ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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暖かくて過ごしやすくなりましたね。


扶桑

久方ぶりの休日、宮藤はかつての恩師坂本に呼び出され旧交を温めることになった。

 

「スオムスが主導した準軍事同盟か。どう思う宮藤」

 

欧州から遠く離れた扶桑にも、エイラの立ち上げた機構の影響はきていた。扶桑は西太平洋からにインドシナにかけて大きな影響力を持つ。その中には欧州の植民地もあり、扶桑とも取引がある。

植民地には当然、宗主国の軍隊が駐留しておりその編成は扶桑にとっても関心の高いものだ。今回の機構は編成が変化しうるものだった。

 

「どうもこうもないですよ。世界から戦争が減って、ウィッチが犠牲にならなくなる。いいことじゃないですか」

 

「事はそう単純ではない。今回の機構はカールスラントスオムスの二カ国だけなら、欧州のパワーバランスの変化で済んだ。だが欧州のほとんど全ての国が参加したとなれば話は別だ。世界のパワーバランスが変化し、扶桑も対応を余儀なくされる」

 

「そうですね。けどいいじゃないですか。扶桑は強い国ですけど、リベリオンという同格の大国ある限りは、常に世界情勢の変化を気にしなければならない。それは前と変わらないじゃないですか」

 

扶桑にはパシフィス島という莫大な資源を有する島を保有する。ほとんどの資源を自前で用意できる上、余剰分は他国に輸出している為に強大な国力を有する。

扶桑と並び立つ大国リベリオンも、東海岸を中心に行われる欧州との貿易で莫大な富を得ておりネウロイ打倒後の世界においてこの二カ国は覇を競い合う関係にあった。

 

「リベリオンと扶桑の間に欧州という、巨大な勢力が割って入る事が問題なんだ」

 

坂本の言葉に宮藤は首を傾げた。

 

「それが問題だとは思えません。扶桑とリベリオンが競合するのは、太平洋という海の派遣争からまだ理解できます。だけどそこに第三の競争相手が現れたとして、一体何の問題があるって言うんですか」

 

「例えば我々がリベリオンと直接争った場合、どちらが勝つにせよ国力の低下は免れない。そこに第三の相手、つまり欧州勢力が漁夫の利を狙って攻めてこないとは限らないだろう」

 

「それがそもそも間違いですよ坂本さん」

 

はっきりと意思のこもった声だった。かつての宮藤なら、坂本の言葉に疑問の声しか出なかっただろう。魔法力は強力で、ウィッチとしての才覚も十分。ただ唯一、軍人としての才覚だけはないと言うのが宮藤の評価だった。そんな宮藤から軍事的な話に対して明確な否定が飛び出した事に坂本は驚いた。

 

「確かに最近の扶桑とリベリオンは競合し、お互いに意識しあって軍事力を増強しています。だけどそれは戦争をする為じゃなくて、戦争をしないための牽制が目的です。第三勢力が増えて漁夫の利が狙われるというのなら、尚更戦争は起きにくくなるはずですよ」

 

なんて事のないように宮藤が告げると、坂本は眉を顰めた。

 

「事はそう簡単にはいかない。漁夫の利を狙う第三勢力は目の上のたんこぶだ。少しでも弱い見せたら、つまり漁夫の利ができない状態になれば必ず残り二カ国は動く。それが残り二カ国同士の戦いなのか、それとも弱みを見せた国を共同で叩くのか。はたまた弱った国と手を組んで残りを排除するのか」

 

人の悪意は底なしだと語る坂本に、宮藤はらしくない冷ややかな笑みを浮かべた。

 

「それは坂本さんの願望なんじゃありませんか」

 

「願望だと?」

 

「坂本さんは上がりを迎えた後も、なにかと前線に立ちたがり続けました。その結果、あわやヴェネチアの奪還に失敗しそうになりました」

 

ヴェネチア奪還に際して、坂本は上がりを迎えシールドが張れないにも関わらず参戦した。それだけが原因でヴェネチア奪還が失敗しそうになったわけではないが、原因の一端が坂本にある事は疑いようがない。

 

「……たしかに、あの頃の私はまだ戦場に未練があった。そのせいで迷惑もかけた。だがその事は今は関係ないだろう」

 

「その後も、私が魔法力を取り返すきっかけとなった時、飛行機に乗って駆けつけましたよね。戦争が終わった後も、何とか軍に残れないか方々にかけあいました」

 

「そうだ。私は軍の中でしか生きられない。そう思っていたからな。案外一般人としてもやっていけているあたり、私の勘違いだったようだがな」

 

元ウィッチの多くが犯罪に手を染め社会問題と化す中、坂本は一般社会で会社員として上手く生活できていた。

 

「坂本さんはいつまで軍人を気取るつもりですか」

 

「気取るか。そんなつもりはないんだがな」

 

「いいえ、気取っています。こうして私と会って、軍に関する話をしている事が何よりの証拠です」

 

宮藤は扶桑でもっとも出世しているウィッチの一人だ。ヘルウェティアでの留学経験と、ウィッチとしての従軍経験が海軍内で大きく評価され、今では軍医中佐となった。

そんな宮藤が休日の日に会って、昔を懐かしむでもなく現在の世界情勢の話をするあたり、少なからず軍に対して未練があるように宮藤は思えた。

 

「坂本さんはもう軍人じゃないんです。世界情勢とか、今後の行く末なんかは現役の人達に任せておけばいいんです」

 

「だが……」

 

「坂本さんは戦争が起きれば自分が軍に戻れると思っているんじゃないですか?」

 

宮藤の言葉に坂本は目を見開いた。

 

「いくら上がりを迎えたと言っても、坂本さんはまだ予備役中佐ですもんね。戦争が起きれば召集されてまた軍に戻る事ができます」

 

「そんな事は考えていない」

 

憮然とした表情で坂本は答えるが、宮藤は眉を顰めた。

 

「だとしたら、必要以上に軍隊に関して話す事はやめるべきです。今の坂本さんは軍に対する未練から戦乱を望んでいるように見えます。せっかくエイラさんが世界平和の為の第一歩を踏み出したんです。妙な勘ぐりはやめましょうよ」

 

「勘ぐりではない。実際問題、巨大な第三勢力が現れた事は、扶桑リベリオン間の関係に影響を与える事は間違いない。それがエイラの狙いと違ったとしても、それは事実だ」

 

「だとしても、エイラさんの目的は違います。そこに外部の勝手な想像を押し付けて、期待するのはエイラさんに失礼です」

 

今まで宮藤から向けられた事のない視線を向けられ、坂本はたじろいだ。

 

「エイラさんがウィッチの保護を謳うように、私にもやりたい事があるんです」

 

脈略なく告げられた言葉に、坂本は目を瞬かせた。

 

「数の少ないウィッチの中でも、特に少ない医療ウィッチ。各国でもその教育制度はバラバラで、治療方法は魔法力頼り。私みたいに医者としての勉強をして資格まで持ってる医療ウィッチはとても希少な存在です」

 

ハルトマンのように、退役後に医者になったウィッチの事例は多々あゆが、医療ウィッチが医者の資格をとった例は数えるほどしかない。

医療ウィッチは治癒魔法を使えば傷を塞ぐ事ができるため、外科的な知識は本来必要ない。そんな不必要な知識を学ぶ事に意味を見出す医療ウィッチは少ない。各国の軍隊も医療ウィッチが自身の固有魔法を使えば無条件で傷を塞ぐ事ができる為、魔法力の使い方以外に学ばせる必要が無かったことから医療ウィッチが医者の資格をとった事例は少なかった。

 

「医者としての知識が全て必要だとは言いません。だけど医療ウィッチにも最低限の知識は与えるべきですし、望めば医師資格を取得できるよう制度化すべきです」

 

「私に協力できる事があるのなら協力するが……」

 

坂本の言葉を遮り宮藤は続けた。

 

「エイラさんの作った機構を知って、私はこの制度を扶桑だけで行うことのメリットが少ない事にがついたんです。扶桑国内にも医療ウィッチはいますけど、これを制度化させても使われるのは年に数回。下手をすれば使われない年もあるかもしれない。だからこの制度をエイラさんの力を借りて世界に広げたいんです」

 

「扶桑もエイラの機構に入るのか?」

 

それは坂本の想定していない事だった。扶桑とリベリオンはエイラの作った機構に真正面から対抗し、世界は三つの陣営に分かれる。それが坂本の想定だった。

 

「上層部の説得はまだです。だけど、世界中の医療ウィッチが専門知識を身につけて、医者として人々を治療する事ができれば、救える命は増えます。医者としてこれを見逃さない手はありません。だから坂本さん」

 

宮藤は大きく息を吐いて深呼吸すると言った。

 

「この件に関して邪魔だけはしないでください。坂本さんの懸念が懸念で終わるよう、市民の皆さんが平和に暮らせるよう、扶桑(私達)は全力を尽くしますから」




今回は宮藤さんも月日が経って、少しは大人になったよと言うお話です。
さて、ストライク・ウィッチーズの世界って、医療ウィッチの数ってどんなもんなんでしょうね。統合戦闘航空団な治癒魔法が使えるのが三人いますけど、何となく宮藤さん以外は医療ウィッチの基準を満たしてないのではと言う疑惑があるんですよね。フェル隊長は一応そっちに進む道もあったぽいですけど、なんか大分ギリギリくさい。宮藤がとんでもない使い手だとしても、多分医療ウィッチのアベレージはフェル隊長よりも上な気がします。
それはそれとして、医療ウィッチの数は多分かなり少ないんだろうなと思います。多分百人に一人とかそこらへんじゃないかなあ。下手したらもっと少ないかも。そもそも固有魔法の持ち主が多分十人に一人とかそのクラスなんで、そこから更に治癒魔法持ちまで探すとなると百人に一人じゃきかないかもなぁ。
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