それは、ペリーヌ達の手元に旧式のストライカー・ユニットが届いたのは二週間後のことだった。
「ブリタニアのスピットファイアと、こっちはリベリオンのSBDドーントレスか」
「どちらもガリア空軍でかつて使われていたものですわ」
ガリアは北部の陥落後、各国から食料や兵器など様々援助を受けていた為、ガリアには他国製の兵器が多く存在した。
「どちらも現役で使えなくないくらいいい機体だと思うが、よく手に入ったな」
「ガリア製のストライカー・ユニットへの置き換えが進んでいますから、これがどんなに良いものでも随時運用を停止して民間に流す事になっているのですわ」
「ガリア製か。確かジェットストライカーの配備が進んでいるのだったな」
ウーラガンと呼ばれるガリア初の国産ジェット戦闘機がダッソー社により作られ、配備が進んでいた。だがスオムスでの戦訓から、ジェット機関に対して疑問の声が上がり、当初は二百以上調達する予定だったウーラガンはその半分ほどの調達数に落ち着く見込みだった。
「ジェットストライカーの有用性を疑問視する声が出たので、既存のレシプロストライカーもまだ保有する事になってしまいましたが」
「ユーティライネンのせいだな。ウィッチであれば、あれはストライカーの性能ではなく個人の実力だと分かるが、普通の人間にはわからないのだろうな」
エイラがバルトランドとの戦いで上げた戦果は全てレシプロストライカーによるものだった。そしてその戦果の殆どはジェットストライカーを履いたウィッチであり、ウィッチ以外の人間はこれがレシプロストライカーがジェットストライカーよりも明確に優れた部分があり、それをエイラがうまく引き出しているからこそ上げられた戦果なのではないかと考えていた。
ウィッチであれば、特にエイラと同時代を現役で過ごしたウィッチであれば彼女の実力の高さ故だと気がつく事ができるが、専門知識のいるストライカー・ユニットの開発者にそんな人物がいる事はまずなく、各国は検討外れな考えの元、ストライカー・ユニットの開発に勤しんでいた。
「お前なら止められただろうに、どうしてしない」
「今のガリアに強い力を持たせては争いの火種になりかねませんから」
ド・ゴールが南部の勢力に対して強硬手段に出ないのは、軍事力的な優位が確立されていないからだとペリーヌは考えていた。だからこそ、強大な力を持つ事に繋がりかねないジェットストライカーの大量保有に歯止めをかけたかった。
「そんな事より、これからどうしますか。早速スオムスに向かいますの?」
「ルートはいくつか考えてあるし、物資もビショップに言って用意させた。問題はどのルートも考えてはいたが、どのルートも燃料の補給が必要になる」
「事前に国境を越える事を通達し、補給の手配までするのは不可能です。理由も問われますし、それで私がガリアを出国する事が知られては今回の計画自体がダメになってしまいますわ」
極秘に出国し北欧の戦争を止めるのが目的だが、出国する際に丁寧に補給先の手配などしては簡単にバレてしまう。それは避けなければならない事だった。
「まぁ、現実的なのは徒歩で国境を越える事だな。もしくは海路を使うかだが、操船技術のない私達にはこれは無理だろう」
「となると陸路になりますが、まさか強行突破をするわけにも行きませんし、何か案があるのですわよね?」
そう言ってルーデルに視線を向けると、彼女は何を言ってるんだと言わんばかりの表情わあ浮かべていた。
「強行突破に決まっているだろう。ガリア国境からカールスラントのオラーシャ国境までなら航続距離は持つ」
まさかの提案に、ペリーヌは空いた口が塞がらなかった。良案があると思っていたからこそ、これまで計画について尋ねなかったわけだが、それを今更になって後悔していた。
「まったく、貴女は頭は悪くないのにどうしてこうも無鉄砲なのでしょうか」
「無鉄砲だと? この作戦は極めて高度な考えに基づいたものだ」
「一体何処にそんな要素がありますの」
「秘密裏に国境を越えようとすれば、速度に問題がある。一番早いのはストライカー・ユニットを使う事だ。そしてガリア国境からワルシャワの反乱軍占領地域であれば、増槽込みで燃料は持つ」
直接スオムスまで向かうのは、スピットファイアの航続距離では難しい。ドーントレスでさえ、国境を越える事を考えると避けたい距離だ。だがワルシャワであれば、ギリギリ燃料は持つ。あるいはもっとカールスラントに近い反乱軍占領地域で降りれば、航続距離の問題は解決できる。
「ですが補給はどうするのですか?」
「そんなもの協力すると言って反乱軍からして貰えばいい」
「いくらなんでも反乱軍に協力などできませんわ!」
ルーデルの言葉にペリーヌは思わず声を荒げた。
「安心しろ何も本当に協力するわけではない。燃料だけ貰ってスオムス方面に飛び立てばいい。仮に追撃があったとしても、私達なら簡単に撃退できるからな」
「簡単に言いますけど、それをするのは私の仕事ですわよね!?」
「私だって手伝うさ」
反論しようとしたが、ペリーヌはルーデルが飛行型ネウロイの撃墜記録を持っている事を思い出して眉を顰めるだけにとどめた。
その時だった。慌てた様子でリーネが駆けやってきた。
「た、大変ですペリーヌさん!」
「どうしましたの?」
尋常ではない様子のリーネに、ペリーヌは不安を覚えながらも問いかけた。
「ガ、ガリア南部で王党派と旧ヴィシー政権軍が蜂起したんです!!」
その報告にペリーヌは体の力が抜け、思わずその場に崩れ落ちそうになった。だがすんでの所でルーデルの体に寄りかかり、辛うじて体勢を整える事に成功した。
「き、規模と指揮官は?」
「規模は四十万ほどで、指揮官はウェイガン将軍です」
「ウェイガン将軍と言いますと、ヴィシー政権下では国防相を務めた方ですわね?」
「そうです。そのウェイガン将軍です」
ヴィシー政権では国防相としてネウロイのガリア南部侵攻を食い止めた立役者の一人であり、ネウロイとの戦争の前に起きた怪異との戦争でも名参謀として名を馳せた人物だった。
「王党派の指揮官は誰ですか?」
旧ヴィシー政権の指揮官が油断ならない人物である事は分かったが、問題は王党派だった。彼らは軍事力こそ小さいが、油断ならない人物達である事はパリでの一件でペリーヌはよく理解していた。
「それが分からなかったんです」
「分からないと言いますと、どういう事ですか?」
「王党派も協力しているのは相手も喧伝してるみたいなんですけど、肝心の王党派の指導者が出てこないんです」
王党派の指導者が出てこないとなれば、この反乱に王党派全体か協力しているのか、それともごく一部が協力しているのかの判断が難しい。そもそも、仮に王党派指導部が全面的に協力していたとしても、これでは末端の人間が本当に協力していいのか判断がつかないのではないかとペリーヌは思った。
「では王党派が協力していない可能性もあるという事ですわね」
そう言いながら、内心でペリーヌはこの考えを否定していた。パリで出会った教授の様子からして今回の反乱に加担しないはずがないと、ペリーヌは確信していた。
「協力はしていると思います。と言うより、指揮官であるウェイガン将軍自身が王党派であると宣言して、王党派の蜂起を呼びかけているんです」
ウェイガンはガリア人となっているが、元はベルギカの出身であった。ベルギガには王族がいら為、ベルギガ出身のウェイガンが王党派になる事は違和感がないように思えたが、ペリーヌは別の見解を持っていた。
「スケープゴートですか……」
「どう言う事ですか?」
疑問符を浮かべるリーネに答えたのはルーデルだった。
「なるほど。王党派の指導部は姿を見せず、もしも今回の蜂起が失敗したとしても被害を最小限に済ませるようにしたわけか」
「そう言う事ですわ。これまで全く表舞台に姿を表さなかった人間が、今回のような重要なタイミングでも姿を現さない理由などそれしかありませんわ」
政府側が勝ったとしても、王党派と言う内憂は残り続ける事になる。その事実がペリーヌには歯痒く思えた。
「警戒して損をしたなクロステルマン。教授とやらは存外大した事のない奴だった」
ペリーヌと違い、ルーデルは教授の事を貶した。
「油断なく未来に可能性を紡いだのですわよ。油断ならない相手ですわ」
「自分でこの先王党派に未来はないと言っていたのに、ともすれば最後かもしれない絶好の好奇に全てを賭けられない人間が警戒に値すると思うのか?」
「全てを賭けて負けては元も子もありませんわよ」
ペリーヌの言葉をルーデルは鼻で笑った。
「考えてもみろ。私達は戦時中、何度も自分の全てを賭け勝ってきたからこそ今がある。仮に安全や自分の未来なんてものを欠片でも考えていれば今ここに私は勿論、クロステルマンもビショップもいないだろうな」
「……そう言えば、昔のペリーヌさんはガリアを取り戻す為にガムシャラに頑張っていました。多分、あの頃は未来なんて考えてなかったんじゃないかな……」
リーネの指摘に、ペリーヌはハッとした。言われてみれば、昔の自分はひたすらにガリア奪還の為、ガリア奪還後はガリアの未来の為に自身の未来など考えずに私財を投げ打ってきた。
自身の全てを掛けられない人間にを全く警戒しないのは無理だが、それでも今の自分が教授を警戒しすぎているのではないかと思った。
「そうですわね。この際、一度教授の事は忘れて旧ヴィシー政権軍に対する対策を考えるとしましょう」
家庭的な固有魔法とかないんですかね。というか、かつてのウィッチが様々な魔法を使えて、現在のウィッチにはそれが固有魔法として残った。それはいいんですけどあまりにも戦闘に偏りすぎでは? やっぱり自分で気がついてないだけで固有魔法を持ってるとか、複数の固有魔法を持ってるとかあり得そうな気がします。