ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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今更ですけど、これが最終章です。


カールスラントにて

「エイラが来るのか」

 

バルクホルンがそれを知ったのは、世間に対して公表されるよりも随分と前だった。少将となったバルクホルンは、ラルに変わって帝都防空部隊司令官になり、そのラルは空軍指揮司令部総司令官の要職に付いていた。

 

「随分と長かったな。スオムスとの事実上の同盟関係となり、八年ほどが経つ。本当ならユーティライネンの来訪はもっと早く、多かったはずだ」

 

「悪い事をしたと思っている。私から出向いて、直接エイラに伝えるべきだった。怒っていない。カールスラントに遊びに来いと」

 

「過ぎ去った事を悔いても仕方がない。それよりも今は、ユーティライネンの懸念が杞憂である事を伝えるのが先決だ」

 

エイラがこれまでカールスラントに来なかった理由の一つに、バルクホルンの一件があるのは間違いない。おそらく、未だにカールスラント行きを躊躇っているであろうエイラに何かメッセージを出すべきだとラルは考えた。

 

「そうだな。だがカールスラントのメディアは、ユーティライネンにそれほどいい感情を持っていないぞ。私が何か言ったからと言って、かつての発言と同様にニュースになるとは限らない」

 

「そうだな。メディアの中には、義勇兵の犠牲に関していまだにエイラを責め、スオムスとの関係に納得していない連中がいる」

 

「前に一度、皇帝陛下が声明を出したから多少は鎮静化しているが、それはスオムスとの関係に納得している事にはならない。だから使うなら海外メディアだな」

 

「なるほど、全く関係のない第三国のメディアなら、正しい情報を発せられると言う事か」

 

一昔前と比べ、情報の伝達速度は随分と早まった。他国のメディア相手でも、かなりの速度でニュースは伝わるだろう。

 

「ユーティライネンの件は、それでいい。最大の問題は当日の護衛だ」

 

「エイラに対するメッセージにはなっても、国内問題の解決にはつながらないからな。エイラには大量の護衛をつけなければならないな」

 

「いや、ユーティライネンについては護衛は不要だ。子飼いの旧バルトラントのウィッチが、いまだに護衛として現役だからな」

 

旧バルトラントのウィッチは、保護機構に上がりを迎えるまで所属した後、スオムス大統領の護衛部隊に所属するものが数多くいる。かつては二個大体規模だった護衛も、現在では小国のウィッチ隊に相当する数にまで増えている。唯一の欠点は、全員が上がりを迎えている事だが、相手がウィッチでもない限りは十分な戦力だった。

 

「なら誰に対する護衛だ」

 

「かつて統合戦闘航空団に所属したウィッチが、カールスラント国内で事件にあう。そんな不祥事を未然に防ぐ事こそが、今回の式典を成功に導く鍵だ」

 

「なるほど、確かにそうだな。私もグンドュラも参加者であると同時に、現場の責任者でもある。エイラが一番地位の高いウィッチだが、他の参加者の安全確保を疎かにしていい理由にはならないな」

 

大抵の参加者は、軍から離れて一般人となっている。しかし彼女達が先の大戦での英雄である事に変わりはなく、もし万が一何かあればカールスラントに対する非難は免れない。

 

「エイラについては、カールスラントからも護衛を出すべきではないか」

 

「いや、しないほうがいいだろうな。連携が取れるとは思えないし、何より……」

 

「何よりなんだ」

 

「あまり言いたくないが、何かあった時の責任が軽くなる」

 

ラルの言葉に、バルクホルンは呆気に取られた。

 

「そんな事の為に、エイラの護衛をしないというのか!?」

 

「バルクホルン、何も私が責任を逃れたいわけじゃ無い。カールスラントという国が、ユーティライネンという英雄を持て余しているんだ」

 

「どういう事だ」

 

「ユーティライネンは二つの戦争で英雄になった。一つはネウロイ、一つは人との戦争だ」

 

前者だけであれば、バルクホルンやラルも英雄と言われるだろう。だが後者に関しては、英雄と言われるような人物はエイラとサーシャくらいのものだ。

 

「後者が問題だ。英雄と言われる理由の一つに、カールスラントの敗北がある。メディア連中がスオムスを嫌うのは、何も個人の感情からじゃ無い。世間がユーティライネンを敵視しているからだ」

 

「リバウか」

 

スオムス領土となっているリバウは、元を辿ればカールスラントのものだった。幾度か返還に関して話し合いの場が持たれているが、オラーシャやブリタニアの介入で返還されることはなかった。

 

「そうだ。リバウに関する戦いでも、少なからず死傷者が出ている。ユーティライネンは今の世界情勢を形作った傑物であると同時に、カールスラントにとっては敵でもあった。いや、踏み台になったのがカールスラントだったというべきか」

 

ラルは自嘲するように笑った。

 

「そんなユーティライネンに対して、心の底から歓迎できるカールスラント人は少数派だ。わざわざ害そうとする奴もまた少数派だろうが、何かきっかけがあれば暴発する。そんな人物の護衛に、積極的に責任を持ちたい奴はいないだろうな」

 

「ここにいる。エイラは友人だ。何かあったら私は悲しい」

 

「そうだな。私も同じ気持ちだ。だが上はそうでは無い。ユーティライネン側が気を使って不要だと言ったことにかこつけて、責任から逃げている。そして上がそうしろと命じれば、我々は従うしか無い」

 

ラルとしても不本意なことだった。多くの人間にとってカールスラント国内は安全だと断言できるが、エイラは例外だ。

 

「上はカールスラント側の責任を最小限にしつつ、ユーティライネンの護衛を最大限用意できる事から、護衛を連れてくると言われて両手を上げて喜んだ。外交上ではそんな様子は少しも見せなかったようだがな」

 

「情けない話だな。自国内で完結させるべき事を他国に委ねるなど」

 

「まったくだ。しかし護衛が無理でも、ユーティライネンを守ことはできる

 

バルクホルンには護衛以外でできる事が想像できなかった。

 

「簡単な話だ。ユーティライネンの近辺の巡回を増やす。それだけでもかなり効果があるはずだ」

 

「それはつまり、護衛ということか?」

 

「違う、巡回だ。普通の巡回と違って、地区を割り振るのではなく、ユーティライネンの周囲を担当として割り振っているだけのな」

 

意味がわからない様子のバルクホルンに、ラルは息を吐いた。

 

「ユーティライネンの移動ルートは事前に決められている。それに合わせて巡回を強化する。ただそれだけの事だ。まぁ、護衛との違いは殆どない、要するに方便だ」

 

「方便。つまり巡回と偽って護衛をすると。いい考えだとは思うが、スオムス側の護衛との打ち合わせはどうするんだ」

 

「巡回ルートと人数だけ知らせておけばいい。あくまでもただの巡回なんだからな」

 

ラルの言葉にバルクホルンは眉を顰めた。

 

「何かあった時、それだと連携を欠く事にならないか」

 

「何か起きない為の巡回だ。何か起きた時はにはスオムス側の護衛に任せる事になる」

 

ラルの言葉にバルクホルンは不満が隠さなかった。

 

「スオムスの護衛の方が、巡回する連中よりよほど頼りになる」

 

「それはそうだが……」

 

「もう一度言うが、巡回は何も起きないようにする為にやる事だ過度な期待はするな」

 

納得はできなかったが、渋々バルクホルンは頷いた。

 

「それともう一つ、お前とユーティライネンは式典の一番最後に顔を合わせる事になる」

 

「まだ随分先なのに、そんな事まで決まっているのか?」

 

「これだけは決定事項だ。お前は昔、公然とユーティライネンと戦うと言ったからな。世間からも、反スオムスだと見られている」

 

ラルの言葉に、バルクホルンは驚かなかった。最近は減っていたが、一時期バルクホルンの周りにはスオムスに批判的な人物がよく集まっていたからだ。

 

「そのお前が、ユーティライネンと再開するのはスオムスとの和解の象徴となる。そう言う盛り上がる事は一番最後に持ってくるべきだ」

 

「そこまで大きなイベントになるか?」

 

「それは私にも分からないが、上はそう考えているようだ。まだスオムスには打診していないが、おそらく受け入れられるだろうと言っていた」

 

バルクホルンは思わずため息を吐いた。

 

「友人一人と会うのに、随分と面倒な事だ」

 

「元はと言えば、お前の発言が原因だろう。諦めろ」

 

今更になって、バルクホルンはかつての自分の発言を悔いた。正確には今まで何の訂正もせずにいた事を後悔した。どこかで一言、気にしていないと言えていれば、こんな面倒な手順は踏まずに済んだのにと。

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