ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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花粉がひどい……


ストックホルム

「久しぶりだなペリーヌ、ルーデル。会えて嬉しいよ」

 

「お久しぶりですわ、エイラさん」

 

欧州全ての国が参加を表明した日から一週間。加盟国の代表者が集まる会合の場が持たれる事になった。突如決まったにも関わらずこの会合には、各国の首脳クラスが多く参加する事になるが、いくつかの国は代理を立てていた。その一つがガリアだった。

 

「旧交を温めたいのは山々だが、お前には聞きたい事が幾つかある」

 

「丸くなったなルーデル。昔のお前ならそんな前振りせずに、聞きたい事を真っ先に言ってたぞ」

 

「茶化すな、ユーティライネン」

 

思いの外真剣な様子のルーデルに、エイラも真剣な表情を浮かべた。

 

「本当なら聞きたい事全て聞くところだが、今後の進退に関わる事だけ聞くとしよう。お前は何を考えて今回の組織を作った」

 

「ウィッチの保護が目的だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「お前ならウィッチを使った世界平和の実現も可能だろう。それをしようとは思わないのか?」

 

ルーデルの言葉にエイラは眉を顰めた。

 

「世界平和ってのは、未来ある若者を利用して手に入れるものじゃないと思うんだ。むしろ未来ある若者のために、世界平和はあるべきだ。なのに若者を使って世界平和を手に入れるのは、酷い矛盾だと思わないか?」

 

「それよりさらに若い者達の為に犠牲になるのなら、お前の言う若者も本望だのは思わないか?」

 

「詭弁だな。それで犠牲になった奴らと同じ年齢になったら、また犠牲を強要するのか?」

 

「平和が実現できているかもしれない」

 

その言葉をエイラは鼻で笑った。

 

「ネウロイを倒して一度はそれが実現できたはずだ。それなのにほんの数年で世界の平和は乱れた。恒久的な平和は無理だ」

 

「数年でも平和は平和だ」

 

「それが十年とかなら、一世代分のウィッチが戦わなくて済むかもしれないな。だけど数年の平和だと戦いを経験しないで済むウィッチはよほど運のいい奴だけだ。お前のの考えは論外だ」

 

「ウィッチは人類の平和の為にネウロイと戦った。それはこれからも変わらないと私は思う」

 

ルーデルの言葉にエイラは頷いた。

 

「ネウロイみたいな、人類の力が及ばない敵の為に、ウィッチは存在するんだ。決して人類同士の戦争の道具じゃない」

 

「人類が平和を乱すのなら、ウィッチはその解決に動くべきだとは思わないのか?」

 

「思わないな。ネウロイと違って人同士だ。話し合いもできるし、通常の軍隊で十分対応が可能だ」

 

「話し合いで決着がつかなかったら?」

 

「それは当事者同士の問題だ。最悪の場合、そいつらの間で戦争になるかもな」

 

エイラの言葉にルーデルは大袈裟なほどに驚いた様子を見せた。

 

「冷たいな。それで死人が出たらどうするんだ」

 

「それは戦争回避義務を怠った政府の責任だ。わたしに責任はない」

 

「ウィッチが、この機関が介入すれば戦争が避けられたとしてもか」

 

「あくまでもウィッチの為に作ったからな」

 

「相手がウィッチを使ってきたらどうする」

 

「その時は仕方がない。この機関の出番だな」

 

エイラの言葉にルーデルは深く頷いた。

 

「世界平和ではなく、あくまでもウィッチという小さな範囲に平穏をもたらす事を考えていると。そう言う事だな」

 

「そう考えてもらって構わない」

 

「ならウィッチとしての力がまだ発現していない、奴らはどうする。あれらは検査でわかる類ではない。発現して初めてウィッチはウィッチとなるのだ。介入しなかった事により、未来のウィッチが命を落とすかもしれないんだぞ」

 

その質問にエイラはすぐに答えることができなかった。想定していたのは、あくまでもウィッチとしての力を発現できた者達の軍事利用の阻止だ。だがウィッチを軍事利用されなったからと言って、民間にいる潜在的なウィッチ達が犠牲にならないとは限らない。少しの沈黙の後、エイラは口を開いた。

 

「ウィッチの軍事利用の禁止。今後の戦争はウィッチを主力となる。これを世界中に波及させる事ができれば、戦争は減るはずだ」

 

「新たに強力な兵器が生まれるだけだ。ネウロイとの戦争でもそうだった。最後はウィッチが必要なくなるような強力な兵器が生まれた」

 

「だとしても、まだ暫くはウィッチが抑止力として作用するはずだ」

 

「ウィッチが関わらない戦争には介入しないんだろう。どう抑止力にする」

 

ルーデルが語気を強めると、エイラは眉間に皺を寄せた。

 

「ウィッチのいない国はない。戦争が起きた地域にはウィッチ保護の名目で介入すればいい」

 

「それは世界平和のために、所属ウィッチに犠牲を強いる事になるのではないか?」

 

「あくまでも目的はウィッチの保護だ。世界なんて大それたものの平和を願っちゃいないさ」

 

エイラの言葉に今度はルーデルが眉を顰めた。

 

「私たちの間に建前は不要だ。そうは思わないか?」

 

「わたしはお前に対して建前を使った事はないぞ。これは紛れもないわたしの本心だ」

 

「ウィッチ保護を名目として戦争に介入するのなら、最後まで責任を持つべきだ。介入してウィッチを保護したらさよならか?」

 

ルーデルが睨みつけると、エイラは肩をすくめた。

 

「ルーデル。これはあくまでもわたしの考えだ。創設者がわたしだからと言って、わたしの考えを踏襲する必要はない」

 

「……私の好きにして良いと?」

 

「所属国が許す限りだけどな。お前が知りたかった事はそれか? 建前が不要だって言う言葉は、お前にこそ必要だよ」

 

エイラが鼻で笑うと、ルーデルが苦笑した。

 

「すまんな。私は元々この組織に対して否定的だったんだ。いや、今でもそうなんだが、だからこそお前の考えを聞いておきたかった」

 

「世界平和じゃなく、ウィッチの平穏って言うのはお気に召さなかったか?」

 

「そうでもない。極めて現実的で、面白みがない事以外は言いがかりがつけようのない考えだ」

 

「そりゃよかった。ところでさっきから黙ってるペリーヌは、この事を聞いてたのか?」

 

「いいえ、聞いていませんわ。ですがルーデルさんは無意味な事をする人ではありませんので、話が終わるまで黙っていたのですわ」

 

「随分と信用してるんだな」

 

「我が家の良き同居人ですから」

 

澄まし顔でペリーヌが言うと、ルーデルはペリーヌの肩を組んだ。

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。ならこれからも良き同居人でい続けようじゃないか」

 

「残念ながらそれは無理ですわ。貴女がトップとなる組織の本拠地はここ、ストックホルムです。至極残念な事に、長となる貴女も当然ここに移り住む必要があるでしょう」

 

小さく微笑みながら言うと、ルーデルは勢いよくエイラに問いかけた。

 

「クロステルマンの言っている事は本当か!?」

 

「まぁ、できるのならストックホルムに居てもらいたいな」

 

「出来るのならか。なら大丈夫だな」

 

「よくありませんわ。司令部機能のある場所に組織の長が居なければ、指揮系統が混乱するのはお分かりですわよね」

 

幼子をあやす様に優しい口調でペリーヌががルーデルを宥めた。

 

「いや、意外とストックホルムには居なくても良いかもしれないな」

 

「本当かユーティライネン!?」

 

「カウハバ基地を組織に貸与するんだけど、そこでわたし含めかつてのエースが所属ウィッチを訓練する予定になってるんだけど、ルーデルも加わってくれよ」

 

それはルーデルの望んでいた答えではなかった。希望に満ちた顔が一瞬で

 

「それじゃダメなんだ!!」

 

「ダメなのか?」

 

「ダメだ。クロステルマンの屋敷では毎日三食、美味い飯が食える。だがカウハバに移ったらそうではない」

 

ルーデルの言葉にペリーヌは呆れた様子で息を吐いた。

 

「ご飯くらい貴女も作れるでしょう」

 

「人が作るからこそだ。そうだ、お前もストックホルムに来れば良い」

 

良い考えだと手を打つが、ペリーヌは甲高い声で否定した。

 

「私はガリアの議員。簡単にガリアを離れられませんわ! それにご飯はリーネさんとアメリーさんが中心となって作っていますわ。私は必要ないでしょう」

 

「悲しい事を言うな。私とお前の仲だろう」

 

「居候と家主ですわね」

 

「つれないな。もう少し寂しがってくれても良いんじゃないか?」

 

「貴女はもうガリアの人間です。居場所さえ分かれば強制帰国させることも可能ですわ」

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。そんなにも私にガリアを離れてほしくないのか?」

 

「いえ、暫くは私もゆっくりと暮らしたいので、暫くはストックホルムにいてくださいな」

 

ペリーヌの素っ気ない態度にルーデルは不満そうに口を尖らせた。

 

「別に仕事をちゃんとこなしてくれるのなら、ガリアにいてくれても良いぞ」

 

「なに?」

 

「ウィッチの数は少ないんだ。組織の規模もそれほど大きくはならないし、仕事もそんなに多くはない。多分一年の半分はガリアに入れるんじゃないか?」

 

エイラの言葉にルーデルは満面の笑みを浮かべ、ペリーヌはどこか不満そうに眉を顰めるのだった。

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