ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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長くなりそうなんで章を分ける事にしました。カールスラント編を作るつもりはなかったんだけどなぁ。




本来のバルクホルンの任務は、前線ウィッチとの戦闘が起きた時の指揮であった。しかし、後方に現れたウィッチのゲリラがその任務内容を一変させた。

 

「ラルの許可があったとは言え、まさか本物のテスト機を使う事になるとはな」

 

「いくらゲリラを捕まえる為とは言え、ストライカーユニットを囮にするのはどうかと思うのであります」

 

バルクホルンの懸念に対するラルの行動は迅速だった。元々ウィッチの間ではジェットストライカーよりもレシプロストライカーを優先して開発する事に対して懐疑的な意見が多かった。その為、バルクホルンが提案した囮を用いてゲリラを誘い込む。その作戦にテスト中の新型レシプロストライカーユニットを使うと言う提案に反対する理由はなかった。

レシプロストライカーであればたとえ破壊、または奪取される可能性が高かったとしても、元々性能的にジェットストライカー以下である事が分かっているレシプロストライカーがどうなろうとも国益に影響がないからだった。

 

「我々テスト部隊としては、性能関係なくテストしてデータを得る事が仕事であります。いくら才能に期待できないからと言ってテスト機を安易に作戦に投入するのもどうかと思うのであります」

 

レンナルツは複雑そうな表情で車列に目を向けると言った。ネウロイとの戦争ではエースと言われるほどの撃墜スコアを記録しているが、その経歴のほとんどをテスト部隊で過ごした。その経験が、テスト機を安易に囮として扱う事に忌避感を感じさせていた。

 

「だがこのゲリラを放置すれば、再び同じような被害を受けるかもしれない。早く潰すに越した事はない」

 

「それは分かっているますが、もっといい方がなかったのかと思うのであります」

 

「奴らと他のゲリラとの唯一の違いが実験機に手を出したと言う事だ。それ以外に違いがない以上は、同じような状況で誘き出すのが一番だ」

 

バルクホルンとレンナルツと言う二人のウィッチが護衛についている為、厳密には同じ状況ではない。しかし書類上このテスト機の護衛にはウィッチはいないと言う事になっている。実際はともかく、書類上は襲撃された輸送部隊と殆ど同じ状況を再現していた。

 

「ですが本当に来るのでありますか?」

 

「輸送ルートも襲撃された部隊と大きくは変わらないから、もしも最悪の想定が当たれば、来るだろうな」

 

ゲリラではなく他国のスパイであれば、新型ユニットのテスト機奪取のチャンスは逃さない。カールスラントの技術が詰まったストライカーユニットを確実に奪いに来る。

 

「これで来なければただのゲリラ。そうでなければ他国のスパイと言う訳でありますな」

 

「そう言う事だ。とは言え輸送ルートが前回のルートと近いから、仮に襲撃してきたとしても他国のスパイではなく、偶然の産物なんて可能性もゼロじゃない」

 

「その可能性を潰す為には、ゲリラを生捕りなしなければならないでありますね」

 

本来なら生捕りは難しい。相手は当然銃火器で武装している為、不用意に近づく事はできない。その相手がウィッチであれば、魔法力で力が強化されている為尚更難しくなる。

だがバルクホルンにとっては違った。

 

「そうだな。だが幸い私の固有魔法は徒手格闘に強い。奴らの武装次第では簡単に捕まえられるだろう」

 

固有魔法により怪力を発揮できるバルクホルンは、近付きさえできれば相手がウィッチであろうと楽に取り押さえる事ができる。仮に相手が陸戦ウィッチでかつストライカーユニットを装備していれば話は変わってくる。しかし今回のように隠密行動をしている相手がそんなものを持っているとは考えにくく、バルクホルンなら容易に生捕りにできると考えられた。

 

「ですが相手は軍用トラックを簡単に破壊するような相手です。いくら大佐でも苦戦は免れないと思うのであります。ましてや……」

 

「お前も私も上がりを迎えた身。仮に現役のウィッチが相手であれば尚更だと言いたいのだろう」

 

言い淀むレンナルツの言葉を引き継いでそう言うと、レンナルツは頷いた。

 

「そうであります。もしもトラックの破壊が兵器ではなくウィッチの力であったのならば、我々はミンチにされてしまうであります」

 

「安心しろ。確かに私は上がりを迎えたが、地上での戦闘に関しては全く問題がない。昔と同じ、いやそれ以上の力でゲリラをねじ伏せてやる」

 

バルクホルンは上がりを迎えた影響でシールドが張れなくなったとは言え、固有魔法に関しては問題なく使えた。むしろ固有魔法に関しては普段の筋力トレーニングと比例するように力が増幅しており、以前よりも強い力を出せるようになっていた。

 

「相手の固有魔法が飛び道具に類するものであれば、シールドは必須であります」

 

「それはレンナルツ、お前に担当してもらう。今もテスト部隊に所属していると言う事は、まだシールドが張れるんだろ?」

 

「最低限の強度しかないであります」

 

テスト部隊はシールドなども含め、ウィッチに必要な技術全てを使う必要がある。多少魔法力の減少があったとしても、バルクホルンよりもマシな事は確かだった。

 

「十分だ。遠距離の敵は任せたぞ」

 

そう言うとバルクホルンは視線を車窓の外に向けた。

 

「来るとしたらここだな」

 

そこは作戦立案段階で、最も襲撃を受けやすいと考えられた場所だった。周囲を森で囲まれ、最寄りの都市とも距離が離れている。兵を伏せるのにも、奇襲をかけるのにも最適な場所だった。

 

「いつでもシールドを張れるように準備しておけ」

 

「了解であります」

 

レンナルツは緊張した面持ちでMG42を手元に抱き寄せた。

それからそう時間も経たぬうちに、バルクホルンの予想は現実のものとなった。先頭と後方を走っていたが軍用トラックが爆発した。

 

「プロの手口だな。戦闘と後方を同時に破壊する事でどこにも逃げられなくしたようだ」

 

落ち着いた様子でそう言ったが、バルクホルンは内心驚いていた。だがこの場で最も階級が高い人物で、この作戦の指揮官としてそれを表に出すわけにはいかなかった。

 

「出るぞ、レンナルツ」

 

レンナルツを引き連れて車外に飛び出ると、即座に命令した。

 

「総員降車! 車を遮蔽物として利用しながら戦え!!」

 

この部隊はただの輸送部隊ではない。本来であれば第一線で活躍するような兵士を護衛として用いているため、その動きは迅速だった。だがその迅速さがかえって仇となった。

 

「バルクホルン大佐、また一台やられたであります!!」

 

再び爆発が起き、近くにいた車と共に近くにいた兵士が数名吹き飛ばされた。

 

「音が聞こえない。ウィッチパンツァーファウストやそれに類するものの発射音は聞こえなかった。やはりウィッチの固有魔法か」

 

自国内でウィッチが兵器として利用されている。その事実にバルクホルンは思わず歯を食いしばった。

 

「我々が相手をする必要があるでありますね」

 

レンナルツの言葉にバルクホルンは頷いた。

 

「戦闘と後方両方が同時に破壊されたと言う事は、ウィッチは二人いる可能性がある。ウィッチは見つけ次第報告しろ」

 

「大佐、あれを見てほしいであります」

 

インカムで命令を伝達するバルクホルンにレンナルツが言った。レンナルツが指し示す先に視線を向けると、二人の少女が近づいてきているのが見えた。

 

「ウィッチか」

 

バルクホルン達の近くには、実験機の乗っている軍用トラックがある。まっすぐそこに向かってくると言う事は、彼女達の狙いが実験機である事の証左だった。

バルクホルンとレンナルツが魔法力を発言すると、少女達の足が止まった。

 

「せんぱ〜い。わたし、ウィッチがいるなんて聞いてないんだけど」

 

二人のウィッチのうち、より年若い方のウィッチが面倒くさそうに言った。

 

「情報にはなかったが、見たところ上がりを迎えた年寄り連中だ。現役の我々なら問題ない」

 

先輩と呼ばれたウィッチは、片眉を上げてそう言った。

 

「それもそうだね。おばさん達はあの世でゆっくり休ませてあげよっか」

 

おばさんなどと言われて黙っているほどバルクホルンもレンナルツも大人しくはない。言い返そうとするバルクホルンよりも先に、レンナルツが一歩踏み出した。

 

「私はともかく、大佐の顔を知らないと言う事は戦後になってからウィッチになったでありますな」

 

「それがどうしたっていうのよ。大佐だがなんだか知らないけど、階級が高いからって強いわけじゃないでしょ」

 

「否定はしない。私くらいの実力だと現役時代でさえ勝てないウィッチは何人もいた。この階級にいるのも無駄に軍歴だけが長いせいだと言われれば否定はしない」

 

レンナルツが先に怒りを露わにした事で、いくらか落ち着いたバルクホルンは冷静にそう言った。

 

「軍歴の長さには敬意を表しよう。そのまま大人しく引退しておけば、不幸にもここで死ぬ事はなかっただろう」

 

自分達が圧倒的に優位であると信じて疑わないようすに、バルクホルンは思わず苦笑した。

 

「だがこのゲルトルート・バルクホルン、自分の実力を過信している小娘如きに遅れを取るほど落ちぶれてはいないぞ!!」

 

名を名乗った瞬間、先輩ウィッチは目を見開いた。

 

「撤退だ!!」

 

そう叫ぶと同時に、彼女は脱兎の如く駆け出した。だが後輩ウィッチは違った。

 

「はい? 何言ってんですか先輩」

 

目を逸らした彼女を、レンナルツは見逃さなかった。サッと駆け寄るとそのまま地面に押し倒し後手に手錠をかかるとそのまま押さえつけた。

 

「ちょ、ちょと離しなさいよ!?」

 

後輩の悲鳴に先輩ウィッチが振り返るが、その瞳が後輩ウィッチの姿を映すことはなかった。

 

「今度からエースウィッチの名前だけでなく、姿まで覚えておくんだな」

 

その声と共に、彼女は意識を失った。




後書きのネタはないです。
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