「エイラさんのオファー、どうするつもりですの?」
カールスラント皇帝とエイラによる共同声明を出した直後、ガリアではペリーヌとルーデルが今回の件に関する対応を協議していた。
「ユーティライネンにしては、面白くない冗談だな」
憮然とした様子でルーデルは吐き捨てた。
「あら、私は良い考えだと思いましたけど」
「ウィッチは年若い少女達で、戦争中はスカウトという名の徴兵や、周囲の人々の期待からウィッチとして戦う以外の選択肢が無くなった奴もいた。戦前からウィッチだったものにしても、当初はネウロイとの戦いなどではなく、純粋に魔法力の使い方を学びたい奴やただ空を飛びたかった奴が殆どだった」
「そうですわね。私もガリアがあんな事にならなければ、ウィッチとして戦う事は無かったですわ」
ペリーヌがウィッチになったのはガリア陥落後、ブリタニアに渡ってからだった。ガリア貴族として、ガリア出身のウィッチとして前線で戦わないという選択肢はなかった。
「だがその殆どは戦った事を後悔してないはずだ。死んでいった奴だってそうだ。もしも死にたく無かったのなら、辞めるなり逃亡なりしていたはずだ。ウィッチは脱柵の際には厳罰は下されるが、即座に処刑されるような規定は存在しないからな」
「ですが上がりを迎えてもいないのに辞めたら、周囲にどんな目で見られるかわかった物じゃありませんわ。それに耐えられる人は少数です」
「だとしても死ぬよりはマシ、と考えた奴は辞めたはずだ。残った奴は程度の差はあれど、死ぬ可能性というものを考慮した上で戦い、散って行ったはずだ」
「そう言った人達が再び現れないようにするには、エイラさんの作る組織が重要な役目を果たすのではありませんか?」
ペリーヌの問いかけにルーデルは頷いた。
「それは否定しない。私が面白くないと言ったのは、自らの意思で国のために立ち上がるウィッチ達の気持ちまでもを否定しているような言いようだ。元バルトランドのウィッチ達は、たしかに望まぬままにスオムスと戦っただろう。だが戦争となった以上は祖国の為、家族の為に全力で戦ったはずだ。彼女達の気持ちを、ウィッチの軍事利用が悪という理屈だけで否定するのは面白くない。ただそれだけだ」
「死ぬ覚悟をしていたであろうバルトランドのウィッチ達を、他者の理屈で評価するなという事ですか?」
「そんなところだ。奴らは死は望んでいなかっただろう。だがだからと言ってその覚悟を持っていた奴らを哀れんで、今更後出しで保護機関などと言っても浮かばれないだろう」
実のところエイラの主張そのものは、それほど真新しいものではない。ネウロイとの戦争中も、極小数の常識人がウィッチをネウロイと戦わせる事に対して疑義を呈した事がある。だがそれらはネウロイに対する対抗手段の代案を出せという一言で悉く却下されてきた。そしてルーデルもまた、それらの理想論に対して嫌悪感を示し白い目を向けてきた人物の一人であった。
エイラの声明は、たしかに今の世の中に合っているものなのかもしれない。だがそれらは人同士の戦争が始まる前に出されるべきであり、今更言い出したところで死んだウィッチが返ってくるわけではないと考えていた。
「ですが、今後の犠牲者は減らせます。エイラさんの試みは過去ではなく、未来の犠牲を減らせる事に意味があるのですわ」
「なら過去の犠牲者は一体何だったんだ。私は世界平和のために、多くの戦友とともに死地に赴いた。生き延びた戦友もいれば、そこで戦死した者もいる」
「その犠牲があったからこそ、今回の機関設立となったのではありませんか?」
過去の犠牲を省みて、それをエイラだけでなくカールスラント皇帝までもが認めた。スオムス一国であれば意味のなさなかったこの試みは、カールスラントという大国の力を得て現実のものとなった。
「……奴らの犠牲は、人類に平和をもたらすためのものだった。そしてバルトランドやカールスラントウィッチの犠牲は、祖国の為のものだった。決してウィッチの未来の為では無かったはずだ」
「そうですわね。彼女たちの意図した形の成果ではないかもしれません。ですが、ウィッチが戦わなくていい世界は、即ち戦争のない世界ではありませんか?」
ネウロイとの戦いでウィッチは戦力の中核を担った。対ネウロイにおいて無類の強さを誇ったウィッチは、ネウロイという宿敵が消えて唯一無二の戦力となった。止めるには同じウィッチをあてがうしかない。
そんなウィッチが戦場から離れられるはずもなく、対人の戦争においてもウィッチ中核戦力として活躍してきた。それは今後も変わらないだろう。
「スオムスを筆頭に、我がガリアも戦争においてウィッチを使用しました。今後の戦争でウィッチが重要な役割を果たす事は明らかです」
「だからこそ、今回の試みは意味のあるものではない。ウィッチという存在が、強力な兵器として考えられるようになったのは、ある意味これまでのウィッチの功績だ。ユーティライネンの計画は彼女達の行動を否定しているように感じてしまう」
そう言ってルーデルは小さく息を吐いた。
「それだけではない。ウィッチの重要性に気がついた国はウィッチの獲得に動く。たった二カ国だけがウィッチの軍事利用を制限する事は全くの無意味だ」
「その為にエイラさんは参加を拒まないと宣言したのでしょう。各国の倫理的な人物達は これを機にウィッチの軍事利用を辞めるよう動くはずですから」
「オラーシャ、ブリタニア、リベリオン、扶桑、そしてガリア。今あげた全ての国がウィッチを手放さない限り、ユーティライネンの試みは無意味だ」
いずれもネウロイとの戦いで大きな活躍をし、今なお一定の軍事力を保持する国々だ。これらの国が参加しなければ、ウィッチの軍事利用を抑制する事は困難だった。
「カールスラントと領土問題を抱えるオラーシャなどは、これを機にカールスラントに対して軍事的圧力を加える為にも、ウィッチは手放さないだろうな」
「少なくとも今ルーデルさんが言った国の内、一カ国は参加しますわ」
「……もしお前がガリアを動かす事ができたのであれば、ユーティライネンの試みも多少は意味のあるものになるな」
ペリーヌはガリア議員だ。ガリアが機構に参加するよう働きかける事はできる。
「その為にはルーデルさん、貴女の協力が必要ですわ」
「どういう事だ」
「ガリアが件の機構のトップとして君臨する。カールスラントとスオムスの軍事同盟の盟主のような存在になれる。そうド・ゴールさんを説得するのですわ」
ただ参加しようと言っても、ド・ゴールは良い顔をしないだろう。だが、軍事同盟の盟主となれるチャンスであると説得すれば、ド・ゴールも一考してくれるという確信があった。
「死んでいったウィッチ達は無意味な死などではありませんわ。彼女達は世界平和を目指して死んでいった。彼女達の死に触発され、エイラさんはこの機構を作り出した。間違いなくそれは世界平和に繋がる動きですわ。彼女達の死は無駄ではありません」
「……ガリア一国ではダメだ。同格かそれ以上の、例えばブリタニアあたりが参加を表明すれば欧州はこの機構への参加で纏まるだろうな」
「ガリアでは力不足ですか?」
内覧中のガリアでも、国力は上から数えた方が早い。ガリアの参加でも世界情勢が動かない事があるのだろうかとペリーヌは疑問に思った。
「ガリアもカールスラントも内乱中だ。今の機構はスオムスにしかフリーハンドが存在しない。ユーティライネンの言う事を実行するには内乱中の両国に軍事的に干渉して行動方針を示す必要必要があるが、スオムスだけでは手が足りん」
「なるほど。ウィッチ保護のために、まずはカールスラントと参加したガリアの内乱を鎮圧する必要があると」
「そうだ。ガリアはもちろん、おそらくカールスラントもウィッチを使っているだろうからな。これらの使用を制限する為にも、内乱の鎮圧は必須だ」
「戦後で安定していないスオムスには酷な話ですわね」
戦争が終わったばかりのスオムスは、国内の立て直す必要がある。国外に目を向ける余裕はない。
「その為のガリアだ。クロステルマン、もしもブリタニアの参加まで実現できたのなら、私は喜んでこの話を引き受けよう」