「みんなよく集まってくれたな。一応今日の会合は機関参加国の代表の顔合わせだ。けどそんなに硬くならなくていい。なんせここにいるのはみんなあの戦争を生き抜いたウィッチ、戦友だからな。階級や戦果に違いはあれど、わたしたちの間に上下関係はない」
エイラの言葉にすぐに反応した人物がいた。
「ダキア代表、カンタクジノだ。ユーティライネン閣下の意向は事前に聞いているが、いくつか質問したいことがある」
「構わない。けどその閣下ってのはやめてくれよ。わたしはまだ元帥号を所持してるし、大統領でもある。だけどここではみんな同じウィッチ。平等だ。気軽にエイラで構わないぞ」
エイラの提案に噛んだカンタクジノは気まずそうな表情を浮かべた。
「世界的英雄の閣下を名前呼びなど……」
「お前もわたしと同じ統合戦闘航空団の一員で、世界的英雄の一人だろ。それにあの戦争は、わたしがいたから勝ったんじゃない。世界中が協力できたから勝てたんだ。有名無名はあれどあの戦争で戦った奴は、みんな英雄だよ」
「良い事を言うじゃないか、ユーティライネン。私達は戦果を上げたが、あの戦争を通して人類が獲得した戦果から見れば砂粒のようなものだ」
「そうだな。わたしやルーデルが上げた戦果は、他の大勢の戦果と同じように、全体から見ればほんの一部だ」
そんなわけがあるか。カンタクジノはそう言いたかった。だがこの二人からすれば、カンタクジノもまた他大勢の一人でしかない。いくら統合戦闘航空団所属だったとはいえ、世界的な大エースの見解に意見を述べられるほどカンタクジノの肝は座っていなかった。
「お二人はもう少しご自分のことを客観視すべきですわ」
ため息と共にそう言ったのは、ペリーヌだった。
「貴女達ほどの人が、他と大勢のウィッチと同じはずかないでしょう。たしかにあの戦争で戦った人は全員英雄ですわ。ですが貴女達のような突出した英雄は、ほとんどいません」
「私達の戦果が突出しているのは理解している。その上でこの無礼講の場で、緊張感なく気軽に声をかけてもらおうと思って言ったんだ」
「カンタクジノなんかわざわざ手を上げて発言の許可まで求めてきただろ。そんな堅苦しくなくて良いんだよ」
「なのにお前がそんな現実に戻すような事を言っては台無しだ」
エイラとルーデル、二人から責められペリーヌは眉尻を下げた。
「それならそうと、事前に言ってくだされば良いのに」
「思いの外堅苦しい雰囲気だったからな。事前に相談なんて無理だよ」
「ですが、ルーデルさんには相談していたのでしょう?」
息ぴったりな様子で言葉を紡いだ二人に、ペリーヌは事前の相談があったと思っていた。
「言ってないぞ。ルーデルが勝手に合わせてくれただけだ」
「……随分と仲がよろしいんですね」
「そんなわけあるか」
心底嫌そうな顔でエイラが言った。
「私とお前の仲じゃないか。そんなつれない事を言うな」
「散々無茶には付き合ってやったけど、それだけだな。ペリーヌも今はわたしと同じ、コイツの上官みたいなことしてるんだったよな。大変だろ?」
「ええ。ルーデルさんの提案する事は突拍子も無いことが多くて、実現するのには苦労しますわ」
エイラが戦時中に体験したルーデルの無茶振りほどではないが、ペリーヌもルーデルの被害に遭っている。
「私は無理難題は言わない。お前ができるギリギリを見極めている」
「毎回ギリギリばかりだから大変なのですわ」
楽しく談笑する三人を現実に引き戻したのは、カールスラントの代表としてきていたボニンだった。
「楽しそうなところ申し訳ないが、そろそろカンタクジノの話を聞いてやったらどうだ」
「そうだな。わたし達盛り上がっても仕方がない。それで、カンタクジノの質問ってのはなんなんだ」
「この組織が想定する、ウィッチを保護する際の戦力をどこから捻出するのか。保護したウィッチをどこで匿うのか。誰の判断で保護を決定するのか。この三つが質問になります」
「まどろっこしいな。素直にスオムスとカールスラントによる戦争利用を懸念していると言ったらどうだ」
カンタクジノの言葉にそう言ったのはヒスパニアの代表として来ていた、元504部隊のアンジェラ・ララサーバルだった。
「アンジー、言葉がすぎるわよ」
「皆が気にしている事だ、マルヴェッツィ」
同じ504部隊所属だったフェルナンディアが諌めるも、アンジェラは同意を求めるように周囲を見渡した。
「ヒスパニアのような、大国の思惑に簡単に抵抗できない国はこの機関に参加した事で不利益を被るかもしれない」
「これだけ参加国があるんだし、限られた国が自己の利益の為だけに動く事は抑制できるんじゃないかしら」
「スオムス、カールスラント、ブリタニア以外はどこも満身創痍だ。唯一対抗できそうなオラーシャは、この場に代表を派遣する事さえままならない」
アンジェラの言葉に、スッと手が上がった。
「ブリタニア代表として来たマイルズです。スオムス、カールスラントが信用できないのなら、ブリタニアが責任を持って」
「ブリタニアが責任を語るとは。二枚舌はジョークにも使えるらしい」
「ゴロプ大佐、それはどう言う意味ですか」
「ブリタニアほど信用できない国はないと言っているんだ。それと今の私は元大佐だ」
売り言葉に買い言葉。マイルズが先から立ち上がり、それに応じてゴロプも立ち上がった。
「この場に集まっているのは、ウィッチの犠牲を減らしたいと言うユーティライネンさんの考えに同意し、集まった同士です。きっかけを作った私が言うべきではないかもしれませんが、隊長も煽るような事は言わないでください」
「煽ったのではない。ブリタニアが信用できないと堂々と宣言したのだ」
ゴロプが不遜な笑みを浮かべると、マイルズが距離を詰めた。
「二人ともやめろ。ブリタニアを信用できないのは分かった。けど元陸戦ウィッチに喧嘩を売ってどうするんだよ。殴り合いの喧嘩だと勝てないのは分かりきってるだろ」
「関係ない。私がブリタニアの事が嫌いだから、この無礼講の場を借りて言ったまでだ。その結果がどうなろうと知った事ではない」
「その心根の強さは立派だと思うけど、胸ぐらを掴まれてるあたり台無しだな」
エイラが割って入るのは少し遅かった。マイルズは魔法力を発現する事なくゴロプの胸ぐらを掴み、宙に浮かしていた。
「マイルズの怒りはもっともだ。だけど今は私の顔を立てて怒りをおさめてくれないか」
「ユーティライネンさんがおっしゃるのなら……」
不満な様子を隠そうともせず、マイルズはゴロプを投げ捨てると席に戻った。
「ブリタニア人なら手ではなく二枚ある舌で反撃すればいいものを」
「ゴロプ、いい加減にしろ」
エイラが睨みつけるとゴロプは襟元を正すと席に戻った。
「さて、じゃあカンタクジノの質問に戻ろうか。第一に戦略についてだけど、これは当機関に所属する現役ウィッチが当てられる。作戦地域に最も近い所属国のウィッチが、先遣隊として活動することになるだろう」
エイラの言葉はおおよそ予想通りだったのか、これに対して質問はなかった。
「第二に、保護したウィッチのはまずは近隣の所属国で保護する。その後一時的に本部、つまりスオムスに来た後に本人の希望する支部に所属する事になる」
「本部に連れてくる理由はなんだ」
これにはアンジェラから質問があがった。
「これは他のウィッチにも言える事だけど、一度は本部で他の国のウィッチと交流を持つ場を設けたいと思ってるんだ。わたし達はあの戦争がなければ他国のウィッチと手を取り合う事がなかった。あんな思いは二度とごめんだけど、他国のウィッチ達と交流を持てたのはなんだかんだ良かった。これから生まれるウィッチ達にも、そんな場を提供したいと思っているんだ」
「つまり、保護したウィッチだけの特別な措置ではなく、全ウィッチに共通して行われる処置だと言う事だな」
エイラの返答に、アンジェラは納得した様子で頷いた。
「第三の誰の判断か、だけどこれについては基本原則、所属国の合議制をとるつもりだ」
「原則という事は、例外もあるという事なの?」
フェルナンディアが疑問を口にした。
「この機関のトップがすぐに動く必要があると判断した時、合意を得ずに部隊を動かす事ができる。もちろん、後から調査して組織の理念に合わない行動だっだりしたら、そいつには重い処分が下される」
「重い処分とはどのようなものですの?」
ペリーヌが尋ねた。
「最低でもトップを降りてもらう。その上で組織からの追放とかじゃないか」
「随分と厳重な処分をするんですね」
「責任に相応しい罰だろう。ブリタニア人にとっては重いのかもしれないがな」
「ゴロプ。いい加減にしろ」
驚いたマイルズに、ゴロプが嫌味を言うとエイラが諌めた。
「他に何か質問は?」
なんの質問がないのを見て、エイラは言った。
「じゃあ少し早いけど切り上げて、夕食にしよう」
オストマルクとかダキアとかの中小国って、ネームドウィッチが少なくて話の本筋に絡ませにくい……
後はオラーシャも意外と少ないですね。サーシャとサーニャを使ってるから、後はサフォーノフさんくらいですけど、資料が少なすぎて難しい……