バルクホルンがウィッチから得た情報は、即座にウィッチ総監ガランドの耳に入った。本来であればそこから空軍上層部の耳に入るべき情報は、ガランドの手で止められる事になった。
「まさかお前に尋問官としての才能があるとはな」
ゲリラ達の素性について報告を受けたガランドは、事の重大さから自らの代理として帝都防空部隊司令官のラルを送り込んだ。
「揶揄うな。その場にいた最高位の人間が私だったから、仕方なくやったんだ」
「だとしても、奴らの素性を割り出せたのはお前の成果だ誇っていい」
褒められたバルクホルンは釈然としない様子で首を傾げたが、結局反論する事は無かった。
「ゲリラはリベリオンの連中だったそうだが、狙いはなんだと思う
「お前とガランド中将はどう考えているんだ」
バルクホルンにも自分なりの考えはあるが、政治的な考えも混ざるこの一件には深く介入したいとは思っていなかった。故に自分の意見を述べる事なく、ラルの意見に同調する事でこの場を切り抜けようとしていた。
「お前にはお前なりの考えがあるだろう。遠慮せずに言えばいい」
ラルは、と言うよりもガランドはバルクホルンを巻き込むきだった。バルクホルンはウィッチの中では高位の階級にあり、その上実績も十分にある。本来であれば教官なんかで燻っていていい人材ではない。これを機に要職に付けてラルと共に自分を補佐させるつもりだった。
「あくまでも私は現場の人間だ。お前達の手足となって動く分には協力するが、頭脳の一部になるのはごめんだ」
政治的な事に巻き込まないでくれ、と言うのが本音だった。
「そう言うな。誰だって最初は初めてだ」
「私は軍人だからな。お前やエイラのように
バルクホルンの頑なな態度にラルは肩をすくめた。
「リベリンの狙いはこの大陸の安定化だと考えている」
「安定化だと? むしろ不安定化させているじゃないか」
「我々にとってはそうだな。だがリベリオンからすれば、民主独立派が勝利し、お膝元が我が国から振興の民主主義国家となる方が何かと都合がいいだろう」
リベリオンとの関係が険悪であるわけではない。しかしリベリオンでは度々カールスラントやオラーシャのような帝政の国に対して民主化を求める声が上がっている。政府が積極的に主導しているというわけではないが、政府内でもその声は少なからずある。
「皇帝陛下の意向一つで戦争になりうる国よりも、国民の民意により戦争が起きにくい国が近くにある方が嬉しいと」
ラルの意見に一定の理解を示しながらも、バルクホルンには疑問があった。
「例えばスオムスは民主主義の国だが、リバウやペテルブルクに侵攻している。民主主義国家だからと言って戦争を起こしにくいと考えるのは早計だろう」
「否定はしない。私とガランド中将も今の結論には疑問があると考えている。だが膝下の安定を求めたという以外の結論を私たちは出すことができなかった」
そう言うとラルは意見を求めるようにバルクホルンに視線を向けた。
「捕らえたウィッチは指令を伝えられて、それを遂行するだけの存在だった。おまけに軍人としては訓練を受けているが、工作員としての訓練は一切受けた事がないそうだ」
「随分とお粗末だな」
「そう、お粗末なんだ。そこから考えるに、今回の一件はリベリオン政府主体の活動ではないんじゃないかと思うんだ」
「面白い考えだな。詳しく話してくれ」
政府の一組織である軍が勝手に他国で軍事作戦を行った。そんなバルクホルンの考えをラルは一笑する事なく続きを問うた。
「簡単な話だ。軍人というものは、時に政府の都合よりも軍事的な都合を優先する事がある。お前にも心当たりがあるはずだぞ」
ラルは自分の持ち場を守るために選りすぐりのウィッチを他国の思惑など関係なく集める事で、強力な戦闘団を組織した。自分の蒐集癖を満たす為という側面があった事は否定できないが、それが人類の為になる事もまた事実だった。
「なるほど、現場の暴走か」
「その現場がどこかは分からないがな。諜報機関か軍か、あるいはその両方か」
「面白い考察だ。少なくとも今の私達には考え付かないものだ」
立場が変われば考えも変わる。昔は暴走する側だった人間が、それを止める側に立つ。昔のラルなら思いついたかもしれないが、今のラルにはバルクホルンの考えは思いつかないものになっていた。
「大統領などという数年で変わる人間が組織を束ねる都合上、大統領個人に対する忠誠心など望むべくもない。あるのは国家への忠誠のみ。正しいと思えば、国家のために大統領の裁可を得ずに行動する可能性は十分にあるな」
「ノイエ・カールスラントの一時的な不安定化を見逃し、恒久的なリベリオン大陸の安定を手に入れる」
「リベリオン自身は被害を受けず、カールスラントのみが被害を受けるあたりかなり悪辣だな」
「だが尻尾は掴んだ。狙いが何にしろ後はリベリオンとの交渉次第ではないか?」
ゲリラ部隊にいたウィッチ二人からは、リベリオンが首謀者であるという証言が得られている。後はそれを根拠にリベリオンに対して真相解明を強要すればいいだけの話だった。
「そう簡単にはいかない。いくら内乱が起きているとはいえ、ノイエ・カールスラントのリベリオン国境の警備は万全だ」
「……手引きした奴がいると?」
「それはまだ分からん。海からなら陸よりは容易に侵入できるし、夜であれば多少警備も緩む。あくまでも可能性の話だ」
「その可能性が高いから、わざわざお前が来たんだな。目的は証拠隠滅の阻止か」
本来であれば捕虜となったゲリラを本国に移送して終わるはずの話だった。だというのにラルがガランドの代理としてこの地に足を運んだのは、今回の件が本国に移送しては解決しないのではないかと考えたからこそだった。
「そうだ、と言いたいところだが少し違う」
ラルは口元を緩めと言った。
「お前に対する注意喚起だ。察しているだろうが、本国ではまたこの件は公になっていない。なんなら報告もガランド中将のところで止めてある」
ラルの言葉にバルクホルンは眉を顰めた。
「だが傍受された可能性は否定できない。暗号でやり取りしたと言っても、カールスラント軍の人間なら傍受さえできれば解読は可能だ」
「カールスラント軍内に裏切り者がいると断ずるのは早計じゃないか?」
「それを確認するために、暫くの間お前が駐屯する基地でゲリラの面倒を見てほしい」
「ここには捕虜収容施設はないぞ」
バルクホルンがノイエ・カールスラントで拠点として利用するのは極めて小規模な基地だ。人員も数十人規模であり、到底捕虜の収容などできない。
「捕らえたゲリラのうち、非ウィッチに関しては施設に送る。ウィッチだけだ」
「二人だけか。それならなんとかなると思うが……」
ウィッチというだけで、収容かなな施設は限られてくる。まず大前提として対抗できるウィッチが戦力として存在しなければならないが、捕虜の収容施設程度にウィッチを配置するのはあまりにもコストが高すぎた。
成果の収容施設の代わりとして、ウィッチが駐屯している基地が収容先の候補として挙げられるが、それは本来陸戦ウィッチがすべき事案だった。
「お前の護衛として陸戦ウィッチを派遣するよう陸軍に要請した」
「私の固有魔法を知ってるだろ。そんなもの必要ないぞ」
バルクホルンの言葉にラルは苦笑した。
「そんな事は知っている。実際は捕虜の見張りのための派遣だ」
「陸軍はそのことを知っているのか?」
「教えていない。どこに裏切り者がいるかはからないからな」
純粋にバルクホルンの護衛のために送り込まれてくる陸戦ウィッチは、着任して早々にウィッチの見張りという退屈な任務を告げられることになる。そのウィッチの心情を思い、バルクホルンは息を吐いた。
「派遣されるウィッチに教えるかどうかはお前に任せる。信用できると思えば話せばいい」
「……責任重大だな」
「かつての戦争では、我々の一挙手一投足が祖国の存亡に関わった。それと比べれば今の責任の大きさなど些細なものだ。違うか?」
小さく口角を上げて言うラルに、バルクホルンは小さく笑うとそうかもなと答えた。