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「久しぶりにエイラさんの占いを見ましたけど、そのカードはどう言う意味なんですか?」
エイラの手元のカードを覗き込んで尋ねるサーシャに、エイラは眉間に皺を寄せて答えた。
「逆位置はあんまりいい意味にはならない。不当な扱い、贔屓。あんまりいいとは言えないな」
「今日のリベリオンウィッチとの懇親会で、何か不当な扱いを受けると。そう言う事ですか?」
「それは分からない。だけど占い結果がよくないのは事実だな」
エイラの占いの精度はかなり高い。外れる時もあるが固有魔法が影響を与えているのか、はたまたエイラの腕がいいのか不明だが特に悪い占い結果に関しては殊更よく当たった。
「適当に理由を向けて懇親会への出席を取りやめますか?」
「リベリオンの目的の一つはわたしと話してレシプロストライカーがジェットストライカーよりも優秀な理由を知る事なんだぞ。肝心のわたしと話さずに送り返したら後から何言われるかわかったものじゃない」
「では参加予定のニパさん達に武装させて護衛を兼ねてもらいますか?」
「それもダメだ。相手を萎縮させる事になるし、もしそれで事が起きないのならそれはそれで困る」
エイラとしてはリベリオンの思惑が何であれ、激発させた上でそれを取り押さえ、思惑を暴いた上で行動を起こしたいと考えていた。その為には自身が囮となる事は厭わず、なんなら自分が取り押さえるつもりでさえあった。
「意図は理解できますが、今のエイラさんはスオムスの大統領なんですよ。軽はずみな行動は控えるべきです」
「多少の危険は犯してでもチャンスをものにするのがウィッチってものだろ」
「今の貴女は背負っているものの重みが違うと言っているんです」
スオムスを中心として連邦国家ができた最大の要因は間違いなくエイラだ。現代では極めて異例な個人の武力を評価されて、その武力を中心として連邦国家は形成された。
数年後、十数年後であればエイラがいなくとも国は機能するだろうが、今現在ではエイラに何かあればバルトランドやペテルブルクがどのような動きをするか全く想像がつかなかった。
「だけどリベリオン相手に弱みを握れるならそれに越した事はないだろ。本来スオムスがあるはずだった物よりもより多くの物を得られるかもしれないんだしさ」
「未来のスオムスより今のスオムスです」
「安心しろよ。出たカード的には良くないけど、別に死ぬわけじゃないんだ。もし何か起きても今より悪くなる事はあり得ないよ」
出たカードは死を意味するかものではない。あまり良くないが、カードの意味合いからしてスオムスそのものに影響を与えるような事ではないとエイラは考えていた。
「それはそうかもしれませんが、一人の友人としてエイラさんが自ら進んで危険な目に会いにいくのを見るのは心苦しいんです」
思わぬ発言にエイラは言葉に詰まった。仕事に関係する事であればいくらでも反論できたが、友人として心からの忠告であったのならば話は別だ。
「卑怯な奴だな。それを言えばわたしが考え直すって思って言ってるだろ」
「なんとでも言ってください。私がエイラさんの事を友人として安じているのは事実なんですから」
「そっか。だけど考えは変わらないぞ。どんな危険な目に会うとしても、わたしは出る。それでリベリオンの意図を明確にして、可能ならスオムスの為に利用する」
エイラの言葉にサーシャは呆れた様子でため息を吐いた。
「エイラさんは意外と頑固ですよね」
「分かってるなら変な小細工するなよな」
「そうはいきません。エイラさんに何かあれば大変な事になるんです。エイラさんが積極的な行動をする分、私が抑え役として諌めないと考えなしにどんどん物事を進めるじゃないですか」
「ちゃんと考えた上でやってるぞ」
不満気な表情で訴えるが、サーシャは胡乱な様子でエイラを見た。
「普通の人であれば、最上位の人間が最前線に出て迎撃したり部隊を指揮したりするとは思いませんよ」
「スオムスは人手不足なんだぞ。動けるのなら最高指揮官だろうがなんだろうと使うさ」
連邦となる前のスオムス航空ウィッチは、飛行学校の教官などを合わせても百五十名程度だった。その人数でスオムス全土を守るのは流石に人手不足感が否めない。
「スオムスでの話だけじゃありません。ネウロイと戦った時だって、エイラさんはウィッチ隊の最高指揮官でありながら最前線に出ていたじゃないですか」
「それはマルセイユとハルトマンとスコア勝負してたし」
「それが考えなしだと言っているんですよ。よく当時のスオムス軍上層部が許しましたね」
ウィッチでありながら軍人としても極めて優秀なエイラは、当時から高く評価されていた。一部にはエイラと同等のウィッチを作り出そうと同じような手法でウィッチに教育を施した例もある。しかしそれらは軍人として優秀であってもウィッチとしてはそこまで優秀だはなかったり、あるいはその逆であったりと言う理由で失敗している。
結果的に当時のエイラは国力の割に人材が豊富なスオムスの中でもマンネルヘイムと並んで特に高い評価を得ていた。そんなエイラが前線に立つ事をスオムスが許可した事がサーシャは不思議でならなかった。
「許可なんて得てないし、ある必要もなかったからな。当時のわたしはスオムス軍所属ではあるけど、同時に連合軍のウィッチ隊のトップだ。連合軍に参加してるウィッチの行動はわたしが統制してるんだ。スオムスじゃない」
「一部統制から外れているウィッチがいた気がしますけど?」
ラルなどはエイラの静止もお構いなしに人材の蒐集をしようとするし、ルーデルも出撃停止命令を無視して出撃していた。
「そうだけど、今その話は必要ないだろ。とにかく、当時のウィッチ隊はわたしが指揮していたんだからスオムスに何を言われても関係ないんだよ」
「軍上層部は各国の政略とは切っても切り離せない関係だったはずでは?」
「そうだけど、ウィッチの運用は手探りだから色んなことを試す必要があるって言えば大体は納得してもらえたぞ」
ウィッチの運用は未だに手探りなところが多い。あるいはエイラのように最高司令官でもウィッチであれば前線で戦う事が正解である可能性は少しだが存在した。
「それ本心から納得してましたか?」
「さあな。だけどわたしが政治家連中に一番近いウィッチだったからな。他に意見を求めようにも相手がいないから否定しようがないんだ」
「意地の悪いことをしますね」
エイラは肩をすくめた。
「否定はしないけど、わたしがそう望んだわけじゃない。人材の少ないスオムスでわたし以外の人材を用意する事は難しいんだよ」
「知っています。それはともかくとして、せめて懇親会の護衛に関しては考え直すべきです。ニパさん達に武器を持たせるのはやりすぎだとしても、せめて私だけでも武器を携行させてください」
真剣な表情のサーシャにエイラは息を吐いた。
「今の軍のトップはサーシャだ。会場の護衛については担当部署に一任するよ」
担当部署は軍の魔導軍だ。そして軍の書類上のトップはサーシャだった。
「では私の好きなようにしますね。周囲には腕の良い狙撃手と、隣の部屋には陸戦ウィッチの配置。それと念の為リベリオンのストライカー保管庫にもウィッチを見張りに立てます」
いいですねと問いかけるサーシャにエイラは深いため息を吐いた。
「好きにしろ。わたしもお前が案外強情な事はよく知ってるからな。そこまで言うならこれ以上は反対しないさ」
後書きのネタはないです。