ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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めちゃくちゃ寒くて布団から出るのが辛いです。


声明

リベリオンの工作員が収容されていた捕虜収容所が襲撃されたのは、ヴィットマンが着任して三日後の事だった。

 

「捕虜収容所が襲撃されたようだな」

 

「予想通り、とまでは言わないが想定はしていた事だ。ウィッチ二名はまだこの基地にいる。ヴィットマン中佐がいれば、裏切り者の尻尾を掴むまではなんとか時間を稼げるだろう」

 

「尻尾を掴むまでか。ガランド中将とラル少将が動いているとの事だが、進捗はどうなってあるのだろうか」

 

「下手に連絡を取り合って勘付かれたくないからな。あちらに全て任せてある」

 

今でさえ状況証拠から裏切り者はいる可能性が極めて高いという認識でしかない。確実にいるという状況に持っていった上でなければガランド達も動きにくい。結果が出るまで時間がかかるだろうとバルクホルンは考えていた。

 

「理解はできるが、もどかしいな」

 

「おそらく時間がかかるだろうな」

 

「待つしかないのだろうな」

 

ヴィットマン、というよりウィッチと言うものは往々にして自らの行動により未来を切り開く。誰かの行動に任せっきりの状態は、ウィッチである彼女達からすれば好ましい状況ではなかった。

 

「何かこちらから閣下達を援護する方法はないのだろうか」

 

「ない事はない。たがそれが援護になるのかどうかはまでは確証を持てないな」

 

「拝聴させてもらおう」

 

「簡単な話だ。ウィッチ二人の居場所を別々のルートで複数の人物に伝えればいい」

 

バルクホルンの提案は、複数のルートで複数の偽の捕虜収容場所の情報を伝える事で襲撃を誘発し、情報漏洩ルートを絞り込む事だった。

 

「意図は理解できる。それがどうして援護になるか分からないと言うのはどう言う事だ」

 

「ガンデュラもガランド中将も、それくらい思い付いているはずだ。あるいは、今回の捕虜収容施設の襲撃が、グンドュラ達の作戦の内であればこの作戦は意味をなさなくなる」

 

「状況証拠を補完すると言う意味はあるのではないか?」

 

仮にラル達が情報の流出元を特定していれば、バルクホルンの目論見は意味がない。むしろ敵がバルクホルン達の疑念に気がつくきっかけになりかねない。そして何より、ヴィットマンの言う補完に意味はない。

 

「補完など必要ない。敵の居場所が掴めたのなら、後は襲撃して証拠をもぎ取ればいいだけだ」

 

「効果的だが随分と強引な手段だ。だが皇帝陛下に対する敬意がかけらもないような連中相手だからな。それも致し方ないか」

 

違法捜査に分類される手法だが、ヴィットマンからすれば皇帝に対して不忠を働く輩に法律を守ってお行儀よく対応してやる義理はない。

バルクホルンにしても、裏切り者に対して法律を守って取り逃すよりは違法でも確実に捕らえることが重要だと言う考えだ。

 

「結局のところ、待つしかないという事だ」

 

そんなバルクホルン達のもどかしい日々は、カールスラント皇帝とスオムス大統領により、ストックホルムで発表されたとある共同声明により驚愕の解決を図られる事になった。

 

『我がカールスラント国内に、ウィッチを用いて破壊工作を行った不貞の輩が存在した。幸いな事に、それらは我がウィッチ達の活躍で捕えられた。しかしながら、ネウロイとの生存戦争が終わりながら、ウィッチと言う未来ある少女達が、人同士の争いの道具として命を散らすような事態が後をつかない』

 

カールスラント皇帝の後に続いてエイラが述べた。

 

『ウィッチを戦争の道具としてしまった責任の一端は、間違いなくスオムスにある。その責任を痛感し、スオムスは今後ウィッチが軍事利用されないようここにある機関の設立を宣言する。世界中のウィッチが一つの機関に所属し、ウィッチが管理する。人同士の戦争やそれに類する行為にウィッチは使わせない。ウィッチはただひたすらに人類のためだけにあるべきだ』

 

『我がカールスラントはこの機関の設立と同時に、当該機関のカールスラント支部にウィッチを所属させる』

 

ウィッチは無有用性は今更語るまでもない。小さな身体で戦車以上の力を発揮できるウィッチは、今後益々

 

『スオムスは魔導軍を解散。現役ウィッチはストックホルムにある機関本部所属のウィッチとして活動する』

 

『機関のトップである会長には暫定的にユーティライネン大統領がその職務に就く。ふさわしい人物が見つかり次第、当該人物への職務の譲渡が行われる』

 

『本人にはまだ伝えていないが、後任の候補はこの場で発表する。もしも受ける意思があるのであれば返事を欲しい。最有力候補は、現在ガリア国民で元カールスラント空軍のウルーリケ・ルーデルだ』

 

他にも幾人かのエースウィッチが候補として挙げられた。元ブリタニア空軍リネット・ビショップ。元リベリオン海軍キャサリン・オヘア。ロマーニャ公国空軍、フェルナンディア・マルヴェッツィ。エイラ達よりも一昔前の世代も幾人か名前が挙げられ、代表的な人物としては元扶桑皇国陸軍江藤敏子が挙げられた。

全員がエースと呼ばれる元ウィッチの一般人だが、ルーデルや暫定的とはいえトップに立つエイラと比べたら戦績という点で見劣りする人物ばかりだった。

 

『そしてこの機関設立して最初の仕事として、我がカールスラント国内にて逮捕した工作員ウィッチを保護する事から始める』

 

『当該ウィッチはスオムスに移送され、どこの国の工作員か判明次第然るべき対処を当該国により二カ国で行う事になる』

 

前半の発表に比べると比較的驚きの少ない発表ではあるが、これはとどのつまりカールスラントとスオムスが準軍事同盟を組んだに等しい出来事だ。世界に与えた影響は計り知れない。

 

『そして最後に、スオムスとカールスラントはこの国際機関に多くの国が加入することを望む。ウィッチを国が保有することを放棄し、機関に全てを委ねる覚悟があるのであれば我々は加入を拒まない』

 

白黒のテレビから流れる二人の演説を見て、バルクホルンとヴィットマンは顔を見合わせた。

 

「これはつまり、どういう事なんだ大佐」

 

「カールスラントとスオムスが手を組んだ、というわけでない事はないことは確かだ」

 

一見するとカールスラント皇帝もエイラも同盟という言葉は一度も使わなかった。他国からすれば間違いなくこれは同盟とみなされるが、機関の会長の後任人事が元カールスラント軍人とはいえ現在は他国の人間であるルーデルである事からもこれが単純な軍人同盟という括りで収められるものでない事は明白だ。

 

「そんな事は私にも分かる。カールスラントはバルトランドに義勇兵を送りバルトランドを支援していたのだからな。私がスオムスなら、少なくともその手打ちをするまでは同盟など無理だ」

 

バルクホルンにとっても今回の事は初耳だった。おそらくガランドやラルが動いた結果だろうとは思うが、なぜこうなったのかまでは全く理解できなかった。

 

「いずれにせよ一つだけ確かなことがある」

 

「それはなんだ?」

 

「もう間も無く中佐の任務が終わるという事だ」

 

ヴィットマンの任務は、表向きバルクホルンの護衛だ。だが本当の任務はバルクホルンが捕らえたウィッチの奪還阻止だ。

 

「この声明でウィッチの所属に関して第三国が関わる形で公表出来れば、リベリオンは頭を下げる事しかできなくなるのか」

 

カールスラント一角であれば、リベリオンは言いがかりだと言い張ることもできたかもしれない。だがスオムスが加われば、どんなに面の皮が厚くとも言い訳などできるはずもなかった。

 

「中佐の望んだ戦いは起きなかったが、これで事態は解決するな」

 

バルクホルンの言う通り、この機関の手でカールスラントに侵入した二人のウィッチは所属を明かされる事になった。それどころか、想像を遥かに上回る成果がこの機関によりもたらされる事になるとは、この時のバルクホルンは予想だにしていなかった。

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