ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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本編はこの話で完結です


エピローグ

その報告を一番初めに聞いたウィッチは、バルクホルンだった。帝都防空部隊司令官であった彼女の元には、地上部隊の警備状況についても逐一報告が来ていた。

 

「車を、いやストライカーを持ってこい!!」

 

帝都防空部隊司令部には、バルクホルンのストライカーユニットが使用可能な状態で常備されている。ストライカーは旧式のレシプロ式だが、車よりもよっぽど早い。だがその判断は、帝都防空部隊司令官としては大きく間違っていた。静止する部下達を振り切り、車なら三十分以上かかる道のりを、バルクホルンはほんの数分でエイラの元に駆けつけた。

 

「無事かエイラ!?」

 

バルクホルンが目にしたのは、一本の木を取り囲むスオムス大統領の護衛達の姿だった。無理矢理かき分けて中に入ると、そこには膝をつく服部と、木を背にして目を閉じて座っているエイラがいた。

 

「バルクホルン少将……」

 

「服部か。エイラは」

 

スオムス軍の軍服を真っ赤に染めた姿を見て、バルクホルンの足は止まった。かつての戦争で、バルクホルンは幾度となく人の死を目撃してきた。宮藤と出会ってきてからは、死とは無縁な軍隊生活を送っていた。

 

「誰がやった」

 

「わた、私です! カールスラントの仇敵、ユーティライネンを殺したのは私です!!」

 

バルクホルンとエイラの間に確執があった事は、周知の事実だ。襲撃したウィッチも勿論知っている。だから褒められるとでも思ったのだろう。護衛に拘束されながらも大きな声でアピールした。

 

「そうか、お前がエイラを殺したのか」

 

呟いた直後、バルクホルンの体から全盛期を彷彿とさせるほどの魔法力が溢れ出した。胸ぐらを摘み地面に叩きつけると、拳を大きく振りかぶった。瞬きをするほどの時間で、かつての大戦の英雄により行われる凶行を止められる人物は、この場にはたった一人しかいなかった。

 

「やめてください!」

 

統合戦闘航空団の中で、その実力は下から数えた方が早いのは間違いない。だが世間一般から見れば、同格の統合戦闘航空団所属であり、バルクホルンにとっても戦友である。服部の声を聞いて、バルクホルンはウィッチの鼻先で拳を止めた。

 

「何のつもりだ服部」

 

「エイラ先輩はそんな事望んでいません」

 

「エイラは死んだ。死人の望みを捏造するな」

 

強く握りしめられた拳から血が滴り、ウィッチの顔を濡らした。

 

「最後にエイラ先輩は、犯人をカールスラントの法律に則り罰を与えるように。まだまだ未来がある若者だから、できれば軽めの罰ににして欲しいと言っていました」

 

「自分を殺した奴に慈悲を与えるか。エイラらしいな」

 

バルクホルンの手から力が抜けた。それを見て服部は安心した様子で言葉を続けた。

 

「私もそう思います。ですがそれがエイラ先輩の意思です」

 

服部の言葉にバルクホルンは黙考した後に答えた。

 

「エイラの意思は尊重しよう。私からも彼女の限界を嘆願する」

 

「ありがとうございます」

 

冷静さを取り戻した様子のバルクホルンに、服部は胸を撫で下ろした。

 

「礼は必要ない。どうせ死人に与えられる罰などないのだからな」

 

直後、バルクホルンは再び拳を握りしめ勢いよく振り下ろした。大きな音が鳴り響き、その場にいた誰もが二つ目の死体が出来上がる事を覚悟した。

 

「ば、バルクホルン少将?」

 

「少しお灸を据えてやっただけだ」

 

幸いな事に、バルクホルンは冷静だった。そこには顔のない死体はなく、代わりに白目を剥くウィッチの顔の真横に、拳ほどの大きさの深さ約二十センチの竪穴ができただけだった。

 

「私も衰えた。昔なら人の顔など、リンゴを握り潰すようなものだったんだがな」

 

「に、握り潰した事があるんですか?」

 

「そんなわけないだろう。ただの冗談だ」

 

バルクホルンは立ち上がり、袖の中にまで入った土を払い落とした。そしてゆっくりとエイラに近づくと、膝をついた。

 

「馬鹿な奴だ。マスコミが又聞きで書いた記事を信じて、十年近くも逃げ続けるなんて。手紙の一つでもくれれば、私がもう怒ってなどいない事くらいわかっただろう」

 

バルトランドに送られたウィッチが戦死した件で、バルクホルンが激怒した事は事実だ。だが最初にその記事が出て以降、バルクホルンはその件に関して沈黙を保ち続けていた。

 

「馬鹿は私か。私から会いに行く事もできたのに、それをしなかった。手紙も出さなかった。私がまだ怒っていると考えるの無理もないか」

 

バルクホルンは大きく息を吐くと俯いた。近くにいた服部は、エイラの軍服が赤以外の液体で濡れるのを確かに見た。初めて見るバルクホルンの姿に、服部は言葉が出なかった。

 

「車を手配する。誰か無線機を持っていないか」

 

袖口でさっと目元を拭うと、バルクホルンは立ち上がった。エイラの護衛に手渡された無線を使い、帝都防空部隊司令部に連絡した。

スオムス大統領の死は、カールスラントとの外交問題に発展するものだ。この知らせはスオムス大使館を通じて、スオムス本国にいるサーシャに伝えられる事になった。

 

1960年にベルリンで行われた式典前日の出来事は、世界に衝撃を与える事になった。だがそれに輪をかけて衝撃を与えたのが、スオムスとカールスラントの対応だった。

スオムスの臨時大統領となったサーシャは、初代大統領の葬式にカールスラント皇帝を招いた。当然、スオムス国内からもカールスラント国内からも大きな反発を招く事となった。だがその反対を跳ね除け、カールスラント皇帝はスオムスを訪れた。

ヘルシンキ空港に到着したカールスラント皇帝の護衛は、スオムス大統領の護衛隊だった。エイラが襲撃された時にもその場にいたウィッチ達が護衛任務に就く事は、恥知らずとの声がスオムス国内から相次いだ。だがその護衛風景を見て、国民は沈黙せざるを得なかった。護衛部隊が持つ銃は、全て内側、つまりカールスラント皇帝に向けられていた。

異様な光景にスオムス国民はカールスラント皇帝に対して、危害を加えようと言う気を消失させた。極め付けはサーシャの対応であった。出会って早々に拳銃を抜き、即座に発砲した。勿論サーシャに当たる意思は無かった。だがその銃弾はカールスラント皇帝の服を掠めた。皇帝の服には、弾丸が掠めた跡が確かに残っていた。

その会談をもって、スオムスはカールスラントとの手打ちとした。依然としてカールスラント皇帝が護衛に銃を向けられている事に、変わりはなかった。幸いな事にその引き鉄が引かれる事はなく、カールスラント皇帝は帰国した。

 

サーシャがエイラの最後の言葉を聞いたのは、葬式が終わった後の事だった。

 

「私に跡を継いで欲しいと、エイラさんはそう言ったんですね」

 

「正確には、できる事ならと言っていました。跡を継がずとも問題はないと思います」

 

「エイラさんが生きていれば、嫌だと言うだけで良かったんですけどね」

 

サーシャは小さく息を吐いた。

 

「ユーティライネン派とでも言えばいいでしょうか。エイラさんを支持していた人達の多くは、私を支持してくれています。カールスラント皇帝に対する対応が、思いの外好印象だったようです」

 

「一歩間違えればカールスラントとの戦争に発展していたのにですか?」

 

スオムスとカールスラントの国力差は、昔と比べたら縮まったがそれでも大きい。戦争になればスオムスが負ける可能性は極めて高い。だと言うのに、カールスラント皇帝の死を望むかのようなスオムス国民の感情に服部は驚いた。

 

「……外すつもりは無かったんですけどね」

 

「正気ですか?」

 

「デスクワークが多くて、長い間銃を触っていなかったせいですかね。狙いが外れました」

 

「きっとエイラ先輩が外せって、銃口を動かしたんですよ」

 

サーシャの目尻が不自然に輝いた。

 

「お節介な人ですね」

 

服部が返答に窮している間、部屋には鼻を啜る音だけが響いていた。

 

「この国にはエイラさんのやり残した仕事がいくつかあります」

 

「やり残した仕事ですか?」

 

「エイラさんが強力な指導者であったが故に、連邦設立時の不穏分子達は沈黙を保ち続けていました」

 

それは共産主義者やごく少数だけ残っているバルトランド王族を支持する人々といった者達だった。後者は完全な敵対関係なあるため、いつでも潰す事はできる。だが前者については表面上は味方であるため、エイラは利用し続ける事を選んでいた。

 

「真の意味でスオムスが一つになるよう。エイラさんが創り上げたこの国が、未来永劫平和であるように。エイラさんの意思を私は都合と思います」

 

服部の前で静かに成された宣言は、一月後の選挙により実現した。アレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキンは、選挙に勝利した事でスオムスバルトランド共和国連邦の第二代大統領となった。さらにその後、二度の選挙を勝ち抜き三期十五年と言う長期政権を形成し、スオムスが欧州列強と呼ばれるまでに成長させる事になる。




本作を書き始めて約六年。最初は文章の書く練習くらいの気持ちで書き始めましたけど、いつのまにか随分と時間が経ってしまいました。
三十八度の熱を出した時も、海外にいた時もなんとか定時投稿をしたのもいい思い出です。

本作は最初エイラの階級を実力相応のものにしようとと言うコンセプトのもと、どうせなら一生を書いてみようと思い立ったのがきっかけでした。老衰と言うのも考えなくは無かったのですが、功績を盛りに持った結果、その線は無いなとなりました。何より1950年後半からの世界に関して、ウィッチが活躍する世界が想像し難かったのも理由の一つですが。

本作の今後は、番外編として何話か投稿を予定しています。作中で何度か出した、ニールマンの歴史の証言者に関してと、坂本さんに関するもなの二つはいずれ出す予定です。あとはサーシャのその後とかですかね。
一応、メインの登場人物についてのその後は自分の中では凡そ決まっています。サーニャに関しても決まっているので、いずれそれに関しても出すつもりです。月一くらいの頻度で書ければ嬉しいなと思っています。

私自身としてはオリジナル作品を書いたり、書きかけの作品を完結させたりするつもりではいます。
ストライクウィッチーズに関しては書きたい事は大体書けたので、新作は予定はないです。ただ唯一本作での心残りがあるとすれば、評価バーを埋められなかった事ですかね。まぁ、処女作にしては過分な評価をもらえたと思っているので、別作品でそれは達成したいと思います。

それでは、約六年の間ありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします。
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