エイラ襲撃から3週間、医師から認められ退院したエイラは執務室でミーナ中佐に復帰の挨拶をしに来ていた。
「退院おめでとうエイラさん。足の調子はどう?」
対面に座るエイラにミーナ中佐が尋ねた。今はズボンによって隠れている右足にはカールスラントから送られてきた義足がある。
「慣れるまでまだ少しかかりそうですけど普段の業務には問題ないと思います。できればすぐにでもユニットを履いて勘を取り戻したいです」
「そうね、私もその足に関して色々と聞いているけど実際にユニットを履かないことにはわからない事も多いでしょうから出来るだけ早く訓練させてあげたいのだけど…」
「何か問題があるんですか?」
「エイラさんが入院した直ぐ後にブリタニアから補充員が送られてきたのよ」
「そういえばそんな話がありましたね。てっきり空手形だと思っていたんですけど本当に送ってきたんですね」
エイラが知っている限りブリタニアのウィッチが501部隊にいたのは1942年の末、つまりエイラが赴任する前の話のことだった。それ以降ブリタニアは様々な理由でのらりくらりと501部隊にウィッチを送ってこなかった。今回もまたそうなるだろうとミーナ中佐やエイラは思っていた。
「今回はちゃんと送られてきたわ。名前はリネット・ビジョップさん、階級は曹長よ。ただ養成学校を卒業したばかりの子なのよね」
「成績が悪かったんですか?」
どこか問題があるような物言いにエイラはそう尋ねた。
「寧ろかなりいいわ。けどエイラさんの足については箝口令が敷かれているでしょう。今のウィッチは即成教育だからうっかり漏らしたりする例があるからまだ足のことを伝えてないの。今までの印象から言ってうっかり漏らしたりするような子じゃなさそうだから機会を見て伝えるつもりよ」
「あー、確かにたまにそう言う話聞きますね。それじゃあルッキーニにも伝えていないんですか?」
この部隊でもっとも幼く自由奔放で規則破りの常習犯がルッキーニだ。ビジョップ曹長よりも寧ろルッキーニの方が問題だとエイラは思っていた。
「大丈夫よ。ルッキーニさんは規則を破ることは多いけどその辺のことはちゃんと弁えているはずよ。シャーリーさんにもよく言って聞かせるように頼んでおいたから大丈夫よ」
「本当にそれで大丈夫でしょうか」
正直に言ってルッキーニならうっかり漏らしたりしそうだけど今更なかったことにもできないしシャーリーを信じるしかない。
「大丈夫よ。それに仮にルッキーニさんが箝口令を破っても彼女の交友関係なら揉み消しは容易よ。どちらかと言えばリネットさんにエイラさんの足のことを知られる方が問題よ」
「どうしてですか?情報保全に関しては問題ないんじゃないんですか?」
「戦場の怖さを教えるには少し早すぎると思うのよ。彼女訓練は優秀なんだけど実戦はからっきしなのよ。だからエイラさんの怪我のことを知って萎縮してますます実践で使い物にならなくなると困るのよ」
「ウィッチは志願制ですよ、それくらい覚悟の上じゃないですか。同じ部隊の仲間なんですから情報管理に不安がないのであれば早く言った方がいいですよ。それに一緒に生活する以上いつかバレます。知られるよりはこちらから伝えた方がいいと思います」
人によっては自分だけ伝えられなかったことを信用されていなかったからと捉える人もいるだろうと思いエイラはミーナ中佐の考えを否定した。
「状況が違うわ。私やエイラさんが志願した時と違って今のウィッチは周りの状況に流されて仕方なくウィッチになった人もいるわ」
ネウロイとの戦争が始まって四年が経過し本来志願制のはずのウィッチが半ば強制的に志願させられるということが欧州各国で常態化しつつあった。それ故にウィッチ部隊の指揮が下がり、ウィッチ全体の弱体化が著しいことが一因となったことで、エースを集めた部隊である統合戦闘航空団がさらに増設される事態となっている。
「ビジョップ曹長も周りに流されてウィッチになったから覚悟ができていないということですか?」
「そうではないわ。彼女は実戦で役に立っていないことを気に病んでいるのよ。そこに義足のエイラさんが復帰して活躍しようものならますます落ち込むと思うのよ」
「しばらくはまともに飛ぶ訓練からしないとダメだからそんな事ないと思いますけど」
そもそも今のエイラが飛ぶことができるのかさえわからないのだ。あくまでカールスラントから提供された義足も理論上は補助できるというものでエイラが実際にユニットを履かない限りはその正確な効果はわからない。
「本当に飛べないのかしら。私にはたとえ片足を失っていても貴女が飛べなくなる姿が想像できないわ」
「買い被りすぎですよ。ミーナ中佐の考えはわかりました。ならわたしはサーニャと一緒に夜間哨戒するのはどうでしょうか」
「十日後にネウロイが来る予報があるんだけどその時にはエイラさんにも参加してもらうことになるわ。その時までに絶対に飛べるようになってもらわないといけないの。すこしでも効率をよくするなら昼に飛ぶ方が訓練も捗るでしょうからシフトをずらして訓練することもできるけど」
「大丈夫ですよ。未来予知の固有魔法があるしなによりサーニャもいるし」
はじめは飛ばずに魔法力の出力の確認をしてから飛行訓練を始めることになるからサーニャと一緒に飛ぶのは当分先になるだろうなと思いながらも心配ないと言わんばかりにそう言った。
「あまり無理しないでね。坂本少佐もいないからたとえ飛べなくてもいざというときは貴女が指揮をすることになるんだから」
※
その日の夜、サーニャに見守られながらエイラは早速ストライカーユニットを履いて魔導エンジンを始動する訓練を始めた。
ストライカーユニットの前に立ち魔法力を発現すると大きく息を吐いた。
「緊張してるの?」
傍で見守っていたサーニャが尋ねた。
「ちょっとだけ」
「大丈夫よ。エイラならきっとできるわ」
サーニャはエイラに近づきそっと手を握った。
「・・・そうだな、気持ちで負けてちゃできるものもできないもんな」
よしっ!と気合を入れるとエイラはストライカーユニットに足を突っ込んだ。
義足がストライカーユニットにさえぎられることもなくすんなりと足が入り魔道エンジンが始動する。
「うーん、やっぱり右のユニットの出力が低いな」
同じだけの魔法力を注いでいるつもりだった。しかし、なぜか右のストライカーユニットの出力が左と比べると六割ほどの出力しか出ていなかった。
「本当にいつも通りにしてるの?」
あまりの出力の低さに唖然とした表情をしていた。
「ほんとにこの義足効果あんのか?」
ただストライカーユニットを履けるだけの義足なんじゃないかと疑問に思ったエイラは一度義足を外してもう一度ストライカーユニットを履いた。
「うわっ!マジかよこれ」
今度は左のユニットと比べて三割ほどに落ちていた。カールスラントの義足がいかに優秀であるかわかったが、同時に義足がなければ今のエイラが飛ぶことなど土台無理な話であることもよく分かった。
「難しそうだけどいつかは義足がなくても飛べるくらいにならないとなぁ」
「どうして?」
「いつでも万全のコンディションでいれるとは限らないからな。まずは義足で飛べるようにならないとだめだけどな」
いくらでも時間が欲しいが時間は限られている。早く飛べるようになるためには魔法力を使い果たすくらいの気持ちでいこうとエイラは決意を新たにした。
統合戦闘航空団ってウィッチの質が落ちたことも多少なりと関係してそうですよね。アニメ二期の初めに艦隊が襲撃されたときロマーニャがウィッチをだせなっかったり小説や漫画で各国保有のウィッチ部隊があまり出てこないことも温存するというかは質の低さから捨て駒にしかならないっていう判断だったりするのかもしれませんね。