ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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十一月にしてはまだまだ暖かいですね。


因果 後編

スオムスとリベリオンウィッチの交流が行われる最後の日、両者の労いのためという名目でエイラとサーシャが参加するパーティが開かれた。

スオムスの軍事におけるトップ二人が参加するパーティであるため、当然警備は厳重だった。しかし詳しい者が見ればその警備は外からの敵に対しては隙のある配置をしていて、中からの脱出こそ困難な配置になっている事に気がつくだろう。

もっとも、それに気がつくような者は参加者の中にはおらず、殆どの参加者は提供される料理に舌鼓を打っていた。

 

「動きがありませんね」

 

パーティがが始まり一時間ほどか経過しても、何か動きがある事はなかった。エイラもサーシャもリベリオン側のウィッチの殆どと大なり小なり話す機会があり、もしも何か起きるとすればその時だと考えていた。しかし全員と話し終わった今、それが本当に正しかったのか疑念が湧き始めていた。

 

「何も起きないのならそれに越した事はないだろ。軽はずみな事言うなよ」

 

動きがある事を期待しているかの言動をエイラは諌めた。

何か起きればそれを口実にリベリオンを責められるが、別に何も起きなければそれはそれで問題ないと言うのがスオムスの考えであった。

 

「ですが何も起きなければそれはそれで不気味ではないですか?」

 

「そうだけどそれをここで口に出すなよ。誰が聞いてるかわからないんだからぞ」

 

「すみません。あまりにも動きがないものですからつい」

 

穏やかそうに見えて、意外と好戦的なサーシャらしい言葉だが立場を考えるとそう言う言動は控えて欲しいと言うのがエイラの本音だった。

 

「あんまりわたし達が一緒にいたらお前の期待するような事が起こらないぞ」

 

「そうですね。では事が起こるように少し派手に動いてみますね」

 

「あ、コラ! そんな事しなくても……」

 

静止しようとするエイラを無視してサーシャは歩き出すと、飲み物の置かれたテーブルに派手に激突した。

 

「サーシャさん大丈夫!?」

 

真っ先に駆け寄ったのはニパだった。近くにいた給仕係がナプキンを持ってくると、ニパはひったくるように奪い取り飲み物で濡れたサーシャの体を甲斐甲斐しく拭き始めた。

 

「まさか足元が覚束なくなるくらい飲んだの? らしくないよ」

 

あまりは目を外す事のないサーシャの珍しい姿に、心配そうな様子でニパは言った。

現役のスオムスウィッチの中心とも言うべきニパがサーシャに駆け寄った事で、自然とスオムスウィッチはサーシャとニパを中心に集まり、その周りをリベリオンのウィッチが興味深そうに、あるいは心配そうに見守る構図が出来上がった。一時的にではあるが、パーティの視線はサーシャとニパの周辺に集まったのだ。

 

「イッルも少しは心配しなよ」

 

幾人かはその輪に加わらずに遠巻きに眺めるだけであったが、その中にエイラが混ざっていた事にニパは苛立ちを覚えた。

ネウロイとの戦争以来の付き合いであり、何かと無茶をさせているサーシャが倒れたと言うのに駆け寄らないのはあまりにも薄情だ。一言文句を言ってやろう。そんな気持ちでエイラに視線を向けるが、人混みのせいでエイラの姿を捉える事ばできなかった。

 

「イッル、何してるの? 突っ立ってないで少しくらい手伝いなよ!」

 

「サーシャ、演技はいいぞ」

 

あんまりな言葉にニパが思わず立ち上がり抗議をしようとするが、それよりも先にサーシャが何事もなかったかのように立ち上がった。

 

「上手くいきましたか?」

 

「怖いくらいにな」

 

人ごみをかき分けてサーシャがエイラの元に向かうと、ニパからもエイラの様子が見えた。そこには魔法力を発現したエイラと、リベリオンのウィッチがいた。

 

「ナイフ程度の武器でわたしが殺せると思ってたらしい。随分と舐められたもんだよな」

 

エイラの足元にはば刃渡十センチほどのナイフが転がり、リベリオンのウィッチはエイラにより押さえつけられている。いくらニパの察しが悪くともそれがエイラ暗殺の現行犯である事に気が付かないはずがなかった。

 

「隣の部屋で待機してる41戦隊が来る。ニパと他の24戦隊ウィッチは武器を受け取ったらリベリオンウィッチの監視をしてくれ。指揮に関しては41戦隊と合わせてニパに任せる」

 

41戦隊は旧バルトランドのウィッチで構成された部隊だ。その全員が戦死したバルトランドのエース、ピア・ホーン中佐の部下でありスオムスウィッチに次いでエイラが信頼するウィッチ部隊であった。

 

「任せるって言われても一体何がなんだが……」

 

「何が起きようとしてたのか、何をわたし達が警戒してるのかくらい分かるだろ。これ以上リベリオンに好きにさせるな」

 

「……分かったよ」

 

今回の交流でリベリオンのウィッチと最も長く関係を持っていたのは間違いなくニパだ。当然エイラ暗殺未遂犯とも面識があり、スオムスでもっとも精神的なダメージを受けた人物だった。

そんなニパの心情は当然エイラも理解しているが、そんなニパだからこそ混乱しているであろうリベリオンウィッチ達を上手く鎮める事ができるのではないかと期待しての事だった。

 

「あの子はどうなるの?」

 

「安心しろよ。悪いようにはしないから」

 

そう言うとエイラはサーシャを従えて暗殺犯を連れて広間から出て行った。

当初から暗殺を想定していた為、近くには拘束具一式と事情聴取用の部屋が用意されていた。武器の類を持っていないかボディチェックをし、手錠を掛けて椅子に座らせると正面にエイラが座り、サーシャが犯人の後ろに立った。

 

「さて、どうしてこんな事をしたんだ。リベリオンの支持か?」

 

簡単に口を割るわけがないと思いながら問いかけると、彼女は意外な事に反論を口にした。

 

「リベリオンなんかの為に暗殺なんかしない。全て私自身の為だ」

 

「話してくれるんならいいけど、その前に名前はなんて言うんだ?」

 

調べれば分かる事ではあるが、その手間を惜しみエイラは訪ねた。

 

「ジェラルド・ミッチェルの名に聞き覚えはあるか?」

 

途端、エイラはないはずの右足が痛むのを感じた。それが所謂幻肢痛と言う元さのである事は理解していたが、数年来感じていなかったその痛みに吐息が漏れた。

 

「……関係者か?」

 

「実の兄だ」

 

その言葉にエイラは大きく息を吐き天を仰いだ。

しばらくその態勢のまま動かずにいたが、サーシャがこの名の意味を知らない事に思い至り顔を正面に向けた。

 

「わたしの足が吹き飛ぶ原因になった事件の関係者だ。確か当時救出された子供は教団と関係のない家庭に養子に出されたんだったよな」

 

「そうだ。今の名はケイシー・スミス。当時はケイシー・ミッチェルだった」

 

「そっか。それで、目的は兄の敵討って事でいいのか?」

 

エイラの問いかけをケイシーは鼻で笑った。

 

「兄が死んだ直接の原因は貴女だが、その罪は貴女にはない。一番の原因はあの教団だ。両親があんなものに入れ込まなければ、兄は死ななかったし私が連中に監禁されることもなかった」

 

「なら目的はなんだ」

 

敵討ならば納得はできた。しかし敵討以外の目的でスオムスの国家元首たるエイラを狙う理由が分からなかった。

 

「教団水面下で再び復活しつつある」

 

「リベリオン政府が責任を持って解散させたはずだろ。なんでそんな事になるんだよ」

 

「解散した程度で宗教が完全に終わると思うのか? 思想信条と言うものは他者から抑圧された方がより大きく燃え上がるようだ。奴ら私にまで戻るように使者をよこしてきやがった」

 

ケイシーが怒りを露わにするのを見てエイラは困惑した。

 

「教団の復活をリベリオン政府に言って対処して貰えばいいじゃないか。それで全部おしまいだ。なんでわたしを狙うなんていう頓珍漢な事するんだよ」

 

「現状教団は罪を犯していない。政府が取り締まる道理はない」

 

たとえかつて犯罪を犯していたとしても、それに対する罰を受けた以上はそれ以上罰する事はできない。当たり前の事ではあるが、犯罪の予防を考えるとなんらかの行動を起こすべき局面だった。

 

「そこで今回敢えて教団に提案したんだ。かつての標的を改めて狙わないかと。すると一発だった。簡単に提案に乗ってきたんだ。奴らは政府内の賛同者を使って今回の演習を実行に移した」

 

「なるほどな。それならどうしてわたしだったんだ。リベリオンには当時難を逃れたプレディ大佐がいるだろ。そっちの方が簡単だ」

 

エイラの問いかけにケイシーは小さく笑った。

 

「貴女を狙ったのはただの私怨です。別に殺す気はありませんでしたが」

 

今回の暗殺計画はあまりにもお粗末なものだった。殺す気がなかったのであれば納得できるが、気持ちのいいものではない。

 

「話は分かった。リベリオンにはわたしの方から話を付ける。事が片付くまではお前の身柄はスオムスが預かる事になる」




今回の話、伏線自体は数年来なものですけど途中で回収するのを諦めようと思ったんですよね。回収できてよかったです。
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