ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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随分と暖かくなってきましたね。


喫茶店

戦争終結以来二人が会う時の定番の待ち合わせ場所となっている喫茶店で、ミーナとハルトマンの二人は半年ぶりに顔を合わせていた。

 

「みんな続々と集まってきてるね」

 

「式典本番は明後日だもの。元501で来てないのは、エイラさんとサーニャさんだけね。あの二人は明日だったかしら」

 

「エイラは忙しいもんね。サーニャだけでも先に来たらよかったのに」

 

ハルトマンの言葉に、ミーナは苦笑いを浮かべた。

 

「スオムスは参加者全員が同じ飛行機で来るらしいわ」

 

「そうらしいね。飛行場で首相がエイラ達を出迎えて、宮殿で陛下と謁見するんだっけ」

 

「新聞にはそう書いていたわね」

 

「警備が大変そうだね。スオムスに良い感情を持ってないカールスラント人が、少なからずいるから」

 

ハルトマンは医者として多くの人々に関わってきている。数はそれほど多くないが、スオムスを恨んでいるような発言をする患者と関わる機会もあった。

 

「スオムスに関連する戦争では、多くの死者が出たわね。特にリバウをめぐっての戦いは、ノイエ・カールスラントでの反乱を含めて単一の戦闘では戦後最大の被害が出たわ」

 

「それだけじゃないよ。バルトランドに送られた義勇兵ウィッチ。エイラに大敗したけど、そのせいで妙な恨み方をしてる人達がいるんだよ」

 

「妙な恨み方?」

 

「ごく少数の死人しか出なかった義勇兵ウィッチは、エイラによって選別された死者である。戦死者はエイラの気まぐれで虐殺された。そんな意味不明な主張だよ」

 

義勇兵は紛れもなくカールスラントの意思で送り込まれたものだ。それを撃退したエイラが恨まれる筋合いはない。だが大抵の場合、恨んでいる人間は皇帝に対する忠誠心が高い人間だ。たとえ政府、ひいてはカールスラント皇帝に責任があろうとも、それを認めて政府を責める事ができるはずがない。

 

「馬鹿馬鹿しい。あの人数差で、あれだけの死者にとどめられたエイラさんの手腕を褒める事はあっても、責める事はないわ」

 

「そう思わない人もいるって事だよ。そしてその考えは、いまだに一部の人間の中で根強く支持されている。エイラがギリギリまでカールスラントに来なかったのは英断だよ。他の参加者と一緒に来るのもね」

 

「歴戦のウィッチ四人を相手に何か仕掛けるのは、無謀というほかないわね」

 

坂本のように完全に魔法力を失ったのであれば、一考の余地があるかもしれない。たがスオムスの四人は全員が多かれ少なかれ魔法力を保持している。たとえ現役ウィッチであろうとも、容易には手出しができない。

 

「そうだね。けどスオムスの警護の都合で、私達全員が再会できるのが式典の後っていうのはどうかと思うよね」

 

「スオムスだけの問題じゃないでしょう。ペリーヌさん、シャーリーさん、ルッキーニさん、宮藤さんあたりは要人と言える立場だもの。他の統合戦闘航空団にも要人はいるし、警備の事を言い出したらきりがないわ」

 

統合戦闘航空団の所属者が一堂に会するのは式典中だが、式典では自由に話す事はできない。その後に控える会食で全員が自由に行動できる予定になっていた。

 

「そう言えばトゥルーデとも長い事会ってないなぁ」

 

「あなも? 実は私もなのよ」

 

「トゥルーデはもちろんだけど、みんな忙しいもんね」

 

ハルトマンは医者、バルクホルンは軍の要人。ミーナは元501部隊という知名度もあり、そこそこ人気の歌手となっていた。

 

「昔は毎日同じ家で食事をとって生活するのが当たり前だったのに、いつの間にか離れ離れね」

 

「平和になったって事なんじゃないかな。みんなが好きな事をして、好きな場所に住んで好きに生きる。戦時中だとできない事だよ」

 

「その時代が懐かしくはあるけど、戻りたいとは思えないわね。私は薄情なのかしら」

 

「当然の考え方だと思うよ。戻りたいと思う人がいれば、その人はただの自殺願望者か、脳みそが足りてないんだよ。医者としては脳神経外科あたりの受診をお勧めするね」

 

医者らしい発言に、ミーナは笑った。

 

「貴女の専門は脳じゃなかったと思うけど、それでいいの?」

 

「医者はお金儲けがしたいんじゃない。患者を救いたいんだよ。それに、足りない脳みそを補う方法なんて知らないから、私のところに来られても迷惑だよ」

 

「随分医者らしくなったわね。まさかそんな真面目に返されるなんて思わなかったわ」

 

軍にいた頃のハルトマンは、特に私生活においては真面目とはかけ離れた存在だった。部屋はゴミだらけで寝坊も当たり前。バルクホルンが毎日のようにハルトマンを叩き起こしていた事が、今でもミーナの記憶に焼きついている。

平和ではなかったかもしれないが、同年代の少女達と過ごした日々はかけがえのないものだった。ミーナはもう戻る事のない日々に想いを馳せた。

 

「そう言えば宮藤さんが作った医療ウィッチが所属する国際機関がったわよね。私はエイラさんの保護機構が宮藤さんの機関の業務を肩代わりすれば良いんじゃないかって思ったんだけど、実際のところどうなの?」

 

「私もそれはよく分かんないんだよね。私はただの医者で、医療ウィッチじゃないから参加してない」

 

「そうだったの? てっきり参加してるものだと思ってたわ」

 

「参加条件的にはクリアしてるんだよ。ウィッチで医療従事者である事が条件だから。宮藤からも現役の医者として、後輩達に医療について教えないかって誘われたし」

 

医者として宮藤はハルトマンの先輩になる。医師免許が取れた時にはすぐ報告し、それ以来度々連絡を取り合っていた。その連絡の中でハルトマンは、宮藤からの機関参加の誘いを受けていた。

 

「受ければよかったじゃない」

 

「私まだ医師免許を取って、医師としての生活が始まったばっかりだったんだやよね。人に何か教えられるような状況じゃない。むしろ教わる側の立場だから、断ったんだよ」

 

気まずそうな様子でハルトマンは言った。

 

「それなら機関に参加するだけでもすればよかったじゃない」

 

「私は治癒魔法が使えないからね。医療ウィッチとは根本から治療方法が違うし、求められる場所も違う」

 

医療ウィッチである事と、医者がウィッチである事の違いがミーナには理解できなかった。

 

「医者と医療ウィッチの違いってなんだと思う?」

 

「治療の早さかしら。治癒魔法を使えれば、使い手次第ではあるけど簡単に傷を治す事ができるわ」

 

「そうだね。それこそが医療ウィッチの特徴であり、求められる事なんだ」

 

「医者も速度は劣っても治せるわ。救急医療の現場なら、医療ウィッチの方が求められるかもしれないけど、医者としての知識がなければ全部に対応できないわよ」

 

事故や事件での外傷なら、医療ウィッチでも治す事ができる。しかし心臓発作やその他病気に関しては、医療ウィッチは無力だ。

 

「医療ウィッチが輝くのって、何も救急医療だけじゃないんだよね。それよりもっと求められる場所があるんだよ」

 

「もっと求められる場所?」

 

どこか面白くなさそうな様子のハルトマンに、ミーナは不思議そうに聞いた。

 

「戦場だよ。基本的には外傷しかないからね。医療ウィッチはいくらでも欲しいよ」

 

「……宮藤さんクラスの使い手なら、瀕死の兵士を治療しては送り出すことも可能ね。さながら不死同然の軍になるわね」

 

「その点ただの医者は、治療してもすぐに前線には戻せないからね。それにウィッチはシールドを張れるから、最前線で治療できる。医者は後方で治療するから、場合によっては間に合わない事もあるんだよね」

 

ネウロイとの戦争では、医療ウィッチがいれは助かったという事も、医療ウィッチがいたから助かった事。どちらの経験もある。

 

「宮藤は医療ウィッチとウィッチの医者に区別をつけてないけど、私は明確に区別すべきだと思うんだよね。医者になりたてだからっていうのは、もちろん正直な気持ちだよ。だけど何より私が医療ウィッチでない事が、私が参加しなかった一番の理由かな」

 

「色々考えているのね」

 

「そりゃあね。医者が医療行為全てに最適であるのなら、医療ウィッチは必要ないんだよ。だけど現実はそうじゃない。うまく住み分けをしないと、お互いに不幸だよ」

 

元々ハルトマンの頭は悪くない。不真面目なせいでそれを発揮する機会がなかっただけで、本人の気の持ちようでこうまで変わるのかと内心驚いていた。

 

「なんだか今まで以上にみんなと会うのが楽しみになってきたわ」

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