スオムスがオラーシャ領へと侵攻した事を、ペリーヌは朝刊で知る事になった。ペリーヌ自身の海外の情報網はカールスラントとオラーシャに限定される。それも知人を介してのものであり、情報伝達速度は新聞よりも少し早いくらいのものだった。
スオムスに関しては完全に情報網がなく、情報は完全に新聞に頼っていた。朝刊でスオムスのオラーシャ侵攻を知ったペリーヌはルーデルの進言に従い、ストライカーユニットを用意する事にした。
「旧式なら可能とは言いましたが、用意できるまで二週間ほどかかります。それまでに一体なにをするつもりなのか教えてくださいます?」
「察しはついているだろう」
「貴女の口から直接聞きたいのですわ。私の立場では簡単に出国する事ができません。ですがそれをするのなら今の立場を捨てる覚悟を持たなければなりません」
ルーデルがしようとする事がなんなのか、想像はついている。だが彼女本人の口から改めて聞く事で、ペリーヌは覚悟を決めようとしていた。
「面白い事を言うな。元々その立場についたのは不本意な事だったはずだ。だと言うのに、それを捨てる事に覚悟が必要とはな。お前のような奴でも、一度得た権力というものは失い難いものなのか?」
「そうではありませんわ。ガリアは分断の危機にあり、それを食い止めようとしているのが私含め極少数の人間しかいません。私がいなくなればそれだけでガリア分断の危機は高まります」
ペリーヌの言葉に、ルーデルは心底呆れた様子でため息をはいた。
「らしくないな。実にウィッチらしくない」
ペリーヌらしくないではなく、ウィッチらしくない。あるいはかつてのペリーヌが待っていた物を今のペリーヌは持ち得ていないという事か。
心当たりがなくペリーヌは困惑した様子を見せた。
「ウィッチは欲張りな物だ。クロステルマンの上官だった坂本はウィッチに不可能はないと言っていたそうだが、それだって随分と欲張りな話だ。ウィッチとて人である以上は不可能事もある」
「貴女もネウロイ全てを倒したら世界に平和が訪れるなどという不可能事を信じていたのではないですか?」
「他人から見れば不可能かもしれないが、私はできると確信していた。それは坂本もそうだっただろう」
敬愛する元上官の教えを受けたかつての戦友も、その教えを盲目的に信じていた。当初の様子からは信じられない事に、彼女は501の隊員としてブリタニアからオラーシャまで戦い、エースウィッチの一人として戦争を生き抜いた。
何かを信じる強い心を持ったウィッチが強いウィッチになるのか、それとも強いウィッチだからこそ強い心を持っているのか。どちらかは分からない。だごスーパーだとか、ウルトラとか言われるエース達が、ペリーヌでは不可能と断言するような事を信念としている事が多かったのは事実だった。
「私は強いウィッチではありませんでしたわ」
「確かにハルトマンやユーティライネンと言った埒外のウィッチと比べたらそうだろう。だがお前は紛れもない強者だ。強者であるならば、二兎を追い両方とも手に入れて見せるべきだ」
「つまりガリアの分断を防ぎつつ、貴女のやろうとしている事にも協力しろと?」
ルーデルはスオムスのオラーシャ侵攻を嘆くペリーヌにストライカー・ユニットを用意するよう要請した。
「そうだ。ストライカー・ユニットでオラーシャまで飛び、ユーティライネンを説得。もし受け入れない場合はユーティライネンと交戦する」
「オラーシャに行くまでにいくつかの国境を通る必要がある事と、無断で戦闘する事はガリアの国益になりません。私が議員でなければまだしも、今の立場ではその立場を捨て、ガリアの分断を防ぐ事を諦めなければならない事は自明でしょう」
「ウィッチならば不可能を可能にしてこそだ。そしてクロステルマン、お前をそれを成し遂げた事があるだろう」
不可能を可能にする。先の戦争では偉大なウィッチ達が成し遂げた事であり、ペリーヌもその一人として不可能と思われたネウロイからの領土奪還と殲滅を成し遂げた。
「それがどれほど難しい事かは分かっているでしょう」
「だができない事ではない」
「……そうかもしれませんわね」では私は貴女の口車に乗って、ガリアの未来と北欧の平和。両方を取りに行く事にしますわ」
難しい事なのは事実だが、最初からできないと否定するほど不可能な事ではないのではないか。そんな気持ちが湧き上がった。
「それでこそウィッチだ。それで、具体的にはどうするのだ」
「それを考えるのは貴女にも手伝ってもらいたいのですが」
「私にそんな面倒な事ができると思っているのか?」
胸を張って答えるルーデルにペリーヌは思わずため息を吐いた。
「まぁ、貴女のおかげで少しだけですが、北欧の平和とガリア分断の危機を回避を両立する余地がある気がしてきました」
最初はそんなものは存在しないと決めつけていたが、よくよく考えるとこれはチャンスであるとペリーヌは思った。
「私が北欧での戦争をどんな形であれ止める事ができたのならば、ガリア議会はお小言を言うでしょうがガリア国民は両手をあげて喜ぶでしょう」
「なるほど、それを利用して南部での支持を拡大するわけか。中々どうして、考え方が上層部のそれに似てきたなクロステルマン」
どこか皮肉気な口調のルーデルに思わず視線を鋭くした。
「どう言う意味かしら?」
「他人の命を利用して自分の地位向上を目指すあたり、我々の毛嫌いしていた上層部の連中に似てきたと思っただけだ」
それはペリーヌの虚をついた言葉だった。驚きしばらく大きく目を見開いた後、ペリーヌは口を開いた。
「なるほど、確かに私達の毛嫌いした悪辣な上層部の連中と同じかもしれません。ですが北欧の民を救い、その成果を持ってガリアの分断を防ぐのは結果的には北欧の民に犠牲が出るかもしれませんが、結果的に流れる血の量は少なくなるはずですわ」
「では、クロステルマンはかつての悪辣な上官達と自分は違うと言うのだな?」
いつになく鋭い声での問いかけだった。
「……そうは言いませんわ。目的の為に他者の命を使う事は、私達の毛嫌いした連中と相違ありません。ですが、それに報いる事ができている分、いくらかマシであると思っていますわ」
ペリーヌ自身、これは苦しい言い訳だと思っていた。他人の命で自身の地位向上を図るのは、悪人以外の何者でもない。
だがルーデルはそんなペリーヌを見て小さく笑った。
「なにも責めているわけではない。戦場では誰かの命を救う為に、他の誰かが犠牲になる事は数え切れないくらいあった。私が上官であれば、部下の命に貴賎なく全員を救おうとしたが、それでも犠牲者はいた」
ルーデルの率いた部隊は対地攻撃を主任務とする関係から、参加も大きいが犠牲もまた多くでた。ルーデルはできある限り被撃墜者の救助を行ったが、それでも犠牲者は出た。
「今回に関して、クロステルマンは北欧の連中の命を守る義務はない。本来なら無関係のクロステルマンが北欧の民の為に動き、結果としてガリア国民の団結を促す事に繋がったとしても誰も批判しないだろうな」
「……貴女は批判的なように見えましたが?」
「自分の利益の為に他者が犠牲になっている自覚があるのかどうかを知りたかっただけだ。批判がしたかったわけではない」
何か大きな事を成し遂げようとする時、その裏には必ず見えない犠牲があるとルーデルは言った。
「例えばウィッチであれば、基地の整備士や兵士のおかげでストライカー・ユニットで空を飛べるわけだが、場合によっては彼らは見捨てなければならない存在だ。他にも上の命令や現場の状況によって、ウィッチは民間人さえ見捨てなければならない。それらは分かりやすい犠牲だが、今回の北欧の犠牲者はどちらかと言えば分かりにくい犠牲だ。そう言った犠牲者がいた上で、クロステルマンが大義を成そうと言うのなら、喜んで協力しよう」
「……ありがたい事ですわ。ですが一つ言わせてくださいまし」
ルーデルが協力してくれるのは心強いが、どうしても一つだけ言いたい事があった。
「北欧に殴り込みに行く事を考えたのは貴女ですわ。まるで私が全部考えたような振る舞いはやめてくださる?」
ペリーヌの言葉に、ルーデルは小さく笑うとそれもそうだなと答えた。
魔法と核の利用って面白そうじゃないですか?
通常兵器が魔法力により強化されるのなら、核もまた同様ではないでしょうか。兵器としてはもちろんですけど、特にエネルギーとしての核とか中々魅力的だと思うんですよね。
核分裂による発電はメルトダウン等危険が大きいですが、核融合にやるエネルギーの生成は危険が少ないと言う話ですし、ウィッチの魔法力を利用して核融合ができるプラズマを用意すれば現代よりもより早く核融合炉ができるかもしれませんね