「油断するなよ。いくら拘束したとは言っても相手はウィッチだ。魔法力さえ使えればこの程度の拘束は簡単に外すことができる」
「いえ、流石にこれを外せるのは大佐くらいのものであります」
警戒を促すバルクホルンをレンナルツは否定した。二人のウィッチは手足を手錠で拘束した上で腕の上から縄で縛り、太ももも同じように縛り上げられていた。この拘束を外すのはいかにウィッチと言っても、力に関する固有魔法を持つバルクホルンでもなければ不可能だった。
「コイツらが私のような固有魔法でないとは言い切れないからな。警戒するに越したことはない」
「車両を爆破できるような個性ですから、それはないのであります」
「いや、あり得る。私だってやろうと思えばこの固有魔法で車両の爆破は可能だ。遠距離から手榴弾を投げ込むとか、色々方法はある」
バルクホルンの怪力は、単純な筋力の強化には止まらない。本来であれば持ち上げられないような重量物さえ持つというのは、人間の骨が耐えきれない。この固有魔法はバルクホルンの筋力を強化すると同時に、骨や関節など人体全ての強度も上げる効果がある。
「それをするのなら、パンツァーファウストを用意する方が早いであります」
「ウィッチの方が機動力も隠密性も高い。私と同系統ではない可能性は十分あるが、そうだとしても車を破壊できるような固有魔法だ。この程度の拘束を外すのは容易だと考えるべきだろうな」
「確かにそうであります。ですがそれなら一般兵が監視したら不必要な犠牲がらのであります」
この拘束が意味をなさないのであれば、一般の兵士が監視したら拘束を解いたウィッチによる被害が出る。レンナルツの懸念を解消できる手段は一つしかない。
「私とレンナルツで見張るしかないだろうな」
「やはりそうなるでありますか」
バルクホルンはこの部隊では最高位の大佐であり、レンナルツはノイエ・カールスラントにおけるバルクホルンの副官としてのサポート業務がある。二人ともウィッチの監視をするには忙しい身だった。
「そんなに警戒することはない。我々の固有魔法はこの拘束を解けるような便利なものではない」
いつの間にか目を覚ましていた、先輩と呼ばれていたウィッチがぽつりと言った。
「ちょっと先輩! なに情報漏らしてんの!?」
「どうせ逃げられないんだ。このくらい話しても構わないだろう」
後輩ウィッチと違い、先輩ウィッチはすっかり戦意を喪失した様子で項垂れていた。
「よりにもよってカールスラントが使える一番強いウィッチがいるんだ。簡単に逃げられるわけがない」
「一番強いウィッチ?」
「前情報がどうとか言う前に、まずはこの国の警戒対象についてもう少し頭 ちゃんと頭に入れておくべきだった。それならこんな不愉快な事態にはなってなかったはずなんだ」
そう言って先輩ウィッチは大きなため息を吐いた。
「ゲルトルート・バルクホルン。お前も名前くらいは聞いたことがあるだろ」
「バルクホルン?」
先輩ウィッチの問いかけに後輩ウィッチはなんの心当たりもないと言う様子で首を傾げた。
「そうか、今のウィッチは私の名前を聞いてもピンと来ない奴もいるのか。時代の流れというのは早いな」
「コイツがアホなだけだ。いくらなんでも、歴史上最もネウロイを撃破したウィッチの一人を知らないわけがないだろ」
「自分も大佐に名を名乗られるまで気がつかなかったあたり、お世辞にも頭がいいとは言えないであります」
レンナルツが突っ込むと、先輩ウィッチは苦笑いを浮かべた。
「まったく、その通りだ。否定のしようがない」
彼女達が拘束されているのは、カールスラントの戦力を正確に理解していなかった事が原因だ。もしもバルクホルンの顔を覚えていれば、彼女の姿を捉えた時点で逃走していただろう。
「あ、思い出した!!」
唐突に後輩ウィッチが声を上げた。
「バルクホルンってたしか、先輩が怪力ゴリラの危険人物って言ってたウィッチだ!!」
その言葉に、自然とバルクホルンの視線は先輩ウィッチに向いた。
「た、確かに言ったがけどそれはお前の物覚えが悪いからそう言ったのであって、悪口を言ったつもりじゃないんだ!」
「私の固有魔法がウィッチでも到底不可能な力を使えるようにするものだから、あながち間違いではないが……」
怪力ゴリラという言葉には衝撃を受けだが、客観的に見てそう見える事は事実だ。内心ではショックを受けながらも、表には出さないようなんとか取り繕ったが、続いた後輩ウィッチの言葉には流石に表情を取り繕う事ができなかった。
「バルクホルンのせいでハルトマンの撃墜スコア世界一にケチがついたって文句も言ってたっけ」
「お前、ハルトマンのファンなのか」
ハルトマンの撃墜スコア一位は、エイラがウィッチを含む撃墜スコアで塗り替えるまでは今後数十年、下手をすれば百年は塗り替えられることのない不動の記録だった。それはネウロイという脅威が除かれ、航空ウィッチがスコアを稼ぐ場が無くなった事に起因する。しかし、新たにウィッチや航空機がスコアの対象となった事で、ハルトマンの記録はエイラが合計撃墜スコア四百を突破すると同時に過去のものとなった。
スコアにはネウロイの撃墜スコアのみを数えるべきだとする意見もあるが、世界的にはその意見は少数派だ。ともすればネウロイ以上に強力なのがウィッチであり、そのウィッチの撃墜はネウロイ以上に価値があるとする風潮さえある。
「別にハルトマンのファンだから、バルクホルンの事を怪力ゴリラと言ったわけじゃないぞ!」
「まぁ、別にそれは構わないが……」
「いや、許したらダメだめであります!」
怪力ゴリラという言葉に関して、今議論する必要はない。そんな考えからバルクホルンは取り敢えずこの話題わ終わらせようとしたが、レンナルツが待ったをかけた。
「ゴリラだなんて大佐に失礼であります!!」
「そ、そうだな。いくら自分が応援しているウィッチのスコアを奪ったと思っても、ゴリラはダメだな」
先輩ウィッチが犯罪の弁を述べると、レンナルツは首を横に振った。
「そんな事じゃないのであります! バルクホルン大佐の力がゴリラ程度と言われる事がおかしいのであります!!」
「れ、レンナルツ?」
「バルクホルン大佐は鉄骨を軽々と持ち上げ、強化した力でネウロイを殴り倒す。そんな事がゴリラ程度にできるわけないであります!」
そう言ってバルクホルンの怪力エピソードを次々に話し始めるレンナルツに、拘束されたウィッチ二人は顔を引き攣らせた。
「た、確かにゴリラは失礼だった。どう考えてもゴリラ以上の怪力だ」
「そうであります。ゴリラなどが可愛く見える力が、バルクホルン大佐の固有魔法なのであります」
まるで自分の事であるかのように力説するが、その説明はバルクホルンの心を傷付けた。
「バルクホルン大佐の力を持ってすれば、本来この場にいるウィッチの数は一人少なかったはずであります。大佐の慈悲に感謝するであります」
「バルクホルン大佐。私がハルトマンのファンを辞める事はないが、今後怪力ゴリラなどと失礼な事は言わないと誓う。いや誓います」
「あ、あたしもそんな事言わないです!!」
先程まではなかった恐怖の色がその目には宿っていた。従順な態度になった事は有難いが、何か大切なものを失った気分になった。
「そんな事は誓わなくていいから、基地に着くまで大人しくしててくれ」
彼女達と交戦した時以上に疲労感を感じながら、バルクホルンは告げた。
バルクホルンの固有魔法についてちょっとした考察を。
今回の話の途中でも書きましたけど、よくよく考えたら人体が出せる力って骨とか関節の強度によってある程度限界は決まっているはずなんですよね。バルクホルンの固有魔法は単純に怪力が出せるものとなっていますが、実際は骨とか関節の強度も上がっているんじゃないかなと思いました。
専門家じゃないんで人体がどれくらいの強度ならどれくらいの重さを持てるとかわかんないですけど、専門家の人がいたらぜひ教えて欲しいですね。