筆者自身は当時居候させてもらっていた家の家主経由で、噂程度では知っていた。だがこの事件が世間に認知されたのは随分と後になってからのようだった。
《中略》後になって考えてみると、この事件が起きた時期あたりから各国の要人警護が厳重になったように思う。以前であれば取材の際の対応は他の記者と筆者とで違いはなかった。しかしこの事件が起きた頃から、筆者に対しては厳重なボディーチェックがなされ、質問の際にも一挙手一投足に注目されるようになった。
リベリオンからウィッチ隊が到着し、スオムスのウィッチ隊との演習を開始したのは1951年が終わる一ヶ月前の事だった。
「リベリオンウィッチはどんな感じだ?」
スオムス側の指揮官としてリベリオンと交流しているのはニパだった。スオムス魔導軍の前線指揮官の中で最も実力が高く他国との交流経験があるため、当然の人選といえた。
「個人の実力はスオムスの方が高いけど、部隊の練度で考えたらやっぱりリベリオンの方が強いよ。戦闘では徹底してロッテを崩さないし、指揮官の命令に対する反応も速い」
スオムスは少数のウィッチで最大の戦果を上げる事に長けている。ウィッチが貴重な存在である事はどの国も変わらず、できる事ならば集団で運用して損耗を避けたいのが本音だが、それができるのはリベリオンのような大国の特権だった。
スオムスのような国では少数のウィッチによる戦闘が当たり前であり、部隊の強さよりも個人の強さの方が重視される傾向にあった。
「だけどそれだけだよ。連携は上手くても個人個人の練度が低いから個人の技量で押し切れるし、総合的に見ればこっちが上だよ」
「ならニパは相手の隊長から部隊指揮のノウハウを盗むべきだな。それでスオムスウィッチ部隊の連携を強化するんだ」
エイラの言葉にニパは思わず眉を顰めた。
「スオムスに連携力が必要とは思えないけど」
スオムスは国力の関係上、他のウィッチと連携しての戦闘よりも少数のウィッチによる戦闘が多くなる。スオムスよりも国力の小さな国相手であれば部隊を用いて戦えるかもしれないが、周辺にはそんな国は存在しない。
「今後必要になるかもしれないだろ。今のスオムスウィッチはわたし含め個人の技量で解決するきらいがある。数十年先を見据えて、今から訓練するべきだ」
「わたしはともかく、イッルは部隊指揮も上手いよね。イッルが教えればいいじゃん」
「わたしのは固有魔法ありきだからな。それがなければ部隊の指揮はそんなに上手くないんだ」
エイラは部隊指揮官としても高い評価を得ているが、それは自身の固有魔法である未来予知で戦場全体の未来を知っているからこその指揮能力だった。それがなくてもウィッチに限ればエイラの指揮能力はトップクラスではあるが、ウィッチ以外の人間まで含めると固有魔法を使わないエイラの指揮能力は普通か、少し指揮が上手い程度のものだと言うのが平自己評価だった。
「そんな事ないと思うけどなぁ。イッルが上手く無いんだったらスオムスがここまで大きくなる事はなかったと思うんだけど」
「わたしの指揮能力とスオムスが大きくなった事は関係ないぞ。わたしはただ指示を出してただけで部隊の指揮は殆どしてないからな」
「そう言えばそうだったね。だけどイッルの指揮が上手くない事はないと思うよ」
「ありがとう。だけどもし仮にそうだとしても、わたしに教える時間はないし、仮にあったとしても上手く教えられる自信はない。何よりスオムスのウィッチ部隊の運用自体が世界水準に達しているとは思えないから、スオムス流のやり方よりも集団戦の上手いリベリオンに習う方が確実だ」
個人プレイの多いスオムスにはない、集団戦闘のノウハウを欲しがるのは理解できるが今早急に必要になるものかと言えばそうではない。第一、世界におけるウィッチの最先端は間違いなくスオムスだ。そんな考えからニパはエイラが集団戦闘のノウハウを欲しがる意図が理解できなかった。
「そこまで言うならリベリオンの隊長さんからできる限り技術を盗んでみるけど、そんなに必要なことかなぁ」
エイラに説得されてもなお納得がいかない様子だったが、仮にも国のトップであるエイラから言われて最後まで押し通すほど自分の意見に自信のあるわけでもなく、最終的にニパはエイラからの命令を受け入れるのだった。
そうしてニパが立ち去り暫くすると今度はサーシャがエイラの部屋を訪ねてきた。
「ニパさんは承諾しましたか?」
「かなり不満そうだったけどな。それよりそっちはどうだったんだ」
「今の所不審なウィッチはいませんね。全員真面目に演習に励んでいます」
サーシャは現在、事実上のスオムス軍のトップであるが現在は比較的仕事が少なかった。旧バルトランド軍含む連邦構成国の軍を一つにまとめると言う作業があるがそれらは各軍の長、例えば魔導軍であればハッセが主導し、最終的な決済だけをサーシャがする事になっていた。
その時間を有効活用すべく、リベリオンとの演習にはサーシャが現場に赴き監督していた。
「つまりわたし達の懸念はただの懸念で済みそうって事か?」
「それを知る為にも、ニパさんにリベリオンの隊長から技術を盗めと命令したんでしょう」
ニパにリベリオンの隊長から指揮のノウハウを盗めと命令したのただの方便だった。技術を盗むのにかこつけて、リベリオンの隊長を監視させるのがエイラ達の思惑だった。
「ニパに見張るなんて言う器用なことができると思えないけどな」
「私も同意します。ですがだからこそ自然と監視できるように技術を盗めと指示してもらったんですよ」
「それはそうだけどさぁ、アイツの場合真面目に技術を盗もうとするだけで怪しい動きを見逃すんじゃないか?」
良くも悪くも真面目なニパは、エイラに言われた通りリベリオンの隊長から技術を盗もうとするだろう。その過程で少しおかしな動きがあったとしても、それに気が付かない可能性があった。
「その可能性はありますね。ですがだからこそ私が監督役として演習を監視しているんです」
「それはそうだけど……」
502ではニパの上官だったサーシャは、ニパの事はエイラと同じくらいよく知っている。だからこそサーシャはリベリオンとの演習に参加したのだった。
「それにウィッチ隊が怪しいと言うのはあくまでも私達の主観でしかないんです。もしかしたら本当に何もなくて、ただの杞憂かもしれません」
「それならそれでいいんだけどな。ブリタニアが面白い情報を寄越してきた。それも自主的にだ」
基本的にブリタニアとの情報のやり取りはスオムス側が対価を提示した上で行われる。バルトランドの王族関係で対立する事はあるが、情報取引に関しては以前とほとんど変わらずにやり取りされている。
「ブリタニアが言うには今回派遣されたウィッチに一人だけ経歴が不明の奴がいるらしい」
「経歴不明ですか?」
「誰かまでは教えてくれなかったけど、そいつは1945年頃に養子になっていてそれ以前の経歴が不明なんだってさ。多分これは警告だろうな」
ブリタニアは欧州が安定する事は望んでいないが、だからと言って混乱がいたずらに大きくなることも望んでいない。ここでスオムスが再び混乱する事をブリタニアは望んでいないのだろうとエイラは考えた。
「誰かまで教えてくれれば良かったんですけどね」
「ブリタニア王族に近い連中が止めたんじゃないかな。スオムスとブリタニアは情報のやり取りはしてるけど、バルトランド王族の件で敵対しているのも事実だ。多分全ての情報が渡されなかったのはそれが原因だろうな」
誰がその人物なのか教えなかった理由は不明だが、スオムスとブリタニアはバルトランド王族関係で敵対している。それが原因で一部の情報が遮断された可能性は高かった。
「面倒な話ですね。バルトランド国民から王族に対する感情は最悪なものだと言うのに。今更戻ってきてもバルトランド国民の手で殺されるだけですのに」
「全くだ。けどそれが分からない奴らがいるんだろうな」
バルトランド王族が戻る事は、少なくとも今を生きるバルトランド人がいなくなるまではあり得ないだろう。だがそれが分からない者もブリタニアには、特に王族を中心に存在していた。
「だけどブリタニアが多少とは言え情報を寄越してくれたのはありがたい事だな。これでわたし達の懸念が正しかった事が証明されたんだからな」
後書きのネタがないですねぇ。