ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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ようやくと過ごしやすい気温になってきたような気がします。


事前準備

「イッル、とうとうカールスラントに行く決心がついたんだね」

 

「とうとうってなんだよ。別に私はカールスラントに行きたくなかったわけじゃないぞ」

 

カールスラントでの式典、その事前打ち合わせのために集まった参加者の一人、ニパの不躾な一言にエイラは眉を顰めた。

 

「ニパの言う通りだよ。イッルは今まで何度だってカールスラントに行く機会はあった。他の国との外交では、積極的に外交先に行ってたのにそれをしてないから、巷じゃイッルはカールスラントが嫌いなんだなんて言われてるよ」

 

「エイラが嫌いだと思っても仕方のない事を、カールスラントはしたんだもの。そんな噂が出回るのも仕方がないわ」

 

ハッセとサーニャがニパの意見を支持した。

 

「それはそうなんだけどさ。本当に嫌いなら国交は断絶してるよ」

 

「イッルはそんな事しないよ。みんなもそれが分かっているから、カールスラントが嫌いなんだって思ってるんだよ」

 

「ハッセもそう思ってるのか?」

 

「私はそうは思わないけど、他はそうじゃない。多分イッルには会いたくない、あるいは顔を合わせたくない人がいる。だから避けてたんでしょ」

 

ハッセの言葉にサーニャは得心がいったようだが、ニパはそうではなかった。

 

「イッルの嫌いな人がいるって事? 誰!?」

 

「お前だけ爆撃の爆弾倉でカールスラントに行くか?」

 

目をキラキラさせて尋ねてからニパにエイラは冷たく言った。

 

「……ストライカーをつけていいなら別にいいかなぁ」

 

予想外の返答に、エイラは憐憫の視線を向けた。普通なら怒るところなのにこの反応。まず間違いなく虐待に近い扱いを受けているのだろう。

 

「お前、普段そんなにひどい扱い受けてるのかよ」

 

「ち、違うよ! 502にいた頃ならそんな作戦もあったし、今の爆弾倉なら昔よりも快適かなって」

 

爆弾倉でウィッチを運搬し、作戦地域で投下する。統合戦闘航空団では幾度か行われた作戦ではある。だがそれは快適とは言い難い。実際、作戦参加者からは多数の苦情が寄せられ、二度以上爆弾倉での輸送を経験したウィッチは存在しない。

 

「ニパさん爆弾は人を運ぶ為のものじゃないのよ」

 

「多分快適さなんてものはさほど変わらないと思うよ」

 

「まぁ、爆弾を運ぶ為のものだしな」

 

爆弾倉は決してウィッチを運ぶ為のものではない。それをするのなら輸送機で空挺のように投下した方が何倍もいい。実際機構ではルーデルが音頭をとって航空機から空挺のように投下する訓練が行われている。

 

「それはそうと、イッルが会いたくない人って誰なの?」

 

「まだ聞くのか」

 

「だって気になるじゃん」

 

エイラが答えに窮すると、サーニャが言った。

 

「バルクホルンさんよね」

 

「ちょっとサーニャ、何言ってんだよ!」

 

「エイラは分かりやすいもの。どうせバレるわ」

 

「バルクホルンさんって、501の戦闘隊長だよね。そう言えばバルトランドとの戦争で、教え子が戦死してたっけ。もしかしてそれで会いたくないの?」

 

サーニャに言われて昔の記憶を思い起こしたニパはようやく理由に思い当たった。

 

「わたしの戦闘であいつの教え子は戦死したからな。新聞にも載るくらい激怒してたらしいし、流石に合わせる顔がないよ」

 

「バルクホルンさんってそんなことを気する人なの?」

 

「割とすぐにカッとなる人だけど、優しい人よ」

 

「じゃあ気にせず会いに行けばいいじゃん。戦争で人が死ぬのは当たり前だよ。それでエイラを恨むのは筋違いだよ。その時は怒ってても、きっと時間が経てば冷静さを取り戻すよ」

 

そんな事はエイラも重々理解している。どちらかと言えば、これはエイラ側の問題だった。

 

「カールスラントがバルトランドに義勇兵を送った事は周知の事実だ。現状はそれを棚上げして外交をしているからな。解決せずにカールスラントを訪れるのは、国民の反感を買う可能性がある」

 

「……本当にそれが理由?」

 

「もちろんだ」

 

完全な嘘ではないが、真実とも言い難かった。ある程度国が安定するまでは、カールスラントに向かうつもりはなかった。だが任期が二期目になった時点で、国内に残る不安は共産主義勢力のみとなった。行こうと思えばいつでも行けたのだ。

 

「ならどうして今になってカールスラントに行くことにしたの?」

 

「サーシャに説得されたからってのと、あとはわたしが三期目をするつもりがないからかな」

 

「あれ、そうなの?」

 

「そりゃな。長期政権は腐敗の原因になる。この辺で組織を一新しないと、スオムスの為にならない。あと、ルーデルとかが好き勝手生きてるの見たら、わたしももう少し自由に生きてもいいと思ったんだよな」

 

ルーデルは保護機構のトップにありながら、一年の半分以上をペリーヌの屋敷で自由気ままに過ごしている。そんなルーデルが、エイラはほんの少し羨ましかった。

 

「辞めてどうするの。イッルは連邦建国の立役者なんだよ。自由に生きるっていっても簡単なことじゃないよ」

 

「当時魔導軍の司令官だった私でさえ、いまだに護衛がつくんだ。イッルの言う自由は訪れないと思うけど」

 

「しばらくは国外にでようかな。扶桑とかならスオムスとしがらみがないから、ゆっくり過ごせるだろ」

 

「芳佳ちゃんに迷惑かけちゃダメよ」

 

「べ、別に会いに行くくらいいだろ」

 

「芳佳ちゃんもエイラほどじゃないけど、忙しいのよ」

 

現在宮藤は、エイラ達の保護機構とは別に医療ウィッチの育成機関を立ち上げ運営している。エイラ達とは相互に連携していて、実質的には保護機構の下部組織に近いが、独立性は担保されている。

 

「知ってるよ。あの組織を作るのにはわたしも協力したからな」

 

「そう言えばどうして保護機構に組み込まなかったの? 宮藤さんって元々保護機構内に作るつもりだったって聞いたんだけど」

 

ニパの質問に、エイラは少し考える素振りを見せた後に行った。

 

「わたし達が医療ウィッチに関しては全くの無知だったからだな。門外漢が上層部にいるよりは、宮藤自身がトップに立った方があいつの考えを実現しやすいからな」

 

「医療ウィッチって、本当に少ないもんね。宮藤さんほどの実力者は尚更だよ」

 

「けどあいつにはわたしはどの影響力はないからな。宮藤の考えはいい考えだと思った。だから機構から人手を貸して、最初の立ち上げだけ手伝ったんだ」

 

「あれは凄いよね。昔なら医療ウィッチにはなれないってくらいの才能でも、今は医師としての勉強を通じて治癒魔法を効率的に使えるようになったからね」

 

宮藤主導で行われた治癒魔法に対する研究は、大きな成果をあげていた。宮藤のように一度に全ての傷を治すのではなく、傷の内容によって治癒魔法の使う使わないを決める。傷にピンポイントで魔法をかけることで、魔法力の使用料を減らすなど、様々な工夫がうまれた。

 

「芳佳ちゃんと会うの、楽しみだわ」

 

エイラは三年ほど前に一度会っているが、サーニャは扶桑が機構に参加した六年前に宮藤がスオムスに来て以来会っていない。

 

「そういや坂本中佐とは十年くらい会ってないな」

 

「それを言うならシャーリーさんと服部さんもよ」

 

さっきまではカールスラント行きに少し憂鬱な気持ちがあだだエイラだが、だんだんと気持ちが上向きになっていた。

 

「なんだか楽しみになってきたな」

 

「よかったわ。その感じなら、バルクホルンさんとも簡単に会えそうね」

 

「それはちょっと……」

 

バルクホルンの話を出され、エイラの気分は再び沈んだ。

 

「イッル、いつかは会わないといけないんだし、これ以上気まずい思いをする前に早く会いなよ」

 

「うるさいぞニパ」

 

「ニパの言う通りだよ。いつまでもウジウジしてないで、覚悟を決めないと」

 

「ハッセまでそれを言うのかよ」

 

ニパとハッセにまでバルクホルンの話をされ、エイラは不貞腐れた。

 

「どのみちカールスラント行きを承諾した以上、バルクホルンと会うのは決定してるんだ。覚悟を決めるとかそんな問題じゃないだろ」

 

「それもそうね」

 

そっぽを向いて不貞腐れるエイラを見て、三人は小さく笑うのだった。

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