ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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寒い日が続いて朝布団から出るのが辛いです。


護衛

「カールスラント陸軍近衛第一師団所属、ヴィットマン中佐だ。今日から私が指揮する陸戦ウィッチ中隊が貴官を護衛する」

 

バルクホルンの護衛として派遣されたウィッチは、ハルトマンと同じくらいの身長しかない小柄な人物だった。しかしその見た目に反して、彼女が上げた戦功は大きかった。

 

「近衛師団からカールスラント陸軍一の陸戦ウィッチが来てくれるとは心強い。よろしく頼む」

 

彼女、ミヒャエラ・ヴィットマンはカールスラント陸軍で最もネウロイを倒した陸戦ウィッチだ。特にガリア本土奪還に際して、ヴィレル・ボカージュで行われた戦闘では彼女単独で三十体近い地上型ネウロイを破壊したとされている。

 

「過分な評価、恐れ入る」

 

空軍におけるエースは性格にどこか難があり、自分の成果を誇りに思ってる者が多かった。もしもヴィットマンがマルセイユのようなタイプであれば、バルクホルンとは反目する可能性が高かった。

空軍のエースであるバルクホルンからの賞賛を、謙虚に受け止めるあたり、それはなさそうだった。

 

「一つ質問よろしいだろうか」

 

「もちろんだ」

 

「空戦においてインファイトを得意とし、固有魔法も近接戦向きな大佐であれば、護衛が必要になるとは思えない。わざわざ陸軍に護衛を要求したと言う事は、我々が派遣されるに足る敵がいると言う認識で良いのだろうか」

 

陸戦ウィッチは航空ウィッチと比べて数が多い分、指揮する部隊の人数も多く指揮官には相応の能力を求められる。陸戦におけるヴィットマンは、指揮官先頭の精神で真っ先に突撃する猛将タイプである。その為知略面においては同等の階級のウィッチの中ではやや劣るというのが世間の評価だった。

思いの外思慮深い一言にバルクホルンは面食らった。

 

「いるかもしれないくらいの認識でいてくれたらいい。実際問題、反乱軍は我が軍の後方を撹乱すべく部隊を投入しているからな」

 

「その程度の敵なら大佐でも対応できるでしょう。大佐の要請であるからこそ、陸軍は陸戦ウィッチの派遣を決定し、皇帝陛下の御要望により私が派遣された。雑兵を相手にして帰ったとなれば陸軍、皇帝陛下両方に対して顔向けできない」

 

「……戦う場所を用意しろと?」

 

「そう言う事だ」

 

陸戦ウィッチのエースは航空ウィッチほどは性格に難がないのかもしれない。そんなバルクホルンの考えは今のヴィットマンの言葉で全て吹き飛んだ。顔向けできないなどと言っているが、彼女の表情は獰猛な肉食獣のように好戦的だった。彼女自身が、ノイエ・カールスラントにまで来て何もせずに帰ることを良しとしていないだけである事は一目瞭然だった。

 

「中佐は近衛師団所属。なら皇帝陛下に対しては絶対の忠誠を誓っているんだな」

 

「当然だ。軍に残り奉仕しているのは皇帝陛下の御恩に報いる為だ」

 

バルクホルン自身は自分の為に軍に残ったが、ヴィットマンは皇帝に対する忠誠心から残る事になった。

貴族出身のウィッチであればそう珍しくない事例だが、ヴィットマンのような平民のウィッチとしては珍しい話だった。

 

「なら大丈夫か」

 

「何が大丈夫なんだ」

 

「裏切りの可能性ないと言う事だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ヴィットマンはバルクホルンの胸元を掴み自分の顔の近くに手繰り寄せた。

 

「いくら大佐でも、私の忠誠心を疑う事は

 

「別に疑っていたわけではないが、事実として裏切り者がいる可能性が高い。裏切り者にこちらの手の内を知られない為にも、たとえ誰であろうと疑ってかかるべきだ」

 

「裏切り者だと? 一体何の話だ!!」

 

「空軍の新型ストライカーユニットの実験機が輸送中に襲撃された」

 

その一言にヴィットマンは目を見開いた。陸軍だろうが空軍だろうが実験機は機密情報が詰まっている。その機体が輸送中に襲撃されたとなれば、真っ先に思い浮かぶのは他国のスパイによる情報の奪取だろう。

 

「奪われたのか?」

 

「不明だ。あたりには新型機の部品が散らばっていた言うが、一緒に予備部品も運んでいたからな。破壊されたのか持ち去られたのかまでは判断がつかない」

 

「手抜かりだな。戦場になっているノイエ・カールスラントで新型機の実験などしなければそんな事にはならなかった」

 

「言いたい事は理解できる。だが設備投資には莫大な費用がかかる。復興して間もないカールスラントに、実験施設を本国に作り直す余裕はない」

 

先の戦争で疎開先となったノイエ・カールスラントには未だに多くの重要施設が残っている。実験施設という重要度の低い施設の本国への移転は計画すらされていないのが現状だった。

 

「だとしても、護衛は強力なものをつけるべきだ」

 

「それについては反論のしようがないな。だが起きてしまった事はもう変えようがない。いまはこの後のことを考えなければならない。差し当たり、下手人に関しては罠に嵌めて捕らえている」

 

「……では事件は解決したのか?」

 

「それがそうでもない。犯人は反乱軍ではなくリベリオンの連中だった」

 

「それは……!」

 

反乱軍の手先であれば、国内で処理できる。しかし他国が相手となれば事は軍の手に負えない。

 

「外交部の仕事だ。私の仕事は捕虜の移送か?」

 

「違う。捕虜の護衛だ」

 

「護衛? 監視の間違いだろう」

 

冗談だと思ったヴィットマンは小さく笑った。

 

「いや、間違いじゃない。捕虜となった連中のうち、ウィッチ二人を護衛してほしい」

 

「ウィッチ? 犯人の中にウィッチがいたのか?」

 

「そうだ。ウィッチは存在自体が貴重だ。取り返しに来るか、あるいは情報の秘匿に殺しに来るのか。何かしらのアクションをする事は確かだ」

 

「なるほど。役目は理解した。だがそれならそうと陸軍に……だから裏切り者か」

 

ヴィットマンはバルクホルンの懸念を理解した。実験施設そのものの場所は公開している。だが何が実験されているのかは当然秘匿対象だ。実験機の襲撃は内部からの情報流出によって起きたものと考えるのが自然だった。

 

「皇帝陛下は大佐のために最高の護衛を用意したいと仰っていた。はからずしもその配慮が最適な人選に繋がったな」

 

近衛師団は貴族出身者が中心だが、それは皇帝に対する忠誠心が高いからだ。平民でも高い忠誠心があると認められれば、近衛師団に配属される可能性はある。

近衛師団に配属されるにあたり、身辺調査は厳重に行われる。所属後も定期的に身辺調査が行われるため、カールスラントで最も信用できる人物が近衛師団に揃っているといえる。

 

「近衛師団であれば信頼できる。ウィッチ総監のガランド中将と帝都防空部隊の司令官であるラルが上層部の膿を出すまでの間、捕虜の護衛をしてくれるか」

 

「任せろ。皇帝陛下に対する忠誠のない不貞の輩から、捕虜を守り通して見せよう」

 

「よろしく頼む」

 

本来の任務とは違う形になるが、快く引き受けてくれたヴィットマンにバルクホルンは深く頭を下げた。




ミハエル・ヴィットマンモデルのウィッチです。
ふと思ったのが、ゲーリングも元々エースなのにゲーリングはウィッチじゃないのはなんでなんでしょうね。
第一次ではウィッチはそれほど活躍しなかったとかそんな感じなんでしょうか。
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