ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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久しぶりに本格的な推理小説を読みたくて四千円分くらい本を買いました。


存外変わらない

「サーニャひっさしぶり〜!」

 

「久しぶりね、ルッキーニさん」

 

エイラ達と話した後、ルッキーニはエイラが郊外に所有する屋敷に向かった。ヘルシンキの宮殿に滞在するマリア公女や他の縞ズボン隊と違い、ルッキーニはこの屋敷を滞在先にする許可を得ていたからだ。

暫く思い出話に花を咲かせ後、自然と話はかつての戦友(なかま)達の話へと移って行った。

 

「ルッキーニちゃんは最近誰かと会ったりしたの?」

 

「一番最近だとマリアの公務についてリベリオンに行った時にシャーリーと会ったよ」

 

ルッキーニは公女の護衛として公務についていく事が多く、最近は何かと外交関係の公務の多い公女について各国を巡っていた。

 

「シャーリーさん元気そうだった?」

 

「うん。ウィッチ養成学校の校長を意外と気に入ってるみたいだったよ」

 

養成学校の校長と同時に新型ストライカーのテストパイロットも兼任していたが、ルッキーニにはそちらよりも養成学校の校長の方を楽しんでいるように見えた。

 

「シャーリーさんは面倒見がいいし、養成学校の校長は会っていると思うわ」

 

気が合ったと言うのは勿論だが、部隊最年少のルッキーニの面倒を率先して見ていたあたり、面倒見がいいのは間違いない。そんなシャーリーがウィッチ養成学校の校長になったと知った時、サーニャはピッタリな役職だと思い、ルッキーニの話でそれが間違いでなかったと確信する事ができた。

 

「シャーリーさんはしっかり者だし、あんまり心配してなかったわ。本当は自分で会いに行きたいけど、今のスオムスからわたしが出る事は難しいわ」

 

「どして? エイラは言えスオムス体してくれるんじゃないの?」

 

「わたしの立場だと戻って来れるかどうかわからないわ」

 

サーニャの立場は複雑だ。少し前にエイラのはからいでスオムス国籍を取得したが、オラーシャ国籍も所有している。オラーシャに戻れば予備役の召集で軍に戻らされる可能性が高く、カールスラントは言わずもがな。リベリオンや扶桑にしても、軍事に関しては最先端にいるスオムスの最高司令官であるエイラと親しい間柄のサーニャは、何かと理由をつけて出国させない可能性は十分にあった。

エイラはサーニャが祖国に帰りたがっているのではないかと思っているが、そんな考えとは裏腹にサーニャは自分の立場をよく理解していた。

 

「あたしにはどうしてサーニャがそう思うのか分からないけど、多分エイラはサーニャが望めばどれだけ時間がかかっても願いを叶えてくれると思うよ」

 

「そうかしら」

 

「そうだよ。だってエイラはあたしにとってのシャーリーみたいなものじゃん。シャーリーはあたしがお願いしたらなんでも叶えてくれたよ。ならエイラだって同じだよ」

 

サーニャとエイラの関係はルッキーニとシャーリーの関係とはやや異なると言うのがサーニャの認識だった。特に最近のエイラは国家元首として国民の生活に対して責任を持たなければならない立場になった。サーニャだけを特別扱いできるはずがない。

そう思ったが、それを直接ルッキーニに伝えたところで理解を得る事ができると思えず、結局口にする事はなかった。

 

「他には誰か会った人はいるの?」

 

「後は扶桑に行って芳佳と会ったよ」

 

「芳佳ちゃん元気そうだった?」

 

「元気そうだけど、忙しそうだったよ。後また海外に出て最新の医療を勉強したいって言ってた」

 

元統合戦闘航空団所属となれば、国外に出るのは一般人よりも難しい。いくら上がりを迎えていても、少しばかりの魔法力は残っている者が大多数だ。迂闊に他国に送り込んで取り込まれでもしたら大問題なる上、出先で問題でも起こそうものなら国際問題にも発展しかねない。

そんな理由から、統合戦闘航空団に所属していたウィッチは出国を制限されている。例外としては戦前のスオムスとオラーシャのような友好関係にある国や、ルッキーニのように任務での出国があるが、大抵の場合は出国が困難だった。

戦前でさえ困難だった出国に拍車をかけたのは、エイラとサーシャの活躍だった。元統合戦闘航空団所属のウィッチが現役ウィッチを返り討ちにし続けた事で、元統合戦闘航空団のウィッチの評価は上がった。

その活躍にはレシプロ機が大きな役割を果たした言う考えがあるが、それでも本人達の実力が高い事は疑いようがない。それ故に各国は統合戦闘航空団に所属した事のあるウィッチを国外に出すことに消極的だった。

 

「戦争が終わって平和になれば、みんなと好きな時に会えるんだって思ってたわ」

 

「あたしもそう思ってた。距離は遠いけど、シャーリーのいるリベリオンにももっと簡単にいけると思ってたし、カールスラントとかガリアみたいな近くの国なら休みの日に遊びに行って、日帰りで帰るみたいな事もできるんだろうなって」

 

「けど実際は国同士の関係が悪かったりして、気軽に隣の国を訪れるなんてできないわ。むしろネウロイが出現する前よりも悪くなった気がする」

 

サーニャはかつて音楽の勉強のために他国に留学していた経験を持つ。当時どうやって留学の許可をとったのかは定かではないが、今ほど煩雑な手続きは必要なかったことだけは確かだった。

 

「そだね。あたしはマリアについて外に出る機会が多いけど、普通の人はそんな事はないみたいだし。せっかくネウロイがいなくなったのに、どうして同じ人同士でこんな事になるんだろうね」

 

心底不思議いった様子のルッキーニに、サーニャは苦笑いを浮かべた。

 

「同じ人間同士だからこそじゃないかしら。どんなに仲のいい人間どうしても喧嘩をする事はあるわ。人同士の喧嘩なら精々が殴り合いで、死人が出る事はないけど、国同士だと殴り合う人数が何十万人にも増えてしまうわ。そしてその増えた数のぶんだけ、相手を許す事が難しい人も増える。結果的に仲違いしたまま、長い間仲を戻す事ができずに国同士の関係は悪化するんじゃないかしら」

 

サーニャの言葉の意味をルッキーニは理解できなかったようで、ポカンと口を開けて身動きを止めた。

 

「ルッキーニさんシャーリーさんが喧嘩をしたらルッキーニさん達だけが仲直りをすればいいでしょ。だけど501と502が喧嘩をするのだと両方の隊員全員が納得できないと仲直りができないわ。国同士の喧嘩なら尚更仲直りが難しくなるんじゃないかしら」

 

「じゃあ国の一番偉い人同士が話をつけたらいいんじゃないの? あたしなら部隊の隊長が仲直りしましょうって言ったら、どんなに嫌でも仲直りの握手くらいはするよ」

 

何かとトラブルメーカーなイメージがあるが、悪い事をして罰則を与えられたら逃げる事なく受け入れる素直さがあるのがルッキーニの長所だ。部隊の隊長から仲直りをしろと言われればそれに抵抗せずに受け入れる事ができるのは、そんな素直さ故だろう。

 

「ルッキーニさんはそうかもしれないけど、皆んながそうじゃないのよ。例えばだけど、バルクホルンさんがミーナ隊長に止められて大人しく喧嘩を止めるような人に見える?」

 

「全然見えない。多分ギリギリまで反論して粘るんじゃないかな。それでも諭されるようなら、悔ししそうな感じで言うこと聞くんじゃないの」

 

「そうでしょう。国同士でもバルクホルンさんみたいな人や、それ以上に強情な人がいれば、仲直りは難しいわ」

 

サーニャの言葉に、ルッキーニは納得した様子だった。

 

「そっか。なら強情な人を全員説得すれば、国同士はまた仲がよくなるね」

 

「そんな単純な話じゃないと思うけど……」

 

「だけどいつかはそんな人がいなくなって、また前みたいに仲良くなれるって事じゃん」

 

ネウロイとの戦争でさえ、各国は一枚岩とは言い難かった。ルッキーニにその認識はないが、サーニャはそれをよく理解していた。

 

「そうかもしれないわね」

 

ルッキーニの記憶にあるネウロイとの戦争は、各国が手を取り合いネウロイと言う脅威に対抗した時代だったのかもしれない。いや、多くの人にとってはそうだったのだろう。しかし少し視点を変えてみると、軍上層部はネウロイとの戦い方を巡って対立し、各国政府は自国が利益を得られるように立ち回る。表に出ていなかっただけで存外、今と変わりのない事をしているとサーニャは思うのだった。




何も思いつかないのでなしで。
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