ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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だいぶ暖かくなってきて、過ごしやすいです。


知らない世代

「シャーリー久しぶり!」

 

ベルリンに降り立ったシャーリーは、かつては毎日感じていた衝撃を胸元に受けた。

 

「久しぶりだなルッキーニ! 6年ぶりくらいか?」

 

「最後に会ったのは、ロマーニャにシャーリーが旅行に来た時だから多分そう!」

 

シャーリーもルッキーニもまだ軍に所属している。特にルッキーニは王族の護衛が主任務であり、長期の休みは簡単には取れない。必然的にシャーリーが会いに行く事になるが、シャーリーはリベリオンウィッチの中ではかなりの重要人物だ。簡単に休暇は取れない。

 

「それにしてもまさか、こんなにも早く全員が集まる機会があるとは思わなかったよな」

 

「そだね。軍を辞めたならともかく、あたしやシャーリー、エイラみたいに立場があると国外には出れないもんね」

 

「私はみんながまた集まれるのは、エイラが引退した後のスオムスになると思ってたよ」

 

仮に引退しようとも、元大統領であるエイラには護衛が付く。国外に出る事も簡単な事ではない。それが何年、何十年後になるかは分からないが、その時がくればシャーリーは全員を誘ってスオムスを訪れるつもりだった。

 

「次にみんなが集まれるのは、十年以上先になるかもしれないね」

 

「そうだな。いまは世界情勢が比較的安定しているのと、十年の節目が重なったから集まれた。だけど次の二十年目の節目もそうだとは限らないな」

 

保護機構に欧州のほとんどの国と扶桑が参加した事で、世界情勢は安定した。それが今回の式典で統合戦闘団参加ウィッチの大量参加に繋がった。

 

「今の所保護機構を通じて欧州は安定している。これにリベリオンが参加する事で、世界的な平和が訪れればいいんだけどな」

 

「何か不安があるの?」

 

「不安ってわけじゃないけど、元々リベリオンと欧州の関係は悪いわけじゃなかった。けど扶桑は違った。リベリオンと扶桑はお互いを意識しあって、武器の開発や外交でライバル視して争ってた。同じ組織に所属する事で、関係性がどう変わるのか予想がつかない」

 

「それって、国連に参加してるのとどう違うの? リベリオンも扶桑も国連に所属してるよね」

 

ルッキーニの疑問は的を得ていた。国連には保護機構以上の国が参加していて、保護機構以上に世界情勢に影響力がある。

 

「それはそうなんだけど、決定的な違いは非加盟国に対する影響力だな」

 

「あ、そっか。非加盟でもウィッチの軍事利用に対しては声明を発表するし、場合によっては軍事介入をするのが保護機構だもんね」

 

「国連は声明は出しても、基本的には加盟国に対してだけだし、軍事介入なんてもってのほかだ。参加国は国連に劣りながら、スオムスを中心に強い結束力を誇るのが保護機構だ」

 

ウィッチというのはは数が少なく、時代によっては迫害の対象にもなり得た。しかし数が少ない分結束力は強く、ウィッチの為の組織である保護機構はその結束力のおかげで強力な組織となった。

 

「そこにリベリオンが参加する事は、組織内のパワーバランスを崩す事に繋がりかねない。今の保護機構のあり方を変える事にはならないか」

 

「それは大丈夫だよ。だって保護機構って、スオムスが中心なんじゃなくて、エイラとルーデルが中心なんだよ。二人がいる間はリベリオンが加入した程度じゃ組織の根幹は揺るがないよ」

 

リベリオンは大国だ。国力で同格の国は扶桑くらいしかなく、その扶桑は外交は不得手としている。その為外交における扶桑の影響力は国力の割に小さい。

 

「それに組織は国の介入を極力排除してるからね。スオムスとカールスラントでさえ、非ウィッチは一切組織には入れてないし、後から来た大国扶桑もそうなんだよ。いくらリベリオンでも好き勝手するのは無理だよ」

 

「すごいな、エイラは」

 

しみじみとシャーリーは呟いた。

 

「なんだか会うのに緊張してきたな。昔から凄かったけど、改めて考えるととんでもない偉人と私達は肩を並べて戦っていたんだな」

 

「あたし達だって、他の大勢のウィッチからしたら大差ないよ。カールスラントに着いてから、ウィッチと会う度に握手とかサインを求められるんだもん」

 

「全然違うと思うけどな。私達は501と言う集団で歴史に一文を刻んだかもしれないけど、エイラは一人で数ページはある」

 

「一文どころか一文字さえ刻めない人の方が多いんだよ。歴史になった時点で大差ないよ」

 

ルッキーニの言葉にシャーリーは目を瞬かせた。

 

「ルッキーニらしくないな」

 

「そかな?」

 

「少なくとも私が知るルッキーニは、そんなことは言わなかったな。そう言うのはエイラあたりが言いそうな事だな」

 

しばらく会わないうちに、随分と変わってしまったルッキーニにシャーリーは一抹の寂しさを覚えた。

 

「成長したって事なんだろうな」

 

「そんなに変わったかな?」

 

「変わったさ。少なくとも昔のルッキーニなら、成長って言われたら胸を見てたんじゃないか。それで、あまり変わってないとか、私みたいに大きくないって言ってたと思う」

 

シャーリーの言葉に、思い当たる節があったルッキーニは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「な、なんか改めて成長したなんて言われたら恥ずかしいんだけど」

 

「恥ずかしがらなくてもいいだろ。誰だって成長はするんだから。むしろ部下を持ってるのに、前のままだった方が問題だろ」

 

部下という言葉と共に、シャーリーは一つ思い出した事があった。ロマーニャからはマリア公女もまた、式典参加のためにカールスラントに来国する事になっている。当然、護衛はルッキーニの縞ズボン隊だ。

 

「マリア公女の護衛はどうしたんだ。私と違ってルッキーニには護衛の仕事があるだろ」

 

シャーリーにも全く仕事がないわけではないが、スケジュールのほとんどは空き時間だった。

 

「今のあたしは、ロマーニャ公国近衛ウィッチ隊の司令官だよ。直接の護衛は各公族に付いてる護衛部隊の隊長がする事になってるの」

 

縞ズボン隊は元々マリア公女の護衛部隊だった。しかし数年間護衛の実績を重ねる事で、ロマーニャ公国内では女性公族の護衛部隊に、という話が持ち上がった。三年ほど前に縞ズボン隊は正式に近衛部隊となり、それに伴い部隊も大きくなった。

 

「じゃあ今のルッキーニは、何十人ものウィッチを統括してるのか。凄いじゃないか」

 

「最近百人を超えたよ。引退したウィッチの再就職先で一番の人気なんだよ」

 

「それは凄いな。統合戦闘航空団の司令官をやってた頃の、エイラと同じくらいの数の部下がいるのか」

 

当時のエイラは、統合戦闘航空団だけでなく、連合軍所属の全ウィッチの司令官でもあった。部下には数千人単位のウィッチがいたが、直属の実働部隊として率いる統合戦闘航空団は百人前後、つまり今のルッキーニとほとんど同数だった。

 

「エイラは他にも数千人単位のウィッチ、それも陸空両方のウィッチがいたよね。それを考えたらあたしなんてまだまだだよ」

 

「そうだな。けどあれは稀有な事例だろ。陸戦ウィッチならその人数の部下を持つ可能性はあるけど、航空ウィッチは人数的に一国ではあり得ない。エイラが率いたウィッチの数はを上回るウィッチは、また大きな戦争でも起きない限りあり得ないだろうな」

 

十年前に終結したネウロイとの戦争は、人類に大きな傷跡を残した。いまだに戦前の状態に戻っていない場所もあるが、少なくともベルリンに関してはそうではなかった。そしてそれは、ロマーニャの首都ローマもまた同じだった。

 

「最近ウィッチの事を教えるお仕事で、ウィッチの才能のある子供達のところに公園に行ったんだ」

 

「うちの学校でもそう言うのはたまにやってるよ。ネウロイを撃退した話とかをするとすごくウケがいいんだよな」

 

「あたしが講演をしたのは、まだ学校にも行ってないような子供達のところなんだ。みんなネウロイの事、知らなかったよ。存在そのものを知らないわけじゃないけど、姿を見た事がない。あたしが人の何十倍も大きさのあるネウロイと戦ったって言っても、信じない子もいたの」

 

「もう十年も経つんだもんな。そんな子供もいるだろうな。多分、うちの学校にもそんな奴らがそろそろ入学してくるよ」

 

シャーリーの学校は、入学の最低年齢が13歳からとなっている。今年の入学生は、物心をつく頃にネウロイとの戦争に勝利している。ネウロイの脅威は親や兄弟の話でしか知らない世代だ。ましてやリベリオンは、戦場になっていないため、ロマーニャ以上にネウロイの脅威に対する理解が薄い。

 

「あたし嬉しかったんだ。ネウロイの事を知らない子供達がいる。あたし達が苦しんで、戦ってきた成果がちゃんとそこにある」

 

ルッキーニは目尻に涙を溜めなが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「そんな子供達を大きな戦争になんて向かわせたくないよね」

 

ルッキーニの言葉に、シャーリーは無言で頷いた。

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