平和への道
スオムスバルトランド連邦共和国が設立され、その初代大統領に擁立されたエイラが最初にした事は、サーシャと共に状況を整理する事だった。
「ガリア南部での反乱、ノイエカールスラントとオラーシャの反乱。そしてスオムスの戦争の四つの戦乱の内、一つは終結しました」
「わたし達スオムスの戦乱だな。その結果バルトランドとムルマンスクから南のカレリア全土。それとペテルブルクにリバウ。スオムスは広大な領土と人口を手に入れた」
「名ばかりの常任理事国から実力を伴う常任理事国への第一歩。バルトランドに本社があるサーブ社のお陰で、ほとんど全ての兵器を国産化する目処がたちました。物資さえあればストライカーや航空機、戦車も他国からの輸入に頼る必要はなくなります」
「なんなら輸出することも可能になるかもしれないな」
多くの国は再びネウロイのような脅威が現れる事に備え、高性能な武器を求めた。国産化できるのであればいいが、多くの国ではそれは困難だ。そう言った国は他国から武器を買うが、その対象はリベリオンや扶桑と言った戦争で大きな被害のなかった大国で、戦後に武器を輸出することで利益を生み出していた。
「扶桑やリベリオンほどの性能は難しいかもしれませんが、多少性能が下がっても安価であれば求める国は多いでしょうし、上手くいけばスオムスは更なる躍進を遂げる事になりますね」
「とはいえまずは自国に配備する必要があるし、生産ラインも整えないといけない。それが実現するのはだいぶ先になるだろうな」
「そうですね。ですが生産ラインはネウロイとの戦争で使われていた工廠を復活させたりすればある程度はどうにかなりますね」
ネウロイとの戦争が終わり、スオムスにあった工廠の多くは閉鎖した。だがそれら建物の多くは解体されず、場合によっては中の設備すらそのままと言う施設もあった。
「問題はそのための人員を何処に求めるかだけど、それは軍の縮小過程で生まれる退役軍人を割り当てれば解決する事だな」
バルトランドも合わせれば百万人を越える軍人を養う事は難しい。必要のない人員を数年をかけて整理し適正値に戻す必要があるが、その過程で発生する退役者達に仕事を与えると言う意味でも、軍事産業の発展はスオムスにとってプラスに働く。
「可能ならばストックホルムなどのバルトランド主要都市とスオムスとのインフラ、特に鉄道の整備も進めたいですね。今のままですとせっかく同じ国になったのに、そのメリットが殆どありませんから」
「そうだな。インフラ整備に人を優先して回しつつ、軍の整備を進めるのがいいかな」
ヘルシンキとストックホルムの最短ルートは海を渡る事だが、天候次第でそのルートは使えない。また、フィンランド北部とバルトランド北部の旧国境地帯は開発が遅れているため、今回の統合を機にこの地帯を開発し有り余る土地を利用したいと言う考えがあった。
「そうなるでしょうね。後は通貨の統一をするべきでしょう」
「通貨の統一?」
思わぬ言葉にエイラは訝しんだが、直ぐにその意味を理解した。
「そっか、バルトランドとスオムスの通貨は違うから今の状態だとまともに買い物もできないのか」
「はい。もっとも、こちらは連邦になることが決まった時点で官僚達が動いている可能性もありますが、エイラさんが大々的に発表した方が反響も大きいでしょう」
「なら官僚達と相談して就任会見で発表だな」
連邦国家となる事が決まった時点で政府の文官にとって通貨の統一は確定事項だろうが、万が一なんの動きもなかった場合に備え、エイラは事前に確認するつもりだった。
「一番の問題は閣僚をどうするかですね」
それは避けては通れないが、一番考えたくない事でもあった。
「スオムスとバルトランドを中心に閣僚人事を進めるとして、問題は旧オラーシャ領だな」
「はい。ペテルブルクの共産党から一人閣僚を出すのは確定として、残りのオラーシャ領から何人の閣僚を出し、誰を閣僚とするのか」
「スオムスとバルトランド以外は最小限に、できれば一人くらいに抑えたいけど後のことを考えたら多い方がいいかもしれないな」
「後のことと言いますと?」
サーシャはバルトランドとスオムスで閣僚を二分し、その他の勢力が連邦の運営に手出しできない状態にするべきだと考えたがエイラの考えは違った。
「サーブを筆頭にバルトランドはスオムスにない高い技術と強い経済基盤がある。今はバルトランドに勝利した後だからスオムスが有利だけど、年月が経てば逆転することも考えられる。それならスオムスとバルトランド、その他の勢力の三つで閣僚ポストを三分割して何処か一つが強大な力を持つことを防ぐべきなんじゃないかな」
「それならバルトランドの閣僚ポストを減らせばいいんじゃないでしょうか」
「それをするとバルトランドから反感を買う事になる。スオムスが圧倒的に有利ならともかく、現状はそうじゃない。単純な人口で考えても、スオムスは今後の選挙で勝つ事は難しいんだ。なら今の内からバルトランドとは対等な関係を築いて、旧オラーシャの勢力を巻き込む形で勢力間のバランスを取る事がいいと思うんだ」
エイラはバルトランドがいずれスオムスを追い抜くと半ば確信していた。それがエイラが現役の時に起きるのか、それとも後に起きるのかまでは分からないが、今から先を見越した布石を打つべきだと考えていた。
「もしもバルトランドが連邦の主導権を握ったとしても、エイラさんがバランス人事をした影響で多少の影響力を政権に残す事ができるかもしれないと言う事ですか。あまりにも希望がすぎる気もしますね」
「けど流石のバルトランドも、スオムスと旧オラーシャ領が敵に回るリスクを考えれば迂闊な人事ができなくなる。そしてそれはこの連邦がスオムス、バルトランド、旧オラーシャのいずれかのものではなく、三者全員の物だだと言う認識に繋がる。何処か一つが主導した方が強い国家になるのは早いかもしれないけど、三者が協力できるのなら長期的にみれはより強力な国家になれる」
スオムスが強力な力で他の勢力を押さえつけるよりも、全ての勢力が手を取り合い発展する道をエイラは望んだ。
「ですがそれは茨の道です。バルトランドは旧王族に対する恨みからスオムスとは仲良くできますが、将来的には対立関係になるかもしれません」
「その可能性は十分にあるな。だけどスオムス一国が率いる連邦の力だと、とてもじゃないけど他の大国と渡り合うの難しい。全ての勢力が手を取り合い、他国に対抗しないと世界の荒波に飲まれる事になる」
「だとしても、今回の戦争で勝利したのにこの方針では納得しない人も多いのではないでしょうか。せっかく勝利したのに、これではスオムス国民が納得しません。スオムス国内から反感を買ってしまっては意味がありませんよ」
エイラの方針は長期的にみれば正しいのかもしれない。だがそれを勝者側のスオムス国民が認めるかどうかは別問題だ。せっかく勝利して連邦国家を設立したと言うのに、閣僚ポストが均等に割り振られたのでは勝利の実感は湧きにくい。
「その点は問題ない。軍事に関してはスオムスが主導する事でバランスを取るんだ」
「……それは随分と大胆な手段ですね」
「そうでもないさ。旧オラーシャには優秀な軍人はいないし、バルトランドは敗軍の将しかいない。対するスオムスは常勝軍団だ。一体誰が反対意見を出せるって言うんだよ」
軍隊としてスオムス軍ほど信用できる軍はこの連邦に存在しない。バルトランドも共産党軍も敗北したと言う事実は変わらず、この連邦最強がスオムス軍なのは疑いようがない。
「わたしはシビリアンコントロールの観点から軍を退くつもりだから、サーシャには総参謀長として全軍の指揮を頼む事になる」
「身に余る大役ですね。ですが軍を支配するのなら、対外的もエイラさんの側近と考えられている私が最適ですね」
「そう言う事だ。よろしく頼むぞサーシャ」