「リベリオン政府内の大掃除が始まったらしいぞ」
「大掃除をしなければならないほど例の教団が入り込んでいたと言うのは、リベリオン政府のチェックが甘いと見るべきなのか、それとも教団の力が強いのか……」
「まぁ、その教団意外にもカルトって言われる教団含めての掃除らしいから自然と規模が大きくなったみたいだな」
ウィッチ排斥を掲げ、一度は世界各地でテロ行為を起こした教団も今は大きく規模を縮小している。今回エイラだけを狙ったのもそれ意外に手を伸ばす余裕がなかったからだった。
「わたしを殺す事で世界に教団の存在を知らしめ勢力拡大をはかる事が目的だったみたいだけど、わたし達はこれを表沙汰にする気はない」
「ですが表沙汰にしなければリベリオンから巨額の賠償をとる事は難しいです。どうするつもりですか?」
「お金だけが賠償の方法じゃないさ。サーシャはそれをよく知ってるだろ」
サーシャは固有魔法を活かして数々の情報をその頭の中に抱えるサーシャは、賠償と言うものに必ずしもお金が絡むとは限らないと言う事も知っていた。
「何を貰うつもりですか?」
「さてな。ジェットストライカー関連の技術は元々の取引にあったし、いらない。なら陸戦ユニットか戦車。もしくはそれ以外の軍事技術だな」
「軍としては賛成ですが、私個人としては反対です」
それは公人としてではなく、一スオムス国民としての意見だと感じたエイラは姿勢を正した。
「スオムスは軍事力を背景に国際社会での立場を強めていますが、それは国民に犠牲を敷いた上でのものです。スオムス一国であればそれでもいいかもしれませんが、連邦国家となり多種多様な人種が増えた現在では今まで通りのやり方では人心が離れるのではないでしょうか」
「つまり民間への還元を考えろと。そう言う事か」
「そうです。可能ならば国民が実感できるものがいいでしょう。例えばリベリオンの有名な企業を誘致して雇用を創設するとか。あるいは有名な劇団や楽団にスオムスで公演をしてもらうとか。前向きなものがいいと思います」
「だけどわたしに望まれているのは軍事力を背景にスオムスを強国たらしめる事だろ。そこまでする必要はあるのかな」
エイラは現在の軍事大国スオムス連邦を形作る上で不可欠な人材だが、国民の生活を豊かにするという点では他に優秀な人材がいくらでもいる。大統領をやめても軍のトップに返り咲けば、エイラの役割そのものは果たす事ができる。国民の生活に関しては官僚や大臣に任せきりでもいい、寧ろ素人の余計な口出しは彼らの邪魔になるのではないかと思っていた。
「エイラさんは軍人です。官僚も他の大臣達もそれをよく理解しています。だからこそエイラさんが得た成果で軍事以外のものを得ようとは言い出しにくいでしょう」
「つまり向こうに配慮してこっちから動けと。けど首相のケッコネンはパーシヴィキ大統領とスオムスを牽引してきた傑物だ。わたしみたいな小娘に意見を言うのを躊躇うような人じゃない」
「その点は問題視していません。私はエイラさんにできるだけ長い間大統領職にいた欲しいんですよ。そのためにはこう言う配慮は必要不可欠です」
「わたしは別に長く続けるつもりはないぞ」
連邦国家としてスオムスが安定すれば自然とエイラの役割は小さくなる。いつまでも個人の武力に頼るのは国としては健全といえない。時がくれば大統領は辞任するつもりだった。
「いいえ、長く続けてください」
「なんでだよ」
「ウィッチのためです。スオムスはウィッチ先進国です。ウィッチ以外が上に立つとウィッチは際限なく酷使されら可能性があります。本来は国の未来を担うべき少女達を大人の都合で無意味に消費させるリスクは低減すべきです」
少し前にエイラ達は世界中のウィッチを管理する国際機関の創設について話していた。その計画を進めるのであれば、エイラが長期間大統領になる必要はない。
「その機関ができるまでに、スオムスが暴走しないとは限りません」
「上がしっかりしているからといって暴走しないとは限らない。そらは今回の一件で証明されたんじゃないか?」
「だからこそせめてトップには信頼できる人物がいて欲しいんですよ」
エイラは軍の最高司令官だった時、必ずしも政府は信頼できる存在ではなかった。サーシャの気持ちは痛いほど分かるがだからこそ聞かなければならない事があった。
「それはどの立場からだ? 軍のトップとしてか、ウィッチとしてか。それともスオムスに亡命した亡命者としてなのか、あるいはスオムス国民としてか」
「貴女と同じですよ」
「わたしと同じ?」
「若いウィッチの未来を憂う、スオムスの先輩ウィッチとしてスオムスウィッチの為に言ってるんです」
サーシャの事はエイラも信頼している。だが軍のトップとなったサーシャには、自分の本心とは違う立場に見合った意見も持たなければならないサーシャの提言だからといってなんでも無条件に受け入れるわけにはいかないのが現状った。
今回の場合、軍にとって都合のいい大統領が長く君臨する事を望んでいるようにも捉えられ、迂闊に意見をを取り入れるわけにはいかなかった。
「ならいいんだ」
「納得いただけたなら幸いです」
サーシャもエイラの懸念は理解していた。今の立場についてから、各軍のトップ達からは予算や人員に関しては様々な意見が寄せられている。自分の意見と対立する事もあるがそれらは大抵軍の為、ひいてはスオムスの為を思ってこその意見だった。
「教団と言うわけではないですが、現在のスオムス政府は完了のチェックが甘いと言わざるを得ません。例えばペトログラードの元反乱軍、現在は運輸大臣を務めるフルシチョフさん達共産党の連中は分かりやすくスオムスに敵対的です」
旧ペトログラード反乱軍はその政治思想を連邦全土に浸透させるべく各地で活動している。その活動にはスオムスに対して批判的なものも少なくはなく、政府内で問題視されつつあった。
「水面下で動く連中か。旧バルトランドの王族に近い連中なんかは密かに帰還を願ってるかもな」
「そうですね。ですがそちらは民心が戻らなければどうにもなりません。無視して良いでしょう。問題はそう言った分かりやすい脅威ではなく、影の薄い脅威です」
「スオムスじゃあ大掃除なんてできないぞ。信頼できる人材がいないからな」
残材の豊富なリベリオンと違い、スオムスの人材は枯渇気味だ。政治的な混乱の酷いカールスラントやオラーシャから亡命者が来ているが、それらは優秀だとしても信頼できる人材とは言い難い。
「ですからエイラさんにはトップにいてもらわなければならないんです。スオムスが世界の荒波に飲み込まれ、ウィッチの未来がなくならないように」
二人の思いは一致していた。ほんの数年の間に多くのウィッチが戦場に派遣され、命を散らす。ネウロイとの戦争でも前線のウィッチの寿命は決して長くはなかったが、人相手にそれをする必要はない。一刻も早く制度を整える必要があった。
「スオムス国内が落ち着いたらと思ってたけど、そうもいかないな」
「はい。できる限り早く行動を開始する必要があります」
後書きはないです