時はバルクホルン達がリベリオンのウィッチを捕まえた、一週間後まで遡る。
「ブリタニアから面白い事が伝えられたぞ」
「面白い事ですか。どうせろくでもない事ですよね」
スオムスが海外の情報を入手する手段はブリタニアから情報を買うか、大使館を通して現地で情報収集をするかと言うのが主な手段だった。バルトランドとともに連邦国家となった事で、旧バルトランドの諜報機関を取り込み以前よりはマシになったが、ブリタニアと比べると諜報能力は低く、いまだにブリタニアから情報を購入する事があった。
取引相手のブリタニアが無償提供する情報となれば、スオムスにとってよい情報だとは到底思えなかった。
「間違ってはいない。ブリタニアが言うにはリベリオンがカールスラントの反乱に首を突っ込んで返り討ちにあったみたいだ。実行犯は捕まって、カールスラントがリベリオンに対してどうにか賠償を求めようとしてるらしい」
「それは……なんというか反応に困る情報ですね」
「ブリタニアがどういうつもりで伝えてきたのかは分からないけど、スオムスに動いて欲しいんだろうな」
国力的にはリベリオンには到底及ばず、内乱中のカールスラントと同格程度なのがブリタニアだ。しかし卓越した外交能力により、国力以上の影響力を持っていた。
「どうしますか?」
「スオムスは表向き、カールスラントとは戦争状態にはない」
「ですが関係は良好とは言い難いです。今後の対カールスラントを見据えてリベリオンと手を組みますか?」
リベリオンは扶桑と並び世界で最も力のある国の一つだ。大西洋航路において絶大な影響力を誇り、軍事力においても世界でトップクラスだ。スオムスとしては、扶桑とリベリオンのいずれかの関係を強化し、関係が良好とは言い難いカールスラントに対抗する手段としたいのではないかとサーシャは考えた。
「それも悪くない手だな。だけどリベリオンと協力したとしても、もしもの時に頼りに出来るような国じゃない」
「ネウロイとの戦いでも参戦したのは随分後になってからでしたね。物資的な援助は期待できても、直接的な支援は期待できませんか」
「多分な。戦争を起きないよう牽制するのなら、リベリオンとの協力関係にも意味があると思う。だけど戦争になった時は、距離的に考えても大きな援助は受けにくいと思うんだ」
「戦争が起きない事が一番ですが、そのせいでいざ起きた時に対処ができないようでは困りますからね」
スオムスが勝ち続けてきた理由の一つに、もしもの時の備えを欠かしていなかった事がある。各国が軍縮をする中、軍拡を行ったバルトランドに対して対抗しうるだけの戦力を保持し、いざ戦争となれば早々に総動員へと移行し戦争を行う。弱小国家スオムスが、大国スオムス連邦へと生まれ変わっても尚その考えは変わらない。
「カールスラントとの関係はバルトランドとの一件で最悪の状態だけど、それはあくまでも上層部の話だ。カールスラント義勇軍ウィッチの存在は、スオムス国内ではそれほど認知されていない」
「カールスラントに対して国民が悪感情を抱く事を、前政権が嫌ったからですね」
「そうだ。あれは英断だったな」
全く認知されていないわけではないが、連邦国家の樹立やペテルブルクの奪取など様々な事件が起きた結果、国民の脳裏からは忘れ去られていた。なによりも、そのカールスラント義勇軍による被害が殆どなかった事がより印象を薄くしていた。
「カールスラントが捕らえたリベリオン工作員の中にはウィッチがいたらしい。これは好機だと思わないか?」
「一体何が好機なんですか? むしろ我々としてはウィッチが戦争に、それどころか工作員として使われた事を嘆くべきかと」
「分かってないな。なげかわしいのは大前提だ。その上で、わたし達なやりたい事を実行に移すチャンスだって話だよ」
「よく分かりませんね。ウィッチが単純な戦争だけでなく、非正規戦にまで投入された事がチャンスになるとは思えません。寧ろこれ以上道具にされないよう焦る局面ではないでしょうか」
ウィッチという名の少年兵を無くしたいのがエイラとサーシャの考えだ。だというのに、ますますウィッチの軍事利用が加速しそうな出来事がチャンスになるとは到底思えなかった。
「非正規戦だからこそだ。ウィッチってのは見た目じゃただの少女なんだ。もしも正規の手順で入国させた少女がウィッチで、国内でテロを起こしたらどうする。ウィッチに該当する年齢の少女を入国監視にするわけにもいかないだろ」
「だからこそ、ウィッチは保護しなければならないんです」
「そうだ。だから今回の一件はチャンスなんだ。ウィッチの危険性を周知して、一つの組織で管理するんだ。今ならカールスラントは確実に食いついてくる」
エイラの発言にサーシャは息を呑んだ。カールスラントとは表向き敵対してはいない。しかし感情面では友好国ではなく敵国と言って良かった。
「利害関係が一致するのなら感情を飲み込んで飲み込んで納得するだけの度量はあるはずだ。そしてわたしにもカールスラントを受け入れる覚悟はある」
「……国民は違うかもしれませんよ。スオムス国民も周知されていないだけで、戦闘があった事は知っています。カールスラント国民は戦闘により自国のウィッチが、軍が被害を受けた事を知っています。そう簡単に事が進むとは思えません」
「いや、進む。これは国防上看過できない問題だ。感情論で拒否していい問題じゃない」
ウィッチはネウロイの様な怪異に対する最大の対抗手段だ。それは通常の人間以上の力を持つ事を意味する。少女の様な見た目でありながら、訓練なしでも一人で歩兵小隊くらいであれば撃退する事ができる。そんな少女が専門の訓練を受け、スパイとして入国する。そんな危険を感情論で看過することなどあり得ない。
「機関所属ウィッチには、専用のパスポートを交付させるようにすれば正規手段での入国ならウィッチかどうか判別可能になる。当然上がりを迎えたウィッチにも、これは配布する」
「ウィッチという脅威の排除のための機関ですか。私達が考えていたものとは違う気がしますが」
ウィッチの保護をする為に国際機関の設立をしたいというのがエイラ達の計画だった。しかしこれでは保護ではなく隔離といった方が正しい。
「そうだな。けどそれは隠されるべき理由だ。敢えて公表はしない。表向きはノイエ・カールスラントで捕まえられたリベリオンウィッチと、各国の内乱で動員されたウィッチ達の保護だ」
「ああ、だから今回の一件はチャンスなんですね」
ようやくサーシャにも得心がいった。エイラはカールスラントが頭を悩ましているであろう、工作員ウィッチの排除を餌に計画にカールスラントという大国を参画させるつもりなのだ。
スオムス一国であれば一笑されるであろうウィッチの保護も、カールスラントが参画するとなれば話は別だ。ウィッチという軍事力を統一の機関で管理する以上それは軍事同盟に近い。軍事力を背景に他国に対して参加を促すことも可能になる。
「ブリタニアの思惑は分からないけど、あの国も工作員ウィッチに頭を悩ます事になるだろうからな。もしかしたら情報を伝えてきたのはその辺りの解決を願ってのことだったのかもな」
「むしろあの国はそういうウィッチを使う側な気がしますけどね」
「使う側だからと言って、使われないとは限らないだろ。工作員としてのウィッチがバレてないならともかく、こうして表に出てしまった以上は警戒されるし、他国も真似をする。自国がウィッチを工作員として使うメリットと、使われる事に対するデメリットを考えるとどうにか制限する方がメリットは大きい」
十中八九ブリタニアもウィッチを工作員として利用している、あるいはする計画があっただろう。だがそれなのにこうしてリベリオンの情報を渡してきたという事は、それ以上に使われる事に対してデメリットが大きいという考えからだとエイラは考えた。
「でしたら自分で動けばいいと思うのですが」
「どう対応するのが迷ってるんだろ。できれば自国だけはウィッチを工作員として使いたいと思っているのか。いずれにせよ、まずはカールスラント大使館に連絡だな」
「忙しくなりますね」
「まったくだよ。だけど、わたしが一番やりたかった事が実現できるんだ。多少忙しいくらいなんて事ないさ」