1944年8月17日
翌朝、朝ご飯に混ざって大量のブルーベリーが食卓に並んでいた。
「あらブルーベリー。でもどうしてこんなに?」
食堂に入ってきたペリーヌが言った。
「おはようございますペリーヌさん。ちょうど私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ」
エプロン姿で食卓に朝ごはんを並べていたリーネが答えた。
「確かに、ブリタニアでは夜間飛行隊のパイロットがよく食べると聞いたことがあるな」
バルクホルンがリーネの話に補足した。
「芳佳、シャーリー、べーしてべー」
シャーリーと宮藤がブルーベリーを食べているところへぴょこり顔を出すとルッキーニが言った。
「こう?」
宮藤、シャーリー、ルッキーニが同時にベーと舌を出すと見事な赤紫色に染まっていた。
「「「あははははは!」」」
「まったく、ありがちなことを」
ハンカチで口元を押さえたペリーヌがそう呟いた。
「お前はどうなん…だっ」
気配を消してペリーヌの背後に近づいていたエイラがそう言ってペリーヌの口の両端に指を突っ込んで横に開いた。
「いっ!?」
例に漏れずペリーヌの歯も見事に赤紫色に染まっていた。
そしてそのペリーヌの正面にはちょうど通りかかった坂本少佐が立っていた。
「何事もほどほどにな」
そう言い残して坂本少佐は立ち去っていった。
「ななななんてことなさいましてエイラさん!?」
敬愛する坂本少佐に対して醜態を見せた事に対する羞恥心から顔を真っ赤にして叫んだ。
「ひひひ、なんてことないって」
「おいしい」
そんな周りの喧騒にも関わらず黙々とブルーベリーを食べていたサーニャがポツリと呟いた。
※
「夜間専従班はこっちにこい」
朝食を食べ終わったとき、坂本少佐がそう言ってエイラ達を呼んだ。
「そういえば夜間専従班って何をすればいいんですか?」
宮藤が坂本少佐に尋ねた。
「まずは夜に備えてお前達は…寝ろ」
「…え?」
宮藤が間抜けた声を上げた。
「私たちさっき起きたばっかりですよ」
「今寝ないと夜に寝る時間がないからな。暫くの間お前達には夜間中心の生活をしてもらう」
「暫くっていつまでですか?」
「決まっているだろう、ネウロイを倒すまでだ」
坂本少佐が簡潔に答えた。
「あ、エイラさんは寝るのを少し待ってちょうだい」
そこにミーナ中佐が声をかけた。
「昨日予算が増額されたから今日中にその割り振りをしてちょうだい」
「は?」
※
一時的に『夜間専従班詰所』となっているその部屋はエイラの部屋だった。本来なら宮藤の部屋よりもやや広いその部屋は各国の戦術書やウィッチに関する本が所狭しと並べられていていかにも軍人と言った雰囲気の部屋だった。そんな中机の上にある大きな水晶玉が異彩を放っていた。
その机でランプの明かりを頼りにエイラが予算編成をしているその横で寝巻きに着替えたサーニャと宮藤はベッドに寝転んでいた。
「さっき起きたばっかりだから全然眠くないよ」
宮藤がそうぼやいた。
「今寝ないと居眠りしながら飛んで落っこちる事になるぞ」
「落ちる前に助けてくださいよ」
「気が向いたらなー」
投げやりに言った。
「サーニャちゃんは助けてくれるよね?」
「え?…はい」
「それにしてもこれお札みたいだね」
そう言いながら床に落ちていた一枚を拾い上げた。
「お札?」
サーニャが聞き返した。
窓やカーテンの目張りに貼られているそれは確かにお札が何かを封じているように見えた。
「お化けとか幽霊が入ってきませんようにって言う扶桑のおまじないみたいなものかな」
「それ、わたし達がおばけってことか?」
いつのまにかベッドの端に腰掛けていたエイラがお札のようなカードを並べながら言った。
「え、そういうことじゃ…でもそっか、閉じ込められているのは私達の方だから…エイラさん怖いこと言わないでくださいよ!!」
「騒がしいやつだなあ」
「だってこの部屋にお化けがいるかもしれないんですよ!?そういえば昨日のネウロイもお化けみたいだったしもしかして私達呪われてるんじゃ…」
「わたし、よく幽霊と間違われる」
サーニャがポツリと言った。
「へー、そうなんだ。夜飛んでるとありそうだよね」
「ううん、飛んでなくても言われる。いるのかいないのかわからないって」
「あはは…」
「ツンツンメガネの言うことなんか気にすんな。後でわたしがやり返しておくから。そんなことより暇だったらタロットでもやろう」
「タロット?」
「占いだよ。わたしは未来予知の魔法が使えるんだ。ま、ほんのちょっと先だけだけどな」
エイラに促されてカードを一枚宮藤が引いた。
「ふーん、よかったな。一番会いたい人ともうすぐ会えるって」
ニヤリと笑いながらエイラが言った。
「え、そうなの?」
一瞬嬉しそうな表情を浮かべたがすぐにその表情は曇った。
「けどそれは無理だよ」
「なんでだ?」
不思議そうに尋ねた。
「だって、私の会いたい人は…」
それは宮藤の父である故宮藤一郎博士以外にはいなかった。そもそもこうしてブリタニアに来たのも父に会いたいと言う思いからだった。
「ふーん、そっか。まぁ、あくまでこれは占いだからな。適当に聞き流すくらいがいいさ。絶対に当たるのならそれは占いじゃなくて予知だからな」
そういうとまた机に戻って予算編成の続きを始めた。
「夕方だぞ、おっきろー」
そう言ってルッキーニがエイラ達を起こしに来た。
その声でサーニャと宮藤は目を擦りながらベッドから起き上がりエイラは突っ伏していた机からあわてて顔を上げると自分が編成していた予算案の確認を始め全てが終わっていることを確認してほっと安堵の息を吐いた。
サーニャと宮藤が寝巻きから着替え終わるとその足で三人は食堂に向かった。
「なんか暗いね」
明かりが減らされた食堂で席につきながらリーネに尋ねた。
「うん、これも暗い環境に目を慣らすための訓練なんだって」
「これなに?」
机の上に置かれたティーカップには琥珀色の液体が並々と注がれていた。
「マリーゴールドのハーブティーですわ!!これも目の働きをよくするといわれていますわ!!」
「あれ、けどそれって確か民間伝承じゃ…」
自信満々に語るペリーヌに何気なくリーネが呟いた。
「失敬な!!これはおばあさまのおばあさまのそのまたおばあさまから伝わるものでしてよ!!」
「ご、ごめんなさい」
ペリーヌの気迫に気圧されたリーネは謝罪の言葉を口にした。
「なんか山椒みたいな匂いだね」
マリーゴールドのハーブティーを飲んだ宮藤がそう言った。
特別おいしいわけでもなければ不味いわけでもない、そんな味だった。朝に美味しいブルーベリーを食べていて夕食にも期待していた分その落胆は大きく実際の味以上に不味く感じていた。
「芳佳、リーネ、もっかいベーしよ」
宮藤とリーネのそばにきたルッキーニが言った。断る理由もなく二人はべっと舌を出した。が特に変わったところはなかった。その事に特に反応することもなく暫く三人の間に沈黙が漂った。
「つまーんなーい」
気まずい沈黙に耐え切れずルッキーニが叫んだ。
「どっちらけ」
エイラがペリーヌの横でボソっと呟いた。
「べ、別に受けを狙ったわけではありませんわ!」
どこか腹立たしそうにペリーヌが言った。実際問題受けを狙ったわけではないのだろうが勝手に期待して勝手に失望すると言うその行為に腹を立てたのだろう。
「おいしくない」
珍しくその顔を少し顰めながらポツリとサーニャが呟いた。どうやらサーニャはこの味は好きではなかったようだった。
この話書く時エイラが使うあかりが蝋燭みたいな原始的なものなのかそれとも電気を使うのか考えてそもそもコンセントってあるのかなって調べたら1882年にエジソンが電気会社を設立していてランプにしました。
日本でさえ1920年にコンセントの原型が出来ていて以外とコンセントの歴史が古くてびっくりしました。