まさかここまで来るのに一年近くかかるとは思っていませんでした。
コンコンコンと規則正しくドアがノックされ扉が開くと宮藤が夜食を持って入ってきた。
「あのエイラさん、整備兵の人とかが私達と必要以上に関わりを持ったらいけないっておかしくないですか?」
いつものように応接机の上に夜食を並べた後宮藤がそう言った。
はじめエイラはこの言葉の意味を理解できなかった。エイラは基地の管理などを一手に引き受けていたこともあって基地の人員とは普段から仕事上付き合いがありその規則に縛られることがなかった。だから宮藤の言う規則がなんのことなのか思い出すのに少し時間がかかった。
「そんなのあったなそういえば。で、それがどうしたんだ」
「同じ基地で働いているのに話すことを禁止するなんておかしいと思うって言ってるんです」
「それはミーナ中佐が作った規則だからわたしに言われても困る」
そもそもエイラがこの基地に来る前からこの規則はあったしその経緯も知っていたが特段エイラの行動に影響がある規則でもなかった事もあって放置していた。
「けどリーネちゃんはこういうことはエイラさんに相談するのがいいって言ってましたよ」
普通はまずはミーナ中佐なんだけどなぁと思いながらもエイラは口を開いた。
「たしかにわたしにはそれに対してミーナ中佐に意見する権利はあるけど結局のとこ最後に決めるのは中佐だからな。無くすことはできないよ」
「けどエイラさんが…」
宮藤が何か言おうとするのを遮ってエイラは言葉を続けた。
「そもそもわたしがその規則を無くす必要が無いと思っているからわたしに相談すること自体が間違いだな。まだ坂本少佐に言った方が望みがあるぞ」
たしかにエイラが強くミーナ中佐に進言すればあるいはこの規則は撤回されるかもしれない。しかしエイラにはむしろこの規則がエイラは必要とさえ考えていた。
「どうしてですか?」
「もともとウィッチは他の部隊と比べて抗命が多かったんだけどネウロイとの戦争が長期化して速成教育のウィッチが増えたせいで初期の頃よりもさらに増えたんだ。その期間じゃあ戦うことはできてもその思想まで軍人に染め上げることなんか不可能だからな」
正直なところエイラは今の自分も理想的な軍人とは言い難いと思っていた。より正確に言うならばこの部隊に合わせて行動した結果士官教育を受ける前の自分に戻ったと言うべきだがそれもこの部隊から去れば元に戻るだろうと考えていた。
「それが何か問題があるんですか?」
「大問題だな。仮にネウロイが大挙して押し寄せてきてこの基地を放棄して即時撤退しろって命令が降った時、お前は従えるか?」
「それってこの付近の人達ってどうなるんですか?」
「命令は放棄して即時撤退だ。民間人の生命についてはわたし達は責任を持たない。簡単に言えば見捨てるって事だな」
「嫌ですよそんなの!私達には守る力があるんですよ!なのに見捨てて逃げるなんて酷いです!」
宮藤の答えはエイラの予想した通りのものだった。最近ウィッチになったものの大多数はこの問いに対して宮藤と同じ答えを出すだろう。501部隊でもおそらくルッキーニは同じ答えだろうしもしかしたらリーネとルッキーニに甘いシャーリーもルッキーニが嫌だと言えばそちらに回るかもしれない。
「言っとくけど見捨てるのは民間人だけじゃなくてこの基地で働く他の兵士たちもだからな」
「そんな…。だって撤退するんですよね?だったらどうして基地の人まで置いて行くんですか!?」
宮藤らしいと言えばそれまでだが正直これくらいは覚悟しておいて欲しいなと思いながらエイラは説明を始めた。
「ウィッチと他の兵科じゃあ移動スピードが違いすぎるだろ。そっちに合わしていたらわたし達が逃げ遅れることになるじゃないか」
「なら私達が背負ったり飛行機を使えばいいじゃないですか」
「一体何往復するつもりだよ。第一そんな戦力があれば撤退支援のための遅滞戦闘か決戦のために温存されるだろうな。
いいか宮藤、お前が言うおかしい規則にも理由があるんだ。お前みたいな民間から来た奴らはわたし達みたいな生粋の軍人と違って見捨てて逃げろって言っても簡単には納得しないだろ。だからもしこの基地が陥落するようなことがあった時少しでもその時の負担を軽くするためにもこの規則は必要だ」
「それがこの規則がある理由ですか?」
「ミーナ中佐の意図は少し違うかもしれないけど少なくともわたしは今言った理由でこの規則を消す気はない。さっきも言ったけど坂本少佐に頼んだ方がまだ望みがあるぞ」
坂本少佐にもミーナ中佐が拒否すれば無理にこの規則を無くそうとはしないだろうなと内心では思いながらもそう言った。
しかしこの問題はエイラにとって予想外の結末を迎えることとなった。
翌日、出現してネウロイを撃破し帰還したミーナ中佐達をハンガーで出迎えたエイラにミーナ中佐が予想外の命令を下した。
「夕方、赤城の見送りを行います」
「いいのか?」
ミーナ中佐なら規則を盾に見送りさえ許さないと思っていたエイラは意外に思いながら尋ねた。
「ええ。あまり強く縛りすぎるのも良くないと思って。宮藤さんが言っていたあの規則、改訂しようと思うから草案を作っておいてくれないかしら」
「…本気で言ってるのか?」
まさかミーナ中佐がこの規則を改定しようとするとは思っていなかったエイラは思わず聞き返した。
「ええ。私と同じ悲しみを味合わせたく無くてこんな規則を作ったけど間違っていたわ。もう少し別の方向で努力をすべきだったわね」
エイラにはミーナ中佐のしたことが間違いだったとは思わなかったがつきものが取れたような様子のミーナ中佐に言うかどうか迷っているうちにミーナ中佐が口を開いた。
「それと私も赤城に見送りをしたいからマイクと無線機をミーティングルームに用意してくれるかしら」
「どうせなら記念に写真も撮ろう」
バルクホルンが言った。
「何をするんだ?」
出撃していたバルクホルン達は何をするか知っているようだっが話を聞いていなかったエイラはその内容を尋ねた。
「歌を送ろうと思うの。だからサーニャさんにも伴奏を頼めるかしら?」
「はい」
それから赤城が出発するまでの間に急ピッチで準備が進められた。
ミーティングルームはシャーリー主導でマイクや無線機が設置され赤城の見送りの準備が整った。
坂本少佐、リーネ、宮藤はストライカーユニットを履いて出撃し直接赤城の見送りに出かけた。
普段はウィッチ以外が入ることのないミーティングルームに一般兵も来てミーナ中佐の歌を聞きにきていた。もちろん、基地全体にもスピーカーを通してミーナ中佐の歌声を届ける手筈となっていた。
サーニャの伴奏に合わせてミーナ中佐がリリー・マレーンを歌い始めた。
リリー・マレーン。故郷の恋人を歌った歌だが見送りにこの歌を選択したミーナ中佐は何を思っていたのだろうか。もしかしたらおかしな方向に吹っ切れただけなのではないだろうかという不安をエイラは拭いきれなかった。
「とっても素敵な歌でした!」
ミーナ中佐のことは心配だが今はそれよりももっと重要なことがあった。歌が終わって宮藤がミーナ中佐を褒めるのを見てエイラはそっと背後に近寄ると宮藤の頬っぺたを摘んだ。
「にゃにふるんでふか〜」
「サーニャのピアノはどうしたサーニャの」
歌を歌ったミーナ中佐だけが褒められて伴奏のサーニャが褒められないのはエイラには我慢できなかった。
「ほ、ほってもふてきでひた」
「ええい、もっと褒めろ」
そんなおざなりな褒めで納得するエイラではなく宮藤の頬っぺたを引っ張らさらにそう要求した。
「ほめてまふよ〜!」
「い〜や、まだまだだ」
「いた、いたいでふエイラさん」
そんな二人の様子にミーティングルームは笑いに包まれた。
最近、新しくハイスクール・フリートの二次創作を投稿し始めたんですがいい感じに息抜きになって執筆速度が少し上がりました。
余った時間で誤字の確認とかして投稿したときには修正箇所がなかったらいいなと思ってます。
そういえば最近エーリカ・ハルトマン1941の最後の方に載ってる地図でムルマンスクがバルトランドになっていてもしかしてストライクウィッチーズの世界ではロシア(オラーシャ)じゃないのかって思って少し焦りました。
他のはムルマンスクはオラーシャになっていたので多分ただのミスだと思います。