それはそうとして、長くなったので前後編に分けます。
慰霊碑のある公園についたエイラ達は、護衛ウィッチに周囲を囲まれながら慰霊碑に向かっていた。
「式典前日だけど、結構な数のウィッチが空を飛んでるんだな」
「当日は各国の代表ウィッチがこの空を飛びますからね。その予行演習を兼ねて、カールスラントウィッチが他国のウィッチを案内しているんですよ」
「服部は魔法力はまだるのか?」
服部は軍服を纏っている事から、まだ軍に在籍している事がわかる。かくいうエイラも、正装は軍服であり今もそれを纏っている。スオムス軍元帥は退役しても軍服を纏う事が許可されており、正装として纏う事ができる。もちろんスオムス軍は退役扱いであり、最高司令官からはも退いている。しかし有事の際には議会の承認があれば再び最高司令官の任に就く可能性もある。
「ありはしますけど、昔みたいに長時間飛ぶ事はできなくなりました。最後に飛んだ時は、一時間ほどで魔法力が無くなりました。それからも魔法力は減少していますし、今は一体どれくらい飛べるのか検討もつきません」
「その割には軍には残れたんだな」
「広報部に拾ってもらえました。元ウィッチ、それも統合戦闘航空団に所属していたとなればうってつけですから」
「拾ってもらったなんていうなよ。どんな理由があったにせよ、お前は広報部が欲しがるような人材だったんだ。堂々としろ」
軍に残りたくても残れなかった人を、エイラは何人も知っている。ネウロイとの戦争終結後、スオムス軍は軍縮をした。その当時軍の実質的なトップにいたエイラは、残りたいと懇願される事もあった。もちろん再就職先はいくつか側が用意するが、納得できない者も多い。
「ですがまともに飛べもしないウィッチが軍に残ったところで、できることなんて限られています。この数年でそれを痛感しました」
「だけどお前なりに努力はしたんだろ。じゃないと、今少佐になんてなってないだろ」
服部の階級は、戦争終結時にはまだ中尉だった。帰国後に大尉へと昇進しているが、それ以降大きな実績はない。もしも服部が本当に必要のない人材であったのなら、扶桑海軍は容赦なく退役を勧告しただろう。
「他に後方に適任がいませんから、それでですよ」
「そんな事ないだろ。たしかに統合戦闘航空団所属っていうのは、大きなアドバンテージだ。だけど、事務処理能力が一定水準なければ広報部は務まらない」
「地方公演とか、イベントの手配くらいですよ。あとは今回の式典に関するカールスラント側の軍代表との現場での打ち合わせとか、そのくらいしかしてません」
それを聞いてエイラは目を丸くした。
「めちゃくちゃ評価されてるじゃないか。他国の軍と打ち合わせなんて、本来なら軍のエリート街道を進む奴がやる事だぞ」
「英語と、少しだけカールスラント語ができるから選ばれただけですよ」
「そう言えばお前、昔いろんな奴から言葉を習ってたな」
服部は勤勉な人間だった。統合戦闘航空団在籍時、暇な時には他のメンバーの母国語を教えてもらうなどして日常会話程度ならできるようになっていた。エイラのスオムス語だけは、接する機会が少なく殆ど勉強できていないが、独学で学ぶなどして少しは話せるようになっている。
「お前は優秀だよ。例えば坂本中佐なんかは事務仕事が不得意な上、英語くらいしか話せなかったからな。戦時ならアイツの能力は一考の余地があるけど、平時だと服部の方が軍としては必要だ。もっと自信を持てよ」
「坂本中佐ですか。実はまだ会ってないんです。扶桑組は希望者は退役していても望めば、政府が手配した飛行機でカールスラントに来れたんです。だけど中佐は断って、一人でカールスラントに来てホテルも自分で手配したみたいなんです」
「らしくないな。坂本中佐なら昔馴染みと一緒にカールスラントに行きたがりそうなのに」
エイラの知る坂本なら、かつての戦友と飛行機旅を満喫していただろう。自分の知る異なる坂本の行動に、エイラは首を傾げた。
「断りの手紙が来たので読んだんですけど、どうやら途中オラーシャやスオムスに立ち寄って、観光をする予定だったみたいです」
「スオムスに来ていたのか?」
「あくまで予定とだけあったので、もしかしたら別の国に立ち寄ったかもしれません。ですが案外、中佐は一般人としての生活を満喫しているのかもしれませんね」
エイラは公人としての立場がある。それも自分の意思で退く事の難しいものだ。仮に引退したとしても、暫くの間は身の回りは騒がしいだろう。悠々自適に暮らすというのは、エイラには夢のまた夢だった。
「坂本とは特に連絡とってないけど、今何してんだろうな」
「私も詳しい事は知りませんね。田舎に隠居してるとは聞いてますけど」
「早く会いたいな。宮藤とかは年に一回は保護機構の本部に来てるから定期的に会うけど、他のメンバーはそんな事ないからな」
保護機構本部にルーデルがいる時、時折ペリーヌとリーネが来る事はある。しかしそれ以外のメンバーと会う機会は十年近くの間なかった。
「私も宮藤さん以外は会う事がありませんでした。扶桑が欧州から遠いから仕方ないのかもしれませんけど」
「服部は軍人だし、扶桑から出国するのも簡単じゃないだろうしな。ここ数年の世界情勢を鑑みれば、扶桑は国外に軍人を出したくないだろうから尚更だな」
扶桑が保護機構に入った事で、欧州との結びつきは強くなった。しかし一番の仮想敵国であるリベリオンとは10年近くの間、軍拡競争を続けてきていた。軍事力を維持する為にも、また情報保護の観点から扶桑軍の士官の出国は厳しく制限されていた。
「リベリオンが加入して、人同士が争う事は殆どなくなった。これから軍は縮小され、世界は平和になるだろうな」
「そうですね。本来ならネウロイに勝てば手に入るはずだった、念願の平和がようやく訪れました」
「お前はどうするんだ。これからの軍隊は本当に優秀な奴が残れる弱肉強食の世界になるぞ」
保護機構にいち早く加入した国々では、上がりを迎えたウィッチの多くが退役している。スオムスにおいてはより顕著であり、魔導軍の解体に伴いウィッチの多くは軍の移籍ではなく退役する事になった。
数少ない残ったウィッチは、サーシャのような元々階級の高いものばかりであった。ハッセに関しては、空軍に移籍する話もあったが最終的には自ら退役を選んだ。
「全く考えていませんでした」
「考えといた方がいいぞ。広報部は人が欲しい時には重宝するけど、軍を縮小する時は人員削減の優先ターゲットだぞ」
「私の家系は軍人一家ですし、上手くやれば軍に残れるとは思いますけど……」
「残りたいなら使うべきだな。それとも残りたくない理由でもあるのか?」
言い淀む服部にエイラは尋ねた。
「宮藤さんが軍以外の所で活躍しているのを見ると、時折思うんです。私も何かしてみたいなって」
「いいじゃないか。何か具体的にやりたい事とかあるのか?」
「ないから困ってるんですよ。なにより宮藤さんは軍に所属した上での話ですし、それなら私も軍に所属した上で何かできることを探してみたい気もします」
「だけど具体的には何もないと。難しい問題だな」
宮藤は自分の意思で今の活動をしている。エイラは流されるがままに今の状態にいる為、服部の悩みに対してアドバイスを与える事は難しい。
「もしも何も思いつかないなら、軍を辞めて世界を回ってみたらどうだ。かつての戦友を頼って旅をして、それでやりたいことを見つけるのもいいと思うぞ」
「世界をですか」
「オラーシャとカールスラントを中心に回るといいぞ。お前が戦って救ってきた街を見るのもいいし、駐屯していた街を訪れて昔を懐かしむのもいい。それに飽きたら行った事のない国に行って、新しい出会いや経験を求めるのも手だな」
エイラの言葉に、服部は暫く熟考した後口を開いた。
「スオムスを訪れたら、歓迎してくれますか?」
「当たり前だろ。まだわたしが大統領だったら、官邸に招いて国賓待遇でもてなしてやるよ」
「それは遠慮しておきます。旅をするのなら、自分が行きたい場所を好きなように回るのがいいですから」
その言葉にエイラは小さく笑みを浮かべた。
「それは残念だな。最高のスオムス料理をご馳走してやろうと思ったのに」
「そ、それは遠慮しておきます」
サルミアッキのせいでスオムス料理にはあまりいいイメージがない服部は、苦笑いを浮かべて断った。