「ひ、久しぶりだなサーニャ」
久しぶりとは言ったものの、長らく連絡を取らずに放置同然でいた負目から気まずそうにそう言った。
「久しぶりね、エイラ。サーシャさんもお久しぶりです」
「久しぶりですね。本当はもっと早く会いに来たかったのだけど、思いの外忙しくてこんなにも遅くなってしまいました」
サーシャがサーニャに会える機会は何度かあった。亡命した直後は諸々の手続きでヘルシンキに滞在していたため、会おうと思えば会う事ができた。だが手続きはスオムス語で、502部隊として一時期滞在していた関係から多少分かるといえど久しぶりのスオムス語での手続きに手間取り結局会う事ができなかった。
「サーシャさんは前線でお仕事してたんですから仕方ないですよ」
「わたしも前線にいたんだけど……」
「エイラは元からスオムス軍の人でしょ。サーシャさんは助けを求めてスオムスに来た亡命者じゃない。全然違うわ」
呆れた様子でサーニャは言った。忙しかったのは事実だが、エイラとしてはサーシャに対する反応とあまりにも温度差があるように感じられた。
「わたしもサーシャと一緒に危険な前線にいたんだから、少しくらい心配してくれてもいいだろ」
「サーシャさんならともかく、エイラに危険な前線なんてないでしょ」
「それはそうかもしれないけどさぁ」
エイラの反応にサーニャはくすくすと笑うと、二人を家へと招き入れた。
「それにしても随分と久しぶりに帰ってきたけど、ほとんど変わってないな」
エイラはサーニャとその家族の住居として自宅を提供していた。掃除などに関しても人を雇って維持する事になっていて、サーニャ達が望めばエイラの自室以外は好きにしていいとも伝えていた。
「エイラの家だもの。あまり手を加えすぎてもよくないと思ったの」
「そんな気にしなくていいのに」
「そうですよサーニャさん。私と違って無理矢理連れてこられたんですから、思う存分メチャクチャにしてやればいいんです」
「人聞きが悪いな。確かにサーニャはわたしがスオムスに呼び寄せたんだけど、その理由はオラーシャできな臭い動きがあったからだぞ。正直バルトランドとの戦争とかは予想外だった」
エイラがサーニャをスオムスに呼び寄せた理由は、オラーシャでなんらかの政治的混乱が起きる予感があったかりだった。実際バルトランドと開戦前、オラーシャは各地でデモ起きたり要人が他国へ逃れようとする動きがあった。それが直ぐに内乱に直結するとは思っていなかったが、高名な元ウィッチであるサーニャが巻き込まれないはずがなく、スオムスに避難させる目的で呼び寄せる事になった。
実のところサーシャにもスオムスに来るよう呼びかけていたが、こちらはサーニャとは違いその理由を隠す事なく伝えていた。しかしサーシャに関してはスオムスに来る事はなく、ペテルブルクでの反乱に巻き込まれる事になった。
「バルトランドとのスオムスの戦争は驚きましたね。オラーシャの新聞でも不可解と言う言葉を用いて記事になっていました」
「あれに関しては未だに真相が分からないけど、どうやら王族連中からの指示があったらしい。当人達はバルトランドからブリタニアに亡命してるから真相を知る事はできないけど、多分カールスラントあたりと何か取引があったんだろうな」
バルトランドによるスオムス侵攻は、様々な要因が絡み合った結果だった。エイラの言う王族からの支持もそうだが、それ以外にも国力の割に強大な軍事力を誇るスオムスと言う国そのものへの恐怖心が、軍事侵攻という手段をとった要因の一つだった。
「……カールスラントではなく、オラーシャという可能性もあるんじゃないでしょうか。いくら友好国とはいえ、同盟国でないスオムスがオラーシャの混乱に乗じる可能性は十分あります。それを防ぐ為に、バルトランドをけしかけたとか」
エイラもその可能性を考えなかった訳ではないが、考えた上でその可能性は相当低いと判断していた。
「もしもオラーシャが戦争を起こしたいのなら、スオムスから仕掛けさせると思うんだよな」
「どうやってですか? スオムスにはなんのメリットもありませんよ」
「そうだな。だけどオラーシャの仮想敵国であるカールスラントの友好国であるバルトランドに働きかけるよりは、よっぽど現実的だ」
バルトランドがスオムスに攻め込んだ厳密な理由は定かではないが、少なくともオラーシャ単独の働きかけでない事だけは確かだとエイラは思っていた。
「ですがカールスラントとオラーシャが共謀すれば……」
「サーシャさんはオラーシャがバルトランドを唆したと思ってるんですか?」
「そうではありませんが、あの侵攻は後の情勢を考えればオラーシャにとって都合が良かったと思うんです。もしもバルトランドが残っていれば、反乱が起きた時にバルトランドとスオムスを経由してガールズランドがオラーシャに侵攻して来る可能性がありました。ですが現実はバルトランドがなくなり、カールスラントだけが二正面作戦を強いられる形になっています」
仮にバルトランドが健在の状態でオラーシャで反乱が起これば、カールスラントはバルトランドからも部隊を送り込もうとしただろう。だがスオムスがバルトランドを併合したことで、その心配はなくなくなった。両手を振って、という訳ではないが以前よりも反乱が起きた際に気にしなければならない事が減ったのは事実だった。
「実際は多分その逆だぞ。カールスラントもノイエ・カールスラントで反乱の気配を察知してたんだろうな。それでスオムスを通じてバルトランドから側面を犯されたくなくて、先手を打ってスオムスを潰そうとしたんだろうな」
「その結果返り討ちにあったと。たしかに、カールスラントは義勇軍を送ったり何かときな臭い動きをしていましたね」
「だからサーシャの心配するように、オラーシャが仕掛けたって事はないと思うぞ」
それでもカールスラントとオラーシャが共謀して北欧に戦火をもたらした可能性は残るが、領土問題などで仲の悪い両国が共謀する事は考えにくかった。
「サーニャはオラーシャに戻りたいか?」
「戻るっていうのは、オラーシャの反乱が終わった後にって事?」
「まぁ、そうだな。今のサーニャはまだ亡命者じゃないからスオムスの国籍がない。望むのならサーニャの両親の分も合わせてスオムス国籍を与えれるけど、もしも反乱が終わった後オラーシャに戻りたいのならない方がいいと思うんだ」
サーニャは反乱前からスオムスに旅行者として滞在している。現在はオラーシャが反乱により危険地帯となった事で、オラーシャへの直通便を制限した為出国できずにいる。その為法規的措置により滞在可能日数を変えてもスオムスに滞在する事が出来ているという扱いだった。
「お父さんお母さんは分からないけど、わたしはもう戻らないわ。オラーシャから亡命してきたウィッチ達が、相談に来たりエイラと連絡を取る為に訪ねてきたりしてるし、反乱が終わったからって亡命してスオムスに根差した子達を見捨てて一人だけオラーシャに帰るなんてできないもの」
「亡命したオラーシャのウィッチがここに来てるのか?」
「そうよ。わたしは一緒の部隊で活動してたからエイラと連絡を取りやすいって思ったのか色んな子達が訪ねてきたわ。新天地で不安がってる子もいたし、色々相談に乗ってたの」
それは本来、サーシャにしてもらおうと思っていた事だった。オラーシャからの亡命ウィッチの心身のケアや場合によっては働き先の斡旋など、身の回りの事を手助けする役目はスオムスで高い地位についたサーシャならその地位を活かせば簡単に実行できる事だったからだ。
「ごめんなサーニャ。本当ならそう言うのはわたし達がやらないといけないのに」
「わたしが好きでやった事よ。だけどエイラもサーシャさんも忙しかったから、直接連絡を取れなかったからあんまり役に立たなかったわ」
「そう言う事でしたら、今後はこの家からの電話はどんなに忙しくても絶対に取り継ぐよう指示しておきます。私も同じオラーシャのウィッチが困っているのになんの手助けもしないわけにはいきませんから。エイラさんもそれでいいですよね?」
「そうだな。わたしも大々的に受け入れる事にした手前、そのまま放置なんてしたくないからな。ましてや同じウィッチなんだから、手助けするのは当然だよ」
そういえばパイロキネシスとかみたちな分かりやすく魔法っぽいのを使うウィッチていないですね。なんでなんでしょうか