ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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あけましておめでとうございます。


説得

「随分と無駄話をしてしまった。そろそろお前達の正体を教えてもらおうか」

 

バルクホルンの言葉に、二人はびくりと肩を揺らしお互いを見合った。ただ捕まるだけならともかく、正体を教えたとなれば明確な裏切りだ。

 

「私としては、別に話さなくても構わない。だがそうなると不本意な連中にお前達を明け渡さなくてはならなくなる」

 

不本意な連中が一体なんなのか、二人のウィッチには分からない。だがなんとなく想像はついたのだろう。二人の顔は青ざめた。

 

「今はまだ上に話が言っていないが、いつまでもこれを報告しないわけにはいかない。そうなればこちらの意思に関わらず、引き渡さなければならない」

 

今話すのなら今だと告げるが、非正規戦をする以上は元より覚悟していたのだろう。唇を固く結び、何も話す事はないと言わんばかりの態度をとった。

 

「まぁ、なんとなく想像はつく」

 

「そうなのでありますか?」

 

「顔つきからしてリベリオンかブリタニアの諜報機関だろう」

 

二人の顔つきはカールスラント系の顔つきではなく、オラーシャとも違った。また扶桑のような黄色人種でもなない。

 

「顔つきだけで判断できるような人物を諜報機関が用意するとは思えないであります。偽装でないでありますか?」

 

「ウィッチを戦争で使うと言う考え自体がごく最近のものだ」

 

「スオムスとバルトランドの戦争以降に一般的となった考えではありますが、裏ではそうでなかった可能性もあるであります」

 

「だがリベリオン以外の国はごく最近までネウロイの脅威があった。考えとしてはあっても、実行できる国は少なかっただろう」

 

欧州各国は大戦を、扶桑は扶桑海事変と言うなの戦争を経験している。唯一そのような脅威がなかったのはリベリオンだった。

 

「それを踏まえると最有力候補はリベリオンだな。あの国は他の大国に比べて余裕がある。無論、諜報関係に優れたブリタニアの可能性がないわけではないが、あの国も戦争で陥落寸前まで追い詰められた国だ。少なくとも戦争中はウィッチを利用しようとは考えないだろうな」

 

「でしたら戦時に現役でなかったこの二人が、ブリタニアのウィッチである可能性は十分あるであります」

 

「自分で言うのもなんだが、私の事を知らなかったからと言って、戦時に現役でなかったと断じるのは難しい。レンナルツの指摘はもっともだな」

 

「ですが戦闘中と先ほどの反応から見て、戦時に現役でなかった可能性が高いことも事実であります。大佐が当初指摘した通り、やはりリベリオンの可能性が高いであります」

 

「だがコイツらは曲がりなりにも諜報機関の人間だ。そのくらい演技でどうにでもなるだろう」

 

あらかじめ自分達の素性を捏造し、そのように振る舞うよう訓練するくらいは短期間でも可能だ。もっとも、それはただの演技でしかなく後輩ウィッチの様子を見るに彼女が演技を得意とも思えない。尋問をすればどこかでボロが出るとバルクホルンは考えていた。

 

「まぁ、上に知らせるまでまだ多少の猶予は……」

 

「大佐?」

 

「いや、そもそも二人とも生きている必要はないか」

 

小さな呟きだったが、それは拘束されているウィッチ二人にも確かに聞こえた。いくら諜報機関に所属しているとはいえ、十代の少女達に命懸けで秘密を守るような気概はない。

 

「ま、待って! 私が全部話すから命だけは!!」

 

真っ先に反応したのは後輩ウィッチだった。それに少し遅れて先輩ウィッチもまた命乞いを始めた。

 

「待て待て、コイツよりも私の方が持っている情報は多いはずだ。生かすなら私だろう」

 

恐怖で震えながらも自信満々に先輩ウィッチが告げると、後輩ウィッチが反論した。

 

「私と先輩が持ってる情報なんて私とあまり変わらないじゃん!!」

 

二人が言い争うのを尻目に、レンナルツがバラクホルンに小声で話しかけた。

 

「流石であります。これを見越して片方殺すと言ったのでありますね」

 

「い、いや私はそう言うつもりで言ったのでは……」

 

バルクホルンの意図は、片方を死んだ事にして手元に置く事だった。二人とも上層部に引き渡せばまず間違いなく苛烈な尋問が行われ、彼女達のどちらかが死亡する事になりかねない。だが一人であれば、多少は尋問の手も緩められるのではないかと思ったからだった。

 

「私にまで隠す必要はないのであります」

 

全てわかっている。そんな訳知り顔で頷くが、バルクホルンからすれば何一つわかってないと言わざるを得ない。

 

「大佐、私の話を聞いてください!」

 

「お前は後輩だろ。私に譲れ!!」

 

いまだに醜く争う二人に、バルクホルンはため息を吐いた。

 

「二人とも落ち着け」

 

バルクホルンが諌めるが、なおも言い募ろうとする二人を手で制した。

 

「落ち着けと言ってるだろ。何も本当に殺すなんて言ってない。死んだ事にするだけだ」

 

その言葉に、二人のウィッチは目を瞬かせた。

 

「二人とも死んだ事にするのは流石に怪しまれるだろうが、片方だけなら死んだ事にしてこちらで保護する事は可能だ。そして一人しかいない貴重なウィッチの証人を殺すような事は、滅多なことではないだろう」

 

「で、でもそれって一人は酷い目にあうかもしれないってことですよね!?」

 

「まぁ、二人とも引き渡すよりはマシだろう」

 

あくまでもマシと言うだけで、死なない程度の尋問をされる可能性は高いと考えていた。今回の事件は、反乱中とはいえカールスラント国内で起きた国籍不明部隊による明確な攻撃だ。その実行犯が無事国外にでられる可能性は低い。

 

「少なくとも一人は、今後まともな生活を送る事ができなくなるだろうな」

 

「やはりここは先輩である私が残るべきだろう。情報は秘匿するべきだからな」

 

「情報を持っているのであれば、我々としては上層部に引き渡す事が最善になるであります」

 

被害を受けた以上、できうる限りの情報が欲しい。バルクホルンが手元に残す者にも、当然ある程度の事情聴取をする。しかし最も情報を持っていそうな人物は。専門家により情報を吐き出させるべきだとも考えていた。

 

「私とコイツで持っている情報に差異はない」

 

「そんな事ないです! 私と先輩じゃあ先輩の方が色々知ってます!!」

 

「さっきと言ってる事が違うであります。これじゃあ情報の確度に不安が残るであります」

 

レンナルツが冷静に突っ込むと、二人は口をつぐんだ。今の二人の行く末はバルクホルンとレンナルツが握っている。その片割れからの心象が悪くなる事は、バルクホルンからの心象の悪化にも繋がりかねない。

 

「レンナルツの言う事はもっともだな」

 

レンナルツの意見にバルクホルンが同意を示すと、二人は慌てた様子で口を開いた。

 

「……先輩の方が色々知っていると言うのは言い過ぎでした。多分そんなに変わりません」

 

「そうだな。ほんの少し先輩の分、知っている事はあるがそれも微々たるものだ」

 

「なるほど、二人の持つ情報に大きな違いはないのか」

 

口元に手を当てて考えるバルクホルンは、二人からすれば死刑執行人のような者だった。緊張した面持ちでバルクホルンの言葉を待った。

 

「一つ提案がある」

 

バルクホルンの提案は、二人にとって祖国に対する明確な裏切り行為だった。

 

「全部ここで話せだと? そんな事ができるわけないだろ!」

 

「そ、そうよ。いくら命が惜しいって言ってもそれは……」

 

「正直なところ、たった一人でもこちらで匿うのはリスクがある。お前達がどちらが引き渡されるのか決められないのなら、この際二人とも引き渡してもいいんだ」

 

そもそもバルクホルンにどちらか一人でも匿う理由はない。この提案とて、元を辿れば同じウィッチとしての同情心からくる提案だった。

 

「私からお前達に提案できるのは三つ。一つ、二人ともまとめて上に引き渡す。二つ、どちらか二人を匿う。三つ、今ここで全て話す。それだけだ」

 

それ以上の譲歩はしない。そう言ってバルクホルンは黙り込んだ。

 

「上層部への報告は5分後には行う予定であります」

 

黙ったバルクホルンに変わり、レンナルツが告げると二人は顔を見合わせ言った。

 

「全部話します」




まぁ、いくら特殊部隊でも十代の少女ならこんなもんですよね。
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