ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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めちゃくちゃ寒いですね。


新たなる世界
動く世界


カールスラントとスオムスの発表から一ヶ月の間に、世界情勢は大きく動いた。まず最初にガリア評議会議員、ペリーヌ・クロステルマンが好意的な反応を示すと、ガリア大統領ド・ゴールもまたそれに続いた。これによりガリアはこの機構への参加方針を確固たるものにし、その一週間後には機構への参加を表明した。

ガリアの動きに敏感に反応したのはブリタニアだった。ガリアの参加表明の三日後にはブリタニアも参加を表明。その後もロマーニャ、ヴェネツィア、オストマルク、ヒスパニアなどの国が参加を表明し、そして一ヶ月がたった今日にはついにオラーシャまでもが参加を表明する事となった。

 

「一体どういう事なんだ」

 

そんなバルクホルンの問いかけに答えたのは、再びノイエ・カールスラントを訪れたラルだった。

 

「簡単な話だ。我々がスオムスと手を組んだ事で、カールスラントは以前よりも反乱鎮圧に対して力を注げるようになった。それが理由だ」

 

「そんな簡単な話だとは思えないな。各国が手を組んだのは何か裏で取引があったからじゃないのか?」

 

「ないとは否定しきれないな。我々とスオムスには確執があったのだから、なんらかの取引はあったのだろう」

 

ラルの返答にバルクホルンは眉を顰めた。スオムスとカールスラントの確執は、全面的にカールスラントに非がある。その点はなんらかの和解が図られた事は確実だ。

今回の発表がなされた時、スオムス国内は荒れに荒れた。辛うじて政権が崩壊しなかったのは、エイラに国民からの信頼があったからだ。

 

「私が問題にしているのはそこではない。他の国が参加した理由が分からないと言っているんだ」

 

「それに関してはガリアがいい働きをした。いや、あるいはそれを見込んでルーデルを取り込もうとしたのかもしれないが」

 

「どういう意味だ?」

 

ルーデルはその実力を認められたからこそ、エイラからこそ後任に指名されたのではないか。そんなバルクホルンの考えを見てとったラルは、言った。

 

「簡単な話だ。ガリア、カールスラント、スオムス。この三カ国が手を組んだ時点で、欧州が歩む道は二つしか無くなった。即ち我々と敵対するか、合流するかだ」

 

「敵対するのなら、欧州には二つの同盟ができる事になるな」

 

「そうだ。これがカールスラントとスオムスだけなら、そうなったかもしれない。だがガリアを取り込んだ事で情勢は変わった。カールスラントはもちろん、ガリアもスオムスも軍事的には強国の部類に入る。これに敵対するのは容易ではない」

 

他の軍事的な強国はブリタニアとオラーシャだが、前者は海軍国家であり、後者は現在大規模な内乱の真っ只中にある。三国を相手にしては勝つ事は難しい。

 

「それに公式声明として来るもの拒まずを明言した事が何よりも大きい。これで選択肢の一つに合流が加わった。敵対、と言うよりも戦争自体どの国もしたくはないものだ。合流して戦争の危機を回避する。それどころか、場合によっては新たな力を手に入れる事ができる。そんなチャンスを逃すのは愚かと言うものだろう」

 

ラルの説明を聞いても、バルクホルンには分からない事があった。

 

「これは私がリベリオンのウィッチを捕らえ、その解決策ととしてガランド中将とお前が考えたものなのか? だとしたらあまりにも手際が良すぎるな」

 

「私にそんな力はない。絵図を書いたのユーティライネンだ」

 

「エイラを頼ったのか?」

 

カールスラント国内であれば、ガランドとラルは有数の実力者だ。だが世界に目を向けると、ラル達など吹けば飛ぶ程度の人間でしかない。リベリオンという国を相手にするには力不足感が否めない。

ラル達の人脈から考えて、できる事は皇帝陛下に直接奏上するか、国外の実力者を頼るしかない。

 

「いや違う。ユーティライネンが持ちかけてきたんだ」

 

その言葉にバルクホルンは二重の意味で驚いた。一つはスオムスの諜報能力の高さに、もう一つはエイラの先見さにだ。

 

「おそらくユーティライネンの中では、元々ウィッチを一つの機関で管理すると言う計画はあったのだろう。でなければいくらこちらの窮状を知ったとしても、こんなにも早く計画を立てられるわけがない」

 

「そうか。ウィッチは華やかな面に目が行きがちだが、その実多くのウィッチが惨たらしく死んでいる。その悲惨さを、エイラほどよく知るウィッチはいないだろうからな」

 

ウィッチとして戦地で戦ったこともあれば、戦地に送り出したこともある。そんなエイラだからこそ、国際機関の設立などという大それたことを思いついたのだろう。。バルクホルンはそう思った。

 

「今回の機関設立で、各国の内乱は急速に鎮圧されつつある。参加を表明した国々が、ウィッチ保護の名目で少数だが軍隊を派遣しているからな」

 

「ありがたい話だな」

 

「そうだな。だがまだは問題はある。リベリオンだ」

 

今の所リベリオンと扶桑はこの機関への参加は表明していない。特にリベリオンはカールスラントの内乱に干渉していた事から、その発表を食い止めるためにもなんらかの形で機関に関わって来るのは間違いない。

 

「諦めたのか、それとも何か考えがあるのか。いずれにせよまだまだ余談は許さない。当該ウィッチは移送を終えたとは言え、まだ取調べの最中だからな」

 

「発表はいつ頃になりそうなんだ?」

 

当初の予定ではもう結果は公表されているはずだった。それがなされていないのには、いくつか理由があった。

 

「参加国が増えたからな。その分時間は掛かる。おそらくまだ二、三ヶ月は必要だろう。だがおそらく下手人の所属が公表される事はない」

 

「どういう事だ?」

 

「リベリオンは強大だ。参加国全てがリベリオンを批判する事を良しとするとは思えない。おそらく多少リベリオンに配慮した発表がなされるだろう」

 

「せっかく欧州の足並みが揃ったというのに、残念な事だ」

 

悔しさを隠しきれないバルクホルンに、ラルは苦笑した。

 

「足並みが揃ったからこそだろう。リベリオンなんぞに乱されるのは、各国としても望むものではない。ここは欧州が一つにまとまる事で、良しとするしかない」

 

「……そうだな」

 

戦争にウィッチが使えなくなる。それが戦争行為そのものの終結を意味するのではない。だがウィッチという強大な武器を持ちながら、それを使わずに戦争するのは困難だ。気軽に投入して大戦果をもたらし、ともすれば小国でさえ大国に勝ちうる武器を制限する。この行為は少なくとも力の弱いものが、強いものに対して一発逆転の博打のような戦争を起こす事に対する抑止力にはなりうる。

 

「参加した欧州の主要国は、これで準同盟国になったと言える。今の所主要国同士の戦争はなかったが、これまで以上に主要国同士の戦争の危機は無くなるだろうな」

 

「ネウロイがいなくなり、人同士の戦争もなくなる。真の意味での世界平和の到来か。エイラがルーデルを後任に推薦するのも納得だ。奴はいつも世界平和の実現を目指して戦っていたからな」

 

名目上はウィッチの保護を謳っているが、ウィッチとは即ち兵器だ。それを一元管理するというのは、かつての統合戦闘航空団と大きな違いはない。つまりそれは、ウィッチの運用には技師や軍医などの後方支援を行う軍人も必要になるという事である。それらの捻出も加盟国に課されるのであれば、もはや同盟と言っても過言ではない。

 

「本部がストックホルムに置かれるというのもまた象徴的だ。人同士の戦いで敗北した国の首都であり、実際に戦場になった場所だ。名目はともかく、実質的に世界平和を目指しているのであればこれ以上ない場所だ」

 

ウィッチの保護を謳うのであればウィッチ大国スオムスの首都、ヘルシンキでも構わない。だと言うのに本部をストックホルムに置いたのは、その実情が真の意味で世界平和を目指していると言う事に他ならない。

 

「ルーデルは受けるかな」

 

「受けるだろうな。でなければガリアが参加を表明するものか」

 

ラルの言葉に、バルクホルンは静かに頷いた。

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