ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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次くらいでいっしょだよは終わりそうです。
それと気分転換で書いてたハイスクール・フリートの二次を投稿したのでよろしければどうぞ。


いっしょだよ4

その日は空が雲に覆われ月や星々はまったく見えず明かりは滑走路のポジションライトくらいのものだった。

その滑走路の端にエイラ、サーニャ、宮藤の三人はストライカーユニットを履いて並んて立っていた。

 

「ふふふ、震えが止まんないよ」

 

「なんで?」

 

宮藤の言葉にエイラが尋ねた。

その横ではサーニャも不思議そうに首を傾げている。

 

「こ、こんなに真っ暗じゃどこが空か海かもわかんないよ。夜の空がこんなに怖いなんて思わなかったよ」

 

「そういや宮藤は夜間飛行初めてだったな」

 

「無理ならやめる?」

 

「ててて…」

 

吃る宮藤に二人の視線が集中する。

 

「手繋いでもいい?サーニャちゃんが手繋いでくれたらきっと大丈夫だから」

 

そう言って宮藤が震える右手をサーニャに差し出した。

少しの逡巡の後サーニャは恐る恐るその手を握った。

するとカンカンと甲高い音を立てながらエイラが宮藤の左隣に移動すると強引にその手を握った。

 

「え?」

 

「さっさと行くぞ」

 

「…うん」

 

急かすエイラにサーニャが頷く。

 

「え、ちょ、ちょっとまだ心の準備が…」

 

そんな宮藤の訴えを無視して魔導エンジンが回転数を上げ宮藤を引きずるようにして滑走路を進んでいった。

 

ストライカーの翼端にある航行灯以外の灯がない暗闇の中を三人は速度を上げてどんどん上昇していく。もっとも、宮藤は本当に飛んでいるのかどうかさえ分かっていなかった。だからしきりに二人に本当に飛んでいるのかどうかを尋ねてはエイラに飛んでいると怒鳴り返され続けていた。

 

「本当に飛んでるの!?」

 

「だから飛んでるって。そんなに飛んでるかどうか気になるならこの手を離そうか?そしたら飛んでるって実感できるぞ」

 

「だだだだ、だめだめ!そんなことしたらおっこちちゃう!二人とも絶対手離さないでね!」

 

「わがままな奴だな」

 

「もう少し我慢して。雲の上に出るから」

 

その言葉通り、そう時間をかけずに雲を抜けると空一面の星空と月が顔を出した。

 

「うわぁ!すごいなぁ!私一人じゃとてもここまで来られなかったよありがとうサーニャちゃん、エイラさん」

 

体をくるくると回転させて体全体で喜びを表現しながら宮藤が言った。

 

「いいえ、任務だから」

 

そっけない態度でそう言ったサーニャだがどこか機嫌が良さそうに尻尾を動かしていた。

宮藤のお礼にエイラも満更ではなさそうな表情を浮かべていた。

 

「そろそろわたしは戻るよ」

 

空を飛び始めて二時間ほど経った時、エイラが言った。

 

「…まだ朝まで時間はありますよ」

 

眠たそうに目を擦りながら宮藤が尋ねた。

 

「仕事があるから戻るんだ。話聞いてなかったのか?」

 

「…そんなこと言ってましたっけ?」

 

あくびを噛み殺しながら宮藤が尋ねた。

 

「宮藤も戻るぞ」

 

「え?私もですか?」

 

「そんなに眠そうに飛んでたら落っこちるぞ」

 

「けどそれじゃあサーニャちゃん一人になっちゃいますよ」

 

「そんな状態でネウロイと戦闘になるくらいならサーニャ一人の方がマシだ」

 

「サーニャもそれでいいよな」

 

エイラが聞くとサーニャはコクリと一つ頷いた

 

「けど…」

 

「ほらサーニャもこう言ってるんだから戻るぞ」

 

そう言うとエイラは宮藤の手を握ると降下を始めた。

 

「あ、ち、ちょっと待ってくださいよ」

 

結局この日はネウロイが来る事はなく宮藤は待機室のソファーで仮眠をとって過ごした。

 

1944年8月18日

その日の食卓には透明な液体が注がれたお猪口が置かれていた。

 

「これは?」

 

ペリーヌが怪訝そうに覗き込んだ。

 

「肝油です。ヤツメウナギの。ビタミンたっぷりで目にいいんですよ」

 

肝油と書かれた一斗缶を抱えた宮藤が言った。

 

「なんか生臭いぞ」

 

どこか警戒した様子でシャーリーが言った。

 

「魚の油だからな。栄養豊富なら味など関係ない」

 

いささかの動揺も見せずにバルクホルンが言った。

 

「おっほほほほ!いかにも宮藤さんらしい野暮ったぁいチョイスですこと!」

 

ペリーヌが嬉しそうに高笑いをしながら言った。

 

「いや、持ってきたのは私なんだが」

 

「ありがたく頂きますわ!」

 

坂本少佐がそう言った瞬間、ペリーヌは慌ててお猪口を手に取ると一気に肝油を飲み干した。

 

「うっ!」

 

次の瞬間、その顔からみるみる血の気がひいていった。

 

「うぇ〜なにこれ〜」

 

ルッキーニがうめいた。

 

「エンジンオイルにこんなのがあったな」

 

シャーリーは何か心当たりがあるようだった。

 

「ペッペッ!」

 

警戒して飲まずに少し舐めただけだったエイラはその不快感を晴らそうと必死に吐き出そうとする。

その隣ではよっぽど不味かったのかサーニャはピクリとも動かなくなっていた。

 

「新人の頃無理矢理飲まされて往生したもんだ」

 

照れ臭そうに坂本少佐が言った。

 

「お気持ちお察ししますわ…」

 

ペリーヌはそう答えるのがやっとだった。

 

「もう一杯♡」

 

ミーナがそう言うのをハルトマンが信じられないものを見るような目で見ていた。

その隣ではバルクホルンがピクリとも動かなくなっていた。

 

朝食を終えエイラの部屋で寝巻きに着替えようとしたときの事だった。

 

「エイラさんその足どうしたんですか!?」

 

ズボンを脱いだエイラに宮藤が驚きの声を上げた。

 

「うん?ああ、宮藤は知らなかったのか。ちょうど宮藤が来る前に事件にあったんだ。結構ニュースになったんだけど知らないか?」

 

「知りません」

 

扶桑のウィッチが被害に遭わなかったからか、それとも単に宮藤がニュースを見ないからなのか定かではないがウィッチにとって衝撃的な事件だっただけに宮藤が知らない事が意外だった。

 

「頭のおかしな人達がエイラを襲ったの」

 

そう言ったサーニャの声はいつもより少し大きく聞こえた。

 

「頭のおかしな人達ってどういう事ですか?」

 

「そのままの意味よ。ネウロイは神さまの使いでそれを倒すわたし達ウィッチは悪なんだって」

 

頭がおかしいでしょ?と同意を求めるように宮藤に尋ねた。

 

「へ、へーそんな考えの人もいるんだね」

 

やや引き気味に宮藤が答えた。

 

「宮藤さんは特に気をつけてね」

 

「どうして?」

 

「この事件はわたしだけでなく何人かのウィッチが襲撃されたからな。一応犯人は全員捕まった事になってるけどいつ同じような事件が起こるかわからない。宮藤は拳銃を持ってないから襲撃されたら対抗する手段が無いだろ」

 

エイラの言葉に一瞬の間の後宮藤が尋ねた。

 

「…エイラさんは人を撃ったんですか?」

 

「撃たれたからな」

 

エイラの言葉に衝撃を受けた宮藤は言葉が出なかった。世界的に見ると比較的平和な部類に入る扶桑ではそんな事が起こるなど考えつかなかったからだ。

 

「必ずしも世界中の人間全てがウィッチを好意的に見ているわけじゃないんだ。だからもし一人で外出するような事が有れば悪い事は言わない、拳銃を持って出た方がいい」

 

それに宮藤が答えるより先にさらにエイラが続けた。

 

「まぁ、今の宮藤を一人で外出させる事はないからあまり気にする必要はないけどな」

 

「そうなんですか。ならよかったです」

 

その言葉にホッとしたようだった。

 

「にしても今日はあっついなぁ」

 

ブリタニアにしては珍しく今日は抜けるような真夏の空が広がっていた。

 

「本当にあづい…幽霊まで出てっちゃいそう…」

 

「うるさいぞ宮藤。暑いっていうとこっちまで暑くなるじゃないか」

 

「エイラさんだって言ってたじゃないですか」

 

「わたしはいいんだよ」

 

「理不尽です。ならどうすればいいんですか」

 

「もっと他のことを考えろよ」

 

「そんなこと言われても…」

 

エイラにそう言われた宮藤はエイラの部屋に視線を這わせた。

すると目張りの隙間から溢れる光に照らされた世界地図が目についた。

 

「エイラさんとサーニャちゃんの故郷はどこにあるの?」

 

「わたしスオムス」

 

「オラーシャ」

 

「それってどこ?」

 

「スオムスはヨーロッパの北の方。オラーシャは東」

 

エイラが簡潔に場所を伝えた。

 

「あれ、でもヨーロッパって殆どがネウロイに襲われて…」

 

「そう。わたしのいた街もずっと前に陥落したの」

 

「じゃあ、家族の人たちは?」

 

「みんな街を捨てて東に疎開したのウラルの山々を超えたずっと向こうまで」

 

「そっかぁ、よかった」

 

その答えに宮藤が安堵の声を漏らした。

 

「何がいいんだよ。話聞いてなかったのかお前」

 

「だって今は離れ離れでもいつかはまたみんなと会えるってことでしょ?」

 

「あのな、オラーシャは広いんだぞ。ウラルの向こうでも扶桑の何倍も広いんだ。そう簡単に見つかるわけないだろ」

 

「うん…」

 

「だいたいその間にはネウロイの巣だってあるんだぞ」

 

「それでも私は羨ましいな」

 

「強情だなぁ」

 

「だってサーニャちゃんは早く家族に会いたいって思ってるでしょう?」

 

宮藤の問いにサーニャはコクリと頷いた。

 

「だったらサーニャちゃんの家族だって絶対サーニャちゃんと会いたいって思ってるはずだよ。そうやってどっちも諦めないでいればいつかきっと会えるよ。そんな風に思えるのって素敵な事だよ」

 

そういうとエイラさんもそう思いませんか?とエイラに同意を求めた。

 

「まぁ、互いに探しあっていればそりゃあいつかは会えるだろうけどさ…」

 

「ですよね!ところでエイラさんの故郷はどうなっているんですか?」

 

「スオムスはわたし達が命懸けで守り切ったよ。すぐに各国が義勇軍を送ってくれたけどそれでもかなり大変だったな」

 

「へーそうなんですね。どんな感じだったんですか?」

 

宮藤がさらに尋ねた。

 

「…そろそろ寝ないと夜がしんどいぞ。おやすみ」

 

それに答える事なくこれ以上話す事はないとばかりにエイラは目を瞑った。

 

「えーちょっとくらいいいじゃないですか」

 

宮藤の不平に応える事なくそのまま狸寝入りを決め込まれ宮藤は諦めて同じように目を瞑った。




電離層の反射で遠くまで電波が届くって話がありますけど実際問題オラーシャからブリタニアに飛ばす事って可能なんですかね。
個人的にはどこかに中継基地があった方が現実的だと思うんですけどどうですかね?
詳しい方教えてくれませんか?

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