ユーティライネン少佐が復帰した翌日私は突然少佐の執務室に呼び出された。
私と同じ歳だけどこの大戦には最初期から参加していながらネウロイとの戦闘では一切の被弾がないどころかシールドすら張ったことがないという。坂本少佐と同じ少佐の階級についていてネウロイの撃墜数は120機を超えているスオムスのトップエース。
ミーナ中佐が言うには書類仕事や上層部との折衝と言った裏方の仕事もよくこなしていてすごく頼りにしていることが言葉の端々から伝わってきた。そんなすごい功績を持っているんだからきっとバルクホルン大尉みたいないかにも軍人って感じの人なんだろうなと思っていた。
だからこの呼び出しは不甲斐ない私を叱咤するとかそんな理由なんだろうと思っていた。
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少佐。この部隊の副司令官をしている」
実際のユーティライネン少佐は軍人という感じではなく絵本の中きら出てきたような印象を抱かせるどこか不思議な雰囲気をした少女だった。
「ブリタニア空軍所属リネット・ビショップ軍曹です」
「突然呼び出してごめんな。ビジョップ軍曹は次の出撃ではわたしの僚機として出撃するから一度顔を合わせときたくて」
それを聞いてホッとしたと同時に申し訳ない気持ちになった。養成学校を卒業してから一度もネウロイを撃退したことのない私はきっとユーティライネン少佐の足を引っ張ることになる。だからこれは私から他の人にしてもらうように言うべきだ。
「あの、私実戦じゃ全然ダメでユーティライネン少佐の足を引っ張ることになります。だから」
「他の人に変えろとでも?」
「はい。私よりもユーティライネン少佐の僚機に相応しい人はいくらでもいますしその方がブリタニアを守るためにもいいと思うんです」
足を引っ張るどころかブリタニアのためにも別の人にした方がいい。もし私が原因でブリタニア本土にネウロイが来たりしたら目も当てられない。
「人員を変更するかは一度置いておいて、ビショップ軍曹は少し勘違いしているな。この部隊でブリタニアを守るために戦っているのは軍曹以外誰もいない」
「そんなわけ…」
そんなわけない。だってブリタニアを守るためでないのならどうしてみんな命懸けで戦うことができるのだろうか。
「そもそも人類にとってブリタニアの防衛は必ずしも重要ではないんだ。ブリタニアが失陥してもヒスパニアやロマーニャと言った地域が無事であればまだ人類は戦える。この部隊の主目的はガリア北部のネウロイの巣の破壊だ。あくまでブリタニア防衛はそれを達成するための手段であって目的じゃないんだ」
「ならガリア奪還のためにはブリタニアが襲撃されてもいいってことですか!?だから私を少佐の僚機にするということですか?」
「そんなわけないだろ。ここはブリタニアだぞ。ビショップ軍曹が守らなくてどうするんだ。いつまでわたしたちがここにいられるかわからないんだから」
そっか国から派遣されているにすぎない他の人たちは国の事情によっては帰還することもあるんだ。
「けど私にはそんな力ありません」
「知っている。実戦じゃ訓練の時の半分も出せないんだろ?別にすぐに戦力になれって言っているわけじゃないさ。わたしたちと肩を並べて戦えるように実戦で鍛えてやるって言ったんだよ」
「無理ですよ…私なんかが肩を並べて戦うなんて」
この部隊には世界に名を轟かせるようなエースウィッチとそれに匹敵するくらいの才能や実力を持ったウィッチが集まっている。私なんかが肩を並べてたたかうなんてできるわけがない。
「初めから無理って決めつけるなよ。ここにいるウィッチだってみんながみんな初めからできたわけじゃないんだぞ」
「例えばハルトマンなんかは初陣で僚機をネウロイと見間違えたらしいぞ」
エースウィッチになるような人は初めからなんでもできるんだと思っていたから以外だ。
「けど初陣の時ですよね?私は初陣からもうすぐ一ヶ月経つのにまだ初めの時と変わっていません」
初陣の時なら笑い話で済むかもしれないけど私はそうじゃない。
「ユーティライネン少佐も初陣後もうまくいかなかった人なんて知らないんでしょう」
「あっ一人いるぞ!今502部隊にいる友達にニパってやつがいるんだけどそいつは出撃するたびにユニットが壊れてハンガーの掃除をさせられていたぞ!」
ユーティライネン少佐は少し考えこんでからそう答えた。
「撃墜されていたんですか?」
「いや、単に運が悪く整備不良の機体だったから墜落したんだよ」
「私と全然違うじゃないですか。たとえユニットを壊していても502に配属されるってことはそれが許されるくらいには優秀だったことじゃないですか!」
やっぱり私と違ってちゃんと戦えているんだ。ユーティライネン少佐の足を引っ張るどころか部隊の足を引っ張っているだ。
「そ、そんなに落ち込むなよ。わたしだって新人の頃は…」
ユーティライネン少佐にも私みたいな時期があったのだろうか、思わず少し期待してユーティライネン少佐の顔を見つめた。
「特になにもなかったな。今は違うけどわたしがウィッチになった頃はスオムスはウィッチの中でも特に優秀な奴しか航空ウィッチにならなかったからな」
「やっぱり出来る人は最初からできるんじゃないですか」
「ま、まぁ人には人のペースってものがあるから軍曹はゆっくり上達していけばいいよ」
そう締めくくってユーティライネン少佐との顔合わせは終了した。
※
「リーネさんと何を話したの?」
その日の夜、魔導エンジンを始動させる訓練をしているエイラにサーニャが尋ねた。
「実戦でちゃんと戦えるように励まそうと思ったんだけど」
全然励ましにならなかったんだよなぁ、とエイラは思わずため息を吐いた。
「ダメだったの?」
「うん。むしろ落ちこましたかも」
「何をいったの?」
「初めからエースだったウィッチはいないってことを伝えようとしたんだけどわたしは初めからなんでもできたからうまく伝えられなかったんだよ。わたしは基本何でも初めからできたし。サーニャはどうだ?」
魔法力、ストライカーユニットの操作技術、銃の取り扱い、部隊指揮、そのどれもが初めから人並み以上にできたエイラにできない人を励ますというのがそもそも無理な話だったのだ。
「わたしは初めての実戦でもちゃんと飛べたわ。そもそもナイトウィッチは基本一人で行動するから全部出来ないってことは撃墜されるってことだもの」
「だよなぁ」
そもそも501部隊に所属するウィッチは各国が誇るエースでありそれは必ずしも努力だけで到達出来るものではない。ここに配属された以上並以上の才能はあるのだろうが501部隊は最前線、新兵に配慮した実戦などそうそうできるはずもなく彼女を戦力化するのは難航しそうだった。
リーネが初めの頃実戦でうまくいかなかったのって周りが優秀すぎたのも理由の一端を担っている気がしてこの話書きました。けど最低限の実力と才能は兼ね備えていたと思うんですよね。あまりに酷すぎると流石に各国からの批判やらもありそうなんで養成学校での成績はトップクラスかなと個人的には予想しています。