ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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もう八月も終わるのにまだまだ暑いですね。


最初の一歩

ユーティライネン内閣と呼ばれ、長きに渡りスオムスを指導する事になるこの内閣の組閣が発表された時、スオムス国内では大きな反発があった。

 

「首相はパーシヴィキ大統領時代と同じケッコネン首相ですが、他の顔ぶれは随分と他に気を遣ったものになりましたね」

 

「今後の連邦内のインフラ整備を担う運輸大臣にはフルシチョフ、今後の軍需品の生産にも関わる経済大臣にはバルトランドの元首相エルランダルを任命しなからな」

 

「他にも閣僚の半分はスオムス以外の人間で構成してますから、戦勝国であるはずのスオムスがここまで譲歩する事に反対意見は多いですね」

 

リバウやムルマンスクと言ったエイラに当地を委任された地からも大臣を出し、スオムス出身者の意見だけで政権を運営する事を困難にしていた。

 

「当初の予定通り均等に大臣を配置してたら批判はもっとすごかっただろうな」

 

内閣の組閣は中々決まらなかった。それはスオムス以外の人間に大臣となりうる人物を精査する為に時間をかけたことが原因だったが、あまりにも時間がかかりすぎる為、エイラは組閣する事を優先しスオムスに半分の席を与える事で妥協することとなった。

 

「結果として半分がスオムスで良かったかもしれませんね。当初の予定通りだとスオムス国民からの反発はもっと強いものになったでしょう」

 

「そうだな。それにスオムス以外の人間からの反応は好意的なものばかりだ。連邦内でのスオムス人の人口はそれほど多いわけじゃないし、国民からの支持は得ていると見ていいだろうな」

 

スオムスの人口は五百万人程度で、連邦の総人口で考えるとスオムス人の割合は一番低い。なんならオラーシャ人の割合が一番高く、次にバルトランド人となる。オラーシャは内部で幾つもの派閥に分かれている事と、バルトランドが全面的にエイラ支持な事からスオムスが連邦の主導権を流れているが、エイラ以外が大統領の候補になっていれば、スオムスは連邦の盟主に収まる事ができなかっただろう。

 

「政治面の問題はひとまず解決したとして、問題は軍事面だな」

 

「総司令官を置かず、総参謀長の私が事実上のトップとなっていますがずっとこのままというわけにはいきません」

 

「かと言って実績と実力両方を兼ね備えた指揮官は少ないからな。対ネウロイでは百戦錬磨でも、対人ではそうじゃない奴ばっかりだ」

 

「ネウロイが消え去り、人が新たな脅威となりましたから、今後の軍隊は対ネウロイよりも対人を想定して組織するべきですからね」

 

人対人の戦争が今まで一度もなかった訳ではないが、ここ数十年はネウロイを筆頭とした怪異の脅威が大きく、軍隊は対ネウロイ、対怪異を想定したものとなっていた。

そんな中一番最初に人との戦いを経験し、その相手国を吸収したスオムスは他国の一歩先を行った事は間違いない。だがそのスオムスでさえ対人戦闘に対する備えは万全なものとは言い難い。

 

「対ネウロイを想定した結果、通常兵器では破壊できないような装甲や、逆に通常兵器の装甲程度なら簡単に破壊できるようは火砲など、対人相手には過剰な兵器が生まれました。そう言ったものは往々にして高価で使い勝手悪いですが、その分強力です」

 

「だけどそう言った兵器は大抵はウィッチで対処可能だからな。あくまでもウィッチを補助する役割として運用する事が多い。なんせ高いからな」

 

ウィッチの運用コストはストライカーユニットの整備以外は通常の歩兵程度のコストしかかからない。ウィッチの性能からすればその額は極めて小さく、各国がウィッチを軍事利用するのも無理からぬ事と言えた。

 

「個人的にはウィッチの軍事利用には反対したいけど、スオムスはウィッチの力があって初めて他の列強国と対等な関係になれるからな。その力を捨て去るような事は簡単にはできない」

 

「ですから他国が対人戦闘に関してノウハウがない今のうちに先手をとって軍の改革を進める必要がある訳ですが……」

 

「バルトランドとの戦争で、戦車や戦闘機と言った通常兵器が人との戦争では十分役に立つ事が分かったからな。軍に関してもこれと言って組織改革をしなければならない物もないし、改革と言ってもなぁ」

 

戦訓を元に今後の世界情勢に相応しい形に軍を再編しようにも、現在の組織構成で十分であり変えようがない。だが現在のスオムスが列強としての地位を確立し、それを確かなものにするには世界に先立って軍事改革をする必要があった。

 

「そもそもスオムス軍は魔導軍を設立しウィッチを分離して運用しているあたり、すでに先進的な軍事構造をしていました。これをさらに改革するとなれば、ウィッチに本格的な軍人としての教育を施すしかないように思いますが……」

 

「それは絶対にダメだ。本来ウィッチは守られるべき立場の少女なんだ。ネウロイみたいにウィッチしか対応できないのならともかく、人相手の戦争にウィッチを投入するのは愚かすぎる」

 

「同感です。そんな事をすれば最終的には若いウィッチから死んでいき、いずれ怪異に対抗するべきウィッチが全くいなくなるなんて事も考えられますね」

 

スオムスとの戦争でバルトランドは一時的に保有するウィッチが開戦前の半分以下にまでなっている。その殆どはスオムスに降伏した事が理由だが、もしもそのタイミングでなんらかの怪異が発生していればバルトランドはまともな抵抗をする事ができなかっただろう。

ウィッチの軍事利用は現在行っている戦争においても大きな力となる。だが本来ウィッチは突発的な怪異の発生に対する対抗戦略としての意味合いが強い。

ウィッチは志願制であると国際条約で決まっているため、各地に政府に所属しないウィッチが存在するが、怪異の規模が大きくなれば国が統率するウィッチ部隊でなければ対応は困難だ。

 

「年齢という倫理的な問題意外にも、現実的な問題としてウィッチの軍事利用は避けるべきだ。だけどスオムス一国がそれを主張したところで、他の大国がそれを拒否したらどうしようもない」

 

「レシプロストライカーを研究し、ウィッチの更なる強化をするのが他国の方針でしたね」

 

ジェットストライカーに明らかに劣るレシプロストライカーを他国が研究開発する事は、ジェットストライカーを研究開発するスオムスからすれば好都合だ。だがその他国の意図は、より強力なウィッチ部隊で人対人の戦争を勝ち抜く事にある。

 

「つまるところ各国のウィッチは人対人の戦争でも有効な戦力としてみなすって事だな」

 

「有効な戦力である事は私達が証明してしまいましたからね。仕方のない事だったとは言え、やり過ぎた感は否めませんね」

 

「私達だけでかなりの数のウィッチを撃墜したからな」

 

バルトランドとの戦争からリバウでの動乱を経て、エイラはハルトマンの撃墜スコア396を超える399まで伸ばしている。途中参加のサーシャにしても最終的にスコアを12ほど伸ばしていて、ウィッチが人との戦争においても有用なのは疑いようのない事実だった。

 

「ある意味自業自得みたいなもんだけど、だとしてもどうにかしてウィッチの軍事利用は止めたいな」

 

「問題は私達が軍事利用をしない事が大前提になりますが、スオムスの軍事力を支えているのはウィッチの質による部分も大きいですから、結果的には自分の首を締めることになります」

 

「ままならないな。自国の力が弱まれば、その分他国からの付け入る隙が生まれて結局やりたい事ができなくなる」

 

ウィッチの軍事利用を防ぐ事がすなわち自国の防衛力低下につながる。カールスラントは当然として、オラーシャも必ずしも味方とは言えない状況でそれは避けたい事だった。

 

「こうなると今はまだウィッチの軍事利用については仕方のないものとして受け入れるしかないのではないでしょうか」

 

「問題を先延ばしにするのか?」

 

「そうです。そもそも世界情勢が不安定な中で、力を手放させるのは難しいです。なら一度世界が落ち着いてから、ウィッチを軍事利用しないように条約を作るなりする方が良いのではないでしょうか」

 

エイラは目を瞑り沈黙して熟考し、数瞬の後に目を開けた。

 

「現在を生きるウィッチを見捨てる事になるな」

 

「こう言ってはなんですが、今のウィッチは皆死を覚悟してウィッチになったものの方が大多数のはずです。なぜなら数年前まで身近にネウロイという脅威を認識し、ネウロイから民間人を守るウィッチの姿を実際に見ているのですから。相手が人に変わっただけで死のリスクは変わっていません」

 

「……暴論だな」

 

「そうですね。ですが先送りを決断する理由くらいにはなるんじゃないでしょうか」

 

サーシャの言葉にエイラは苦しそうに小さく頷くいた。




暑さを軽減する固有魔法とかないんですかね。
ふと思ったんですが、ウィッチは使い魔の耳とか尻尾が体に現れますけど、例えば白熊とかって寒さに比較的強いですけど使い魔の特性みたいなのとかって現れるんですかね。
サーシャなんかは元々雪国生まれだから寒さには強いでしょうけど、例えば南国出身のウィッチが白熊なりペンギンなりを使い魔にして魔法力を発言した時、寒さに強いのか。あるいは白熊が使い魔なのに寒さに弱く暑さに強いちょっと面白いウィッチができるのか。どっちなんでしょうね。
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