する為に

 

「なるほど、面白い考えだ。だがその論法だと一番最初に悪の道へと走った人間は何をきっかけに悪に堕ちたのか。その説明がつけられないな」

 

「……思うに、最初の一人というのは悪の道に堕ちたという自覚がないのではないでしょうか。あるいは真っ当な方法で利益を得て、それを羨んだ誰かが同じ利益を得るために真っ当でない方法を使った。つまりは羨ましいという人が持つ当たり前の感情の爆発が原因ではないでしょうか」

 

「ならばペリーヌ、ガリア議員という権力を手にしたお前もいつかはそうなるかもしれないという事だな」

 

ルーデルの指摘に、ペリーヌはしばし考えるように顎に手を当てた。

 

「そうかもしれませんわね。ですが今の私はこの屋敷の人間が平穏に暮らせるのならそれでいいのですわ」

 

「欲のない奴だな。何かしたい事、欲しいものの一つくらいないのか」

 

意外と無欲なペリーヌにルーデルは面白くなさそうな様子だった。

 

「そうですわね。強いて言うなら時間が欲しいですわ」

 

「時間?」

 

「ウィッチとして数年を過ごし、人の営みという物が当たり前のようでいて案外簡単に消えて無くなる物だと言う事はありありと理解していますわ。だかこそ、本来はガリア議員などという多忙な仕事をしたくはないのですわ」

 

人生全体で見れば短い時間だが、多感な時期の多くを戦場で過ごした経験はペリーヌに、同時代を生き抜いたウィッチ達に大きな影響を与えていた。

人が使える時間が有限である以上、ペリーヌはできる事なら親しい人達と過ごす事にその時間を使いたいと考えていた。

 

「リーネさんやアメリーさんと子供達の夕飯を作る何気ない日常を過ごすのもいいですし、ニールマンさんや他の戦友たちに手伝ってもらってあの戦争の回顧録を作るのもまた面白そうですわね」

 

「回顧録か。私のような対地攻撃を主任務としていたウィッチと、クロステルマンのような飛行型ネウロイを相手にしていたのとでは見えていた世界も違うだろうからな」

 

「そうですわね。ですがその両方よりも何よりも、貴女と約束した登山の件がこのままだといつ実行できるか分からない事が心苦しいのですわ」

 

朝のランニングは、いずれルーデルと登山に行く為の身体作りの一環で始めた事だった。登山そのものは子供達の独り立ち後と言う約束ではあったが、今のペリーヌの立場ではたとえ子供達が独り立ちしたとして、それが実現可能かどうかかなり怪しかった。

 

「……別に気にする事はない。年齢と共にある程度衰えるのは仕方がない事だ。その時は歳をとってからでも登れるような山に登ればいいだけだからな」

 

ガリア議員という多忙の身でありながらかつての約束を果たそうと考えているペリーヌに、内心の嬉しさを隠す為に顔を背けながらそう言った。

 

「あら、別にそこまで待つ必要はありませんのよ。適当なタイミングで議員を辞めるつもりですし、仮に辞めれなかったとしても今のように忙しい状況でなければ登山する時間くらいは取れますもの」

 

そんなにも登山を楽しみにしていたのですの、とペリーヌが嘯くとルーデルは無言で走る速さを早くした。

 

「ちょ、ちょっとルーデルさん!!」

 

いくら鍛え直していると言っても、戦争終結後からトレーニングを欠かした事のないルーデルに叶うはずもなく、屋敷に戻ったペリーヌはいつも以上に息を乱し、汗をかいていた。

本来なら汗を流したいところだが、そうは問屋が卸さなかった。屋敷で二人の帰りを待っていたリーネから衝撃の事実が告げられた。

 

「大変です! さっき政府から連絡があって、オラーシャ各地で反乱が起こったみたいです!!」

 

「オラーシャ各地で反乱というと、具体的にどこか聞いていますか!?」

 

全くの予想外という訳ではないが、だからと言って驚かないわけではない。オラーシャの不穏分子としては、厄介なカールスラントの注意がされたうちにと言う思いがあったのだろうとペリーヌは思った。問題はその規模だった。

 

「少なくともウラル、ペテルブルクの二箇所は確定みたいですけど、他にも何箇所か反乱が起きているらしい場所があるみたいです」

 

この二箇所だけでも、反乱軍の規模は合計で二十万を超える。それだけでなく他にも数箇所あるのであれば、全体では五十万人規模の反乱が起こっ相手も不思議ではなかった。

 

「すぐに政府で協議する必要がありますわね。車を回すように伝えてくださる?」

 

カールスラント、オラーシャの反乱はガリアにも大きな影響を及ぼす事になる。そんな確信と共に、ペリーヌは対策を協議すべくパリに向かうのだった。




ウィッチの平和利用。まぁ、色々と思いつくし後書きにも度々書いてはきたような記憶もありますが、なんだかどれもしっくり来ないんですよね。
もっとこう、いろんな人に恩恵がある感じの奴ないですかね。
それこそ魔法力そのものをエネルギー源として使う感じの。でもウィッチの絶対数がすくないからエネルギー源としては使い物にならないんですよね。
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