ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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ジェラシックワールド観てきました。

てか気がつけば五周年か


亡命者

欧州は反乱により混乱し、研究者などの知識人達は平和を求め扶桑やリベリオンなどに流れる事になった。だが欧州からこれらの国に向かうには時間も金もかかる。手軽な行き先としては元々反乱が起きていないブリタニアか、反乱を鎮圧し平和を取り戻したスオムスが候補として上がる事になった。

前者二カ国には比較的有名な人物が亡命先として選ぶ事が多く、後者に関しては若手の研究者が多く流れ着いた。ブリタニアよりも国力の劣るスオムスは亡命先の候補としては魅力に欠け、来る人物は中途半端な人材が多かった。そんな中訪れた予想外の大物の来訪は、閣僚人事に苦心するエイラ達の手を止めさせるには十分な理由だった。

 

「物理学者のアルベルト・アインシュタイン博士が亡命を希望している?」

 

アルベルト・アインシュタインは物理学者だが、彼の研究には単純な物理学以外にも魔法が絡んだ研究も複数存在し、物理学者としてだけでなく魔法研究者としても高い評価を得ている。

 

「厳密にはアインシュタイン博士を筆頭に、魔法研究者や魔導工学者達がスオムスへの亡命を希望して越境。リバウの国境警備隊に拘束されているそうです」

 

「たしかスオムス以外だと、ジェットストライカーからレシプロストライカーへの後退が起きてるんだったよな。亡命はそれに関係する事かな?」

 

「詳しい事は何も。ですがカールスラントではジェットストライカーの研究予算が削られたらしいですし、他の大国でもその動きがあるそうです。大国ではありませんが、唯一その動きのないスオムスに魔導工学者や研究者が来るのは必然かもしれませんね」

 

レシプロストライカーへの転換に最も敏感な反応を示したのはカールスラントだった。スオムスの戦争が終わった直後、皇帝の勅命でジェットストライカーの開発中止と研究開発予算の大幅削減。代わりにレシプロストライカーの研究開発と次世代レシプロストライカーが開発されるまで、繋ぎとしてかつての戦争で活躍したBF109をアップデートして再度導入する事が決定された。

ガランドやラル、バルクホルンらウィッチはこの勅令が発布されるのを食い止めようと皇帝に直訴していたが止められなかった。先進的な事で知られ、その先見さで戦争初期のカールスラント撤退やウィッチの大規模導入を認めた先々代皇帝や、ジェットストライカーに大きな興味を抱いた先代皇帝と違い、今代の皇帝は伝統的な物が好きな極めて保守的な人物だった。革新的なジェットストライカーよりも、古き良きレシプロストライカーが好きで、もしもレシプロストライカーの方が良い点があるのであればレシプロストライカーを使いたいと思うような人物だった。

 

「カールスラント皇帝も馬鹿なことをしたよな。レシプロストライカーが出せる速度には限界があるから、普通のウィッチが使う分にはジェットストライカーの方が絶対にいいのに」

 

「エイラさんが普通では出せないような戦果を上げてしまいましたからね。ほれがレシプロストライカーによる物であれば、その秘密がストライカーの種類による物であると考えるのも無理はありません」

 

「わたしよりサーシャが戦果を上げたことの方が問題だと思うけどな」

 

エイラ一人がレシプロストライカーで戦果を上げたのであれば、それはエイラ固有の要因による物だ。だがサーシャまで戦果を上げたとなれば、それはレシプロストライカー固有の物であると考えてもおかしな事ではない。

 

「否定はしません。ですがそのおかげで我が国はジェットストライカー開発での遅れを取り戻せるはずでした」

 

「はずでしたか。今は違うって事か?」

 

「はい。カールスラントから研究者達が亡命するのであれば、取り戻すどころか数年、十数年他国の先を行く事ができます。少なくともジェットストライカー開発において、スオムスは世界の最先端を行けます」

 

他国が開発を後退させ、スオムスは先に進む。本来であればスオムスはその間に遅れを取り戻す事しかできないはずだったが、カールスラントからの亡命者を受け入れる事ができれば、その分野においては他国の滞在を許さなくなる。

 

「よし、亡命者を受け入れよう」

 

「それがいいと思います。スオムスがジェットストライカー開発者を含む亡命者を受け入れたとなれば、現在は日陰に追いやられている者達が亡命を希望するかもしれません」

 

「日陰者が有効な技術を持っているのなら積極的に採用して取り入れ、スオムスの発展に寄与してもらうって事か」

 

「はい。もちろん、スオムスにはそれほど余裕があるわけではありませんから取捨選択は必要でしょうが」

 

スオムスはバルトランドとオラーシャ領を手にした事で国力は増えたが、それが即座に反映されるわけではない。その力が従前に発揮されるには少し時間がかかる。

 

「そうだな。だけど少なくとも今博士が連れてきた人物達は、博士から見て十分優秀な人材なはずだ」

 

「そうですね。では受け入れるよう、博士達を拘束している国境警備隊に通達しますね」

 

そう言って国境警備隊に連絡をするために部屋を出ようとするサーシャをあいらは呼び止めた。

 

「今回に限ってはわたしが直接伝えるよ。多分、それが一番いいと思う」

 

サーシャはそれを、無線で直接アインシュタインに伝えるのだと認識した。しかしエイラの考えは違った。

 

「かのノーベル賞を受賞した世界的な物理学者、アインシュタイン博士が我が国に亡命する事を嬉しく思います」

 

エイラはサーシャと共にストライカーユニットに足を通すと、そのままリバウに飛んだ。スオムスが戦争状態にないとはいえ、護衛もなく国の重鎮が国境にまで向かう事は本来ならばあり得ない事であり、現地の人間は一様に驚いた様子でエイラを出迎えた。

 

「まさか大統領閣下自ら伝えて貰えるとは、ノーベル賞を受賞した時でさえここまで驚きはしませんでしたわい」

 

「ただの引退した元ウィッチである私ですらエイラさんは直接亡命を許可すると言ってくれたんです。アインシュタイン博士だけでなく、他にも公明な博士方が亡命を希望されているのに顔を合わせない訳にはいきません」

 

サーシャ自身はエイラが直接会わずともよいと思っていたが、スオムスがアインシュタイン達を高く評価していると思わせるためにも、事前に打ち合わせして口裏を合わせていた。

 

「おお、貴女も亡命者なのですな」

 

「はい。オラーシャから亡命してきました、総参謀長のポクルイーシキン少将と言います」

 

スオムスの総参謀長が亡命者である事は、まだ就任して日が浅いためそれほど広く知られていない。アインシュタインも驚いた様子だった。

 

「スオムスは実力があればそれに見合ったモノを与えてくれます。アインシュタイン博士とそのご友人であれば、私なんかよりもずっと良いモノを与えられるでしょうね」

 

口元は笑いながらも、サーシャの目は笑っていなかった。スオムスの役に立たないようであれば容赦なく切り捨てる。そんな意図を込めてアインシュタインに視線を向けると、アインシュタインは朗らかに笑って見せた。

 

「ご安心くだされ。みな各分野でそれなりに名の知れた人物ばかり。ポクルイーシキン少将の期待以上のモノをスオムスにもたらすはずですぞ」

 

サーシャの意図を読み取った上での言葉なのか、それとも何も気がついていないのか。その様子からは読み取る事ができなかった。

 

「ただまぁ、研究というものは殊更金のかかるモノでしてのぉ。現在のスオムスでは我々が満足する施設を用意できるのか疑わしいかと思いますのじゃ」

 

資金を理由に思うような研究成果が出ない可能性がある。そんな指摘をするアインシュタインが意図を理解していないわけがなく、サーシャは思わず前のめりに一歩踏み込みそうになるが、さりげなくエイラが一歩前に出て話した。

 

「それはもちろん理解しています。ですのでそう遠くない未来、スオムスが博士達が要求するモノを用意できた時にその成果を示してくれれば十分です。若しくは、その頭脳をスオムスの未来ある若者達の教育の為に使ってくれても構いません」

 

「……成程、大統領閣下は聡明であらせられるようで」

 

たとえ今アインシュタイン達の頭脳が活かされずとも、将来においてその教えを受けた若者がスオムスの為に働けばいい。そんなエイラの考えを受け、アインシュタインは頷いた。

 

「では改めましてアインシュタイン博士、スオムスへようこそ」




一応今回の亡命者一向に関してはレオ・シラードとか元ドイツ人でアメリカに亡命した人達で構成されてます。この世界だとナチスがいないんで亡命理由がないですからね。
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