「見ろよサーシャ。オラーシャも、内乱の対応に大々的にウィッチを投入し始めたぞ」
両国ともに、当初は通常兵器での対応を模索しウィッチの大規模投入には消極的だった。他国と戦争をしたスオムスと違い、自国の人間を少女達に撃たせると言う行為が、国内外からの批判を招くと判断していたからであった。
しかしガリアでペリーヌがウィッチ隊を率いて南部ガリアを攻撃した一件が全てを変えた。ペリーヌと言う偉大なウィッチが率いたからこそ批判が少なかった側面があったが、それでもガリアの議員がウィッチ隊を率いて戦闘を行ったと言う事実はそれを覆い隠して余りあるほどの前例だった。
「戦争にウィッチを使ってしまったわたしが言うのも変な話だけど、ウィッチってのは本来ネウロイに対抗する為に存在していたはずだ。それなのに……」
疲れた様子で息を吐くエイラに、サーシャは寄り添い言った。
「禁忌の扉を開いた責任はエイラさん一人にある訳ではありませんよ。先に使ったのはバルトランドですし、ペテルブルクではオラーシャ反乱軍も用いました。たった一人の過ちであれば、人は過ちと認識できます。ですがその後に続くものがいたのであれば、それは過ちではなく正しい行いであったと認識されます」
「ウィッチを戦争に使った事が正しい事だったってか? 馬鹿なこと言うなよ。少年兵が非難されて、同じくらいのウィッチが戦争に利用されて非難されないわけがないだろ」
「私もそう思います。ですが思うに、人とは慣れる生き物なのではないでしょうか」
「慣れる? 少年兵を使う事にか?」
実質的に少年兵であるウィッチを戦争で用いる事に慣れるとはエイラは到底思えなかった。スオムス軍がなるべくウィッチを使わず、要所要所でエイラが出張っているのは、ウィッチを最前線で使いたくないと言う思いからだった。
「そうです。ウィッチを戦争の道具にすると言う禁忌の扉の鍵を開けたのは私達である事は疑いようがありません。ですがその扉を開けたのは、私達ではないと思うんです」
「扉の鍵を開けたのなら、開いたのもわたし達だろ。ウィッチが人との戦争でも有益な道具であることを示したんだから」
「いいえ、違います。たしかにウィッチを戦争で使いましし有益性も示しました。ですがその愚かさは私達がウィッチを撃墜した事で示してきたはずです。本来国の将来を担うべき少女達を撃ち落とすという残酷な行為は、それを示すのに十分だったはずです」
一連の戦争で撃ち落とされた少なくないウィッチの中からでた死者は決して少なくない。それはエイラはもちろん、サーシャが撃墜したウィッチからも数は少ないが死者が出ている。各国上層部において、ウィッチが戦争に使われる残酷さを二人ぼど知るものはいない。
「最初に使ったのこそバルトランドですが、その対応策としてスオムスがウィッチを用いたのもまた事実。そして私はそれを諌める事なく、スオムスがウィッチを使う事を容認してきました。今更どの口がと言われるかもしれませんが、あえて言わせてもらいます」
緊張をほぐすようにサーシャは息を吐くと一息に言った。
「今の私達には力があります。国際社会に対して倫理観というものを持つべきだという命題を投げかける事ができるんです」
「……今更だな。それをするのならせめてスオムスはウィッチを、少年兵と呼べるような年齢のウィッチだけは使うべきじゃなかったな」
上がりを迎えたウィッチだけを用いていたのであれば、スオムスは堂々とウィッチの軍事利用をやめるよう国際社会に訴える事ができただろう。しかしスオムスは既にウィッチを軍事的に利用してしまった後だ。その主張が簡単に受け入れられるものではない事は明らかだった。
「そうですね。ですが扉というものは鍵を開ける事と開くことだけが役割ではありません。鍵を開けられたのなら鍵を閉める事ができますし、扉を開けたのならそれを閉める事もできます」
「そんな事は分かっているよ。問題は扉の中から必要なものを取り出して好き勝手した奴が、それを戻して誰も使うなって言ったところで、いったい誰が言う事を聞くんだよ」
スオムスが大きくなれた要因の一つにウィッチがあった事は言うまでもない。スオムスがここまで大きくなれたのは国力の割に強力なウィッチが揃っていたからであり、他の国が真似をしようにも簡単にできる事ではない事は明らかだ。だが中小国が起死回生の一手としてウィッチを投入する事で現状を打破しようとする可能性は高い。
スオムスほど強力ではなくとも、通常兵器よりはよっぽど費用対効果の高いウィッチは、どんな国でも怪異対策の名の下に一人は必ず保有している。そのウィッチが人との戦争でも有効となれば、戦争に用いる誘惑に耐えられない国も出てくる事は間違いない。ましてや、既にその扉は開けられた後だ。以前よりもよっぽど簡単にそれは行われるだろう。
「ネウロイとの戦いで各国がぶつかり合わなかった理由は、一つの軍隊として動いていたからです。またそれを再現すれば、ウィッチ同士、いえ人同士の戦争は起きなくなるんじゃないでしょうか」
「無理だろ。あれはネウロイって言う共通の敵がいたからこそだ。それにサーシャだって知ってるだろ。連合軍の中にどれだけ多くの対立があったのか」
軍事力の衝突がなかったと言うだけで、内部では常に対立があったの。国の意見を代弁した形での対立もあれば、単純な個人間の諍いからの対立もあった。エイラであれば、ベルリン奪還前はパットン将軍と意見の相違から対立関係にあり、他に連合軍上層部ではそのような対立は絶えなかった。
「ではウィッチだけに限定したらどうでしょうか」
「それはそれで問題があると思うぞ。一つの部隊を率いて戦ったウィッチは数多くいるけど、組織を率いるとなると話は別だ。数える程、わたしやガランド中将くらいなもんだ」
「何もウィッチだけで組織を作る訳ではありません。ウィッチ以外からも人材を集める事で、組織を円滑に運用できるようにするんです」
早いものであれば10歳程度から軍に所属して訓練を受けるウィッチは、同年代の少女と比べると勉強面で劣る場合が多い。これは軍隊において必要な事を優先するからであり、一般社会においては必要とされないケースが多い。
だからこそサーシャは組織運営に必要な人材を外部に求めようとしたが、エイラは難色を示した。
「ウィッチの苦悩はウィッチだからこそ分かる。ウィッチを最初に軍事利用したのはバルトランドで、非ウィッチの軍人だ。ウィッチでない人間を招き入れて都合よくウィッチを使われるような事があれば目も当てられないぞ」
「ですがウィッチだけの組織では、組織の体を成さない可能性があります」
サーシャの言葉に、エイラは顎に手を当てしばらく考えると口を開いた。
「いや、やっぱり世界中のウィッチを一つの組織に所属させるのなら、全員ウィッチと元ウィッチで組織を作らないとダメだな」
反論しようと口を開こうとするサーシャを手で制すると、エイラは説明を始めた。
「スオムスではないけど、扶桑とかロマーニャ、リベリオンあたりだと元ウィッチが犯罪者に身を落とす事例が増えてるらしいんだ。殆どのウィッチは完全に魔法力を失う訳じゃないから、上がりを迎えたとしても一般人よりはよっぽど強い。一部の国の裏社会じゃあ元ウィッチを囲い込む動きがあるらしい」
扶桑ではヤクザ、ロマーニャではマフィア、リベリオンではギャングと呼び名は様々だがいずれも組織犯罪の呼び名の一つだ。
「世界のために懸命に戦ったウィッチがそのような悲惨な目に会う事は嘆かわしい事ですね。ですが、私達には他国の事に首を突っ込む権利はありません」
「そうだな。だけどサーシャが考える組織を、元ウィッチの受け入れ先として用意すれば、そんな事態は減ると思うんだ」
「必要なのは組織運営ができるようなウィッチか元ウィッチですよ。優秀なウィッチなら犯罪に関わる事はないでしょう」
犯罪者になった元ウィッチの主な仕事は抗争の際の鉄砲玉が殆どだ。下っ端もいいところであり、サーシャが望む仕事をできる人材がそんな事をしているとは考えにくかった。
「だから教育もこっちでするんだよ。教育が終わった後、規定年数組織に所属すれば好きに生きていいようにすれば、知識だけ手に入れて逃げられるなんて事も少ないだろうし、何より仮に組織が嫌になって辞めた後、犯罪者以外の選択肢が手に入る。わたし達にとっても、元ウィッチにとってもいい事ずくめだと思うんだ」
「初期投資が大きく軌道に乗るまで時間がかかるのと、各国の協力をどうやって得るのかと言う問題はありますが、それならウィッチに関する問題の多くを解決できますね」
感心した様子で頷くサーシャに、エイラは笑顔を浮かべた。
「幸いわたしはスオムス大統領なんていう高い地位を得たんだ、これを利用しない手はないな」
「そうですね。説得に時間はかかるかもしれませんが、やる価値はありそうです」
いつかの後書きにも書いた気がしますが、多分戦後のウィッチって犯罪組織に流れた人も多いんだろうなと思います。まぁ、普通に結婚とかもありそうですが、特に荒廃の酷い国であればあまりいい未来はなさそうな気がします。