ストライクウィッチーズシリーズの中ではやっぱりこの話と二期六話が一番好きです。
「今までずっと予算を減らし続けていたというのにどうしていきなり予算を増やすという話になったのだろうな」
基地に向かう輸送機の中で坂本少佐が眉をひそめていった。
「てっきり予算を減らすっていう話だと思っていたから拍子抜けしたわね」
「何か裏があるのかと勘繰ってしまうな」
「きっと私達が知りようがない次元の話なんでしょうね」
「あの、予算が増えるのって良い事だと思うんですけど違うんですか?」
付き人として二人に同行していたため軍高官とのやりとりを見ることになった宮藤は予算が増えたのに難しい顔をして話している二人を不思議そうに見ていた。
「今まで自分のことを嫌っていた奴が急に優しく接してくるんだぞ、何か裏があると勘繰りたくもなるだろう」
「きっと私たちのことを認めてくれたんですよ!」
「お前もあの上層部の苦々しそうな顔を見ただろう。明らかに本意ではないといった顔をしていたぞ」
たしかに宮藤も苦虫を何個も噛み潰したような顔をしている軍高官の顔を見ていたので反論できず乾いた笑いを上げた。
「あ、あれ?何か聞こえませんか?」
「ああ、サーニャの歌声だな。基地に近づいたな」
「私たちを迎えにきてくれたのよ」
二人の言葉には基地に近づきつつある事の安堵がこもっているようだった。
徐々に大きくなるその歌声に宮藤はその姿を見ようと窓に顔を押し当てた。
機体の振動を感じながら視線をあちらこちらに動かしていると機体よりも幾分か高いところを移動する小さな光点を見つけた。
数キロ離れているそれはよく見るといくつかの色の光の集合体であることがわかる。航空機の翼端にある緑と青の航行灯からネウロイではなくウィッチ、あるいは航空機であることがわかる。ほんの少し前まではこの航行灯には赤色の光も使っていたらしいがネウロイの赤い光と誤認する危険性があるとして赤の航行灯は廃止になっていた。
その光点の正体がわかるまでそれほどの時間はかからなかった。輸送機の上を通り過ぎたと思ったら大きくカーブを描きながら高度を下げながら減速し輸送機の真横にピタリとつけた。月の光に照らされたサーニャの姿はその肌の白さと彼女の軍服とストライカーの黒さも相まってどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
機内の様子を見ようとしていたのかサーニャと視線があった。
「ありがとう」
そう言って手を振るとサーニャはさっと目を逸らして機体を傾けると厚い雲の中に入ら見えなくなった。
「サーニャちゃんってなんか照れ屋さんですよね」
「でもとっても良い子よ。歌も上手だし」
その時、ずっと聞こえていたサーニャの歌声が突然止んだ。
「あら?」
「どうしたサーニャ?」
『誰かこっちを見てます…』
呟くようなサーニャの声が返ってきた。
「報告は明瞭に、あと大きな声でな」
『すみません。シリウスの方角に所属不明の飛行体、接近しています』
今度は少し大きくさっきよりもハッキリした声がインカムから返ってきた。
「ネウロイかしら」
『はい、間違い無いと思います。通常の航空機の速度ではありません』
「私には見えないが?」
眼帯をずらして魔眼を露にした坂本少佐がそう言った。
『雲の中です。目標肉眼で確認できません』
「そういうことか」
あっさり納得した坂本少佐は眼帯を元の状態に戻した。
「ど、どうすれば良いんですか!?」
慌てた宮藤が二人に向かって尋ねた。
「どうしようもないな」
「そ、そんなぁ〜」
「悔しいけどストライカーもないし仕方ないわ」
坂本少佐の言葉にミーナ中佐も同意した。
「じゃあどうすればいいんですか!?」
「どうしようもないな」
話が最初に戻った。
「いいか宮藤、ストライカーのないウィッチなんて魔法力を持たない人間と大して変わらない。特に今回みたいな飛行機での移動中なんか最も無防備な状態だ。私達にできることはない。今はサーニャに任せるんだ」
「もしかしてそれを狙ってこのタイミングで?」
坂本少佐が宮藤に説明するのを聞いていたミーナ中佐が最悪の可能性を考えつき思わずそう言った。
「ネウロイはそんな回りくどいことしないさ」
ミーナ中佐の思いつきを坂本少佐は一蹴した。
『目標は依然高速で接近してきます。約三分後に接触します。』
「サーニャさん、今は援護が来るまで時間を稼げればいいわ。交戦はできるだけ避けて」
サーニャの報告にミーナ中佐は簡潔に指示を出した。
『はい』
インカムからサーニャの返事が聞こえたと思うと次の瞬間には百メートルほどサーニャの体が引き上がった。
「無理しないでね」
ミーナ中佐が声をかけるのをよそにサーニャはみるみる距離をとっていった。
「サーニャちゃんにはネウロイがどこにいるかわかるんですか?」
「ああ、あいつには地平線の向こうにあるものだって見えているはずだ」
「へぇ…」
宮藤には想像もつかないようなことだった。
「それでいつも夜間の哨戒任務についてもらっているのよ」
「お前の治癒魔法みたいなもんさ。さっき歌を聞いただろ?あれもサーニャの魔法の一つだ」
「歌でこの輸送機を誘導していたのよ」
そんな話をしていると輸送機から遠く離れた場所でサーニャが戦闘を開始した。一つ二つと火球が雲海に大きな穴を作り出し周囲を明るく照らしていく。宮藤達が使う機関銃とは違いサーニャの使うフリーガーハマーは装弾数こそ九発と少ないもののその威力は当たれば大抵のネウロイを一撃で粉砕するほどの威力を有していた。
「すごい」
その光景に思わず宮藤が感嘆の声を上げた。
「見えない敵相手によくやっているわね」
「私にはネウロイなんて全然見えません」
「ああ。だが雲をよく見てみろ」
そう言われて目を凝らしてみるとサーニャが開けた穴を避けるように雲海の一部が不自然に蠢いているような気がした。
「サーニャの言うことに間違いはない。サーニャ、もう良い戻れ」
『でも、まだ…』
インカムから聞こえてくるサーニャの声は途切れ途切れで彼女の息が上がっていることが伝わってきた。
いくらサーニャが一人で戦うのにも夜戦にも慣れているとはいえ護衛対象がいる中で一人で戦った経験などなく輸送機に近づけないように相当気を張っていた。サーニャの消耗は魔法力の消費だけではなく精神的なものも大きかった。
「ありがとう、一人でよく頑張ったわね」
ミーナ中佐もサーニャに後退を促した。
もう間も無く501部隊の防空圏内に入る。そう時間もかからずに援軍も到着するだろう。ここで無理をして倒しにいく必要はあまりなかった。
※
「ひどい雨だな、なにも見えない」
ハルトマンがたまらずそんな言葉を漏らした。
ネウロイ出現の報告により出撃したバルクホルン、ハルトマン、ペリーヌ、シャーリーの四人は雨でずぶ濡れになりながら現場に急行していた。もちろんその気になれば雨などシールドで防げるが魔法力の温存とシールドに雨粒が当たり水滴により視界が悪くなることを防ぐために使用していなかった。
「あそこだ」
バルクホルンが示す先では戦闘で開いたであろう雲の穴から月の光が光芒のように射し込んでいた。戦闘の痕跡を見つけて速度を上げようとエンジンの回転数を上げようとした時、インカムからエイラの声が聞こえてきた。
『今戦闘が終わったって連絡が来た。大尉達はそのまま輸送機を護衛しつつ帰還してくれ』
「了解。こちらも輸送機とサーニャを確認した。これより護衛任務に着く」
基地にいるエイラから連絡が入るのとほぼ同時にバルクホルンも輸送機とサーニャの姿を確認し、バルクホルン達の任務はサーニャの援護から輸送機の護衛へと切り替わった。
第一次ネウロイ大戦で活躍したウィッチってどうして軍に残っていないんでしょうね。扶桑海事変くらいのウィッチは引退後も教官とかで軍に残っているっぽいですけどやっぱり前線に立たないから階級が上がらず停限年齢とかで辞めていくんですかね?