会議の後に設けられた会食の時間は、エイラが望んだようなものにはならなかった。
「スオムス料理は初めてですが、ブリタニア料理よりもマシですわね」
そう言ったのは、ペリーヌだった。エイラは料理がそれほど得意でなかった事もあり、ペリーヌにとって本格的なスオムス料理はこれが初めてになる。普段のペリーヌであれば、ブリタニアの人間がいる中でブリタニア料理を貶すような事はしない。たがスオムス料理の衝撃的な味に、思わず口からこぼれ出ていた。
「ペリーヌ、失礼だぞ」
「同意します。我が国の料理が不味いのは周知の事実ですから」
友好を深めるためと銘打っての食事会だ。主催者のエイラとしてはペリーヌの発言はよろしくない。だがマイルズの機転により、和やかな空気が流れる、はずだった。
「流石はブリタニア人。二枚も舌があれば味の違いもよく分かるらしい」
「ゴロプ、お前のマイルズに対する態度が悪すぎるぞ。同じ組織に所属して、ここにいる全員が各国の支部長になる奴だ。自然と今後も付き合いがあるのにそんなんだと後々苦労するぞ」
エイラの言葉にゴロプは不満そうに頭を下げた。
「彼女は私が味の違いのわかる確かな舌を持っていると言ってくれたんです。自分が持っていないモノを持っていると、人は羨ましくなるものです。私は気にしていませんよ」
「私が馬鹿舌だと言いたいのか?」
「いいえ。ですがそう聞こえたのであれば、謝りますよ」
ただでさえ目つきの悪い目を、さらに鋭くして睨みつけるゴロプをマイルズは飄々とした態度でいなした。
一方的に敵意を向けられるのは、誰だって気持ちのいいものではない。マイルズはブリタニア人らしい発言でゴロプに反撃していた。
「二人とも、喧嘩するなら追い出すぞ」
「失礼しました。皆さん、お騒がせして申し訳ありません」
この場にいる、エイラとペリーヌ以外の全員は民間人だ。だが、今回の組織で国の代表となるにあたり、多かれ少なかれ国益のために動く事が必要とされている。会食の場から追い出される事が、国益に叶うはずがなくマイルズは即座に頭を下げた。
「追い出したければ追い出せばいい」
マイルズと違い、ゴロプは態度を変えなかった。ブリタニアほどこの組織を重要視していないのか、あるいは彼女本人の都合からなのかは判断がつかないが、エイラとしても本気で追い出すつもりはない。しかし一度口にした以上は、お咎めなしも問題だ。
「そのへんにしておけ、ゴロプ。仲良くしろとまでは言わないが、ここは主催者のユーティライネンの顔を立てて大人しくしろ」
意外な事に、ゴロプを諌めたのはルーデルだった。エイラとは別方面で活躍した英雄の言葉に、流石のゴロプも口をつぐみ無言で頭を下げた。
「ありがとう、助かったよ」
小声でエイラが例を礼を言うと、ルーデルは抑揚に頷いた。
「今後は私が組織のトップに立つのだからな。この辺で誰が上か教えておかなければつけあがる」
「意外とちゃんと考えてるんだな」
「当たり前だ。ユーティライネン程ではないが、私も部隊を率いていたんだ。上に立つ人間としての心得はある」
ゴロプとマイルズの仲は険悪だったが、その他のメンバーは概ねエイラの思惑通りになった。ペリーヌが中心となり、楽しそうに会話をしている。
「クロステルマンはガリア南部の反乱で随分と活躍したと聞いた。私達はネウロイとの戦い方は知っているが、人との戦いは知らない。この組織の設立目的からして、人と戦う事は想定すべきだ。ぜひ話を聞きたい」
ボニン言葉を皮切りに、ペリーヌには反乱での戦闘に関して質問が集中した。
「私はウィッチとの戦闘は避けるようにしていましたから、対ウィッチ戦闘に関してはさっぱりですわ」
「避けてばかりいては、戦争には勝てないわよね。そう言う時はどうしてたの?」
フェルナンディアが質問すると、ペリーヌは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「自分で言うのは恥ずかしいですけど、私はガリアで最もウィッチから人望あるウィッチです。私と相対すれば、大抵のウィッチは銃を置きますわ」
「銃をおかなければどうするんだ?」
「説得をすれば、投降してくれましたわ。ある程度まで反乱軍側のウィッチが投降すれば、後はドミノみたいに残りの全員が投降しました。残った非ウィッチを相手にするのに、ガリアのウィッチ隊全軍は過剰戦力ですわ」
ガリアの反乱は、敗北を悟った反乱軍が次々と降伏することで終結した。一時は国土の四割を反乱軍が掌握したが、ペリーヌの言葉でウィッチ隊の全てと地上部隊の一部は降伏。戦闘に関してもペリーヌとルーデル率いるウィッチ隊が一方的な勝利をあげ続けた。
「ガリアの反乱には、当初はヒスパニア国内で混乱が起きた。反乱軍とは国土が接しているから、何か対策を考えた方がいいのではないかとな。だが、クロステルマンの行動が速かったおかげで、ヒスパニアには何の影響もなかった」
「我が国の失態ですもの。礼を言われるような事ではありませんわ」
「だとしても、鎮圧自体はクロステルマンの功績よ」
フェルナンディアが言うと、ペリーヌは首を横に振った。
「鎮圧の指揮そのものは、ほとんどルーデルさんがしてましたわ。私は説得や事務仕事がメインでした」
「けど地上爆撃で戦果を上げていたはずですわ?」
カンタクジノが質問すると、ペリーヌは不本意そうに頷いた。
「確かに戦果を上げましたし、それを喧伝もしました。当時は喜ばしいものと考えていましたが、地上攻撃で少なからず歴史あるガリアの街並みが破壊されてしまいました。手放して喜べるものではありませんわ」
「敵の拠点となっている場所も、元を辿ればガリアのもの。取り返した土地の修復作業は自分たちでする必要があるから、出来る限り破壊しない事が望ましいのか」
ボニンはネウロイと人との戦争の違いに、興味深そうな様子で言った。
「ですが破壊しなければ敵は倒せない。さらにらその敵でさえ、中には本心から反乱に加わったわけではない人もいましたわ」
「本心から加わったわけではない?」
「周りに流されて、あるいは周りが全員反政府だから、自分だけ反対したらどうなるか分からない。そんな理由から反乱に参加した人もいましたわ」
「誰もが本心から戦争をしたいわけじゃない。大抵の場合、戦争ってのはトップのエゴにより成されるものだからな」
そう言ったのは、マイルズたちの仲裁を終えたエイラだった。
「そうですわね。ガリアの反乱も、ド・ゴールさんが北部に向ける優しさを、少しでも南部に向けられれば防げた事でしたわ」
「いくら先の戦争で被害が少なかったとはいえ、北部復興の名目で南部だけに増税はやりすぎだ。北部など各国からの支援で復興作業は殆ど終わっていたと言うのに、いったい何を考えていたのだろうな」
今ではガリア国籍を取得し、ガリア国民となったルーデルも、ペリーヌに同意した。
「ユーティライネン、お前のところは複数の国からなる連邦国家だ。不安定さはガリアの比ではない」
「そんな事は分かってる。だからうちの国ではそうならないよう、統治では平等を心掛けているよ」
「用心してくださいね。エイラさんはこの組織設立の立役者。ルーデルさんに長の座を譲ったとはいえ、本部はスオムスなんです。何かあれば貴女の理想であるウィッチの保護にも影響しますわ」
戦争にウィッチを使わせない。その理念を持った組織の本部ができるのは、スオムス連邦構成国、バルトランドの首都ストックホルムだ。もしも反乱でも起きようものなら、本部にいる各国のウィッチが戦争に巻き込まれる自体になりかねない。
「少なくとも、わたしの目が黒いうちは国内で反乱なんて起こさせない」
「エイラさんの事を信じていないわけではありませんわ。ですが、万が一という事もあります。その時はぜひ私のことを頼ってくださいまし。力になりますわ」
ペリーヌの申し出は、エイラにとって意外なものだった。だがこれほど有難い事もない。エイラは一も二もなく頷いた。